無敗の男
3 無敗の男
もう夜明けの近い時刻、城跡の山の麓、その屋敷の前に多舞は佇む、高い塀、閉じられた門、だから中に入れない、だから門が開くのを待つしか出来ない、
次第に紫色に染まる空、あきらめて出直そうと考えたその時、突然、その閉ざされた目の前の門が開く、
「雪が止んだか、いい天気だ」
門から出てきてそう呟くのは寒空に道着姿の男、身長が2メートル近くもある。大男だ。
「はて?何かを感じる。なんだ?願う意思、それを感じる。救うことを願う意思、求めるのは希望…全ての希望だと?」
何かの気配に茫然として辺りを見廻す大男、その手に握るスコップを雪に突き立てて右手の手袋を外す。
その指には透明にそれでも赤く煌く石が埋め込まれた指輪が光る。
「ルビーストーン、何を感じた?」
そんな赤い石とは認められない透明な赤の石を見つめる男、その足元に紙切れが落ちる。
拾い上げてそれを読む、その書体は愛しい者の筆跡、心配ないから、そう告げる最後の電話の声、その声の主の手で書いた想いがここにある。
「何だって!絵里…お前は何に関わった?」
そう呟き茫然と見つめる手紙、その信じられない内容に大男は思わず空を見つめる。
暁に染まり始める空、透明な空はその色に染められていく、
「見えない天使、そこにいるのかい、なら安心して姿を現してくれ大丈夫だよ俺は味方だ。娘の為に力になりたい、いや、世界を救う為に戦いたい、それは願ってもない出来事だ。だから興奮するぜ」
それはまるで昇る朝日に雄叫びを上げそうな雰囲気だ。
多舞は姿を現したいと思わず強く願う、この大男は自分を助けてくれる存在だとそう確信できるから、
そんな多舞の願いに石が答える。その光煌くネックレスの青い光が消えていく、
そして突然、そんな大男を見上げて微笑む天使の少女が出現する。
その出現に大男は驚く様子も無く、そして笑顔を浮かべ、
「手紙どおりだ。なんて可憐な天使なんだ!我が娘も力負けだ!こんな娘の為になら全てを投げ打って戦いたい、君の笑顔にはその値打がある。だから力になろう、まずは中に入るがいい」
そう言って男は多舞の手を引き屋敷に入るように促す。
「助けてくれるの?」
引きずられるように歩く多舞は質問するが、しかし大男は振り返り笑みを浮かべると、
「当り前だ。娘の頼みを聞かない父親なんていないだろ?奴らは確かに強大だが、しかし俺には今まで手を出さなかった。それは俺が無敗の戦士だからだ。紅く燃える拳を持つ戦士、それに挑む者は全て敗れる。その無敗である事が自由、少し物足りなかったが、でもこれで俺の力を存分に発揮できる。この事態は歓迎できる。それをもたらしてくれた天使も」
微笑む大男は屋敷の中に多舞を誘う、その玄関には2人を待ち構える女性がいる。
「貴方その子は?どこから連れてきたの?絵里はまだ帰らない…外泊だなんて、それももう5日も…それを心配しないでそんな子を拾ってくるなんて、いったい何を考えているの?」
そう告げるのは大男の妻、石江美津子、古を尊ぶ古風な女、だから和服をいつも着ている。
「まあそう言うなよ待っていた時が訪れたのだ。戦乱の時代、それの到来が、今迄よく我慢した。武士の娘よ、もう容赦なく奮えるのだ。その力が、それをこの子がもたらした。だから歓迎してやるべきだろ?般若の女よ、お前の甥もこの一件に関わっているのだ。高石羅冶雄、絵里には秘密にしていた従兄妹、その若者も巻き込まれている。この子の希望になって」
大男はそう言って差し出すのは絵里の手紙、それを無言で受け取る美津子は亭主の顔を見つめて、
「義兄さんは失敗した。そうなのね?やはり羅冶雄を全ての希望に出来なかった…なら、あの子、あの地獄の女王が呼んだ世界が訪れる。あの全ての破滅が訪れる世界が…」
しかしその言葉に笑みを浮かべて大男は、
「そうならない為の天使だ。だから歓迎すればいい、だから朝飯だ。腹が減っては戦は出来ん、ありったけの御馳走を用意しろ、これから浅はかな奴らに目に物言わせてやる。この無敗を賭けて闘ってやる。あの全ての赤い石共と、そしてその上にある暗黒の石を打ち砕いてやる。この透明の赤が最強だと思い知らしてやる。ふふふ、血が燃えてくるぜ」
手紙を目にしながら美津子は首を振る。
「全てを倒したとしても虹がいる。それが最強、それは貴方では倒せない、なぜなら貴方はその煌きの一つにすぎないから、貴方は最強ではないのよ、貴方以上に上には力ある者達がいる」
しかしその言葉に微笑むと大男は、
「俺は最強を目指すんじゃない、俺が目指すのは無敗、だから勝てない者とは争わないさ、それが鉄則だ。だから味方につけるのさ、そんな奴らを、そう出来れば俺の勝ち、違うか?」
手紙を見つめる妻は首を振り踵を返すと無言で奥に消えてゆく、そして、
「20分、それで食事を用意します。その後は自由に戦えばいいの、貴方はその為に力を得たのだから…」
奥から聞こえる声、それは冷蔵庫を開く音と共に聞こえる。
「さて、飯が出来るまで時間もある。だが現状がどうなっているかもっと詳しく知りたい、だから居間に行こう、そこで炬燵に入って茶でも飲むとしよう、こっちだ」
その頼もしい後ろ姿を見て多舞は微笑む、絵里の父親、それは以外にも羅冶雄の親戚だった。その男はやはり頼りになる。そうして自分を助けてくれる存在だったのだ。
力になってくれる者達、その力を借りて虹色の石を持つ少年をあそこに誘うのだ。
そしてみんなを、この世界を救うのだ。
その使命を帯びた天使は微笑み、そして敷居につまずいてこける。
それは世界を救えるのかわからないドジ振りだ。
それを無言で見つめる大男、なぜか少しだけ不安な表情が滲む、
「だいじょうぶなの、たいさく済みなの」
そう言って頭のヘルメットを指さす多舞は笑顔で誤魔化そうとする。
「それも可愛らしさのうちさ」
そう呟いた大男は多舞を抱き上げ廊下を進む、
天使と鬼神は1つとなってまだ決まらぬ未来に向かう。
「姿を現したわ」
そう告げるのは❤形のベツトで寝そべる少女は手にした白い石を見つめている。
「どこに現れた?ここから近いか?」
そう質問する金髪碧眼の青年はソファーに座り酒を飲んでいる。
「その場所は知っているわ城跡の山、その麓の屋敷、あの石江勝則の家、無敗の男の家にいる」
青年の碧眼が一瞬、赤く煌く、
「無敗の男?それはハイストーンの義理の弟でルビーストーンの事か?」
怪しく煌く少女の紅い瞳はさらに揺らめいて答える。
「透明の赤に天使は助けを求めた。あそこには般若もいる。あの赤紫の宝剣を握る女が、もう彼らは敵に回った。どうするの?」
手にしたグラスを見つめる青年、そのグラスの中の酒が突然燃え出す。
「面白い、あんな赤くない赤色達が僕に挑もうというのか?浅はかだ。だから思い知らせてやる。その格の違いを、何が無敗の男だと?何に対してだ?どうせ三下どもを今迄相手にしていたのだろう、だから思い知らしてやる。真に無敗とはどうゆうものか、この世界から消え去る時に実感させてやる。どちらが強いのかを」
青年は立ち上がり着ていたガウンを脱いで投げ捨てる。
「ゲルマンの最も高貴な一族の血を引く者、その悪魔の一族の純血たるマイケル・ファイヤーストーン、でも敵は百千練磨の古兵者よそれをなめてかかると痛い目に遭う」
ベツトから出て全裸を晒す少女は心配そうにマイケルを見つめる。
「なら小手調べだ。あらゆる炎は僕に従う、奴の家の炎を拡大してやる。奴の家で炎が燃えている場所がないか?あれば延焼させてやる」
しかし巫女装束に着替えながら少女は首を振る。
「電化製品の熱しかない、あんな古臭い屋敷なのにオール電化、だから何所にも炎は立ち上っていない…」
その言葉に顔をしかめてマイケルは呟く、
「電気…僕にはそれは干渉出来ない、それはサンダ―ストーンの領域か…くそっ!なら直接出向いてやる」
そしてスーツを着ながら巫女を睨んで、
「オレンジの少女よ何か未来は見えないか?この僕の勝利を確信させる未来は?」
しかし希恵はまた首を振ると、
「夢で見えた現実は黒い肌の女性が子供と少女を襲う夢、あんたには今は関係ない…」
その言葉に無言のマイケル、やがて、
「行こう」
そう声を掛けドアに歩み寄る。
自分以外の大悪魔達、その内の2人は今動いている。あの魔王の命令に従っているのか、それとも?
