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ミラクルストーンⅡ  作者: 北石 計時朗
13/15

呪いの剣

12 呪いの剣


 虹と暗黒の戦いは中々決着がつかず長期化していた。

 超高速で繰り出される暗黒の拳、それを虹色の障壁がそのダメージを防ぐ、そして7色に輝く拳を繰り出すがそれを警戒する石崎は超高速で回避する。

 そんな攻防がもう1時間も続いている。

 その決着がつかぬのにはお互いに決定打が出せないこと、伯仲しているのだ。その能力がお互いに、

 しかしその攻防の中で希一郎は気づいている。

 あの暗黒の石で殴られる度に自分を取り囲む虹色のオーラが希薄になっていくことに、この希望の光が消されてゆく、あの存在を否定する石に削られて、

 やがて動きを止めて対峙する2人の少年、希一郎は無言で石崎の右手のナックルを見つめる。

 奇跡の石を武器にしているのはお互い同じ、だが希一郎は右手の拳に石を握っているだけだ。

 そしてその力は相手の石に削られる。

 だから互角と思える両者にもたった1つの差があった。

 それは石崎が武器を手にしているという事実、この自分を打ち負かす武器を握っているのだ。

 思わず懐のナイフを取り出してみてもそれはステンレスで出来たちんけな武器、それをもし石崎に突き立ててもあの鋼鉄をしのぐ頑強な肉体に阻まれる。それにこの武器に虹の力を込めることはできない、右手には石を握っている。だから左手に握るナイフには虹の力を込められない、

 その希一郎がナイフを取り出すのを嘲りの笑みを作って目を細める石崎、このまま戦えば必ず勝てる。そう確信する。あのナイフを取り出したその行為に相手に余裕がない事を理解したからだ。

 彼は物心ついた時から闘っていた。その過去の戦闘経験、それが戦闘マシンと言われるゆえんを創り出した。

 だから石崎はマシンのように戦いの中でも常に冷静に相手を観察できるのだ。

 そんな石崎の笑みにこっちの不利を悟られたと気づく希一郎、このままではいずれ殺される。

 その時沸き起こる絶望の感情、その中で希一郎は渇望する。今まで自分のために何も欲しいと思わなかった心が、あの相手を倒せる武器を、それを手にしたいと心から願う、武器とは人を殺傷するために作られる。それは作られた時から呪われる代物と化すのだ。だが自分の手にしたこのナイフ、それは人を傷つけないために故意に刃を落としてある。そしてあの鋼鉄の肉体を突き刺すこともできない使い道のないガラクタなのだ。

 どんな者でも傷つけたくないと願う思いがそうさせた。それは大切なな者を守る時のみ取り出される凶器とは呼べない代物、だから武器という概念のない脅すのが目的のステンレスのただの棒切れだ。

 だからそれに呪いはない、人を殺められる呪いがない、しかし希一郎はその呪いを受け入れると決心する。より強い呪いが込められているのならより強力な武器なのだ。

 もう人を殺められないと願う自分にはそれがふさわしいと考える。

 絶望と、希望と、代償が揃う、そして、

 希一郎の体が虹色のつの色、その紫の光に包まれていく、



 石江邸、その道場の真ん中で宝剣ならず箒を手にした女性が溜息を洩らす。

 石江美津子、般若と呼ばれるその女性はこの荒れ果てた道場を見廻して、

「この有様ではもう業者に依頼するしかないわね…」

 溜息交じりにそう呟く、しかし業者を呼んだ時にあれをどう説明すればいい、

 その見つめる先には床の間の掛け軸に突き刺さる大剣、もしあんな物を見られただけで警察沙汰になる。

 さっきは庭の死体を処分するのに苦労して穴を掘って埋めたのだ。

 だから警察なんかが屋敷に入ってきて捜査なんて始めたら言い訳できない物証が数多く出てくるのだ。

「まったく後始末する身になって暴れてほしいわね…」

 そう溜息交じりにまた呟く、なぜかあの甥っ子の癖が移ったみたいだ。

 とにかく後始末の件は亭主が帰って来てからだ。

 あの魔人と太陽の少女そして天使を引連れて意気揚々と出て行った亭主がなぜか恨めしい、

「私だけ留守番なんてつまらない!」

 思わずそう叫んで箒をへし折る。

 戦いを好む鬼の一族の血がこの女にも流れているのだ。

 その時道場に異変が生じる。

 あの掛け軸に突き刺さる大剣、それが突然振動し始める。

 それはまるで持ち主を探し当てた喜びに震えているように見えるのだ。

 しかしそれは呪いの剣、あの鬼神でさえ握ることをはばかるのだ。だからけっしてこの世に出してはならない、だから願字で書かれた四行詩、その誓書詩で封印されている。

 だがその封印は炎に包まれ灰になる。

 そして紫の光に包まれて呪われた大剣は次第にぼやけ消えていく、

「……」

 無言で剣が消えた床の間を見つめる美津子、

 突然消えたあの大剣、それは何が起きたのかは理解できる。あの呪いの想念の塊は持ち主を見い出したのだ。

 そして奇跡の石に導かれそれの許へと飛んで行ったのだ。

 あの殺戮を望む呪いの大剣は世界に解き放たれた。

 美津子は思わず道場の神棚を拝む、

 これ以上の呪いをあの剣が作り出さないようにとそう祈る。



 その紫の光が消えた時にその戦いのゆくえを見つめていた皆は異変に気づく、今迄そこに無かった物、それが出現している事に、あの虹の少年が左手に握っていたちんけなナイフがいつの間にか大剣に変貌しているのに気づく、

 それは剣と呼ぶにはあまりにも巨大な代物、幅は最大で60㎝長さは約2m、それは武器と呼ぶには大きすぎる鉄の塊、それが月の光を反射させて鈍く銀色に輝いている。

 それを手にする希一郎はしかし武器を得た喜びなんか微塵もない、その剣の柄から左手を介して伝わってくる呪いの想念と必死で戦う、この剣が殺戮してきた者達の呪い想念、それが自分に求めるのだ。

 殺せ、殺せ、殺せと、いにしえの時代から人を殺傷することのみに振るわれ続けた最凶の呪いの武器、それは殺されてきた者達の絶望を集めて新たな絶望を創り出すことを持ち主に強要する。

 普通の者ならそれに触れただけで発狂するほどの呪いの想念、まるで狂人と化して剣を手に殺戮を繰り広げる狂戦士と化したであろう、

 しかしそれを握った少年は人を殺められない意思を持つ者、だから抵抗する事が出来る。この剣の呪いに抵抗できる。

 お前は俺の持ち主にはふさわしくない、そう言いたげに突然剣に重さが加わる。

 その重さを左腕では支えきれず地面に剣が突き刺さる。

 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!

