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戻ってきた仲間たち

 エルカに襲いかかってきた奴の正体は…………元僕専属の護衛剣士アンゼリカだった! 煙幕で視界を遮ったうえに、縛竜索で手を封じたというのに、倒されてしまうなんて…………たぶん助けに来てくれたんだろうけど、エルカとのあまりの実力差に、僕は心の中でちょっぴり落胆したが……



「アンゼリカ! どうしてここに!?」

「で、殿下……ご無事で、なによりです」

「貴様、よくもクラインを」

「待ってエルカ! あまり乱暴しないであげてよ!」


 それよりも、もう一度会えてよかったという気持ちが圧倒的に大きかった。

 正直、エルカにやられて、てっきり死んでしまったものだと思ってたから……


 アンゼリカの手の甲から、エルカの足をどけて、外傷がないことを確認すると、僕はアンゼリカをぎゅっと抱きしめた。別れてからそれほど経っていないのに、何十年も会ってなかったように感じてしまう。


「よかった……本当に、無事でよかった」

「殿下…………お会いできて、とても嬉しく思います!」


 だが、直後に背後から物凄い殺気が降りかかってきた。殺気に充てられた僕とアンゼリカは、まるで全身の毛が逆立つような戦慄を覚える。


「おい、クライン。早くこの縄を解け、さもなくば――――」

「あわわ……! ご、ごめんエルカ! すぐに解くよ!」


 僕は慌ててエルカに巻き付いている縛竜索を解く。さすがは縛竜索、エルカの常人離れした腕力でも千切れないなんて……本当に竜も縛れるのかもしれないな。


「クライン、私は君の何だ?」

「はい、エルカは僕の雇い主です」

「よもや忘れていたわけではあるまいな」

「そんなことは断じてないです」


 とりあえず開放してあげたが、このまま睨まれては冷や汗が止まらない。

 急いで別の話題に切り替えないと……



「そ、そうだエルカ! アンゼリカがいるってことは、たぶん他の部下もいるはず!」

「確かに。こいつだけじゃない、他にも何人かいるな」

「バラバラになる前に集めちゃおうか。おーーーい、ロゼッタ! へレット! いるんだろ、出てこい!」


 アンゼリカがここにいるということは、他の部下たちもいるはず…………そう思った僕は、主要な部下の名前を叫んでみる。

 それが聞こえたのか、果たして予想通り切通しの上に人影が――


「三人……?」



 おかしいな? いるとしたらドジメイドのロゼッタと、兵器開発好きの錬金術師へレットだけだと踏んでいたんだけど、あと一人誰かいる。生き残った兵士の一人だろうか?


 やがて三人は、観念したのかぞろぞろと崖の上から降りてきた。



「あうぅ、王子さまぁ……ご無事でしたか? 私がいない間、ご飯や着替えは大丈夫でしたか?」

「あのねロゼッタ、君は料理の腕も着替えの手伝いも壊滅的に下手だったから、今更困らないよ」

「がーん! 私、傷つきました!」

「ま、何しろロゼッタも生きててよかった。てっきり寝坊したまま殺されたのかと思った」



 まず一人目は、アンゼリカと同じぐらい長く僕に仕えているメイドのロゼッタ。

 まるで綿のようにふわふわした茶髪に、幼く見える顔立ちが特徴的で、いつもメイド服を着用している。元々王国の有力貴族のお嬢様だったんだけど、王家に取り入るために無理やり使用人にさせられてしまった子だ。

 素直で頑張り屋で、結構気が効くんだけど…………かなりのドジで、しょっちゅうヘマばっかりする。もともと不器用なのも相まって、家事の腕前は努力してようやく人並と言ったところ。

 正直、貴族のお嬢様のままでいれば、きっと苦労を知らずに、幸せに暮らせたかもしれないのに、僕専属のメイドになったばかりに人生いばら道真っ只中なのが悲しいところ。

 それでも文句ひとつ言わずに、一生懸命頑張る姿を見ると、解任する気になれないから困る。


「へレット、君も()めてほしかったな、こんな雑な襲撃は……」

「ごめんなさい王子様、完璧な作戦だと思ったんだけど。予想以上にアンゼリカさんが使えなくて」

「おいこらへレット、貴様……!」

「人のせいにするのも良くないなぁ」



 次に、爆弾や煙幕、縛竜索などの特殊兵器を作った若き女性錬金術師のへレット。一目見ただけで知的だと思えるクールな面立ちで、いつもキビッとした姿勢を崩さない。

 元々はナーゲルリング島という優秀な術士を輩出する地の出身だったんだけど、魔術の才能が全然ないって理由で追い出され、それ以来科学の道に傾倒するようになった才女なんだ。