世界の1部、その最も重要なその1部と自覚する青年はしかし全てを格下とみなして微笑む、
「黄昏の石がすることなんかどうでもいい、せいぜい足掻けばいいさ、今の最強は僕だ。ここに破滅の世界を呼び込んだ後に僕の理想の世界を創る。それに抗うものは皆殺しだ。だから従いたいのなら尾いて来い」
そう告げてドアを開く青年、それに凍りついた笑みを浮かべてその後ろに続く少女がいる。
これで復讐できるのだ。この男の力があれば、あの黒装束の魔女に、苦しめて、そして苦しめられたあの存在に、 あの魔女の下僕達、その闇夜に襲い来る。あの異形の者達もこの真炎の力には対抗できない、あの血色の魔女を今度こそ滅してやれるのだ。あの無の世界に、おうしてその手に握るひび割れた石を完全に砕いてやる。そしてこの朱色が赤と認められるのだ。あの血の色ではなく、
「ふふふふふっ」
その凍りついた笑みを浮かべて巫女は部屋から出て行く、
閉じられたドア、もうその後ここを訪れる者はいない、なぜなら燃えている。それも凄い勢いで、その加速する火勢は反応する間もなく火災感知機を破壊して燃え広がる。
全ての痕跡を消すために、それは何の痕跡かはわからないが…
時間は暫し遡る。
午前0時、その時間に訪れた来客、
「このドアを玄関と接続した。そこを開ければそこにいる」
そう言う幸一は部屋の入口のドアを指さす。
無言でドアを見つめる一同、やがて沙希美が、
「大丈夫なの、誰も失われない、あのドアの向こうには希望があるのよ」
1分後の未来を見てそう告げる。
そのドアに歩み寄るのは羅冶雄、そして躊躇うように振り返って皆を見つめてからドアを開く、
そこには意外な人物たちがいる。サングラスの子供になぜか消防服姿の少女、その2人が霧の向こうに微笑んで自分を見つめている。
「夜分に失礼じゃが、さて、しかし中には入れないんじゃ、わしの力でも扉を開かすしか出来ん、その中に入ると取り込まれるからじゃ、この絶望の霧に、絶望した者はこの中からは出られん強力な負の結界じゃ、じゃが、そこに溶け込むことは出来るのじゃ、このわしの力での、この絶望の一つになって、だから玄関先で失礼する。だから率直に言うのじゃスカイブルーストーンよこの子の家族になってくれないか?」
「……」
言われた言葉、その状況に何も言えず絶句する羅冶雄、
「助けるの、希一郎を、絶望なの、それはもうすぐ来る。天使見つける。使命それ、あなたわかる。みんなを助けたいと願うから、リリーは世界を救う、でもそれは希一郎の為、だからあなたをする家族、繋げるの、バラバラを」
茫然とその2人を見つめる一同、この彼らが訪れた目的がわからない、
「そんな不思議そうな顔をするんでない力を求めて来たのじゃ、それだけじゃ、だからこの子に力を分けてやってくれぬか、そうお主ら全員の力を」
サングラスを外した子供は、その移り変わる両の眼で皆を見つめる。
「それはミラ―ストーン、それにウオッチストーン、貴方は?あの伝説のストーンファザー、そうなの?」
それを見て驚愕して問いかけるのは香奈枝、あの聞かされた伝説の存在がここにいる。
「ストーンマザーよ、その辛い日々を過ごす者、その絶望を託す者よ、しかし信じるべき希望を1番に願う者、だから知っておるじゃろう、色は主張にすぎんと、無から生まれた石達の、その意思の込められたそれが色になるのじゃ、じゃから無色と多色を得たわしには全てが見えるのじゃ、その全ての意思とそれを求める全ての希望が、この水面の石は映し出す。全ての今を、この砂刻の石は教えてくれる。流れる先を、そして看る事に打ちのめされ存在を恐れた。この自分のじゃ、じゃから完全な消滅を、あの無から来る石達のその世界への還元を求めておる。だが、そんな無の中のたった1つの意思が拒んでおるのじゃ、存在したい、そう願う意思が、それは光の女王、いや、この世界では地獄の女王、その強烈な意志がわしを消滅させなんだ。しかしその願いは聞き届けられることとなったのじゃ、だから協力しろ、そう言いに来たのじゃ」
その両目に埋め込まれた石、その1つがある光景を映し出す。
炎の球、それを間一髪で避ける天使の姿を、
「多舞!」
その光景に思わず叫ぶ羅冶雄、その愛しい者の危機に体が思わず硬直する。
「今は姿を消しておる。じゃから予測で再生しておる。そうじゃ敵がおるのじゃ、ストーンサークル、その残りの3つの赤い石は天使の抹殺を企んでおる。その1つ焔の石が彼女を襲った様じゃ、あの朱色の魔女に導かれ居場所を突き止めたのじゃろ、今は姿を消しているから殺される事はない、しかしじゃ、虹に接触するとなると姿を現わさなければならんじゃろ?その時を襲われたら?お前達の希望が潰えるのじゃ、そして真の地獄の世界が訪れるのじゃ、全ての絶望を望む者がそれを呼び、そして魔王がその世界を創るのじゃ、その破滅を呼び込む者は扉、虹色の扉、それが開かれる事は約束された。だから石を掴んだのじゃ、希望の虹、それの向こうには絶望があるのじゃ、全ての存在を否定する無の空間が、お主達が握る石の、それが来た暗黒の世界があるのじゃ、その意思の根源の」
突然、そのサングラスの子供に指差された石崎、そして無表情に自分の石を見つめる。
「暗黒の石は他の石とは違うのじゃ、無、その何もない暗黒の世界にも生まれるものがあるのじゃ、それは意思じゃ、存在したいと願う意思、そんな形なき思いが、その意思達がこの世界と無の世界の接点、そこを通ってやってくるのじゃ、意思を石の形に変え、そして意思のその思いにより色が決まるのじゃ、求める物の色に変わる。しかし形を得られてもその存在はこの世界に示せない、だから求めるのじゃ、同じ思いを持つ者を、自分達の存在を示せる者、それを求めて石達は世界を流離うのじゃ、あの暗黒に差し出す代償、無くなってもいいと思う自分の1部、それを自分達、その石の為に差し出せる者を求めるのじゃ、じゃが例外が1つある。お主の持つ暗黒の石は無そのものの意思、それは全ての存在を否定する。それはこの世界を消滅するために送り込まれた暗黒の石、だから最強であり最悪であり最恐でもあるのじゃ、全ての石達は存在を望んでお主の前に跪く、それだけの力が得られればな、しかし人間には暗黒に捧げる物は少ない、だからその石は真の力を発揮しない、永遠にじゃ、そんな小さな意思で消滅させられるような世界ではないからじゃ、だが、あの無の世界で唯一、形、それを得た存在、それは光、暗黒の世界の一点の染み、そんな存在したいと願う意思が光を呼んだのじゃ、そしてその存在は無の消滅を願い、逆にこの世界が無を滅する事を願ったのじゃ、無から生まれた意思達、それが集まれば無を有に出来るかも知れない、だから生んだのじゃ虹色の石を、全ての明るい色、そう太陽の色に輝きそこにあるのじゃ、その全ての意思を束ねる石を、その全ての存在を肯定する石を、その全ての希望になる石を、あの黒く染まった石達に相反する王者、しかしその石を握る者はいないのじゃ、暗黒に捧げる代償がそれを支払える人間がいなかったから、その強力な力を秘めて石はこの世を流離うこともなくただ存在していたのじゃ、あの暗黒に抗う者が現れるまでは、そしてついにその者が現れたのじゃ、その全てを救える者が、だから救われたいと願うのなら、この娘の願いを聞くといい」
長く語りそしてサングラスをかける子供、そして無言で隣の少女を見つめる。
「輝きたい、その願いは最初なの、女王の、込められている意思が石に、感じる。わかる?輝ける場所を求めた。それは空、あなたなの、世界は創られている。意思、そんな存在達に、奇跡の力、それは石がもたらすんじゃないの、全部奇跡、存在する物は、生きている者は、わかる?意思と物が重なって出来た。世界、この世界、存在したい思いみんなある。違うか?だから一緒、家族なの、存在する物、生きる者全部家族、だから助けるの、助けられるの、空の石を握った女性は願った。光を求めて、そうして女王はこの世に姿を現せた。しかしその存在は歪だった。その女性は再び願った。そして生まれた奇跡、その子の過酷な未来を救うために、最後の願いをした。鍵を創るため、そしてあなたがそれを生み出す存在とと出会うため、わたしも鍵、それになりたい、希一郎大変、失うミキを、絶望、大きすぎる。1人じゃ足りない、皆絶望する。それ求める者が開く扉、破滅がやってくる。鍵ないと閉められない、だからいいか?家族の証、キスをする。みんなオッケー私もオッケーあなたは?」