 その想念を受け入れたならこの剣は再び軽くなり容易に振り回す事が出来るだろう、しかしその要求には答えられない、その想念の元凶は剣に込められた絶望だ。

 ならばそれを受け入れる事が出来たならこの剣の呪いは消えるはず。

 この剣の柄には窪みがある。だから右手に握る虹の石をその窪みに埋め込んでみる。

 その時絶望の瞬間が希一郎に襲いかかる。

 この剣で斬られて非業の最期を遂げる者達の絶望の思念が伝わってくる。

 挑んで負けた者もいる。逃げて斬られた者もいる。女も子供も老人も容赦なく切り裂かれる。

 その絶望は自分を斬った者を呪い、斬られた武器を呪い、自分の運命を呪い、斬られた剣に呑み込まれていく、そしてその呪いは剣にさらに力を与える。絶対に刃こぼれ1つしない頑強さと、それを握る者を守護する力を、その全ては新たな絶望を求めるために、そんな最凶の武器にと変貌する。

 その絶望の瞬間は希一郎を苛み続ける。しかし剣は急に軽くなる。

 その忘れていた感覚、そんな苦痛に苛まれながら希一郎は思わず笑う、

 そうだ。この剣を握るのならこれに込められた苦痛と絶望をすべて受け入れられる。そして自分がこれを握る限りもう苦痛も絶望も創り出すことはできないのだ。

 この剣の柄に埋め込まれた虹色の石が輝きを増す。

 この全ての存在を肯定する石は絶望を希望に変えられる。

 そうして剣の呪いは解き放たれた。

 その呪いの魔剣は7色に輝き希望を求める聖剣へと姿を変える。

 そんな様子を腕を組んだ姿勢のまま見つめる魔王、

「我が息子の負けだ…」

 一言だけそう呟く、

 突然出現した大剣、そして虹色に煌き始めるそれを構える希一郎を無表情に見つめる石崎、

「あんなの反則じゃん…」

 そう呟いて自分の優位がくつがえったことを理解する。

 相手も武器を手にしたのだ。それも驚くべき凶器を、信じられないくらいの大剣を、しかもそれを軽々と構えて見せているのだ。

 最大の敵となると父親に告げられた存在、それは事実だったと確信する。

「面白い、面白すぎるぜ親父、あんな奴を俺に引き合わせるとは気が利きすぎて笑えてくるぜ…」

 そう呟いて父親の方をちらりと見る石崎、その父親の目は笑っている。息子に送ったプレゼント、それを喜ぶ息子を見る目で、

 そうして希一郎に向き直った石崎は全ての力を次の一撃に賭けると決心する。

 このチャージされた暗黒の石の力を全て解放することを、そしてポケットから紫の石を取り出す。

 あいつを倒すためにこの石にチャージされた力も必要だと判断して、

 光速で移動してあいつの虹色の石をこの暗黒の石で打ち砕く、そうしなければ勝機はない、

 そう確信する。この暗黒の石は全ての石を打ち砕く、その事実を石崎は知っていたのだ。

 さらに左手の掌に埋め込まれた群青の石の力も使うと決心する。今はこの石は時間を飛び越える能力を秘めている。

 そして全ての力を放つため攻撃に向い姿を消す。

 希一郎は何もしていない、文字通り何もしていない、ただ体が勝手に動いただけだ。しかし目の前に苦痛に蠢き悶える石崎の姿がある。

 自分は光の速度で移動した。それは目で捕えることもできない速度だ。しかし相手はその速度に反応した。飛び込む石崎に対して相手は信じられない速度で大剣を振り下ろしてきたのだ。

 だから咄嗟に時間を2秒飛んだ。

 その振り下ろされた大剣の隙を突くために、しかし2秒後の世界では信じられない事が起きていた。

 その振り下ろされたはずの大剣が横から自分をなぎ払うように移動してくる。

 そしてもうそれをかわす事が出来ない、

 その剣に薙ぎ払われた衝撃に吹っ飛ばされる石崎、そして失くしたはずの感覚がよみがえる。

 苦痛、それは力を得るため暗黒に捧げた代償、もう感じる事がないはずなのに、しかし、

 その苦痛に歪む目で虹色に煌く大剣を見つめる。

 能力を無効化する力を帯びているのか?その捧げた代償も?

 もし最大に能力を強化していなければ自分は両断されていただろう、あの剣に…

 あの相手は脅威の存在、もはや自分にもう勝ち目はない、石崎は戦うことを生きがいとしているが勝つことにはあまりこだわらない、もう負けるとわかれば勝負を捨ててすんなり逃走することを考える。再戦は何度も出来る。だからその時に勝てばいいのだ。

 石崎は残る全ての力を使い相手の前から逃走しようと決意する。

 そして高速で移動して逃走しようと試みるが、

 その目の前に突きつけられる虹色の大剣、その退路を絶たれて石崎は歯ぎしりする。

「俺の勝ちを認めろ、そうすれば見逃してやる」

 そんな投げつけられる屈除の言葉、だから答えられない、答えたくない、その言葉には、だから冷汗を流しながら睨みつけることでそれに答える。隠したい感情、それがそんな表情なんか作れないはずなのにそれがそれを求める。、

「ならここで終わりだ」

 そう告げて希一郎は虹色の大剣を振り上げる。その時、突然出現した暗黒の魔人に殴り飛ばされる。

 その一撃から希一郎が立ち上がった時にはもう石崎の姿は消えていた。

 


 希一郎と石崎が死闘を繰り広げている最中にも異変は起こっている。

 黒い結界内で灰色のコートの男に抱き抱えられた少女に銃を構える男達が突然苦悶の叫びを上げ倒れ伏す。

 同じように銃を構えた1人がコートを脱いでその素性を晒す。

「ごめんなさい、この子を守ると誓ったの、暗灰の悪魔、貴方もこの苦痛を味わってみる?」

 その苦痛の魔女は右目を光らせ暗灰の悪魔を見つめる。

「狙いは何だ?」

 うろたえながらも暗灰の悪魔は苦痛の魔女に問いかける。この娘を手にしている以上自分には手を出さないと踏んでいるのだ。

「ごめんなさい、苦しめてみたいの、あの魔王と呼ばれる男を、私のお父様を苛めたいの」

 右目の光がその言葉に嘘のない事を証明している。

 暗灰の悪魔は心の中でニヤリと笑う、それは自分も感じていた感情、あの男を魔王と認めたくないのだ。新たな魔王はもう誕生している。あとは我が主と共に新たな魔王に仕えるのだ。