 各地を放浪した末に僕が雇ったんだけど、初めのころはそれはもう失敗作の連続だった。けれども、結晶硫黄と燃える砂を調合して作った「火薬」を発明するなど、その成果も侮れない。

 セスカティエとの戦いの最中は、戦闘力を持たないから拠点においてきたんだけど、ここまで追って来てくれるなんて本当に義理堅い人だな。



「それで、君は…………?」

「あっ! ええっとその…………わ、私は成り行きで!」


 で、三人目は完全に初めて見る顔だ。ピンク色のウェーブがかった髪の毛に、まるで小動物のような可愛らしい顔で、なんだか皮の鎧を着こんでいるのが違和感を感じるほど、戦いに向いて無さそうな雰囲気をしている。

 ただ、腰のあたりに飛竜の翼を模した紋章を装着してるのが見える。この紋章はユックルの精鋭兵科の飛竜騎手(ドラゴンライダー)の証。ということは、ちょっと信じられないけど彼女は飛竜騎手なんだろうな。



「名前を聞いてもいい?」

「は、はいっ! 私はリュナです! ドラゴンライダーをしてました!」

「ドラゴンライダー…………騎竜はどこに?」

「えっと、今呼びますね!」


 どうやら、このリュナという女の子は本当にドラゴンライダーらしい。

 ここでエルカが、騎乗する飛竜はそこにいるのかと聞くと、彼女は懐から真鍮製の笛を取り出し、空に向かって甲高い音を鳴らす。

 すると、崖の上の方から何かが飛び出してきたかと思うと、ゆっくり旋回しながらリュナの背後に着地した。飛んできたのは真っ赤な鱗を持つ飛竜だ。実物をこんなに近くで見たのは初めてだな……なんか肌が鱗でごつごつしてるけど、意外と瞳がくりっとして可愛い。


「この子は飛竜のシエムっていいます。私が小さいころから一緒に過ごしてきました」

「へぇ、小さいころから飛竜に乗ってたんだ。でもさっきドラゴンライダーを「してました」って言ってた気がするけど?」

「殿下……それについてなのですが、どうやらリュナはユックルの飛竜部隊の訓練に合格できなくて兵士をやめてしまったのだそうです」


 アンゼリカが言うには、リュナは気弱な性格で戦いを怖がってばかりいたせいで、兵士を落第してしまったらしい。

 代々飛竜騎手を輩出した家に生まれた手前、落第したと言って家に帰れず、飛竜シエムの餌代を稼ぐためにクエストをこなして小銭を稼いでいたのだとか。

 それから、たまたまユックルの首都ユンガイナの酒場でアンゼリカたちに出会って、僕とエルカを追跡するために一時的に雇われたんだってさ。


 前々からドラゴンライダーを欲しいって思ってたけど、果たしてこの子は戦力になるんだろうか?一応、偵察くらいならできそうだけど…………う~ん。



「まあ成り行きにせよ、ドラゴンライダーがいてくれると何かと便利だし、雇ってあげても――――」

「おいこらクライン。なぜお前が人事権を行使している? 雇うかどうかを決めるのは私だ、そこのところを勘違いするな」

「あぁごめんごめん……つい王子時代の癖が抜けなくて」



 まいったな、エルカが怖い顔をして僕のこと睨んできてる。アンゼリカやへレットたちがいると、ついつい自分がまだ王子だと思っちゃうんだよね。

 僕はもう…………国も地位も失った、一般人に過ぎないんだから。



「おのれ……殿下に向かって数々の非礼! 許さな――――ガハッ!?」


 ところが、アンゼリカはエルカの僕の扱いにまだ納得がいかないのか、エルカに正面から食って掛かる……が、案の定次の瞬間には鳩尾にエルカの拳を食らって、その場に(うずくま)ってしまう。

