蘇生の魔人
全部、僕が悪いんや。僕の浅はかな行動で、怪は自由を奪われた。せやから、もう二度と失うわけにはいかへんのや。
もう、二度と…。
*** 過去 ***
妖は呼吸がうまく出来ず朦朧とする意識の中、目の前の男の背後の小さな影に気付いた。
怪だ。怯えた表情で妖と男を凝視していた。妖は気付かれないように掌に氷で“逃げろ”と形作り、薄く弱々しく微笑んだ。
「やっ、やめてぇぇぇ!!!」
しかし、怪は逃げなかった。逃げることなく、男の左腕に飛びついた。
「ぐっ!? 離せ!!」
「きゃっ」
怪は振り落とされ、地に転がった。そして、ハッと振り返ると、顔に鮮血が飛び散った。
「ッ!? 兄さんッ!!!」
「っ…か、い…」
地に落ちた妖を抱き締め、涙する怪。その怪までも始末しようと手を伸ばす男。しかし、
(バチッ)
「ッ!?」
怪の周りの空気が渦巻き、男の手には電流のような衝撃が走った。驚いた男は咄嗟に手を引っ込めた。
そして、光り出した怪の体。その光りは怪と妖を包み込み、花びらの形になると蕾のようになったのだった。
*** ***
逆茨城 逆水戸
芦原邸宅
「…?」
「…どうかしました? 慧翠。この歪蘭玉を目の前に余所見ですか」
「…フッ、君があまりに美し過ぎるから直視できないだけさ。愛してるよ、俺の桔梗」
そう言って蘭玉の顔を上に向かせ、口付けしよとする男の唇に、今度は蘭玉が人差し指を添えて制止した。
「軽々しく愛を口にしないで。悪いクセよ。気付いてるんでしょ?『禁忌の第四の力』を持つ者が覚醒した」
『禁忌の第四の力』。それは、“蘇生”“破壊”“呪詛”“時渡り”といった四つに関連する能力のこと。この能力は禁忌とされ、今まで四天王と呼ばれる元老院と評議会が保護してきた。
「…内海怪。5歳、女子。ずっと前から気付いてたさ。だが、普通に生きてれば覚醒はありえない …はずだった」
「……行きましょう。お茶会は中止ね。仕事に行くわよ、慧翠」
「はいはい。今度は、一緒にアフタヌーンティーでもどうだい?蘭玉」
「…喜んで」
評議会会長・芦原慧翠と大魔女・歪蘭玉が、逆東京へ向かう。
*** ***
光の中で、怪は死体になって冷たい妖の名を必死に呼び続ける。
「ねぇ、妖。私、私ね。妖が好きなの。大好きなの。本当は、兄妹に生まれたくなかった…。 それぐらい、兄さんのこと、好きだよ」
「だから、死なないでよ。私を、独りにしないでよ……
死なないで!兄さん!!」
光の外では、男とその仲間は呆然と見つめていた。
「孤陰様! この能力は…もしや!」
「…っ! 捜したぞ!!」
「やっと、あの方を…」
やがて、光の蕾は花開き、中から妖を抱き締めた怪が現れた。
「…んっ」
と、その時。怪に抱かれて死んだはずの妖が、息を吹き返した。
怪は驚きや何故?という感情よりも先に、嬉しさがこみ上げた。
「兄さん!!」
「フフフ。見つけたぞ、蘇生の魔人よ!!」
「…ぇ?」
両手を広げ、高笑いする男。そして、興奮が収まると怪に手を差し出した。
「…?」
「来い、この私と。お前のその力が必要だ」
「……行かない」
「…拒めばその少年をもう一度殺し、無理やり連れてゆく。お前の力は、“その対象の人間を一度だけ蘇生する力”だ。次、その少年が死んだら、お前は今度こそ、兄を永久に失うぞ」
失う。その言葉に、怪は唾を飲む。ついさっきまで感じていた兄を失った悲しみがまた…。
そう思うと、恐ろしくてたまらなかった。
「……兄さん」
怪は妖をギュッと抱き締めた後、そっと妖を地に寝かせ、立ち上がる。
「フッ。良い判断だ」
静かに男へ歩み寄り、差し伸べられたその手をとろうとした、
その瞬間。
怪の背後で眩い閃光が光った。
「!?」
「くっ!? 目くらましか!!」
煙の中から姿を現したのは、上着をはためかせる評議会会長の芦原慧翠と、大魔女の歪蘭玉だった。
「魔王に仇名すテロ組織・莅豹のリーダー・孤陰!」
――――――――――アナタの身柄を拘束します!!――――――――――
*次回予告
この想いは、誰にも知られてはならない。相手に悟られてはならない。
この関係を維持するために、私は何も言わず、アナタから去っていく。でも、大丈夫。私とアナタは、対なるペンダントで、繋がっているから…
次回『愛しき人の言葉』