「君の気持はよくわかる。私もそう感じていたのさ、あの男は嫌いだと、なら互いに協力することもできるのではないかな?」

 そう問いかける暗灰の悪魔、右目を細めてその目を見つめると希久恵はやがて微笑みを浮かべて、

「ごめんなさい、あなた達を全て信用することはできないけど、でも利害は一致しているようね、お父様のこの結界は私なら破る事が出来るの、伊達にこんな魔眼を持っている訳じゃないの、だから暗黒にも干渉出来る力はあるのよ」

 そう言って少女は左目の眼帯を外して見せる。

 そこにはモザイクの石と呼ばれる赤と黒が入り混ざる模様の石が埋め込まれている。

「ごめんなさい、醜いものを晒して、これはお母さまに左目をえぐり出されて無理やり埋め込まれたの、その時は痛かったわ、その痛みを貴方も味わってみる?でもこの石の力を使えばこの結界は通り抜けられる。さあ、わたしの手を取って」

 差し出されるその魔女の手を躊躇いながらも握る悪魔、そしてその手を引いて何無く3人は暗黒の結界を通り抜ける。

「ごめんなさい、外からの干渉には頑強だけど中からは容易に破られる。閉じ込める目的で創らないからこうなるのよお父様」

 魅入られたかのように希一郎と息子の死闘を見つめる背中に小声で呟く希久恵、そして、

「ごめんなさい、この子は兄と再会することを望んでいないの、だからここから去らないといけないわ何所か安全な場所はないの?」

 その問いかけに微笑む悪魔が答える。

「それならとてもいい場所があります。それは我が主のアジト、あそこは要塞化されており外部からの侵入を拒む場所、だから安全この上ない場所です。そこでこの娘を保護しましょう」

 その答えにしばらく考えて、そして再び希久恵は微笑むと、

「ごめんなさい、それならそこに案内して、それからあの子も一緒に連れて行くの」

 魔女が指差すのは李美と呼ばれる嘆きの魔女、ただ何もせず立っているだけの存在だ。

「あの娘が御入りようなら私の連れが何とかさせましよう」

 暗灰の悪魔はそう言うとさっきから存在に気づいていた男に合図を送る。

 その暗灰の悪魔の前に現れたのはダークグリーンストーンと呼ばれる悪魔、さっき絶望して得た能力、その瞬間移動の能力を使い突然出現する。

「苦痛の魔女があの娘を御手望だ。だからつれて来てくれないか、それに私達はアジトに戻る。そのことをダークブラウンストーンに伝えてくれ、頼んだぞ」

「イエッサー」

 そう答えて深緑の悪魔の姿が消える。

「さて、あの戦いに皆が魅入られている隙に行動を起こしましょう」

 暗灰の悪魔はコテージから海岸に降りる階段を目指す。

「あそこにクルーザーが係留されている船着き場があるんですよ、その船でこの場を離れ我がアジトに向いましょう」

 そう言いながら美希子を抱えて階段を降りて行く、その後ろに続く希久恵は、

「ごめんなさい、面倒かけさせて、でも用意周到というわけね、さすが悪魔と呼ばれるだけのことはあるわね」

 その賞賛の言葉に悪魔の顔にまた笑みがこぼれる。

 階段を降りた船着場、しかしそこに係留されていた船はクルーザーとは呼べぬ代物、潜水艦、そう言われる海中を潜って進む船、小型ながらそれは立派な兵器、そう呼ばれる外見をしている。

「失礼?これはダークグリーンストーンの趣味でして…あいつは兵器マニアなもんで、しかし緊急脱出用にこんな物を用意していたんですな、でも今は好都合だとそう思いませんか?これならヘリで上空から追いかけられてもこれなら発見されることはないし対潜哨戒機でも飛ばさぬ限りまず発見されません、どうです気に入っていただけましたかな?」

 唖然とした表情でその兵器を見つめる希久恵、今迄こんな代物はテレビの中でしか見た事がない、

 そこに突然3人の人物が出現する。

 焦げ茶の肌をした男、完全武装の軍装の男、そして李美と呼ばれる嘆きの魔女、

「ご希望の者をお連れしました。いや、しかし3人で飛ぶのには少々骨が折れました。もう能力はあと僅かしか残っていないのであります。自分には休息が必要だと判断できます」

 そう告げるぐったりとした疲れ顔のダークグリーンストーンをじろりと睨んで暗灰の悪魔は、

「では誰が操船するのだ?我々にはこれを動かす知識はないぞ、ぐずぐず言わずさっさと動かせ」

 そう命令する。ダークグレーストーンは悪魔の頭領の次席の地位にある。その命令は絶対なのだ。しかし、それを制して苦痛の魔女がこう告げる。

「ごめんなさい、口をはさんで、でも機械物ならこの娘がいれば大丈夫な気がするの、みんな黙って乗り込みましょう」

 その言葉に悪魔達は無言で佇む少女を見つめる。あの魔王が固着する存在、それはなぜだと言いたげに、

 とにかく開いたハッチから潜水艦に乗り込む一同、そのハッチを閉めて操舵室の電源を入れるダークグリーンストーン、しかしそれがもう限界でその場に倒れ込んで動けなくなる。

「いつもそんな重たい物を大事そうに抱えているからだ」

 その大量の武器を抱えて眠り始める男の様子に焦げ茶の悪魔が悪態を吐く、

「ごめんなさい、李美ちゃんお願い、この船は自動制御ができるみたい、だから何とか動かしてみて」

 そこに佇む少女に希久恵が祈り手で願う、その様子を訝しげに見つめる2人の悪魔、すると突然、この潜水艦のエンジンが動き出す。

 次第に船着場から離れていくのを潜望鏡で覗いて見て暗灰の悪魔は首を傾げる。

「どういう手品だ?何だこれは?」

 やがて沖に出ると潜水艦は水中に潜るために注水を行い始める。

「ごめんあさい、この乗り物は李美ちゃんが動かしているの、彼女は電脳世界の支配者なの、だから機械を通してならどんな事でも出来るのよ、もし敵に回せば驚異の存在、だから連れて来てよかったでしょ」

