破壊の魔女
11 破壊の魔女
その盛り上がる宴に突然の乱入者、それは組織の大幹部達、訳がわからず茫然とするマイケル、それは鬼神も同じ、2人はさし向ったまま乱入者達を凝視する。
巨大な梟の背から飛び降りる黒人女性を見つめながらジョージは、
「ほう、黄昏の魔女もご来場とはこれで赤き石が3つそろった。この婆の言った通りだな、さて婆様よ、世界の石はどこにあるのかな?」
そう尋ねられ自分の石を見つめる白髪を5房に3つ編みにしている老婆、石から目を外すと突然の異変に動きを止めた一同を見廻して、そして、
「あの魔女が手にしているさ、朱色の石の魔女、しかし魔女と呼ばれる存在さね、奪い取るのは容易でないさね」
そう言って嘲笑を浮かべる。
「朱色の魔女?氷雪の男の孫じゃないか、なぜそんな娘が炎の悪魔に加担しているのだ?まあ、そんな事情はどうでもいいさ、それに都合のいい事にこの場所は鋼鉄に覆われている。見ろ、赤銅の男は壁に張り付いて動けなくなっているぞ、自身が発する磁力のせいで、さて、それでは世界の石を貰い受けに行くとするか」
そう告げてジョージは猫を抱きかかえる巫女装束の少女に歩み寄ろうとするが、
「お前達を招待した覚えはない!」
叫びと共に炎の壁が出現してその歩みを遮る。
「ああ、宴の席を台無しにしたのは謝るよマイケル、しかし私は欲しいものがある。それを取りに来ただけだ。その用事がすめば退散する。だからそんな形相で怒るな、せっかくの男前が台無しだぞ、ああ、今はイケメンと言うんだっけ?」
自身を取り囲む炎の壁に怯むことなく悪魔の頭領はニヤリとV字に笑う、
「僕の物を他人にくれてやったことなど無い、だから帰れ悪魔の頭領、もし力ずくで奪うと言うならなおさらだ。追い返してやる。覚悟しろ!」
そう叫ぶマイケル、そして手にした刃をジョージに向ける。
そんなマイケルと対峙していた勝則、この状況を見て思考を巡らす。
最悪だぜ、この炎の悪魔ですら厄介なのに組織の大幹部が後2人だと、その援助を期待できるのは社長が来た事くらいか、しかしあの状況では…
鉄の壁に張り付きもがくその鉄の瓦礫の竜を見つめて溜息をつく、
何事もなかったように炎の壁を通り抜けるジョージ、その炎に焼かれた過去を変えたのだ。そして猫を抱く少女に歩み寄る。
そこにマイケルが放つ灼熱の閃光が襲い来るが、しかし焼き尽くされたはずの悪魔の頭領は何事もなかったように平然と立っている。
「無駄だよマイケル、君に焼かれた過去は改竄出来る。君の力は私には及ばない、でもだ。マイケル、私と取引する気はないかね?見たところ我々に敵対している者がいると見受けられる。彼らを倒す手助けをしよう、その報酬に世界の石をくれないか」
炎の悪魔はその言葉に赤き眼を細めて思考する。
確かにこの男を攻撃しても無効化される。だからそれは力を消耗するだけで無益な行為だ。しかしこの男は攻撃をかわして耐えることしか取り柄がないのだ。この男自身には何の攻撃手段の能力はない、だから自分より各下のナンバー4の地位なのだ。しかしこの男をその地位に置いているのは暗石の長だから、その配下の悪魔達を巧みに操り戦闘手段としているのだ。そんな奴と争い合っても意味がない、それにまがいなりにも同じ組織の仲間なのだから、それに天使は目の前にいる。もうこんな世界の石で探し出す必要はない、だから不要になったのならくれてやってもいいのだが…しかしただでやるのはもったいない、それにこれを餌にこの男をこれからも利用できる。ここはひとまず提案を受け入れたふりをするのが得策で賢明…
そう考えてニヤリと笑うとマイケルは、
「あんな石が欲しいのかな?これは単なる白い無力な石だよ、まるでテレビのように光景を映し出すだけの代物だよ、そんな物がほしいのならくれてやってもいいのだが条件がある。そこにいる少女は我らが探していた天使、そいつを殺して見せたまえ、それが出来れば褒美にやろう」
その言葉に悪魔の頭領は大男の背中に隠れる少女を垣間見てそして首をかしげると、
「そんな簡単なことでいいのかね?さすがは王家の子孫だね、そんな大判振る舞いとは景気がいい、では取引は成立ということでいいかね?、何か邪魔そうな奴がいるがどおってことない、それでは早速殺らせてもらうとするよ」
そしてジョージの手にするステッキ、その先端から針が飛び出す。
