出撃! グライブ傭兵団!
東の山から昇る太陽の光を反射してきらめく海を見ながら、僕は必死に欠伸を口の中で押しとどめる。
時刻にして、まだ朝の5時になっていないだろう。そんな早い時間にもかかわらず、僕たち一行はグライブさんの手下たちと一緒に、椛の木が一本生えている丘の上に集まっていた。その理由はほかでもない、ミシュコルツ近辺に巣食う海賊団を一掃するためだ。
グライブさんは、僕たち以外にも雇った冒険者や傭兵たちを待ってる。
その目印になるのが、今僕たちがいる丘にある木ってわけさ。
「ふ……わあぁぁぁ…………エルカしゃまぁ、ねむいでひゅ……」
「なあクライン、お前どうしてこんなポンコツメイドを雇ったんだ?」
「う~ん……親が決めたから、かな」
朝が苦手で完全におねむモードのロゼッタに、エルカは怒る気さえ起きず呆れてた。
僕だってできればもっと腕がいい使用人を雇いたいんだけどね! 付き合いが長すぎて、縁を切るに切れないんだよ……
「ふん、まあいい。それよりもグライブ、集合は確か日の出の時間だったな。メンバーはたったのこんだけか?」
「いぇ……もーっと多いはずでさぁ。ちと集合時間が早すぎちまったかねぇ」
エルカの言う通り、集合時間になっても集まってるのは僕たちのほかに7人だけ。明らかに少なすぎる。
これだけしか必要ないんだったら、正直エルカだけいれば済むことなんだけど。
「ま、まあ……もう少し待てばそのうち来るでしょう! ちょっと待ってやってくんなさい!」
「……………」
そこで冒険者の一人がエルカにもう少し待つように言ってきた。
彼によると、自由人である傭兵や冒険者たちは、多少時間にルーズなので、大目に見てほしいんだって。
う~ん、ちゃんと来てくれるならいいんだけど、不安だな。
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その後、時間がたつにつれて人がポツリポツリと来るようになり、朝食の時間を過ぎるころには目に見えて大勢の冒険者や傭兵たちが集まってきた。けど、そんな時間になってもまだこない人もいた。中には正午近くになってから来る人もいたくらいだ、こいつらの時間に対するルーズさは僕の想像をはるかに上回っていたようだ。
「ふー、やれやれ……やっと全員集まった。ったく、こいつらぁ毎度手間かけさせやがって」
ようやく全員集まったころには、時刻は3時をすぎていた。グライブさんに、これがいつものことなのかと聞いてみたら「ああ……そのとおりでさぁ」苦笑いした。
「ま、こいつらにもいろいろとあるでね。大目に見てやってくんなせぇ」
「そうね……私たちと違ってこいつらは素人だものね」
へレットがいうように、確かにこの人たちは正規兵じゃない……にしてもねぇ。
この……おなかの中で煮えたぎる不満を、どう鎮めればいいんだろうか?
「ほう、これで全員か。よくこれだけ集めたものだ」
「まったく苦労しやしたぜ、ちょっとした腕利きの人間は――――」
「いるだけ無駄な連中ばかりな」
「――――え?」
そうそう、エルカ見たいにはっきりと烏合の衆だって言えれば…………え?