 その苦痛の魔女が言っている事が事実なら脅威どころの話ではない、この潜水艦をいとも簡単に動かせるのだ。なら原子力施設や核ミサイルだって自由にあつかえるに違いない、それで魔王が手元から放したがらない理由が理解できる。

 しかし2人の悪魔達は表面上では驚いても心の中ではほくそ笑んでいる。

 こんな貴重な切り札を2枚も手に出来たのだ。あの我が主の為になる最大の切り札を2枚も、

「それで魔王の息子の事はどうするかね?」

 焦げ茶の悪魔が暗灰の悪魔に問いかける。

「それをどう判断するのかは我がゴットファザーだ。もし彼を魔王とわが父が認めたのなら彼に仕えるのが我らの使命、それまでは暗黒の石を握っていてもただの魔王の息子にすぎない、だから我らだけではそれを判断できないのだ」

 その答えに満足げに頷くと焦げ茶の悪魔は、

「彼が魔王と呼ばれるのにふさわしい男ならよいのだがな」

 そう言い残して操船室を後にする。

 その月の光も届かぬ海中を3人の悪魔と2人の魔女、そして鍵となる少女を乗せて潜水艦は進んで行く、その暗い夜の水中には色はない、その暗黒の中で電力駆動のスクリューの音だけがその存在を示すかのように微かに音を立てている。



 あの研究所から少し離れた山の中、そこで頭を抱え苦痛に呻く1人の男がいる。

 闘って敗北した事よりも、その体を苛む苦痛よりも許せない事が起きたのだ。

 自分はあの時恐怖したのだ。あの逃げ出そうとしてそれを阻まれ剣を突き付けられた時に…

 その事実が石崎を苛む、

 戦いに敗北は付き物だ。負けたのならそれ以上の力を手にして再戦すればいいだけだ。

 しかしあの相手にはどんな力を得てももう勝てる気がしないのだ。

 それは恐怖したから…

 その恐れの感情は再戦を拒み自分を負け犬へと陥れる。

 だからあいつとはもう戦えない、それは戦う前から負けるからだ。

 この怖れの感情には抗えない、

 しかしそれは許せない、

 その無表情に流れる涙、その目で見つめるのは拳に嵌められた黒い石、

 奴が取り出したナイフをちんけな武器だと嘲笑った。しかし本当にちんけな武器を握っていたのは自分の方だったのだ。

 込み上がる怒り、しかしそれは急速に萎えてゆく、どう足掻いたところであいつにはもう勝てない、あの恐怖した相手からはもう逃げだすしか出来ない、許せない、許せない、許せない、そんなことは許せないのだ。あいつを倒さぬ限り俺は王にはなれないのだから…

 そんな絶望の感情に包まれて石崎は渇望する。もう恐怖心なんていらないのだ。その真の王者は何者にも恐怖してはならないのだ。そしてあいつのようにもっと強力な武器が必要なのだ。それも誰もが恐れる最強の武器が…

 石崎の手にはめた暗黒の石がその絶望に答える。

 その黒い光、いや暗黒の霧に包まれて石崎が嵌めたナックルが変形し始める。

 それは大きく形を変化させて石崎の体を包み込む、そして目の前の地面に黒光りする剣が突き立てられる。

 そこに暗黒の鎧に覆われた騎士の姿が現れる。

 ガチャリと音を立てて立ち上がる石崎、その心には恐怖心と呼ばれる感情はもはやない、

 目の前に突き立つ剣を引き抜く、それは相手が手にした大剣より小ぶりな剣で不満足だが、

 試しに目の前の木を剣でなぎ払う、

 切りつけた感触もないまま木は切断されて倒れて行く、

 手にしているのは暗黒の剣、その刃が全て暗黒の接点となる地獄の剣、斬りつけた物を全て暗黒に送る地獄の剣、だから切れない物はない無敵の剣、そして纏っているのは暗黒の鎧、受ける衝撃を無に帰す鎧、どんな力も寄せ付けぬ無敵の鎧、

 鎧兜の中で無表情に笑を作ると石崎は笑いだす。

「ははははははははっ」

 その笑い声は木霊と化して周囲の山に響き渡る。

 ガチャリ、ガチャリ、音を立てて歩き出す石崎、しかし今この鎧と剣を携えていても邪魔なだけだと気づく、

 その意思を感じ取ったかのように鎧は消えて元のナックルに形を変え、剣はいつも愛用していたナイフに変わる。

「そう言うからくりか?…」

 感心したように左手のナイフを握る。それに何かが当たる。

 ナイフを右手に持ち直してその手の平を見つめる。

 そこに埋め込まれた群青の石が輝き始め、そして手の平から外れ地面に転がる。

 そこには1人の男が出現している。

 そのダークブルーストーンと呼ばれる悪魔の1人は石崎に臣下の礼をして見せる。

「あの時の渦の中から帰ってきたのか?」

 石崎は静かに男に尋ねる。

「王の役に立てるために馳せ参じました」

 そんな感情のない声で悪魔がそう答える。

「なら一緒についてこい」

 その新たに誕生した魔王は1人の悪魔を引き連れ研究所を目指す。

 あの憎むべき敵を倒すために、

 しかしその研究所の方角から轟音が響き渡る。



 自分の息子が殺されるのを阻止した魔王、そして起き上がる希一郎は抗議の目で魔王を睨む、

「今は息子を殺されたのでは都合が悪いんでね、悪く思うな虹色の王よ、お前の勝ちだ。それは認める。だがお前にくれてやる褒美はもうない」

 魔王はそう言って黒い結界を解いてみせる。

 そこには苦悶にのたうつ男達しかいない、

「なっ?美希子をどこへやった!」

 その光景に驚愕して希一郎は思わず叫ぶ、

「さあ、わからん、あの娘を連れてきた悪魔達の姿もないのだよ、多分彼らがさらっていったのだろう、だから私も困っているのだよ、あの李美も一緒に連れて行かれたみたいだからね、あの褒美が欲しくば自分で探すんだな、その行為にもう邪魔はしないよ、御苦労さんと言った所か、今夜は実にいい夜だった。機会があればまた会おう」