投げかけられる意味不明の言葉、しかし最後のセリフだけは理解出来た。
「キス?なんでおまえと…俺が愛する者はいるんだ。俺の天使だ。だから裏切れないあいつを、だからダメだ!」
うろたえる羅冶雄、しかし目の前の美少女は微笑んでその目を見つめる。
「みんなオッケーそう思う、だから無駄無理、抵抗しても、いいかみんな?天使を救いたいの、ならする協力、いいかそれ?」
うろたえる羅冶雄の背後からオーラを帯びた男達が近づいてくる。
「へっ、いいなお前は、モテモテで、多舞ちゃんにこの女の子、こんな美少女ばっかりに、羨ましいぜ、でも我慢してやるさ、それで世界が救えるのならな」
そう言いながら新庄は羅冶雄をがっしりと拘束する。そして、
「おい馬鹿力、こいつが怒りだしたらやばい、こっちに来てくれ」
呼ばれた平次はあくびをしながら屈伸運動を止めて歩み寄る。
「へい承知、しかし何ですかね、思いを告げられるいい男、いるんですね、あっしなんていつも告げては殴られる。なんか理不尽ですぜ…」
そう言いながら美沙希を見つめる。
しかし眉毛を逆の八の字にして自分を睨む美沙希に肩をすくめて、
「消えてしまえ、こんな世界、そう言ってもいいですかね…」
脳天気なこの若者は1人の女性の事だけに深刻になる。
「そんなの今は関係ないだろ、この霧がまだ境界を作っている。だから彼女には触れられない、石崎、穴を、部分的でいいから顔が触れ合える穴をここに穿ってくれ」
そう叫ぶ宇藤に無表情な顔を向け石崎は、
「それでここから出られるのか?なら力にはなるが、しかしそうでないのなら何もしない、そのガキが言った事、それが嘘でないのなら俺はお前らとは違う未来を感じるからだ。なぜか永遠に続く階段が見える。それは暗闇に先が見えない長い螺旋階段、塔を昇っているのか?それとも…その行きつく先は暗黒か?世界を、それを滅しなければ王には成れないのか?その答えを聞いてからだ。答えろ糞ガキ!その答え次第で魔王を超える大魔王になってやる」
しかしサングラスの子供、李源は微笑んで、
「ここにいてはお主も未来は創り出せない、違うかな?そんな望む未来はそれぞれが持っておるのじゃ、しかもお主達は込められた希望を握っておる。ならば何に躊躇するか?求める世界を得るために紛糾せよ!それが暗黒の世界であってもな、お主の父親が創り出した霧じゃ、それに僅かに抗えるのはお主しかいないのじゃ、次の魔王よこの結界を破れ、その右手の石で、そうして未来を得る力を振るうのじゃ」
その言葉に無言の石崎、やがてドアの前に歩み寄ると拳を突き出す。あの暗黒の石が嵌められた右手を、
「絶望を吸収している。この絶望する感情をこの石に、この理不尽を呪う気持ちを、だが全てを吸収しきれない、この存在を否定して、それでも存在を望む矛盾の力は強大だ。だから消しつくせない、暗黒には全てを塗り替えられない、だから隙間、それが作れるがそれがやっとだ。だからさっさとしろ!」
くっきりと見えるようになった少女の顔、その顔は微笑みながら羅冶雄に告げる。
「愛しています。あなたを、そしてここにいるみんなを、だからそれに答えて…」
穴の開いた扉の外から突き出した少女の顔、その唇が羅冶雄のそれに触れる。そして流れ込んでくるその思いが、思う人の姿が、
自分の境遇より何倍もひどい境遇、しかもそれは自分のように創られたものじゃない、理不尽に打ちのめされるその心、その妹の願いがそれを増幅させる。もう痛まない体、しかし心は感じる。全てを、そんな全ての苦しみを受け入れろ、そう求める物が握られる。それは虹色の石…耐えられない、そんな苦しみに自分は、しかしこの少年は…器が違う、そう、彼は王だ。だからそれに耐えられる。希望を叶えるために、その望みは?…
驚愕する羅冶雄の唇から口を離して少女が言う、
「私はリリー、これで家族なのあなたと、あなたの仲間も家族、だから天使も、繋がるみんな、いいかそれ?でも一番家族にしたいのは希一郎、心無いの、ミキ以外誰も、ミキ死ぬは決まっている。それが引き金、希望の全てを失う、だから望む絶望、それはみんなの、その絶望を受け入れる心が出来るから、世界は滅ぶ、あいや、滅ばない、魔王がいる。それが創る地獄を、この世は地獄の世界、それになる。あなた達はここにいればその訪れの後に解放される。地獄の世界に解き放たれる。握る石が希望に感じられない世界に、常に絶望を求める世界に、死者の呪いによって創られた世界に、苦しむ心が与える力を、魔王の力は強大になる。それまでに助けてあげる」
無言の羅冶雄、みんなもだ。
暫くの沈黙、それを破ったのは意外な人物、
「朱色の魔女、それは希恵ちゃん?あの子が悪魔に協力しているの、どうして?なぜ?あの子の悲しみは私が取り除いた。石の力で、なのにどうして敵対しているの?私達と?その真意は?知っているなら教えなさい!ストーンファザーこの世界の唯一の暗黒な存在!」
希美のその言葉に笑みすると李源は、その笑みを浮かべたまま語りだす。
「血色の魔女よ石達も争うのじゃ、その存在を賭けて、そうじゃ血色と朱色は似ておる。その存在理由もじゃ、どちらも崇められたいと願う意思じゃ、だから敵対するんじゃ、受け入れられない意思の衝突、お主が吹雪の中でした絶望、それは押さえにしかならなかったのじゃ、もう寒さを感じなくなった代償はより大きな寒さを相手に感じさせておる。あれの祖父が創り出す以上に、打ち解けられぬ、そんな宿命じゃお主達は、そんな宿命は多くある。みな色が違うのじゃから、十人十色でみんな違う色を持っておるのじゃ、それも石を握らぬ人々にも色はあるのじゃ、この世界は染まる色を求めて染められぬ、それは無限に色があるからじゃ、じゃから無限に争いは起きるのじゃ、みんな存在する為に、この世界の命達は全て無から生まれた存在じゃ、その己を欲する思いが形をなす。木も虫も小さな意思が形創るのじゃ、者がいるこの世界をじゃ、無を否定する意思達が造り上げた世界、有を求めるのじゃ、自分の為に、それを無に還る事はむずかしい、それは究極の選択じゃ、滅せられる事を願っても存在したい意思には抗えぬ、お主の色は、血の赤の色はなにより強いその意思が、じゃからその石は永遠に存在したいと願う者にその力を分け与えるのじゃ。それは終遠を望む心とは相反するのじゃ、お主の親戚の娘は負の力に導かれたのじゃ、暗い色その方に、しかし太陽の石の一族になったお主は光を恐れるか?それを恐れないのなら見つめろ未来を、そうして導け、お主の色を体に持つ全ての者を、この世界に君臨出来る魔女の石を持つ者よ、その紅い力を何に使う?朱色の石を倒すか?それとも救うか?選択はお主次第じゃ、その未来が見える。それは同じじゃ、あの預言者の血が流れておる二人共に、そんな見える未来に喜ぶのも涙するのも今があるからじゃ、そんな未来は変えられると信じるなら足掻け、それはいずれ真紅の石を手にした女王がそれを叶えてくれるだろう、お主を選んだ石を信じろ、その意思は全ての存在の力になる…いたっ!」
説教顔で語る李源、しかし突然後ろから頭を叩かれる。
「ゲン偉そう、ダメそれ子供偉くない、用済んだ。だから行く天使の許に、いいかそれ?鍵になるには私はまだ足りない、絶望、わからないそれ、だから感じる。絶望したら得られる家族、希一郎、だから行く、いいか?それ」
頭をさすりながら李源は子孫の娘を見て、
「ボケてもいないのに突っ込むな!痛いのはいやじゃ、お主も安心も心配もしろ、お主の絶望のシナリオは用意されとるのじゃ。もう失うものを選択する自由しか残されておらぬ、かけがえのない物を無に差し出すのじゃ、なれば太陽が皆を照らす」
そんなぼやく子供を見つめる無言のリリー、やがて顔をあげて皆を見つめて微笑む、
「安心して、ここに虹を連れてくる。天使と一緒に、開いた扉を閉じる為に、鍵は私ともう1人、それを回すのはあなたと天使、空の石と海の石それが2つの鍵を廻して閉じる。いいか?それ?赤い色の衝動に耐えてみて、あなたを染めようとするのは赤い色と暗黒の意思、永遠に世界の空は赤くはない、暗くもない、それは私が輝いているから、だから青いの、目にしみる青の空、それが全ての背景、その世界を私は望む、心配ない、まかせておけ、じじい、行くぞ」