 アンゼリカ…………君はもう少し相手の実力を考えたほうがいいと思う。



「だ、大丈夫ですかー!? しっかりしてくださいアンゼリカさん、傷は浅いですよぅ!」

「あなた! さっきからなんてことを!」

「ふん、見上げた忠誠心だな。だがな、クラインはすでに王子ではない、私の部下だ。本人もそう望んでいる。貴様らの拠り所はもはやなくなったと知れ」

「み……みなさん! 喧嘩はいけません、仲良くしましょうよ!」



 対立するエルカと元僕の部下たち、リュナはその間で右往左往するばかりだ。

 このままだとあれだ…………お前たちは足手まといだとか言って、エルカがアンゼリカたちを切り捨てかねない。



「そもそもエルカさん、あなたは王子様をどこに連れて行く気かしら?」

「おい、さっきからクラインはもう王子ではないと言っているはずだ」

「…………っ」


 ここでへレットが、なぜエルカが僕を連れまわしているのかを聞いてきた。


「まあいい、貴様らには特別に教えてやろう。私はな、新たな王になるのだ」

「……は?」


 その理由にエルカはきっちり答えたけれど、あまりにも予想外の答えにへレットは目を点にしている。


「私はこの腕で一国一城の主となる。そのためにも、しっかりとした軍師が欲しいと思い、クラインに協力を願った。嬉しいことに、クラインはこの計画に二つの返事で賛同してくれたよ」

「なん……ですって!? そんなバカげたことを……」

「少なくとも、私とクラインは十分に可能だと思っている。信じるか信じないかはお前たち次第だ」

「おうじ……いえ、クライン様も本気で?」

「あー、うん。まあね」


 僕もまだ半信半疑ではあるんだけど、エルカの手前こう言っておかないと後が怖いから。


「なんて人なの……とても正気とは思えないわ」

「ふん、文句があるならとっとと消えるがいい…………行くぞクライン、こんな連中に付き合っている暇はない」

「え、ちょっと。ロゼッタたちは置いてくの?」

「当たり前だ。私に従う気はなさそうだし、こんな奴らいてもかえって足手まといだ」


 ほらみたことか。僕にとっては大切な仲間たちだから、全員連れて行きたいところなんだけど、エルカにとっては自分を襲撃した敵としか見ていないだろう。

 こうなったら僕が頑張ってとりなすしかないな。


「ま、待ってください! 置いていかれるなんていやですぅ! 何でもしますから私も雇ってください、お願いしますエルカさん!」

「ロゼッタ?」


 と、思っていたらロゼッタが真っ先にエルカの下に付くことを表明した。

 きっとロゼッタは自分が非力だから、強いものに従おうとすることにあまり抵抗がないのだろう。確かにその選択は間違ってはいないんだけど、「何でもします」って簡単に言わない方がいいと思うな。


「私は……わたしはっ! ご飯が食べられればそれで十分ですっ! 使用人として精一杯ご奉仕して見せます!」

「ふぅん、ならばこれからは私を(あるじ)として仰ぐことが出来るか?」

「もちろんですともエルカさまっ!」

「ロゼッタ! 殿下を裏切るつもりか!?」


 ロゼッタはエルカに必死になって取り入ろうとしているが、それと同時に僕の方に「ごめんなさい」の目線を送ってくる。

 わかってるよロゼッタ。君は十分僕に尽くしてくれたし、忠誠は疑いようはないから。そんな申し訳なさそうな顔をしなくていいんだ。今はもう一緒にいられるだけでも十分だし…………正直ロゼッタに裏切られても、あまり痛手じゃない……からね?


 アンゼリカは、自分と同じころから僕に仕えていた同僚の心変わりに反発する。けれどむしろアンゼリカこそ、まだ現実が分かっておらず厄介だ。



「あ、あのぉ……私もお供させていただいて、いいですか? 戦いは苦手ですけど、空からの支援が出来ます!」

「リュナ! あなたまで……!」


 次にエルカにはいかになりたいと打診してきたのが、リュナだった。

 彼女はロゼッタと違い、完全に打算なのだろうけど、僕としても彼女が仲間になってくれるのはありがたい。

 貴重な航空戦力って言うのもあるけど、純粋に今は人手が一人でも多く欲しいからね。


 すると、後がなくなったからか、へレットも動揺し始めて……


「…………わかったわ、私も頭を下げるから……末席に加えてほしいわ」

「待て、へレット……! あなたまで!」

「仕方ないわ、アンゼリカ。今の私たちにクライン様を解き放てるだけの力はない。それよりも…………私はクライン様のお側にこれからもずっと居たい」

「なるほど、貴様には何が出来る」

「恐れながら、私には兵器開発の実績があります。先ほどエルカさんを縛った縄も、投げ込んだ煙幕玉も……全部私が発明したものです。もし私をお側においてくださるのならば、これからも世の中をあっと言わせるような新兵器を作って御覧に入れましょう」

