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#58 失ったもの


 捜せども、その姿はどこにもない。一人で遠くに行くような性格ではない、だから必ずこの王宮のそばに入るはずだ。先程から嫌な胸騒ぎがしてならない。


「ノエル……どこにいる――――」


 王宮やその周辺を探し回る。時が経つにつれ、焦る気持ちが強まる。先ほどの王の招集の理由がもし、あれならば今の状況は芳しくない。


 すると前方からアモンがものすごい速さで近づいてきた。


「見つかったか?」

「急いで来て!!早く!!」


 いつもの彼とは違いった雰囲気に、アシュタロスは嫌な予感はあたっていたのかと、ただそう思った。そして急いで彼の後を追いかけた。


 そしてたどり着いたのは、血だまりと獣が倒れた草原だった。そこにノエルの姿はない。獣のそばにはベリアルとシャックス、ストラスがいた。


「見つけた時には、既に死んでたって。すごい血だけど、ノエルのはないってさ。ストラスが言ってたから、間違いないと思う」


 横にいたアモンが、静かにそう言った。


「そうか。殺されたのか?」

「ストラスはそう見てる。すごい切り傷だったから、まずそうだろうって」

「これ、落ちてたのだ」


 検死を終えたのか、そばに来たストラスが握りしめていた両手を、アシュタロスに開いた。そこにあったのは、小さな白いかけら。アシュタロスはすぐにそれがなんなのかわかった。


「俺が、あいつにやった腕輪のかけらか」

「やっぱりここにいたんだよ!!」


 まだ探そうと、アモンが喚くその脇をアシュタロスは通り過ぎる。そして血だまりのそばにしゃがみこんだ。まだいくつか小さな破片が草の間に落ちている。そしてそのそばの血だまりに、白い何かを見つけ拾い上げる。


「これは……羽か」


 それは血を含み赤く染まった羽だった。しかし全体ではなく、所々に白い部分が見受けられる。


 この世界に天使はいない。だから白い羽を持つ者は、半分黒く染まったアシュタロス以外いない。しかし彼はここにしばらく来たことがない。


 ノエルのものという可能性も頭に浮かぶが、彼のものならわかる。だがこれは違う。


 そこで彼はすべてを悟った。静かに立ち上がると、その場に言い放った。


「捜索はこれまでだ。ここを片付けるものを残し、俺らは王宮へ戻るぞ」


 予想外の言葉に、周囲にいた者たちは揃って驚きの声をあげる。


「はぁ?!何言ってるの?!まだノエル見つかってないんだよ!?」

「見つからぬものを探しても、どうしようもないだろう」

「は……?」


 少し前に交わした言葉。ノエルとの会話を思い出し、アシュタロスは表に出さぬものの、悲しさに打ちひしがれた。そしてそのまま、王宮へと戻っていった。


 その後も、ノエルの捜索はそれ以降されることはなかった。その決定に賛同しない声も上がっていたが、王の決定により退けられた。


 闇に蝕まれた世界を救った救世主は、現れた時と同じく唐突に世界を去ってしまった。






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