#9 浄化の歌
少々遅れての投稿になりました。
訂正部分があったためです。
これが先ほどの魔獣をおかしくさせたんだろう。
「魔獣は闇と結び付きが強いですから……。闇の狭間に引き寄せられたのでしょう。その時に、深い闇に当てられ我を失った……というわけですね」
「これはどのように処理を?」
「現在、有効的な手段は何もありません。力の強い悪魔がそれ以上、闇の狭間が拡大しないよう力で押さえ込んでいるだけです。四大公爵がいる真の目的は、闇の狭間の拡大を防ぐため、力で押さえ込むことなのです」
でもやっぱり、アグレアスさんが言うように、それは有効的な解決策ではない。
押さえ込むにも限界はある。根本的にこの闇の狭間そのものを、消し去らねば何も解決しない。いつか押さえ込めなくなる時が来る。そうなっては遅い。
僕は闇の狭間の傍らにしゃがみこんだ。胸の前で手を組み、瞳を閉じていつも口ずさんでいたあの歌を紡ぐ。
少しでも……この闇を払えれば……。この地を癒すことができれば……。
そう願いながら、僕は一心不乱に歌い続けた。
ノエルの紡ぐ歌声は、風が吹き抜けるようにあたりに広がっていく。天に吸い込まれていくような、透明感のある歌声は徐々にそこにあった闇を浄化していく。
闇の狭間は、歌が進むにつれ徐々にその大きさを縮小させていった。そして最後には跡形もなくただの地面となり、どこにはざまがあったのかわからないほどになった。
「これほどの力を……」
「――――っ……」
「ノエル様!!」
意識が遠くなる。アグレアスさんの呼び声も、徐々に小さくなって何も聞こえなくなった。
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なんだろう。すごい暖かいモノに、包まれている気がする。暖かくて、すごく安心できる。なんでこんな穏やかな感じになるんだろう。
意識が沈んでは浮かびあがる。それを何度か繰り返す。
意識の片隅で、だれかの話し声がかすかに聞こえる。誰だろう。聞き覚えがあるような……。でもしっかり聞き取れない、誰だかわからない。
『あなたがいて助かりましたよ。そうでなければ、ノエル様は今頃……』
『なら、なぜ無茶をさせた。手遅れでは済まされないだろう』
『それに関しては、私の力不足としか言い様がありません。ところで、――――様をしりませんか?』
『さぁな。気配は感じるから……王都内には、いるんじゃないのか?そのうち出てくるだろう。それより、お前は早く帰ったほうがいいんじゃないのか?』
『仕事でしたら、あらかた片付いてますが』
『そうじゃない。いくら元天使でも、今は悪魔だろう?俺と共にいたら、お前にとって悪影響が――――』
『では、すみませんがこれにて』
『回復したら連絡する』
それから、室内は驚く程静まり返った。物音一つしない。二人共出て行ってしまったのだろうか。
「何の因果なんだろうな……」
そのつぶやき声が、僕のすぐそばで聞こえた。
そして僕の髪を、優しく梳く感覚も感じた。びっくりしたけど、疲れて体が動かないのか、びくつくことはなかった。
優しく何度も僕の髪を往復するその手は、とても大きく暖かだった。
その手の動きにつられるように、僕は再び眠りについた。