「なるほど、おもしろい。へレットと言ったな、君はこの中で一番将来性がありそうだ」



 思わず感心してしまったほど、見事なまでの掌返しだ。

 そもそも彼女は僕の国の人間じゃないにもかかわらず、僕を追ってここまで来てくれたんだから頭が下がる思いだ。この先へレットがいてくれればどれだけ楽なことか。その有用性はエルカも見抜いたようで、他の二人と違って物凄く快く配下に引き入れた。


 さて、問題は――――



「貴様はどうするつもりだアンゼリカ? クラインから私に主を変えるか? それとも一人で路頭に迷うか? 早く選ぶといい」

「くっ…………私はいかなる時でも、殿下のお側を離れるつもりはない! だが……おまえを主と仰ぐのは……っ」


 エルカも意地悪だ。そんな言葉を突き付けたら、仲間になるのをためらっちゃうでしょうが。

 …………いや、もしかしたらそれが目的かな? アンゼリカは他の三人と違って、役割がエルカと完全にかぶっている。その上、二度までエルカと戦った相手だし、今でもエルカのことを殺したいほど憎んでいるに違いない。

 ぶっちゃけ、アンゼリカを雇うメリットがエルカには殆どないんだよね。


 けれども、まぁ……そうは言っても長年連れ添ってきた幼馴染みたいな仲だ、何としてでも一緒に来てほしい。そのためには両方を説得しなくちゃね。



「アンゼリカ、君の気持ちは痛いほどわかる。だからこそエルカの配下になって、一緒に新天地を目指そうじゃないか」

「で、ですが殿下! 殿下は第二王子とはいえ、由緒正しきミラーフェン王国の王族ではありませんか! それなのに、他国の者の下に付くことになるなんて!」

「あのね、アンゼリカ。ミラーフェンは、もう無いんだ。僕たち王族が惰眠をむさぼっていたせいで、国は滅んだんだ。僕だって、出来ることなら国をこの手に取り戻したい。けれども…………それが無理だってことは、君だってわかるはず。エルカ……僕からもお願いするよ、アンゼリカも仲間に入れてあげられないかな?」

「さてな……クラインの気持ちもわからなくもないが、せめてこいつの口から表面上だけでも服従を誓う言葉が出ない限り、雇うことはできない。本人が嫌がっているのに、無理やり配下にするほど私は鬼ではないつもりだ」



 アンゼリカは、真面目で忠誠心に厚い、騎士道精神溢れる子なんだけど、それと同時に頭が固くて融通が利かないんだ。彼女にとってエルカを主と仰ぐのは、僕を裏切るのと同じことだと思っているんだろうな。

 もともと主君だった僕にとってはこの上なくうれしいんだけど、今はそれどころじゃないってことを分かってほしい。



「ぐずぐずせずに、早く決めろ。我々の後をつけてきたならわかっているはずだ、クラインが何者かに狙われていると。こんなところで時間を食っている暇はない」

「………………アンゼリカ、君の気持ちは痛いほどわかる。だからこそ、一緒に来てほしいんだ。お願いだ……これ以上は、僕も庇えなくなる」

「うぅ……ああぁっ! 殿下……っ! 私は……私はっ!」


 そしてとうとう、意固地だったアンゼリカもエルカの配下になることに同意した。ただ、エルカは言葉だけじゃ納得しないというので、さらに土下座までさせられた。

 アンゼリカにとっては屈辱的だとは思うんだけど、ここまで仲間になるのを渋ったのだから、自業自得ともいえる。




「やったねエルカ。仲間が増えたよ!」

「ああ、この際はっきり言っておく。私はまだお前たちを足手まといだと思っている。見捨てられたくなければ、せいぜい頑張ることだな」

『………………』



 とりあえず、戦力が増加したのはいいけど、僕の苦労は増すばかりだ。



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