#43 王都の地下に
僕らの前に現れたのは、この場にいるはずのないアグレアスさんだった。散り散りになりながら、なおも復元しようと試みる敵を冷たい視線で見つめている。
敵が復元するまで、未だしばらくかかりそうだ。
「お前が何故ここに……王都はどうした」
「緊急事態です。私とともに、セーレもこの地に来ていますから、彼のチカラで早急に帰還をお願いします」
「何があったんですか?」
「私にも詳しくはわかりません。ですが、バエル様が緊急だとおっしゃいました」
それを聞き、アシュタロスさんはなにか思い当たるようで、顔を上げた。しばらく考えたあと、辺りを見回した。
「ここのことは、王都から兵士をいくらか連れてきましたから、彼らに任せましょう。これくらいなら、なんとかなるでしょう」
「わかった。ノエル、行くぞ」
「え、は……はい」
アシュタロスさんに手を引かれ、アグレアスさんとともに結界の淵から外へ出た。何体か敵が襲いかかってきたが、それをすんなりと交わし、地上へと降りる。
戦乱のさなかを掻い潜り、少し離れたところにいたセーレさんのもとに向かった。
「説明は王自らがするようなので、先に王都に向かいます。では行きますよ」
瞬きをするその一瞬で、僕らは西の地から王都へと戻った。そして現れた光景に目を疑った。
王宮が闇の狭間に飲み込まれ始めていた。さらに漂う濃厚な闇の空気、あちらこちらで聞こえてくるのは、魔獣たちの雄叫びだ。
「これは……まさかあれが……」
「アシュタロスさん?」
「王は地下か?」
「はい。すみませんが、僕は西の手伝いに行かなければなりません。これにて失礼いたします」
「あぁ」
再びセーレさんが西へと戻り、姿を消した。僕はアシュタロスさんに手を引かれ、飲み込まれつつある王宮の方へと向かった。
王宮の裏手にある井戸の仕掛けを動かし、地下へと続く階段が現れた。そこを下っていく。薄暗い螺旋階段は、足元も暗くおぼつかない。先を行くアグレアスさんが灯を持ち、先導してくれている。
危うい足運びで、アシュタロスさんに体を支えてもらわなかったら、きっと転んでただろう。
螺旋階段を全て降りきると、さらに奥へと進む道が現れた。それを道なりに進んでいくと、古い扉が現れた。苔むしたそれはかなり古くからあるらしく、重く固く閉ざされている。
しかし見た目を覆して、手で押すとすんなりと開いた。
その中へと進むと、そこに魔王バエルがいた。彼に近づきさらに奥を見て僕は言葉を失った。
「これは……闇の狭間……?」
「そうだ。しかしただの狭間ではない。これこそがこの世界の闇の核、闇の狭間の中心核だ」
「なぜそんなものが、ここにあるんですか?」
「そもそもこの王宮は、これの力を押さえ込むためにここに建てられた。しかしそれだけでは足りず、最近はアシュタロスに助力してもらわねば、押さえ込むことができなくなっていた」
「アシュタロスさんに?」
「あぁ、俺は少し特殊だからな」
『マッテタ コノトキヲ』
「痛っ……頭が……っ」
「ノエル様!?」
「どうした?!」
急に聞こえてきた声と、襲いかかってきた激しい頭痛。それに呼応するように中心核が鼓動する。
何かが近づいてくる気配がした。