こづかれて李源はまた頭をさする。
「ボケてはいないのになぜこづく、痛いじゃろ、でも潮時か…赤い色がここに向かって来よる。黒い肌の魔女、あの黄昏の魔女が、お主らには影響はないがこの子がやばい、あの斜陽の色は沈まず。そして昇らない、その太陽の色を持っているからじゃ、世界を染める夕日の色、その赤は何を求めたのじゃ?」
そんな思案顔の李源はまた頭を小突かれる。
「行くの!いいか!ようなのごきげん、みんないい、お休みなの、頑張る私それでいい、なら別れ暫しなの、皆から貰った力ある。元気が出てくる大丈夫、いいか?応援希望、力になる。それ感じる。だから任せておけ、リリーは戦う皆の為、このじじいは役立たず。知っている。全てをそれだけ、だから偉そうなのに子供、王になることも出来るのにしない、無力で無気力、意欲の全てを捧げたから、2つの石に、でもこの男、女王から意欲を与えられた。それは私達鍵を救うこと、ならば成れる真の無に、安心ある。心配ない、希望応援、それでいい、羅冶雄、多舞ちゃんは私が助ける。流れてきた意識、口づけの時、あなたの最愛、それを助ける家族だから、皆は家族、それがいい、1番、世界は家族、それが希望、私の、だから失える。その代償はもう用意されている。感じる。だから絶望に押し流されない、太陽の石を信じるのなら手を上げて手を振って、未来を照らし出す光があると信じるのなら、いいか?」
無言で皆は手を挙げ、そして横に振る。
「来るの行って」
そして閉じられるドア、その新たな希望は立ち去った。
「何なんだ?あいつらは…」
突然訪れそして唐突に立ち去ったよく理解できない存在達、思わずつぶやく羅冶雄は閉じられたドアを見つめる。
「信じられる。そう感じる想いはない?」
そう尋ねる絵里が微笑んで羅冶雄を見つめる。
「なぜか託せる。そんな心は感じる」
「なら家族が増えたのね」
そう告げて微笑む絵里は羅冶雄を見つめる。
「家族って何だ?」
そうつぶやいて皆を見つめる視線に微笑む顔達が無言で答える。
太陽の石は絆を深める。その力を得ているのだ。あの娘の父親によって、
全てを束ねる意思があるから、だから認められた者は全て家族、この世界を家族にする力がある。
助け合いたいと願う心を1つに出来る。
しかしそれは1日の半分の時間だけ、自分が照らしだせる白日の下に集う者だけを。
「目障りだ。子供、ここで何をしている?そして脅威を感じる。その少女から」
研究所の出口、急いで車に乗り込もうとする2人に声を掛けるのは白いドレスを纏う黒い肌の女性、
「ロゼ=ベラ、黄昏の魔女、終わる世界を望む者か…捧げた絶望が終焉なら、それの希望が永遠の終焉の持続なら、終わりは無しで、それでいいのでは?」
微笑むロゼは指差す李源を、
「私を知っていると!ならお前ただの子供じゃないな、それなら答えよう、もう終わらない光、それを感じた。この世界が歪になる未来が見えた。暗い夜と輝く昼、それは回らなくなる星がその2分された世界を創る。永遠の黄昏がその境界線、その世界でなければ君臨出来ない世界など必要ない」
「じゃから破滅を、あの真の破滅を望むと言うのか?2分される世界を否定すると?暗黒に染められればお主とて消滅するぞ、ならば何ゆえ魔王に賛同するのじゃ?」
ロゼは微笑むと太陽の石の少女を指さす。
「永遠の黄昏の世界それはある。その光が影響できない死の世界になら、そこでは生きる者は何度も死ぬ、だから希望など何もない、そう永遠に終焉を刻む死の世界がじゃ」
李源は顔をしかめて、そして魔女を見る。
「色を染めたい、単純にそうか?明日が訪れぬ永遠の落日後の時間を望んで何が得られる。寂しさしか感じられない世界をなぜ求めるのじゃ?」
微笑む魔女は喜悦に歪む微笑みを浮かべると、
「魔王が私達に約束した。真の絶望の後の暗黒の世界、そこに新世界を創造し、そしてそれぞれに世界を1つ与えてやると、なら希望のない絶望の世界の女王になれる。人間達をそこで苦しめてやれるのだ。それも永遠に、それが快楽で喜悦、その黄昏に染まる世界に魔獣や妖怪、それを解き放つ、それは人間達を苦しめる為に、しかし子供、お前はなぜ?全てを知っているように話す。その外見の正体、それは一体何者だ?」
李源は溜息を吐くとサングラスを外して無言で魔女を見つめる。
「な…鏡の石に砂刻の石、それは大戦以前に失われたと言われる伝説の石、それを両目に嵌める存在、それは希願者達には脅威と言われた石を食う存在、その体の中に暗黒の空間を持つと言われた伝説の魔人、ストーンファザー、生きていたのか?」
しかしその問い掛けに首を振ると李源は、
「死んでいるとも、とっくにじゃ、わしの中に暗黒があるんじゃない、わしが暗黒の世界との接点の1つになったのじゃ、じゃからこの世にある石達を暗黒の世界に送り返せる。いらないのならお主の石も飲み込んでやろうか?じゃが主を得た石は他の接点を探して再び主の許に辿り着くが…わしは暗黒との接点を求めてこうなったのじゃ、その時に死んだのじゃ、しかし無に還る時までわしは永遠に消滅できないのじゃこの存在を、だからこの世にはあまり干渉出来んのじゃ暗黒の意思と光の女王の意思無くてはな」
その言葉に目を細める黒人女性、しばらく無言で李源を見つめる。やがて、
「お前を今動かしている意思、それは暗黒か光かどっちだ?」
黄昏の瞳を輝かせてそう問いかける。
「もちろん光の方じゃ」
その問いに笑いを浮かべて李源は答える。
「なら敵とみなす。消えろ!自ら持つ暗黒に呪われた存在!」
そう叫ぶ魔女の前に何者かが出現する。おぼろげな輪郭から姿を現したそれは犬、巨大な犬、しかも首が3つもある。それは血色の目で睨み牙を剥いて涎を流し怒り狂う、その犬は地獄の番犬ケルベロス、そんな架空の存在が姿を現す。
「地獄の門、黄昏の世界にあるその入り口の守護者か架空を創り出す能力、石の力で1時的に有を与える能力、見事じゃわい、で、それを創り出してどうするのじゃ、このわしを殺すのか?」
余裕の表情で犬を見つめる李源に魔女は微笑んで、
「死んでいて死なない者など相手に出来るか、ケルベロス!あの娘を殺せ!」
指差す先には今迄を茫然と眺めていた少女がいる。
「それをさせない、それが約束じゃ!」
少女に飛びかかろうとする地獄の犬にめがけて李源は大きく口を開く、その牙が少女に届く寸前に犬は動きを止めてそして吸い寄せられる李源の口に、そして小さくなってその口の中に飲み込まれていく、
「な、何だって?!」
驚愕して魔女が叫ぶ、
「石の力、それも無に還す事が出来るのじゃ、お主の力はわしには通用せん、わしがいる限りこの子には指1本触れさせはせぬぞお主が創り出す魔獣達にはじゃ」
さらに強く黄昏の色に変貌した魔女の瞳、そして手にするのは布包み、それを解いて中身を取り出す。
折り畳まれた無数の短い棒、それが1本に繋がっていく、そしてその先端には鋭利な刃が煌く、
3メートルもある長槍を手にした魔女が2人をその紅き眼で睨む、
「なら無意味な力、そんな物では戦わない、この戦士の能力、絶望する父の能力、それを継いだ力でお前達を殺してやろう、石の力ではない自分自身の力で、それならお前に干渉は出来ないはず」
そして突然繰り出される鋭い槍の切っ先が少女を貫こうとする。
しかしリリーはそれを紙一重でかわす。
「くっ」
槍を引いて魔女は見つめる。ヌンチャク、それを取り出して構える少女の姿を、
「肉弾戦か、得物も互角、どちらも殺せる相手を、その威力を秘めておる。この娘は不幸な境遇でな、それでもこの容姿、だからじゃ、敵は多いのじゃ、じゃから格闘技、その拳法の達人じゃ、アフリカの戦士よ、倒せるか?大いなる大陸の奥儀が、生まれた時から闘ってきた者達、その答えは出来るかな?」
その言葉に無言の魔女は牽制に槍を少女に突き出す。
しかしその牽制にリリーは構えを崩さない、
見つめ合う瞳、互いに一瞬の隙を探る。
その時何かが地面に弾けて飛ぶ、その色に一瞬ベラの視線が踊る。
それを見逃さなかったリリー、踏み込んで行く、敵の間合いに、そして右手のヌンチャクを顔めがけて右に振るう、槍の握り手、その小さな部分でそれを受け止めるべラ、衝撃、でもそれに構ってはいられない、吹き飛ばされ手から離れる鑓に構わず後ろに倒れ込む、そこにリリーの蹴りが空を切る。
背面に飛び、そしてリリーの間合いから逃れたベラは辺りを見廻す。
