#56 二人の関係
「いてててて!!おい、いてぇよ!!」
「えー、これくらい我慢して欲しいのだー」
王宮内に響き渡るほど大きな声で、悲痛の叫びを上げているのは、にしの四大公爵代理、シャックスである。みると彼の腕には、綺麗な3本の赤い平行線が刻まれている。
そこにストラスが薬を塗りつけているのだが、それがいかんせん傷にしみる。
「あいかわらず、ベリアルのペットは飼い主に似ているのだー。ていうか、これくらいの怪我で呼ばないで欲しいのだ」
「あいつは爪に毒持ってるんだよ。こういうの、お前得意でしょ?」
「まぁこれくらい、シャックスなら効かないと思うのだ」
「うう、これならノエルに治してもらえばよかった……」
現在シャックスがいるのは、西のベリアルの館ではなく、王宮である。ここに居るのであれば、わざわざ南にいるストラスを呼び出さなくとも、ノエルに頼んだほうが早いし、むしろ願ったり叶ったりだ。だが、それができなかったのである。
「アシュタロスめ……俺の可愛いノエルを~」
「別にシャックスのじゃないのだ。あの二人があんな関係になるなんて思わなかったのだ」
「うっ、うっ……あんな幸せそうな顔した、ノエルに心配させた顔させたくなかったんだよぉ。それにアシュタロスには睨まれるし……」
「睨まれてるのはいつものことなのだー。はい、終わり。薬代はいつものように頼むのだー」
未だにグチグチとうるさいシャックスにそう告げ、これ以上聞かされてたまるかと、ストラスはその場をあとにする。
ノエルとアシュタロスの仲は、たちまち王宮内に知れ渡った。別に両人が言いふらしているわけではないのだが、その溢れ出る雰囲気(主にノエル)から自然に周りが察したわけである。しかし誰ひとりとして、それを不満に思うものはおらず、陰ながら祝福している。
「ノエル君、おやつにしようか。今日はチョコ切らしてて、違うものなんだけど」
「いえ、セーレさんのお菓子はどれも美味しいので、いただきます」
今日は王宮で仕事をしていたノエルだったが、仕事が早く片付いてしまい、アシュタロスの仕事が終わるのを待っていた。そこへ、バエルに用があったセーレと会い、こうしておやつを作ってもらっていた。
「そういえば、北の闇の結晶や狭間、かなりの数が消滅していってるんですね」
「うん、あの日以来少しずつだけど、闇の結晶は小さくなっているんだ。これは西に限らず、この世界各地で起こっているんだけどね。これも君のおかげかな」
「そんな、大したことしてません。でも、これでやっと解放されますね」
「うん、大規模な結界もいらなくなる日も近いかもしれないね」
二人は笑みを交えつつ、和やかな時を過ごした。
しかし、そんな幸せな日常も長くは続かなかった――――