 そう告げると魔王はローターの回り始めたヘリに乗り込もうとする。

「待て魔王!」

 そう叫んで剣を手に駆け寄ろうとする希一郎はまた暗黒の魔人に打倒される。

「残念ながら私はもう魔王ではない、その存在は君が新たに作り出したからね、もし2つ名で私を呼びたいのなら悪魔の神、そう魔神とでも呼びたまえ、ではごきげんよう」

 そう告げる男を乗せたヘリは上空に舞い上がり赤い夜の帳に消え去る。

 希一郎は唇を噛みしめてヘリの消えた空を仰ぎ見る。

 そこに今迄を見ていた者たちが歩み寄る。

「何がしたいのか言ってみろ」

 咲石がその背中に問いかける。

「美希子を助けにいかなければ…」

 その答えにその場の全員が頷く、

 そこに轟音を立てて近づく物体がある。



「推進力が低下しない!暴走状態だ!」

 眼鏡の青年が大声で叫ぶ、

「全員衝撃に備えて!」

 修道女がそう叫ぶ、

「パワーストーンめ、もう持ち主を探し当てたとみて盟約を放棄して勝手に消えよった。これじゃから魔石はあつかいにくいんじゃ」

 そうぼやく李源の言葉にもう耳を貸す者はいない、

 咄嗟に勇治が紙の障壁を創り出してそれで皆を包み込む、

 音速に近い速度で弾丸の形状の乗り物?は地面に衝突する。

 その衝撃にバラバラにならずに済んだのは赤銅の男の磁力の賜物、その衝突の瞬間に磁力を強化して地面の中の鉄分を磁力化して反発力を生み出して衝撃を緩和さしめたのだ。

 それでも弾丸は地面に突き刺さりその慣性力が全員を上方に押し上げる。

 もし紙の障壁がなかったら全員ペチャンコになっていただろう、



 地面に突き刺さる巨大な砲弾?

 その光景を希一郎達は唖然と見つめる。

 やがて砲弾は形を崩してバラバラに砕けて行く、その中から現れるのは巨大な紙包み、

 その中から数人の男女が這い出て来る。

「冷や汗物だったぜ、だからでかい乗り物は嫌いなんだ」

 そう呟いて一番に立ち上がるのは石江勝則、そして唖然とする一同の中に自分の娘を見つけると、

「絵里ちゃん!パパは寂しかったよ、こんな所に閉じ込められていて怖かっただろう、でももう安心だ。このパパが助けに来たからね!」

 そう叫んで絵里に駆け寄り抱きしめようとする。

 しかし絵里は抱きしめられるのを拒むため父親の顔を殴りつける。その拳に込められた重さは約1t、しかし勝則は平然とその重たき拳に耐えて見せ、そして娘を抱きしめる。

「ちょっとやめてよ!恥ずかしいじゃない…場所をわきまえろ、この馬鹿親父!」

 その自分を抱き上げようとするのに体重を増加させて抵抗するが、2tと化した重たい娘を勝則は平然と抱き上げる。

「絵里ちゃん…お前少し重くなったな、あのダイエットとやらに失敗したのか?」

 もう我慢の限界だ。

「ええそうよ、お父様、絵里はデブになっちゃたのよ」

 その体重を一気に10tに変えて絵里は勝則の上にのしかかる。

 その重さに目を白黒させてそれでも倒れない大男、

 もう根負けした絵里は父親の耳許に小声で囁く、

「ごめんなさい心配かけて…」

 その言葉に父親は絵里を地上に降ろして笑って見つめる。

 その目には微かに涙が滲んでいる。

「鬼の目にも涙か…」

 サングラスの子供がその様子を見つめてそう呟く、

 無敗の男にも勝てない者がいる。無敗の男の娘はこの男を負かすために生まれてきた。

 絶対に勝てない存在として、この鬼の王を泣かす事が出来るのだから。



 再会は随所で行われている。

 松葉杖をつく男の前には双子の姉弟、その弟の方が眼鏡を磨きながら質問する。

「それであんたは何をしに来たんだ?」

 その質問に無言の男、息子は自分を憎んでいる。その事実を知っているからだ。

 何と答えても受け入れられはしない、それは彼が絶望に差し出した代償だと理解しているのだ。

「助けに来たとは言わないのかい?」

 その問いかけにも答えられない、だからすがるように娘を見つめる。

「私達はあまり近くにいない方がいいのよ…」

 その言葉は父親の心を打ち負かす。

 もう松葉杖の男は黙ってその2人の前から歩き去ろうとする。その背中に、

「ごめんなさい、お父さん」

 碧恵は父親の背中にそう言葉を投げる。

 男は手にした松葉杖を握りしめる。

 自分達家族を破壊した組織が憎い、そうまでして自分を組織に留めるように仕向けたハイストーンが憎い、しかしそれを指示した魔王が1番憎い、

 その複讐を誓う男は天に杖を振り上げる。

 赤き月が煌く空に。



 何も言わずただ抱き合っている者達がいる。

 天使の衣装に黄色いっヘルメットの少女とそれを最愛とする少年、

 言葉はいらない、心でわかる互いの気持ちが、

 満月の夜に果たせた再会、もう離さないと互いに誓う、

 それを祝福するかのように赤き夜空に星が流れる。



 邪魔だと感じた虹色の大剣は気がつけばそれはいつも懐に隠していた人を殺めぬナイフに変わる。その握りの部分に虹色の石が煌く、

 そしてもっと邪魔な存在が駆け寄ってくる。

「キー無事だったよかったの、したの心配いっぱいした。リリーがんばった。みんな連れてきた。組織と戦う仲間全部、オッケーこれでミキ取り返す戦力そろった。みんなキーのため頑張る。ほめてほしいの頑張ったと、オッケー?リリーはキーの為ならする何でも」

 目を輝かせて笑顔で自分を見つめる少女、しかし希一郎は一言だけ、

「うるさい」

 そう告げると歩き出そうとする。

 慌ててその手を握るリリー、しかし、

「実希子はさらわれたんだ。あの悪魔達に、だから助けに行かなくてはいけないんだ。だからお前の相手をしている暇はない、放せ!」

 そう叫んでその手を振り払う、そしてあてもないのに歩き出そうとする。

 拒まれたことに茫然とするリリー、そしてさとる。自分が絶望するのならきっと…



 赤石一族の前に李源は歩み寄ると、

「さて、血色の魔女よこの後の未来はどうなるかは占っておるのかな?」

 希実にそう尋ねる。

「新たな脅威、それは近くにいる。そして破壊と殺戮の権化が近づいてくる。それが現れたらなすすべもなく殲滅させられる。だから逃げだす事が一番重要、貴方なら見えるはず。あの鍵のいくえが、そこに向かうなら王は覚醒する鍵を得る」

