14.「騒乱」
「……と、いうわけで日向汰がどっかに消えました」
「」
太陽も真上に昇りきったところで、俺と裕、ミネとローネはリビングに集まっていた。
もちろんその理由は、昨夜襲ってきたクリーチャーと名乗る存在について、そしてこれからどうするかを話し合うためである。
そして、冒頭に至るというわけだ。重大な事実をさらりと告げられた裕は、驚きのあまり思わず声を失っている様子だった。
夜、傷を治してもらうために叩き起こした時も似たような反応していたっけか。
「出会いや別れは突然って相場が決まってるけど、まさかこんなに唐突だとは。いやあ参った参った」
「いやたった一夜で急展開過ぎない!? 僕の知らないところで何が起こってたの!?」
「まあ寝てたしなお前。あれだけの騒ぎで、逆によく起きなかったな」
「あの騒動で起きなかったのは、君とローネくらいだよ」
「ん? ローネもあの時家にいたのか?」
「うん、まあね。……ごめんね、そんなことになっていたなんて、私知らなくて……」
しゅんと項垂れるローネ。その感情に左右されるかのように、猫耳も前に倒れている。どうやらローネも、裕と同じく爆睡していたらしい。
「それで、昨夜襲ってきたクリーチャーっていうのは、どこへ行ったのかわかるのか?」
「さあね。あいつの使った魔術は魔族のそれとは違っていて、追跡が出来なかった。まったく、厄介極まりないよ」
「そういえば、そのクリーチャーって何?」
ローネが、そう疑問を呟く。確かにここにいる中で、実際にクリーチャーと相対したのは俺とミネだけなので、ローネが疑問に思うのも不思議ではない。
「僕も完全に理解してるわけじゃないけど、おそらくあいつは魔力を持った人間だ」
「魔力を持った……人間?」
「でも、人間は魔力を持てないんじゃなかったか?」
「ああ、普通ならそうだね。けれど、奴は何か特殊な方法で、魔力をその身に内包しているようだ」
本来魔力というのは、魔族と人間以外の動物だけが有するもの。しかし、人間がそれを操る術を手に入れたとあれば、今の魔族と人間のパワーバランスに歪みが生じてしまうだろう。
クリーチャーという存在がどういったものにせよ、ミネ達にとってあまり歓迎出来ない存在であることに間違いはない。俺と日向汰はたまたま居合わせただけだけど、本来ならあいつの狙いは高い魔力を持つ者って話だしな。
「魔力を持つ人間……。それってもしかして、僕と同じ……?」
その時、裕がふと突然に口を開く。
しかし、その疑問に対してミネは首を横に振った。
「君のそれは魔術じゃない。言うなれば『奇跡』だ。僕達が家を空けていたのは、君の正体を調べるためだったんだよ」
「僕の、正体……?」
「そう。昨日の昼、ローネは何故か君のことを『裕君』と呼んだ。そして僕も同様だ。知らずのうちに、君のことを『裕君』と呼んでしまっている」
確かにそうだ。人懐っこいローネはともかく、人間嫌いのミネが裕のことを親しみを込めて、裕君だなんて呼ぶはずが無い。
「どうして僕が無条件に裕君のことを信じてしまったのか。それはそのまま、君の正体へと繋がる」
一呼吸置き、ミネは告げた。
「裕君。君は、世界の味方だ」