「猛毒が仕込んであるんだ。かすり傷でも死に至らしめる猛毒がね、悪いがこれを挿させてもらおう、それで終わりだね」
そう語り今度は鬼神の影に隠れる少女に歩み寄る。
「そんな事をさせるか!」
憤る鬼神、憤怒の形相、そして手にした鉄塊を構え歩み寄る悪魔を睨みつける。
「私を攻撃しても無駄なのはさっき見ただろうルビーストーン?君が兄と呼んだ男の逆で私には過去を変える力があるのだよ、だから攻撃されたことを無かったことに出来るのだよ、そんな棍棒で私を殴りつけようとしても無駄なのだ。そう理解出来たらそこをどきたまえ、しかし安心したまえこの毒は即効性で苦しまずにあの世に行ける。そんな天使は神の許に帰してやるべきだね、この悪魔の長である私の手でね」
ジョージそう言って喜悦の表情を浮かべる。
この男は人を苦しませる時のみに感情が戻るのだ。その歓びの感情が、
その光景を周囲の皆は黙って見つめる。乱入してきて槍を構え銀色の衣を纏う少女と対峙する黄昏の魔女も、その前に立ちふさがる巨大な灰色狼も、猫を抱きかかえる2人の少女も、紙を操る少年も、風を操る男も、結界を解いた小男とその隣のシスターも、ノートパソコンを抱えた眼鏡の青年も、老婆とその隣の黒いスーツの男も、鉄の瓦礫から這い出てきた男も、人形のような虚ろな目をした幼女も、
ただ1人李源だけが違っていた。その悪魔の頭領の行為をやめさせようと駆けだそうとする。
天使を守護できなくば地獄の女王と交わした契約が無効になる。しかも身の危険を感じて天使がまた消えることになれば本末転倒、ここに来た意味が無くなる。
しかし身体は子供の姿、だから走ったところで間に合わない、そんな悪魔を足止め出来る方法を咄嗟に思案して石を吐き出すが間に合わない、
大男が振り下ろす鉄塊を、その攻撃を無かったことに改竄してジョージはステッキを少女に突き刺そうとする。
しかしその行為は阻止された。突き出されたステッキの先端それを握る者がいる。
それは天使と呼ばれる存在、人の心が読める存在、しかし目の前の悪魔にはその心すら感じられない、その慄きに目に涙を浮かべ自分を殺そうとした悪魔を信じられないように驚愕して見つめる。
その信じられない者達、それは自分の両親を殺し自分まで殺そうとする悪魔達、いやそれだけじゃない、自分を孤独から救ってくれた少年もその仲間たちも、この悪魔に挑む者達も邪魔者だと考えれば即座に抹殺する事しか考えない、これが正しいことなのか?間違ったことなのか?でも自分はわかっている。それは間違ったことなのだと、だから危険を感じて消えてしまいたいと思った。でもできなかった。
もう逃げ出してはいけないのだ。あの孤独な世界には、そしてこんな悪魔達をこの世界にいさせてはならない、そうして逆にあの孤独な世界がこんな連中にはふさわしい世界なのだ。
「私に対して抵抗するとは…それが改竄出来ないとは…はて?天使とやら、そんなに神の許に戻るのが嫌かね?見たところ首に下げているのは青い石、ならたいした力も得ていまい、ならこれ以上の抵抗など出来ないと見受けられる。だから大人しく刺されたまえ、それが賢明だとそう思わんかね?」
悪魔の頭領は握るステッキに力を込める。大人の力、だから無力な少女には抗えない、そうなのだ。自分には何も力がないのだ。だから守られて逃げて、そして悲観するだけ、だからここで今殺される。
でも誓ったのだラジオとそしてみんなと、それを助けるために誓ったのだ。
針の先端が多舞の喉元まで迫る。それを阻止しようと大男が振う鉄塊が虚しく床の鉄をただ叩く音が響く中で、
そして涙を流して多舞は絶望する。
その床を濡らす涙を見つめてこう願う、どんなに悲しくとも悔しくても自分はもう泣かない、この天使が泣ける時は世界が真に平和になって嬉しくて泣く時だけ、だから力を、この悪魔達を消し去る力が自分に欲しい、
その絶望に石が反応する。首に掲げられた青い石と羅冶雄に託された青い石、その2つの石が同時に輝きだす。
その衆目の中で奇跡が起きる。
青い光に包まれた天使は微笑みを浮かべる。
そして感情のないはずのジョージはなぜか驚愕する。その目の前で起きている奇跡、しかも2つの石が同時にそれを起こしている。
そんな話は聞いた事がない、そして青い光が消えた時異変に気づく、