 その答えに満足げに頷くと李源は、

「なら急がねばならん、お主の言うように、炎の悪魔、黄昏の魔女、破壊の魔女、そして新たな魔王がこちらに向かってきておる。奴らを相手するにはこの人数でも手に余るのじゃ、黄金の娘よ、もう手配しておるのじゃろ、お主の伯父は賢明な男じゃ、もう頼まれ物を持って来おる」

 美沙希はその言葉に微笑むと、

「コテージから出た時に手配はしたわ、だからもうすぐ来るはずよ、凄い怪物を連れて来てくれるって約束してくれたの、それは巨大な怪物、あれにならここにいる全員が乗れるわ」

 それに頷くと李源は、

「しかし虹の王は1人で向かうつもりじや、まだお主らの事を仲間だと認識しておらん、こまった奴じゃ、あれに何とかしてもらわんとな」

 指差す先には白衣を着た男、そして歩き出す希一郎を手で制して、

「どこに行く気だ希一郎?」

 そう咲石は問いかける。

「どいてくれ先生、あいつの居場所はきっと見つける。そして必ず助ける。もう人の力は借りなくても大丈夫だ。だからそこをどいてくれ」

 その自分勝手なその言葉に咲石は思わず怒りが込み上がる。

「それならどうしても1人で行くというなら俺を殺して行け!邪魔する奴は皆殺しにするんだろ?自慢の剣も手に入れたんだ。それで殺されてやる。早くしろ!」

 その咲石の気迫に気押される希一郎、しかし殺せと言われてもそんな事は出来ない、

「前にも言ったはずだ。殺し合うのは痛みがわかる連中に任せろと、その世界一の臆病者はその後ろでそれを見て震えていろ!」

 その言葉に憤るが、しかし咲石が言うように自分は人を殺せない、もう殺さない事を代償に剣の呪いを解いたのだ。だから殺せる相手は只1人だけ、あの暗黒の石を握る者のみ、だから悪魔ですらもう殺せない、あの暗黒以外とはもう戦うことなど出来ないのだ。

 咲石の言葉に項垂れる希一郎、返せる言葉が見つからない…

 その様子を見つめて李源が告げる。

「刻限かの…」

 その時爆音を響かせ巨大な乗り物が到着する。それは大型バスを改造したような乗り物、しかしそれはまるで装甲車のような外見をしている。ご丁寧に屋根に機関砲まで装備している。

「美沙希、御注文の品を届けに来たぜ、これは我が会心の作品だ。ここまで来るのに乗用車5台とトラックを3台と衝突したが傷一つ付いていない、その頑強さは保証するぜ、そしてこのエンジンが何より凄い、ジェットエンジンを積んでいるんだ。だから馬力は一万を超えるぜ、なんせ戦闘機のエンジンが2機だ。化け物を超える怪獣だぜ、お前なら乗りこなせる。どうだ興奮するだろう?」

 松葉杖の男がその装甲を叩いて呟く、

「強化チタンと強化セラミック、それにタングステンの複合装甲?戦車かねこれは…」

 感心したようにそのマシンを見つめる。

「おや社長、わかっているじゃないか、これなら対戦車ミサイルの一撃にも劣化ウラン弾の衝撃にも耐えられる。それに防御の魔力を施した。どこの国でも開発できないノウハウが詰め込まれた最強の自走車だ。その武装も完璧で自動追尾ミサイルが8基に20㎜機関砲、主砲は108㎜榴弾砲、それも自動装転式だぜ、その装備は万全で自慢の逸品、さあ、遠慮はいらないみんな乗ってくれ」

 開くハッチ、でもそれに乗れと言われても皆がためらう、まるで怪獣の腹に呑み込まれるような気分だ。

 しかし喜色を浮かべてそれに駆け寄るメイド服姿の女性、そして興奮した口調で叔父に尋ねる。

「おじさん!ありがとう、でもちょっと地味な外見ね、私の好みの色を忘れたの、それにトレードマークも書いてないし、それがちょっと残念ね」

 そう言われた男は頭を掻くと、

「忘れていた…すまんな、今すぐペイントし直す。だからちょっと待ってくれ」

 そう言うと手の平をマシンに当てて念じ始める。

 たちまち武骨な戦車のような迷彩塗装の装甲車の色が光輝く金色に変化する。そしてそこに大きく虹色でミラクルストーンズと文字が書かれている。

「これで気に入ってくれたかね?」

 それを見つめて微笑むと美沙希は運転席のハッチを開けて中に乗り込もうとするが急に眼鏡の青年を指さして、

「そこのメガネ、お前は機械に詳しそうだから火器の管制とナビを務めろ、これは完全装甲で窓もない車だ。だから助手席でモニターと火器を制御しろ」

 そう言われてキョトンと美沙希を見つめる達彦、その襟首を掴んで美沙希は強引にハッチの中に引きずり込む、

 その様子を見つめる金髪のヤンキーがポツリと呟く、

「うらやましい野郎ですぜ…」

 ハンドルを握るのが美沙希だと知ると乗るのをためらう者が2人顔を見合わせる。

「絶対酔うぞ…」

「確実ね…」

 それは大男とメガネの女性、お互い車に弱いと知っている。

 それでも乗り込まなければならない、

「車に酔ったら癒してくれ、頼む」

 妹の修道女に手を合わせる。

「へーっ、それは兄さんの態度次第ね」

 そう言って微笑むシスターは開いた後部ハッチから中に乗り込む、

 黒いコートを纏う血色の魔女が乗り込む時にこの車?をここまで運んできた男を睨む、

「悪く思うな希実、あいつの生きがいと俺の生きがいが共通しているのだ」

 希美はもう何も言わず車中に消える。

 そして最後に残るのは李源、車を持ってきた男を見つめると、

「お主は行かぬのか?石崎喜三郎、アルミの石の希願者よ、いや魔王の弟、いや魔王は魔神と名乗りを変えたか…」

 そう尋ねられ喜三郎は、

「あの兄貴とはかかわらないとそう決めたんだ。俺は好きに機械を弄っていたいだけだ。だから組織には入らなかった。あのハイストーンもそれを無理じいするつもりはなかったみたいだ。それは俺が兄貴を憎んでいることを知っていたからだろうが、その代わりの約束だ。俺自身は組織にかかわらないと、その約束は破れないからな、あいつが消えてしまったとしてもな…」