「ダークレットストーン、何の真似?邪魔をする気なの?」
歩み寄る影、その後ろには数人の人影、
「まあそう言うな、サンセットストーンよ、せっかく伝説の存在に出会えたのだ。全てを見ると言われ、そして全てを知ると言われる存在に、なら情報が得られるのだ。彼から虹の石の情報を、彼はもう全てを知っている。だから動いている。そうだと思う、いや間違いない、なら敵対するんじゃなく歓迎する。この出会いを、違うかね?だから取引だ。その娘のここからの無事の帰還、そして行動の自由、それを約束してやる。その代りに虹の居場所を告げろ、取引に応じないのなら私を含め暗い色の石達がこの娘を襲う、その全ての能力は飲み込めないだろ?もしそれを飲み込めても多勢に無勢、いくら格闘技に長けていても無事では済まない、さあどうするかね?」
英国帽を被った正装の紳士の身なりの白人の中年男性、ステッキ片手に地面の石を拾いながら李源を見つめてそう尋ねる。
その瞳を見つめて李源は笑みを作ると、
「悪魔の頭領、その暗い石達を束ねる者、大悪魔の1人、その暗赤の石か、あの闇の意思が混ざった石達の筆頭か、ならばお主は暗黒に忠実に働いているのか、それとも紅きに忠実か、いや、そのどちらでもあるまい、染めたい意思にその色に影をなす。その色を否定してしか存在できないのじゃ、あの真紅の大悪魔の相反者め、過去を歪める力を持つ者、希望を絶望に塗り替える者、その自らの暗い赤で、じゃが三下共を呼んできても答えはせぬぞ、虹の行くえは自ら探せ、暗い夜には虹は輝かん、だから見つけられんのじゃろ、暗い色が混ざっておるお主らには、ならわしがお前達を全て飲み込んで無に帰してやろうか、それができんとでも思っておるのか」
しかしその言葉に平然とした態度で紳士は、
「まあそう言いなさるな、伝説の方、その娘?それ以外にもどうにもできる存在達がいることをお忘れか?我々が閉じ込めているのだ。言わば人質、あの建物には爆弾が仕掛けられているのだよ、私が過去に戻り仕掛けた爆弾、うんと強力な物が、消し飛ぶよ、起爆スイッチはこれ、あの結界内が爆発する。だからここには何も影響しない、もちろん核爆発だって起こせる。そんな能力に長けた者も私の身内にいるのだよ、だからヒントでもいい、その真実の1つでもいいから語ってくれないかね?」
手に持つ装置、Ⅴ字型の笑み、それは作られた笑顔、なぜならこの男にはその心に今は感情は1つもない、苦しみを見る事、その光景以外には感じられない歓びの感情が、それにつられて元に戻る全ての感情が、そんな苦しみを見なければ取り戻せない自分が、だからそれを求めるのだ。
「なら、1つだけ今の真実を語ってやる。虹はいない、この世界には、異空間、そこで桜色の夢を見ているのじゃ、その懐かしい過去を、お主でも干渉出来ない遠い過去の記憶を、あの閉ざされた桜の聖域、そこは誰にも手は出せん、そこで最後の希望の鍵を握りで眠る。これがヒントじゃ、これでいいか?」
サングラスを外して大悪魔の瞳を見つめる李源、その右目に映し出されるのは建物、多くの看板装飾に彩られた古い雑居ビルの姿、しかし暗くて何処なのかはわからない、
サングラスをかける李源、それを見た大悪魔はV字に微笑む、
「ありがとう、それは凄い情報だ。だから感謝するよ伝説の人よ、実は爆弾の話、あれは嘘だ。そんなことをしたら我らが魔王、その人にも危害がもたらされるだろ、我々が従うのは常に暗黒の石のみだ。あんな紛い物を王とは認めない、多色の石、今は最も強いがそれは1時的な事だよ、真に最強は暗黒の色だ。だから彼が真の魔王になる手助けをすると決めた。それだけだ。我々は世界の均衡、それを保ちたいだけなのだ。それが出来るのは真の魔王にのみ、それが色を持つ黒の願いだ。それは歪んでいるがそう見えない、それは人間達の願いだからだ」
「人間達の願い?はて?悪魔共の願いにしか感じられん?絶望の演出者達が人間のはずあるまい、ハイストーンと共に人間達に絶望を演出してきた者達、そこで喜悦を得たか?気楽を感じたか?自分たちが感じた絶望以上の絶望を他に求める者達よ、それを得れば癒されるのか?何ゆえに、しかしじゃ、もう最強は訪れた。じゃから全てを飲み込む力はもう最強ではないわ、あの全てをもたらす力こそ最強じゃ、じゃから心せよ、その握られた意思の理由を、自分たちも必要にされていると感じるのじゃ、あの大いなる意思に」
V字の笑みは李源を見つめて手にしたステッキを振り上げる。
「光の女王、それは暗黒の1点の染み、あの暗い夜空のたった1つの星、そんな小さな輝きだが、しかし暗さを求めるのには明るすぎるのだ。我々は眩しい光には耐えられない、その力が込められた石と同じように、それが新たに生み出した虹は驚異の存在、もはや希望など必要ないのだ絶望を与える存在達には、あれが我々を必要と思うのなら、その価値観の違いによって地獄の世界が創られる。それを女王が望むのなら、あの存在は地獄の女王と呼ばれても当然だよ」
夜空とそして自分を睨む美少女をステッキで差し示しながら、そして最後に李源を差し示す。
「憎しみの果てに絶望して力を得た愚か者達め、その復讐が存在の全てになった心弱き者共、救われたいとなぜ願えん、人に苦しみを与えてどうするか?何に満足出来るんじゃ?苦しめる相手が居なくなっては力が振えんぞ、そんな苦しみの力でそれを創り出してまで苦しめたいか?不毛じゃ…地獄の亡者とは逆にお主達の事じゃ、お主らが真の地獄に落ちるのは、その日は近い、じゃが安心しろ、そこには女王がいるのじゃ、こんなお主らを救うために」
李源を指し示すステッキの先が地面に触れる。
「受け入れられない、そう人は皆違うからね、それぞれ違う色を持っている。でもそこには系統があるのだ。同じ系統の意思は仲間を求めて集まる。その力を大にする為に、なら、やがて世界を2分する2つの勢力が生まれる。労わる者と苦しめる者だ。その旗の色は決まっている。暗黒の旗と光の旗、我らが暗黒い旗の王、その真の魔王の誕生に干渉した過去、1人女の子を男に変えた。その矛盾する存在に苦しむ心を求めて、我らが魔王は育っているのだ。絶望を求めて大きく、これに干渉出来るか?看るだけの男、そこに暗闇の意思がないのなら去れ、その娘との決着はいずれつける。それに鍵になるなら壊さないといけないのだ。そんな天使と化した存在は全て敵だ。我々は1度消えて再び蘇がえる。そう約束されたからだ。お前の内なる無の意思に、だから破滅を望んでいる。我々のじゃない、それ以外の全ての破滅を」
英国風の紳士を見つめる李源、やがて肩をすくめると、
「行けと言うなら行くわい、じゃが忘れるな、お主らは存在の危機を回避した。わしを怒らせなかったからじゃ、じゃから肝に命じておけ、わし自身を否定する心が全てをそう感じたら、そうなればこの世界を全て食らう事など容易に出来る。それは怒り、その全ての存在を否定する怒りが広がるのじゃ、この無との接点を解放して、その意思が自分にあると感じた時、それが存在を消したい理由となったのじゃ、じゃから自ら何も出来ない存在と化したのじゃ、ここにも扉はあるのじゃ、有を否定する無の力は強大じゃ、お主らが信じる魔王もその扉の1つじゃ、それを開ける鍵は今はないが、わしの扉も開かん、自分自身の持つ鍵以外を預けてあるからな、鍵はあの光の女王に、じゃから開かれる可能性のある扉は今は虹のみ、だからそれの鍵の守護者に選ばれた。失敗すればわしの扉が開かれる。あの女王が鍵を廻すのじゃ、お主達は暗黒の中の存在に意思だけとなり永遠に彷徨うのだ。誰も彼もわし以外は、じゃから選択はまだ出来る。じゃから心せよ」
そう告げると李源はリリーを車に乗るように促しドアを開ける。
強い光、それを秘めた眼で皆に向け睨みつけるとリリーは車に乗り込む、李源はそれを見つめる者たちに一礼して、
「ありがとう蠢いてくれて」
そう告げて車に乗りドアが閉まる。
そして突然、宙を飛んで車が走り去る。
「蠢いているのは我々ではない、それは何の力もない弱い人間共だ」
そう呟くダークレットストーンは忌々しそうにステッキで地面を叩く、
「なぜ邪魔をした?」
それに、そう告げる黒人女性、男を睨む、しかしその紳士は、
