#50 現実の言葉
意識を取り戻したノエルだが、しばらく混乱が続いているのかポカンとした表情を浮かべている。辺りを見回した後、前方にいるアシュタロスを見た。
「アシュ……タロスさん……」
「大丈夫か?」
「僕は……」
「もういい、全て終わったことだ」
アシュタロスの言うことが、よくわかっていないのか、ノエルは首をかしげた。するとその体が突然、支えをなくしたようにしたに落下し始めた。
「わっ……??!」
翼を出す気力もないのか、咄嗟のことで反応できなかったのかノエルの体はそのまま下へと落下していく。下は延々と黒い闇が広がり、底があるのかどうかもわからない。アシュタロスはすぐにノエルの方へと向かい、その体を抱きとめた。
「大丈夫じゃなさそうだな」
「すみません……力……入……くて……」
確かに声を出すのすら億劫そうだった。もはやアシュタロスに全体重を預けている、そんな感じだった。
「あれだけ濃密度な闇に覆われていたら、無理もない」
「あの……」
「なんだ?」
ゆっくりとなんとかアシュタロスの顔を見上げたノエルは、声を絞り出すように問いかけた。
「さっきの……あれ……あの……僕、この……」
「居ればいいといっただろう、お前の好きにしろ」
「っ……はい」
夢だった、とでも思ったのだろうか。問いかけるときはとても不安そうにしていたノエルだったが、アシュタロスの返事を聞き、嬉しそうに笑みを浮かべ彼の胸元に顔をうずめた。
そこで漂ってきたほのかな甘い香りに、ノエルはふとある時の記憶が蘇る。それはこの世界に初めて来たときの記憶。
そしてようやく一番疑問に思っていた事の答えが見つかった。
あぁ……この人だったんだ。
「あの時……僕を……助けてくれたのは……アシュタロスさん、だったんですね」
「たまたま通りかかっただけだ」
「ありがとうございました」
「……さっさとここから出るぞ」
「え、あ……はい」
ふぃっと顔を背けられ、下から見上げていたノエルにその表情は伺うことはできなくなってしまった。だがその表情がなんとなく想像できたノエルは、くすりと笑いをこぼした。
「それでどうやって出るんですか?」
「お前がこの闇を晴らせばいい」
「え……でも僕、もうフラフラで……それこそ、この世界に始めてきた時みたいに、力がほとんどないんですが……」
「ならその時を同じように、力を与えれば何の問題もないな」
「え……それってどう……ん!!??」
ノエルの言葉は、唇を重ねてきたアシュタロスにより遮られてしまった。大きく瞳を見開いたノエルは、驚きの片隅で確かにあの時、今と同じ感覚があったことを思い出していた。
それはほんのわずかな時だったが、ノエルにはそうは感じられなかった。わずかしか息ができない状態だったのにも関わらず、まるで何分も止めていたかのように息が荒くなった。
「な、何するんですか!!!!」
「俺は体内で光属性を生み出し、蓄積させている。他の者にそれを与える場合、外部からより内部からの方が何かと都合がいい」
「だ……からって……こん、な……」
アシュタロスの言い分は理にかなっており、ノエルはそれ以上反論することはできなかった。火照る頬を両手で包み、うるさい鼓動を必死に抑えようと専念するばかりだった。