「おい、一番最後に来たのはお前だったな」
「お……おう」
きょとんとする僕とグライブさんを尻目に、エルカは一番最後にやってきた弓使いの冒険者に歩み寄る。そして…………
その手に持つ大剣で、そいつの首を一瞬で刎ねた。
あまりにも一瞬の出来事だったから、僕とグライブさんだけじゃなく……リュナやロゼッタ、その他大勢の烏合の衆の皆さんも、一様に唖然とするしかなかった。
首を失った男の体は、首から空まで届くような勢いで血を噴出しながら、その場にひざから崩れ落ちた。
「お、おいリーダー! 集まったばかりなのになぜ味方を殺す!?」
突然のエルカの蛮行に、真っ先に反応したのがアンゼリカだった。
そして、アンゼリカの一言で正気に戻ったのか、グライブさんもエルカに抗議した。
けどエルカは平然とした顔をしている。
「そ、そうだぜエルカさん! いくら遅刻したからったって殺すことは……」
「グライブ、お前は昨日私に何を頼んだかもう忘れたのか?」
「なにをって、そりゃぁ……」
「一時的ではあれ『グライブ傭兵団』のリーダーになって、こいつらをまとめる役だ。だがな、肝心の傭兵どもがこのありさまだ。いいか、私たちは遊びに行くんじゃない、命のやり取りをしに行くんだ! 本当なら遅れたやつを全員切り捨ててやりたいところだが……」
エルカはギロリと集まった集団のほうをにらんだ。エルカの一にらみで、彼らはたちまち震え上がり、中には若干おもらしした奴もいた。相変わらずエルカの「にらみつける」は怖いなぁ。向けられたらたまったもんじゃないよ。
「そんなことをしたら殆どメンバーがいなくなるからな。一番遅れたやつだけ見せしめにしてやった。だがな貴様ら、今後私の命令に逆らおうものなら……容赦なく叩き切る。忘れないことだ」
「エルカ…………」
さっきまではエルカの処刑に批判的だった僕だけど、今は違う。命令を聞くかどうかすらも怪しい無法者集団を、一瞬で自分の言うことに従順な兵士に変えてたんだ。その手法は驚くしかない。
さすがは、大国セスカティエで将軍をやっていただけはある。
「わかったら各人今すぐ荷物をまとめてとっとと出発するぞ! 貴様らの集合が遅れたせいでもうすぐ夕方になる! 夜も歩くことになるだろうから覚悟しろ!」
『う……うっす!!』
「クライン、グライブ! お前らもぼさっとしていないでこいつらを先導しろ!」
「お……おぅ!」
「わかったよ……」
雇い主はグライブさんなのに、いつの間にかエルカが全体のリーダーになっている。
主導権を奪われたグライブさんは、苦虫をかみつぶしたような顔をしていた……
「いこう、グライブさん。大丈夫、ああ見えてもエルカは理不尽なことはしないから、ね」
「ああ……すいやせん、クラインさん」
やっぱりエルカはすごいな。やっぱ指導者になるには、僕みたいなすべてよくなきゃって思うんじゃなくて、ときには思い切った手段が必要なんだろうな。だったら、僕も少し見習ってみるとするかな……
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さて、エルカを先頭に歩く僕たちグライブ傭兵団は、次の日の朝に、町から一番近い海賊たちのアジトを発見した。たぶんもともと漁村だったんだろう。ボロボロの家が十数件立ってるだけで、船もほとんどが小型というか、完全に漁船だった。朝ごはんの真っ最中なのか、家という家からは煙が黙々と立ち込めている。
僕とアンゼリカとヘレットは、偵察のためにアジトのぎりぎりまで近づいて様子をうかがった。
「殿下……いえ、副リーダー。本当に奴らは海賊なのでしょうか? こう言っては何ですが、その……普通の漁民にしか見えないのですが」
「ほんとねぇ……門には見張りがいるけど、手に持ってるのは手入れの悪い斧だけ。アジトの中には海賊だけじゃなくて、なぜか女性や子供の姿も見えます」
「…………もしかして、僕たちはとんでもない勘違いをしてたのかもしれない」
アンゼリカとヘレットが言う通り、海賊のアジトという割にはのんびりとした雰囲気が村の中に漂っている。
「副リーダー、まさか……われわれはあのグライブとかいう商人に嵌められたのでは!?」
「…………ありえるわ、私たちがよそ者なのをいいことに、何の罪もない漁師たちを――――」
「ちがうちがう。勘違いってそーゆ―ことじゃない。グライブさんは別に間違ってはいないよ、現に彼らはあの船や家の様子を見る限り、海賊行為に手を染めてることは明らかだ」
よく見れば、家のあちらこちらに海賊になったときに使う船の旗が干されていたり、船の縁に血の跡らしい痕跡が見える。
「彼らはね…………もともとは漁師だったんだよ。でも、生きるために海賊にならなきゃいけなかったんだろうな。いや、ここの村の人たちだけじゃない。僕たちのチームにいる傭兵たちや冒険者たちも、きっともともとは戦うことを望んでいないのかもしれない。…………これもすべて、この国がしっかりしていないから、善人が悪人になってしまうんだろうな」
「副リーダー…………」
「戻ろう。殺し合いなんてする必要はない。この村の人々は僕が救う」