「待て感じるだろ?あの預言者の告げた未来は変わっている。ぉの運命を操る意思が干渉している。あの真紅の石は確かに未来を変えたのだ。あんな石を食う男の復活を予想した能力者がいたか?その傍らに太陽が居ると、書き換えられていく未来が、あの破滅の槍が到達する事を拒む意思が動いた。しかも強力に、その何かが光の女王に力を与えた。もう破滅を望まぬ力が働いている。口に出したくない言…希望…そんな力が、その根源は牢獄のあそこでもないし、どこでもない、存在がない存在、それが全てを握っている…そうか!それゆえに天使、思い出させるもの、思い出す者、それは、何だ?だから鍵なのか」
そんな思案顔で自問し始める白人の中年男性を睨んで見てロゼは、
「ジョージストーン、そんな恰好をしていても新大陸の呪い人、英国の紳士じゃない悪魔、全てを銃で支配する快楽の民、あの下らない最低の人間達の集った地の最低の男、元は犯罪組織の最高幹部で血が好きな、その色の酒を愛する冷血漢、何を考えての行動だ?奴らに接触しようとする者の抹殺、それは私の役目と決めたはず。お前は守ると決めた魔王を、ならあの男の許に居るべきだ。あの最強を唱える男の」
しかしジョージはつまらなそうにステッキで地面を叩き、
「魔王、我らが崇拝する者、それはあそこの中だ。あの男は魔王ではなく神になろうとしている。それも魔神だ。そんな中途半端な者など信用できない、もう強いだけでは信用されない、見せてくれる世界を共に望む強い存在ではない、奴の言う永遠の地獄など私は望まない、そうだ。出来れば今のままでいい、そんな現状維持が私の希望かな?だから満足していた世界は失えない、だから全てを知って過去を変える。その過去に干渉して虹の誕生を阻止するのだ。なら槍はもうここにはやってこない、そうするには情報が必要だ。しかし殺してしか奪えない個人の情報、それは記憶、現状がある全ての原因の情報が揃えば過去を改竄出来る。誰が何時、何処で、何をした。それが揃えば消しゴムで消して上書きするように、その行動を書き換えられる。そして書き換えられた今が目の前にある。だから無かった事にしてやってもいいんだぞ、あの戦士の誇りのあの槍を飛ばされた事は、それは見ていたから全ての情報がある。全てではないが書き換えられる。行動の1部なら、そんな些細な出来事になら」
その言葉に拾った槍を構えるロゼは、
「大きなお世話よ、あんたがここに居たいのなら私は太陽を追う、この誇りを汚された事は自分で落し前をつける。だから余計なことはしないでいい無理やりにでもしようというなら、あんたの配下はいなくなる。この死の軍団が殲滅する」
槍を構えるロゼの背後に手に槍を握る骸骨の軍団が現れる。
「スケルトン、その軍団か…相変わらず見事、私の力でも能力の発動は改竄出来ない、わけがわからない力だからね、さっきのは冗談だ。この国ではそう言うらしい、我が祖国ではジョークと呼ばれる。それを理解してもらいたい、我が祖国の文化をね、真面目すぎると損をする。だから時に不真面目になる。それで利益を得られるのだ。お互いに、たとえ銃を握る戦場であってもね、それが勝利の鍵だと祖父に教えられた。2つの戦争を戦い生き抜いた男に、まあ、それはさておいて、私もここにいるつもりはない、するべき事が出来た。桜色、それは重要なヒントだ。それを求めに行かねばならない、だが留守番は1人置いておく、だから行きたければ行くがいい、君にとって宿敵と呼べる存在を倒しにね」
骸骨の軍団が集合して形が変わる。
それは飛竜の姿に、その背中に飛び乗るロゼ、
「炎は天使を!私は太陽を!あんたは虹を!それぞれ倒す。それでいい、なら行くのみ!」
槍を構えた女戦士を乗せワイバーンは飛翔する。
その風圧に紳士の帽子が飛ばされる。
「役目が完全に決まった。私も行くか、だがダークグリーンストーン、戦の緑よ、お前はここで奴らを見張れ、そして敵であったら攻撃しろ、もう奴らに接触する者はいないと思うが念のためだ」
飛ばされたはずの帽子を何故か被るジョージはステッキを2回打ち鳴らす。
その合図に走り来るのは黒い英国製の高級車、
「なぜキャデラックではないのだ?」
忌々しそうにジョージはその車体をステッキで叩く、
「申し訳ありません、用意はしてありますので」
そう告げられて現れるのは不必要にまで装飾された外見の赤いオープンカー、
「58年モデルかなかなかいいセンスだ。これになら乗ってやろうか」
開かれる後部シート、しかしジョージは首を振り、
「この車ならハンドルを握るのはオーナー、違うか?私が運転する。心配はいらない、事故を起こしても無い事に出来る。なんだか久しぶりにハイウエーを飛ばしたい気分なんだ。ガンガンのロックをBGMに、期待?そう呼べる感情を微かに感じる。だから気分がいいとそう思える。いい夜だ。なぜか星が1つも見えない、こんな夜には町はずれのドライブインまで車を飛ばしたものだ。免許もないのに親父の車で、最初に失った者達に会いに、変えたいが変えられない過去、それを変えてしまえば私は力を失う、単なる白人の中年男になどに変われるか?ジョーク以上のジョークだ。笑えるか?戦緑の石、笑いたければ許可するぞ、笑え」
そう告げられた男、その濃い緑色の軍装の男、全身に武器を装備している。完全武装を超えた飽和武装、武器の塊、1人で扱えるのか全ての武器を?そんな男が直立不動に敬礼で答える。
「イエス、サーでも今は自分は笑えないのであります。敵を殲滅した時だけしか笑えません、共に戦った。我が戦友達と共になら笑えます。許可されても出来ません、申し訳ありません」
その答えにV字の笑みを作るとジョージは、
「ならわかるだろ?我々が真に笑える時が、なら望め、それを、そして全ての敵、それはあそこに近づく者だ。あのコテージに近づく者は全て殺せ、そして笑え、それを許可する」
「サー、イエッサー」
その言葉と敬礼で答える人間兵器の塊ををもう無視して運転席に座るジョージ、
「さて、アクセルはどっちだったかな?」
そう言って足元を見つめる。
不安な空気、それが流れる。
「右、これだ!」
踏み込む足に咆哮するのは車、ギヤが入っていない、
思案するジョージ、シフトレバーいきなりDに入れサイドブレーキを戻す。
エンストすることなく車が走る。凶暴な音を響かせ、
「ははっ」
その赤い車は走り出す。
闇の中で暗い赤と化して、
情熱を否定する色は過去を変える。
その情熱が心にあった過去の為に、
未来なんか得たいんじゃない、今が欲しい、苦しまなかった自分の今を、それをするにはもう足りない、時間が流れすぎた。消えていくのだ。過去は、あったのに無かった事のように、全てを記録していない、何も誰も、だからわからない事がいっぱいだ。だから過去には干渉出来るが、知らない過去にはもう干渉出来ない、しかし全ての事実を記録した物があればそれが可能となる。だからこの男は求めている。世界の石、そう呼ばれる記録装置を、占い師に告げられた。それの存在を虹を探せば見つかると告げられた。だからそれを求める。必要だと感じるから、自分には、
加速する車、その後ろに続くテールランプの群れ、時より赤色が闇夜を照らす。消灯された車の群れはブレーキを踏む時以外は光らない、闇夜に光など要らない、それは自分たちの世界、だから見える。その全てが見えない世界は光の中、それは自分達を否定する領域、それを許せない者が群れをなす。百鬼夜行の群れとなす。
「ここがあの男の家か?」
マイケルは門の前に立ちそれを眺める。
重々しい雰囲気の純日本建築、しかしそれは木と土とそして紙で出来ている。だから燃やすのには容易すぎる。
「天使は中にいる。炬燵の中で寝ている。あの男は道場にいる。般若は…」
石を見つめる希恵は近づく者を感じて見ていた白い石から目を逸らして顔を上げる。
2人が立つ門の中から和服の女性が歩み出る。
「いらっしゃいませ、御2人様、でも今日はもてなして差し上げられないの、だから門前払いを受けて頂戴、払うのは私、御引き取り願います。以上で御座います」
頭を下げる中年女性、そこに頑とした意思を感じる。
「用事があるのよ、あんた達はかくまっている。天使を、違う?その身柄を引き渡しなさい、なら無事ですむ、そう取引しに来たのよ、それに応じないのなら無事では済まないわ」
希恵を見つめる女性、美津子は、その目を蛇のように変え睨みつけると、
「赤石のあばずれ娘、そんな偉そうな口を叩くのはその男がいるからか?虜にしたのか?大悪魔をその体で、神聖な衣を纏う邪な存在め成敗されたいか?」