 そう告げると喜三郎は止めてある救急車に向い歩きだす。

 その背中をサングラス越しに見つめて、

「運命とは皮肉な物じゃ…」

 そう呟いて李源も車に乗り込む、そしてハッチが閉じられる、

 2基のジェットエンジンが始動する。かん高い音を立てて轟音が辺りに轟く、

 そしてその怪獣は動き始める。

 その金色の怪物は赤い月光に照らされて煌きながら速度を増してコテージを後にする。

 次なる戦いのステージを目指し咆哮のような轟音を響かせて、

 煙草をくわえた男が1人救急車のハンドルを握りながら満足げにその様子を見つめ、そして静かに車を発進させる。



 人気が無くなったコテージ、そこに現れる2人の男、無言で怪獣が走り去った方角を見つめている。そしてその視線は空に向けられる。

 赤い月夜に黒い影、巨大な怪物が舞い降りてくる。

 それに続くようにもう1体の怪物も、

 それぞれの怪物から飛び降りる者達、その1人が辺りを見廻して、

「遅すぎたみたいだね、こっちのパーティは終わったみたいだ」

 そう連れの2人の少女にぼやく、

 その様子を無表情に見つめる石崎、白人の青年に顔見知りの巫女、巨大な竜と黒人女、そして魔法少女のコスプレの少女を見た時だけ微かに目を細める。

「では君が虹と戦って敗れた魔王の息子か、その様子は見物させてもらったよ、中々の見物だったよ、それで彼らの後を追うのかい?」

 石崎にそう尋ねる炎の悪魔、しかし石崎は頷きだけでしか答えない、

「なによあんたマイケルが尋ねているのよ、だからちゃんと返事しなさいよ」

 破壊の魔女がそう喚くのを一瞥しただけで無表情には言葉はない、

「炎の悪魔よ魔王の御前だ。その無礼は許されぬぞ」

 ダークブルーストーンが無感情にそう告げるが、

「魔王?この女のような少年が?群青の悪魔よ狂ったのか?魔王は石崎喜久雄だ。その息子ではないのだよ、それでもそう言い張るなら僕が試して見せようか」

 そう答える炎の悪魔の瞳が赤く光る。

 しかし考えているのは魔王の息子の利用価値、こいつを人質にすればうまくいけばあの男を出しぬける。そう考えて微笑むと、

「君には悪いが我々の為に捕らえられてくれないか?あの男を倒せば組織の頂点に立てるからね、だから利用させてもらえないか?僕の為に」

 そう言われて初めて石崎の無表情が笑みを作る。

 その笑みの理由が理解できないマイケル、その理由を考える隙もなく突然目の前にナイフを突きつけられる。

 あっけにとられそのナイフを突き付ける無表情の目を見つめる。

「マイケルをいじめるな!」

 そう叫ぶ破壊の魔女は咄嗟にマイケルに突きつけられるナイフを変換して棒切れにしようと試みるが、しかしうまくできない、

「うそ、どうして?」

 その疑問の言葉を思わず口にする。

「俺を利用するなど馬鹿げたことを言うな炎の悪魔とやら、お前たちを利用するのは俺の方だぜ」

 自分にナイフを突き付ける無表情がそう初めて話す。

 しかしその行為と言葉にプライドを傷つけられたマイケルは目を細めて、

「魔王の息子であってもお目こぼしはしないぞ、あの世で後悔したくなければその刃物をどけて謝罪しろ!」

 叫ぶマイケル、怒りに赤い目の光ががさらに強くなる。

「そのセリフはそのままお前に帰してやる」

 しかしそんな無表情の答えにマイケルの怒りが限界を超える。

 突然マイケルの体を炎が包み込む、それは鉄でも溶かす高熱の炎、そしてその拳を目の前の無表情に叩き込もうと構えるがその姿が突然消える。

 そしてマイケルの背後から異音が聞こえる。

 ガチャリ、ガチャリと、

 振り向くとそこには鎧に身を包んだ男がいる。

 黒い鎧、そして黒い剣、それに不吉なものを感じてマイケルは思わず炎を投げつける。

 しかしそれをかわすこともしない相手、その投げつけられた炎は鎧にぶつかり消えてなくなる。

「!?」

 驚愕するマイケル、この自分の炎が通用しないなどありえない、

 それではこれでと取り出した日本刀、それを鞘から抜き放つと構えて灼熱を創り出す。

 核爆発の閃光の高温、それが刃から放たれ暗黒騎士を消し去ろうとするが、

 歩みを止めた相手は立っている。平然と立っている。

 あの灼熱を打ち消したあの鎧は何なのだ?

 湧き上がる疑問、そして相手が手にしている剣も得たいが知れない代物だ。

 焦るマイケルは咄嗟に叫ぶ、

「マーガレットあの剣と鎧を破壊しろ!」

 すがる希望の存在はしかし首を振って、

「できない!何もないには干渉出来ないわ」

 その答えに自分にはもはやなすすべはないと理解する。

「だから彼が魔王と言ったのだ」

 無感情にそう告げる群青の悪魔を睨んでマイケルは自分の敗北をさとる。

 ガチャリ、ガチャリ、その近づく暗黒騎士は剣を振り上げる。

 しかしその前に巫女装束の少女が立塞がる。

「待って!鉄ちゃん、マイケルを殺さないで、彼がいないと復讐出来ないの、あの女に、あたいには必要なの、だからお願い思いとどまって」

 希恵は必死にマイケルの命乞いをする。拝むように両手を合わせて、

「おまえまだ希美の事を憎んでいるのか?昔はあんなに仲良く遊んでいたくせに、ちょっと喧嘩したぐらいでそこまでするか?炎の悪魔に取り言ってまであいつを殺したいのか?呆れた奴だ」

 その言葉に眉を吊り上げると希恵は、

「どうしても許せない奴っているじゃない、あんただってあの虹を許せないと思っているんでしょ、それと同じよ、それにここにいる全員は虹の存在を認めない者達、だから敵対しあって何の得があるというの?あたい達は協力できるのよお互いの目的のために、違う?鉄ちゃん、だからもう諍いを止めてお願い」

 石崎が纏う暗黒の鎧が消えて行き作り笑いの少年の姿に戻る。

「その鉄ちゃんはやめろ希恵ねえちゃん、お互いもうガキじゃないんだ。しかしお前の言うことは一理ある。でもあの炎の悪魔はまだ納得してないぜ、まだまだ敵意剝き出しで睨んでやがる。何か王様の子孫はプライドが高すぎるぜ、自分が1番じゃなければ納得できないとさ、そんな奴は潰しておいた方がいいんだが…」

