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東京HEAVEN  作者: いとむぎあむ
Xの章
20/39

兄は妹のために、妹は兄のために

 13年前、私は5歳で兄さんは9歳だった。護柱ナイツとして任務に向かった両親の帰りが遅いと、様子を見に行った妖。それを慌てて追いかけた私。そして、兄が見たのは、まさにあの男が父にトドメを刺す寸前だった。

「父さんッ!!」

 冷たい氷が父の体を貫いた。

 溢れる血の臭い。肉からズルリと刃が抜かれる時の嫌な音。

 あと少し… あと少し、着くのが早ければ。あと少し… あと少し、叫ぶのが早ければ…


                  両親は死ナナカッタノニ…


 *** 現在 ***



 庭園に立ち込める冷気。戦闘が始まってから約10分ほど。そこには、傷だらけの妖と無傷の孤陰。そして、それを心配そうに見つめる怪と、勝利を確信し微笑む孤陰の部下。

 一滴一滴ずつ流れる妖の血。そこには涙も混ざっていた。


「くっ、はぁ…ッ! 負け…へんで!!」

「フン。しぶとい。しかし、13年前から何一つ成長していないな」

「ッ何やて!?」

「そうだろ?結局、お前は今も昔も妹を守れぬまま、無力に地べたを這っているではないか」

 その言葉に、妖は衝撃を受けた。拳を握り締めて唇を噛み切った。妖の中で渦巻いたのは、己の無力さに対しての怒りと、ドロドロとした屈辱感。そして、過去と今への後悔。 また、守れないのか、と自らに問う。

 孤陰は手袋を纏った左手を氷で刃のように凍らせ、右手で妖の髪を掴み上げて、左手の切っ先を胸部に向ける。そして、そのまま妖に突き刺そうとする。


 体が、強張る。また(・・)目の前で兄を失ってしまう。もう、『やり直し』は出来ない。

 もう、出来ない…!


「ぁ… や、やめてェ!!!」



            ≪炎技えんぎ その12ノ章・黒炎弓ベルフレイム・アロー


 突然、孤陰の頭上に黒い炎で形作られた弓矢が現れ、孤陰目掛けて落下してきた。

孤陰は咄嗟に妖を怪の方に放り投げ、矢を避けた。


「チッ。何奴!?」


「妖、一つ貸しだからね!」

「無事でよかった」

「全員、目を閉じてろよ!!」

 そこにいたのは、羅刹と桑田、隆樹だった。妖は隆樹が左目のコンタクトレンズを外そうとしているのに気付き、最後の力を振り絞って、怪の眼を覆い抱きすくめた。

 瞼の裏からでも微かに分かるほどの真っ赤な光。突然の光りに孤陰たちは動揺した。

「!? この光りは…」


「孤陰様! 煉獄眼ディスホールドです。ここは退きましょう!」

「ぐっ! 仕方ない、一旦退くぞ!」

 孤陰たち3人は退却し、それを追おうとした羅刹を桑田が止めた。隆樹もコンタクトを付け直し、ひと安心したのは、ほんの束の間。


「兄さんッ?!」


 怪の腕の中で倒れている妖の体力は限界に近く、さらに高熱で気を失ってしまったのだった。


 *** ***


 やがて、雨が降り出した。

 妖の高熱は一向に下がらず、今は駆けつけた祖父の舜英が看病している。

 怪とその他の皆は別室で待機していた。

「えっと…。で、桑田さん。俺、何の説明もなしに連れて来られたんですけど」

「あぁ、そうだったね」

「あの…。私から、皆様にお話しさせてはいただけませんでしょうか?」

「あ、怪クン…いや、石榴様。お願いします」

「…あれは、今から13年前―――――― 」



 *** ***



 今から13年前。桑田率いる旧・護柱ナイツが逆東京都を守っていた頃。舜英の息子・啓祐けいすけとその妻・和香わか、そして2人の子供、9歳の兄・妖と5歳の妹・怪。この5人で暮らしていた。舜英の妻であり2人の祖母・英奈えなには去年先立たれ、啓祐の姉・イサナは逆世界を放浪する身であった。

 護柱の一人であった啓祐は、その日この逆東京に反政府派のグループが不法入県したという知らせを聞いて医療魔力を使う和香を連れて、出掛けて行った。

 両親の帰りを待つ妖と、一人楽しそうに遊ぶ怪。すると、舜英の店番する店に桑田が息を切らして駆け込んできた。

「っ! 何事じゃ!?」

「イ、イサナさんはッ!? 大変なんですッ、啓祐さんが…!!」

 その時、妖は桑田の言葉を聞いて、家を飛び出して行ってしまった。祖父の止める声も聞かずに。それを見た怪は、何か胸騒ぎを感じ、兄を追いかけた。



 走っていた妖が最初に見つけたのは、父の足元に転がった母の死体。そして、その前に膝をつく父の姿。黒い服の男は父の首を掴み、右手に備えた氷の剣で父の胸部を一気に突いた。


「ッ! 父さん―――ッ!!」


 ズルリと抜かれた氷の剣は、父の血で染まり物凄い血の臭いを放っていた。妖は倒れた父に駆け寄り、体を揺する。

「父さん、父さんっ!」

「…ッ! にっ、にげろ…、 逃げ…ろっ、妖!!!」

 妖の背後に迫っていた男は、妖の体を片手で持ち上げ、じっと見る。

「この男の息子か。……目撃者は、排除だ」

「ぐぁッ!!」

 妖の首を強く掴み、締め付ける。そして、左腕を氷で凍結し、父のように胸部を貫こうとする。

 と、その時。左腕に怪が飛びついた。


「やめてぇぇぇ!!!!」



 この時のことを、怪は今でも後悔している。ちゃんと阻止していれば、妖は…。



       ―――――――――――すべて、私のせいだ…ッ!―――――――――――

*次回予告

 あの事件が、怪の人生を変えてしまった。全て、僕のせいや。あないなことをしなければ、怪の能力は知られることはなかったや…。


 次回『蘇生の魔人』

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