構えられるのは剣、それは赤い紫の石が埋め込まれた伝説の宝剣、
「パープルレットストーンよ、お前の抵抗は意味を成さない、天使を引き渡さないのなら全てを焼き尽くす。最初からその目的で来たのだ。その理由を知るのならあの娘を差し出せこの炎の悪魔に、ならお前たちは助かる事が出来る。そして我が一族に加えてやる。そこで求める物を得ろ!…つ…」
鋭い切っ先がマイケルを貫こうと動く、それを棒が阻止する。
お祓い棒、その先端に短冊の紙が複数付けられた棒が剣を受ける。
「悪魔を滅する事を神の使徒が拒むか?その道具で、小娘、お前も魔道に堕ちたか?ならば成敗する。この伝説の切っ先を受け消滅しろ、あの暗黒に」
そして雪の中で剣劇が開始される。2人の女の、打ちすえる棒、それをかわす剣、そんな2人が雪の中で死闘を繰り広げる。
それを見つめ溜息を吐くマイケルは屋敷に歩み寄る。
「さて、天使に会う障害は後はあの男か…道場に居るだと?僕を待っているのか?なら行かないわけがない、おい!希恵、その道場は何処だ?」
必死の形相で戦う娘がそれに答える。
「門を入って右、その建物が道場、そこは教える場所、でも結界に気をつけて!」
マイケルは歩き出す。門をくぐりその中に、そして右に曲がる雪の小径を辿って行く、
やがて見えてくる大きな建物、それは意外にも鉄筋コンクリートで作られている。
「燃やせないか、中にいる者を…」
そう呟いてマイケルは開かれた入り口をくぐる。
その板の間の中央に正座する大男がそれを出迎える。
「さて、僕の目的は知っているはず。ルビーストーン、君が抵抗するのはなぜだ?君達もハイストーンに加担していたのだろ?組織の一員ではないのか?特Aランクを持つのなら幹部にすぐ成れる。だから僕に従う気はないか?」
そう告げるマイケルに答えるのは野獣の笑み、それは獲物を前にした肉食獣の笑み、
「この提案は受け入れられない、その笑みが答えか…ならば滅しろ、この業火に焼かれ灰になれ!」
大男に投げつけられる炎、しかしそれが届く前に拡散する。
「何っ!?」
思わない出来事に驚愕するマイケルに立ち上がる男は告げる。
「神聖な道場、だから邪な力は封印される。己の力のみを鍛える場所だからだ。お前は罠に掛かった。自分自身ではない力を過信したために、この場で俺と殺リ合えるか?自分自身の力で、それを持っているならかかってこい、それがないのなら逃げ出せ、逃げる者には扉は開く、この結界の扉が、天使は無防備にさらしてある。逃げても目的は果たせるぞ、俺は逃げる者は追わない、弱いものに用はない、弱くなった心は身体を全て弱くする。弱者は従えられる。強者によって、それを望まないならかかってこい、己に信じられる力があるなら、大悪魔と呼ばれるのなら力はある。違うか?己自身の中に、なら、石の力を捨てて戦え、得物は自由だ。そこにある。自分の好きな武器を選べ、戦いたいと願うのなら、俺を倒せば希望を得られる。そう感じるのなら挑んで来い」
その自動で開かれた壁の中には武器が並ぶ、銃まである。機関銃まで、
それを無言で見つめるマイケル、やがて首を振り、
「火炎放射器がない、後の武器は僕には無意味だ。だが得物を認めるというならこれを手にするよ、なぜか気になる。この窪みが」
そして手にしたのは日本刀、その柄に穿たれた穴、それを見つめるマイケルはそこにポケットから取り出した石を嵌める。炎の石はそこに収まる。なぜかぴったりと、
「ほう、業火の刃、最も強い火で鍛えられた刃はお主を求めたか、広島の、あの原爆の爆心地、そこで見つかった日本刀の刃、永遠に錆びずに黒く輝くその刃、それを刀に戻したが誰も振るえん、あの炎に焼かれた呪いが込められているのだ。その刃はだから呪いの武器、それらが集められここにある。穴が穿たれた求める呪い、それを手にしたのなら感じるだろう、それが何を求めるかが」
その言葉に無言のマイケル、手にした刀から伝わる感情が、
業火に焼かれる人々の絶望の思いが、
存在したかったその願いが。
しかしそこに別の感情、焼かれる炎に復讐を誓うその感情が流れ込む、炎に焼かれるのならそれ以上の熱さで滅してやる。敵を全て、そんな負の感情、それだけが受け入れられる。
「焼き尽くしたい、その意思は受け取った。これは僕にふさわしい武器、だからフレイムソードと銘名する。この業火の刃、それを受けてみろ無敗の男、その敗北を最初にもたらしてやる」
そして鞘から放たれる刃、それは黒く歪みなぜか煌く、
「その刀が振るえるか…呪いの感情を飲み込んで、さすがは炎の悪魔、全てを焼き尽くす存在、だから焼かれる者など意に介せずか…ならお前の火で焼かれる者達の呪い、それを力に俺が送ってやる。お前を暗黒に、その炎の剣は焼き尽くされる苦痛を最後にお前にもたらすだろう、埋め込められる石の力により力を得た呪いの武器が、なら暗黒に送り返せる。その呪いを握る者を、面白い受けて立とうこの剣で」
大男、その手にするのは白銀の刃、それは剣とは呼べない巨大な鉄塊、2m近くも長さがあり幅は最大で60㎝、とても人が振えるような代物じゃない、
「金剛剣、そう呼ばれる鉄塊だ。これは古から伝説を生んできた魔剣、しかしこの剣の材質はステンレス、その錆びる事を拒む鉄の意思、古にはこれを創り出す技術はない、造られたのは最近だ。それを誰かが過去に運んだ。それが求めたのは苦しみ、この剣で斬られ殺される苦しみを飲み込む剣、そんな時代に鍛えられた真の魔剣、その屠られた者の全ての苦痛を集める剣、それを握れるものは数少ない、だが俺は握れる。その苦痛を受け入れられるから、それをもたらす存在だからだ」
狂気の目を向ける大男、そんな鉄の塊を軽々と片手で振り回す。
「行くぞ!炎の剣の使い手よ、その呪いの武器の力、どちらが上か教えてやる。切り刻まれお前も呪いの1つとなれ!」
その巨大な鉄塊が空を斬る。それを寸前にかわしたマイケル、そして片手で刀を持ち次に構える、
「何だ?その構えは、刀は両手で扱う物、剣道を知らないか?素人か?格闘技の、そんな者をなぜ受け入れたのだ?その業火の刃は、なら自ら滅することを望んだ。そう受け取れる。なら砕いてやるその呪いと共にその刃を、この永遠に苦しみを集める剣でな」
そして繰り出される剣、それをかわすマイケル、そして突き入れる刀の切っ先を大男の顔に、
飛び退りそれをかわした大男は笑みを浮かべる。
「東洋の剣技など知らない、僕が知っているのはレイピア、それを用いたフェッシング、だから突き刺すのだ。その鎧の隙間を、その大口を叩くお前の隙、それを貫いてやる。それには片手で充分、それがどうした?」
笑顔を戻し睨む大男、その剣技の素人ではない者を、そして今迄対戦した事のない異種の格闘技に戦慄する。勝利の可能性が少し減少したからだ。スピードを求められる格闘技、それは一瞬の隙を突く、 「対し難いな、この剣では…大きな振りは隙を生む、そこに突き込められる。その炎の刃を甘く見ていたかこの大悪魔をか?なら鬼神に戻り戦うか…隙を与えぬ完全な攻撃、それを繰り出すのは意思、その強きを求めた石の意思、ならば無敗、それを信じるのみ」
大男は変貌する。赤い目をした獲物を狙う野獣に、そして鬼神に、殺すのだ。糧を得るため、いつも空腹なのだ。手にした剣は、その腹を満たすのが己の使命、だから何者もその牙にかける。その狂った意思を受け入れる。
巨大な剣が空を舞う、必殺の意思を込めて、素早い!そんなに早くは振るえるはずのない鉄塊がマイケルを追いつめる。
マイケルは大男の以上に素早く動いて、そして大剣かわしつづけるが、その猛攻に隙はない、
焦るマイケル、その脳裏にに白銀の刃に断絶される未来が見える。
この男は最強ではない、しかし無敗、その意味を初めて理解する。
このように自分に有利なように戦いを進めるのだ。
この得物を手にした時に感じた優越感、これならいけると感じた。それが罠だったのだ。上を知るのは格闘のプロ、心も肉体もそれだけに鍛えている。もう勝ち目はない、あの能力が使えないのなら…
大上段の構えから放たれる必殺の一撃、それを交わすことはもう出来ない、動けない、先の攻撃をかわした直後だから、もう叫ぶ暇も何もない、だから目を閉じ炎の悪魔は観念する。もう全てを操れない事を、
しかしいつまでたっても苦痛は襲ってこない、斬られない、なぜ?