 その炎の悪魔は絶対に勝てない相手にも敗北を認めるわけにはいかない、流れる高貴な血がそれを決して認めさせない、

 仕方なしに希恵を脇にどけて石崎は炎の悪魔に語り始める。

「お前が1番にこだわるならあの親父が作った組織のナンバーワンにしてやろう、俺があの親父を殺してな、もともと俺はずっと一匹狼でやってきた。だから群れなんか必要ない、しかも俺の最終目的は虹の抹殺ただ1つだけだぜ、そうしなければ王になれない、誰も認めずとも誰もが認める真の王、だから玉座なんか必要ない、それに座りたければお前が座れよ炎の悪魔とやら、しかしその玉座の上にはぶら下がる剣があることを忘れるなよ」

 その言葉を聞いてマイケルの瞳が元の色に戻る。

「それでは君は組織の長になる気はないのか?世界を牛耳る偉大な組織、それに未練がないだと…嘘だろ?世界を意のままに操れるあの権力、それが必要ないなんて信じられない、その権力を持たぬ者は王者の資格はないのだぞ、それに何のために王になりたいと言うのだ?」

 笑みを作る少年は手に持つナイフを剣に変えるとそれを天に振りかざす。

「誰も俺に逆らえない、それが絶対の権力だ。その事実だけで世界は俺を王と認めるのだ。だから他人の力は必要ない、全てこの手で掴んでみせる。だが、ついて来たいのなら拒みはしない、そこで面白い見物が見られるからな、それを楽しみたければついてこい、あの恐怖に歪む人間達が見たいのならな」

 そう言い捨てるともはや炎の悪魔は眼中にないとばかりに止められたままの小型ヘリに向い歩き出す。

「お前あれを操縦出来るか?」

 随行するダークブルーストーンにそう尋ねる。

「ご安心を、ハイストーン専用のヘリを操縦していたのはこの私。あそこの警備主任だったのですぞ、なんなら戦闘ヘリでもジェット戦闘機でも操縦いたして見せましょう」

 感情のないその返事に満足げにうなずく石崎、そこに槍を携えた黒人女性が歩み寄る。

「あなたの事を魔王と認めるわ、だから私もご一緒していいかしら」

 なぜか媚を売る仕草で微笑んでみせる。

「黄昏の魔女、その企みは何だ」

 感情のない声の主は疑惑の目で魔女を見つめる。

「悪魔の頭領を裏切った男に返す言葉はない」

 そう言って黄昏の魔女は群青の悪魔を睨みつけると、

「あなたと共に行けば我が怨敵に巡り合えるとそう思う予感がある。理由はそれだけよ、ねえいいでしょ?」

 愛想笑いに戻り石崎にそう告げる。その笑みに自分に害意がないと判断すると石崎は、

「好きにしろ」

 一言だけそう言ってヘリに乗り込む、

 ローターが回りヘリが上昇し始める。その様子を見つめてマイケルは、

「恐怖、そう恐怖で世界を支配しようと考えているんだ。あの新たな魔王君は、それは馬鹿げた話だが彼がそう言うとそれが事実になるかもしれない、どう思う希恵?彼とは知り合いなんだろ、あの少年はどんな人物なんだね?」

 希恵はしばらく考えてそして決心したように自分の知っている事実を告げる。

「彼は石崎喜久雄が創り出した戦闘マシン、他者を一切寄せ付けない孤独の心を持つ男、生まれた時は女の子だった事実を悪魔の頭領に改竄されて男にされた存在、そして与えられる玩具は自分を傷つける者達、自然に戦うことを覚えそれが日常と化した存在、強者を打ち負かすことのみを生きがいとする男、最強であることが王だと認識する。弱きを力とする虹とは真逆の存在、こうなることはわかっていた。幼き日に見た悪夢、それがあたいの予知夢の始まり、朱色に染まる世界中の空、燃え盛る炎の中で対峙する2人の少年、その転がる屍を踏みしめて2人が争い合い、そして世界が地獄と化すわ」

 腕を組んでその言葉を聞いてから炎の悪魔は笑みを浮かべると、

「なるほどね先の魔王は暗黒の石を握るにふさわしい者を自ら創り出したのか、しかしあれは魔王と言うのにはいささかキャラが違うね、それは暗黒の意思の代行者というべき存在だね、あれならきっと暗黒の力を全て引き出せる存在になるか…そうなれば彼の手でこの世界が消されるかもしれないね、そんな危険すぎる存在だ。あれは、それに対抗しうるのは虹の王だけか…とにかく彼が向かう先に行かなくてはな、悪いが魔獣よもうひと飛びしてくれないか、その行先はだいたいわかっているし、それに逃した天使の動向も気になる。それと黄昏の魔女は何を考えて彼らと同行したのだろう、あの彼を丸め込めると考えているならあさはかだな、まあいい、それでは我らもこの地を後にしよう」

 3人の悪魔と魔女を乗せ竜は再び空に舞い上がる。

 冬の長い夜はまだ終わらない、その輝く月もいつの間にか雲に隠れ赤い夜は暗黒の世界と化す。

 星も輝かぬその夜空を音も立てずに魔獣が飛ぶ。



 イージス艦、そう呼ばれる戦闘艦に着陸する大型ヘリ、そこから艦上に降り立つのは石崎喜久雄、それは自ら魔神と名乗る男、そして整列する軍装の男達が一斉に敬礼する。

 その魔神に歩み寄る男は敬礼してこう告げる。

「要請通り本艦は目的の海域に向かい航行しています。他の艦も作戦通り行動中です、既に世界各地で作戦は開始され予定通りです。それまで武骨な艦ですがどうぞ寛いで下さい」

 司令官と思しきその人物に魔神は、

「予定通りならそれでよい、メタリックグリーンストーンよ御苦労、では暫しの時間、休息させてもらおうか」

 そう言って歩きだす魔神、その背後に続く男達、その1人磯田は呟く、

「この国の首相までもが組織のメンバー、他の国の代表達も、防衛長官に至るまで全てはあの男の配下、恐ろしいことだがそれが現実なのだ。そしてそれを使いこの男は何を企むのか…」

 その呟きは艦上を吹く風に消され誰にも聞こえない、

 槍を投げさせた男は一体何を目論むのか、

 その答えはあと数時間後にはわかるのだろうか。










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