目を開いた前に天使がいる。
「だめなの、殺すのは悲しむの、自分も失う人達もなの!」
そう叫ぶ白衣の少女、その頭に被る黄色いヘルメットの寸前で刃が止まる。
「小娘!観念しろ!」
塀の隅に追い詰められた希恵、そこに宝剣が貫かれるように構えられる。
「観念なんてしないわ、おばさん後ろを見て」
雪に散らばる白い紙、それは千切れたお祓い棒の先端の紙切れ、それが突然光り出し雪が形づくられて行く、
「式神か?陰陽師の魔女め、姑息な手を使いおる。だが我が宝剣は鬼が創りし刃、それに斬られた者は地獄に堕ちる。神とて堕ちるのだ。地獄に、だから通用するかそんな力が、小娘、もう観念しろ」
襲い来る雪の塊、人型のその手は美津子に殴りかかる。
それを斬る。宝剣で、斬られた雪塊は粉々に砕け雪に還る。
「実態を与える材質が弱いのか?黄昏の魔女のように完全な実態を創れない、なら足止め、それなら出来る。埋もれろ、雪に、鬼婆め封印されろ!」
残りの紙を引き千切りそれを地面に投げつける希恵、そして雪が動く、壁のように立ち上がる。
「なにっ!」
宝剣を握る般若に壁達が殺到する。そして貫けたのは壁の1つだけ、そして埋まる雪の山に、
「婆め凍えろ、これで少しは時間が稼げる。、ああ、マイケルが心配、あの無敗の男は甘くない、容赦しない勝つためには、大悪魔と言え鬼神にはまともに立ち向かえない、だから結界を解く必要があるわ、あの透明の赤が創り出し結界、赤外線に囲まれたその場所を」
駆ける巫女は門をくぐる。なぜか最愛、そう感じる相手の身を気づかって。
振り下ろす剣を止めた鬼神は目の前の少女に問いかける。
「なぜ庇う?お前を殺しに来た悪魔だぞ、これは炎に囚われそれに全てを捧げた。そして焼き尽くすことのみに快楽を得る悪魔だ。こいつが殺した命は数えきれない、そんな存在をなぜ庇う?」
大男が見つめる瞳、それは碧く透明に澄んでいる。その瞳は迷いがない、そこには全てを育む力がある。
「なら今は好きにしろ!悪魔め命拾いをしたな、しかし天使に助けられるとは思いもしなかっただろうが、ここから立ち去れ、この俺がいる限り天使には指1本触れさせん、お前達組織の陰謀、いや魔王の企みなど、この俺がいる限り阻まれる。それを肝に銘じておけ」
赤く燃える瞳のマイケル、その屈辱に体が震える。今は敗北したのだ。それは生まれて初めての経験、どんな時でも最強だった。この力を手にする前でも全ては各下の存在だったのだ。
屈辱と怒りに震えるマイケル、その時、道場の外から声が聞こえる。
「結界を解くわ!力が使える!」
叫ぶ声、そして何かが砕ける音が聞こえる。
「何だと!ルビーの結界が破られるだと?」
目に見えない光、その遠赤外線で防御された結界が跡形も無くなっている。
「やばい!俺の後ろに隠れて!」
多舞を巨体の後ろに庇い、そして睨みつけるのは炎の目をした悪魔、その顔は喜悦に歪む、
その手にした刀、その色が変化していく、黒、それから赤に青、そして白光に、信じられない高熱が創られていきその高熱に燃えやすい物が煙始める。
「フレイムソード、なるほど思い描いていた力だ。これなら鬼神を倒せる。この太陽の炎を受けて消滅しろ!」
その振られる刃から放たれるのは灼熱の炎、それは核兵器の閃光と同じ熱、それが大男に投げつけられる。
しかしその炎は鬼神には届かない、楯にした大剣がそれを阻み消滅させる。
「何だと!?」
驚愕する悪魔、この攻撃が届かないなぜ?
「この剣の集められた苦痛の呪いはそれを手にした者の消滅を拒む、この剣を手にしている限りいかなる能力も俺には通用しない、これが勝利するための切り札、しかしこの無敵の力にも限りがある。チャージされた我が石の力が尽きたらこの剣は振る事も出来なくなる鉄塊と化す。その力が尽きるまで殺し合うか?我が伴侶もここに来たみたいだ。もうあの魔女の助けは望めないぞ、その刀は土産にくれてやる。だから今はここから立ち去れ悪魔よ、この俺に敵うと感じられたら何時でも対戦してやる。今日は小手調べだったとそう思いここは引け」
炎の瞳が碧眼に変わる。ここは敵の本拠地、もうあの結界は破壊されたがその他にどういう罠が仕掛けられているかわかったもんじゃない、ここでは有利に戦えない、しかもここに立て篭もられる心配はない、なぜなら天使は虹を探さないといけないのだ。なら今度は自分達に有利な場所を戦場として選べばいい、そうして今度は自分が奴を罠に引き込むのだ。
そう考え笑みを浮かべてマイケルは言う、
「いいだろう、その提案を受け入れてやる。その再戦の場は僕が決める。それで異存がないのなら般若を大人しくさせろ、怒り狂っているぞ、あれでは希恵がもたない、それが済んだら出て行ってやる」
その言葉に鬼神は雄叫びを上げる。
その猛々しい叫びに道場の前で宝剣を構え希恵を追いつめた蛇の目が人に変わる。
「命拾いしたな小娘…」
そう告げると般若は踵を返して道場の中に入る。
「天使よ僕を救ったとは思うな、この悪魔に貸しを作ったと思うなよ、もしそう思うなら苦しみの利息を付けて返してやる。それが僕が受け取った屈辱の返済だ!」
そう告げて道場を後にするマイケル、それに投げつけられる刀の鞘が、
「忘れ物だ!」
空でそれを受け止めてもう振り返らないマイケルは出口から消える。
それを睨んで見つめる大男、やがて大剣を手放し倒れ込む、
「貴方、その剣を握るなんて…そんな無謀な事を!」
そう叫ぶ美津子は夫に駆け寄る。
「あの悪魔に勝利するにはこの剣の力が必要だった。それほど奴は強大だ。いったい何に絶望すればあれだけの力が得られるのか?この全てを苦しめる剣、その握る者に絶望の苦痛を与える剣、この俺でも握れる時間は少ない、もう耐えられない、もし奴が俺の提案を受け入れなかったら、たぶん負けていた……だから勇み分け、今日はそれでいい、負けではないからな、しかし奴に勝つには時間がいる。考える時間が…あの閃光に燃える剣を手にした奴は…さらに大きな力を手に入れた。しかしそこに勝利の鍵があると感じる。天使は見えるか…彼女に感謝しないと、耐えられない絶望の苦痛を相手にぶつけなくて済んだ。殺したこと殺されたこと、その2つが絶望に変わり剣に呑み込まれる。危なくこの剣の絶望の1つになるところだった…この剣を真に握れるのはこの窪みに石を嵌め込む事が出来る者、それは誰も殺さず誰にも殺されない存在のみ、それは…たぶん虹、天使が求める存在だけ…少し休む、天使を頼む」
そう告げると石江勝則はいびきをかき始める。
肩を竦めると美津子は道場の押入れから布団を取り出しそれを亭主に掛けてやる。
そして今までをずっと見ていた多舞に向き直ると、
「お風呂にしましょう、それから貴女のその恰好は何とかしないと、娘の服があるの、なぜかいつも沢山買ってくるの、だから余っているわ、それに着替えましょう、それからお茶の時間、そして聞かせて、羅冶雄の事を、あの孤独な心が貴女を愛するまでになったその物語を是非聞かせて頂戴、お茶は紅茶、お茶受けはシュ―クリム、それでいいわね」
もう般若ではない優しい笑顔の女性、その言葉に微笑む天使、
「聞かせてあげるの、優しいラジオの事を全部なの」
道場を後に母屋に向かう2人、もう雪解けが始まった庭には水音が響く、
晴れ渡る冬の空、輝く太陽、誰かが流した氷着いた涙は融かされて流れて行き海に帰る。
そうして再び涙が流されるその後にはきっと空に虹が煌くだろう、それを信じる天使は空を眺める。
救うべき心は全ての心、この世界に悪魔などいない、その全ては存在を求めるのだから。