なぜか自分が手にしていたステッキが消失している事に、どう言うかからくりかはわからない、しかし目の前で微笑む少女を抹殺する手段が失われたのは確かでありその過去を変えようと試みるが、しかし消失した理由が分からない以上過去を改ざんすることが出来ない、
その目の前で微笑む少女はこう告げる。
「あなたのステッキは向こうの世界に送ったの、ここにあるけど認識できない孤独な世界になの、あなたのステッキは床に落ちているけど認識できないの、そしてそれはもうこの世界に何にも干渉出来ないの」
多舞の言っていることを理解して悪魔は戦慄する。
「消し去ったのか存在を、この世界から?そんな事が出来るだと…と言うことは…」
微笑む少女、その問い掛けに首を横に振ると、
「消えてなんていないの、ここにあるの、でも誰も認識出来ないの、私が触れて願えばその存在は認識できなくなりこの世界に干渉出来なくなるの、あなたも同じようにしてあげられるの、消してあげるの、悪い事をするの、そんな人は全部なの」
ジョージは何故か冷汗を流す。恐怖、そんな感情はないはずなのに。
しかし心の片隅に残る微かな感情が大きく膨らむ、
「それだけじゃないの、わたしだけが認識できなくなった物を見る事が出来るの、そして干渉する事が出来るの」
その言葉に思わずジョージは戦慄する。
もしこの少女に消されたらこちらからは何も干渉できない無力な存在にされてしまい、そしてその無力化した存在をこの少女は認識し攻撃できるのだ。
「私は誰も殺さないの、悪い人を消してしまうだけなの、その孤独の中で後悔するなら元に戻してあげられるの」
多舞は床にかがむと何かを拾うそぶりをする。
そして現れたのはジョージのステッキ、
「もう悪いことをしないと誓うなら返してあげるの」
そう言ってステッキをジョージに差し出す。
しかしジョージは後ずさり、そうして何か信じられない存在を見る目でその天使のいでたちの少女を凝視する。
「いらないの?また悪い事をする気なの?」
微笑む天使は手にしたステッキを再び消し去る。
「ならあなたは消えなくてはいけないの」
微笑みを浮かべて自分に歩み寄る少女、彼女に触れられたなら消されてしまうのだ存在を、その過去を改竄しようにも能力の発動は改竄できない、それは理屈の伴わない訳が分からない現象だから、さっきのマイケルの炎のような物理的現象とは違うのだ。
冷汗を流して後退する悪魔の頭領は思わず自分の部下に叫ぶように命令する。
「天使の周囲を爆破しろ!ダークイエローストーン!早くしろ!」
その命令にダークイエローストーンは天使の周囲の物質である空気を不安定化させて爆発の現象を起こす。しかし何事も起こらない、
「何をしているのだ早くしろ!」
そう頭領が催促するが自分は確かに爆発を起こしたのだ。
ダークイエローストーンは何度も爆破を試みる。しかしその現象は何故か発生しない、
「出来ません、その使の周囲の空気を起爆させているのに爆発しません何か異常です…」
焦る悪魔、この状況が理解できない、そしてそれに回答したのは天使、
「爆発をあっちの世界におくったの、爆発はあっちの世界で起きているの、だからこっちには干渉できないの」
物質だけでなく現象まで存在を消し去る能力、その力の大きさにジョージは戦慄する。
「馬鹿な…そんな事が可能だと?それなら爆発はどこに行くんだ?消え去るのか?」
そう思わず疑問を叫ぶジョージに微笑む天使は、
「爆発はそのままあっちで起こっているの、誰にも干渉出来ないの、でもそれを取り出すことは可能なの」
そう告げて天使は何かを掴んで投げる素振りをする。
その投げられた先にある赤いクリスマスツリーが轟音を立てて爆発する。
「!?」
その場の全員が驚愕する。
無敵の存在、それが誕生した事を認めたから、
「1番弱い姿をした者が1番強い、何かの皮肉かな?まったくどうかしておるぞ…となると悪魔の人形、あれも起動するか…」
流れる砂時計の目で事象を見つめ李源が呟く、
その虚ろな瞳でゆっくり歩み始める幼女、
「あなたはマイケルもいじめるの?」
向かい合う天使と悪魔の頭領の間に魔法少女のコスプレの幼女が入り込み天使にそう尋ねる。
「悪魔は悪い人達なの、だからここにいてはいけないの、だから消してしまうの、孤独の中で後悔して懺悔したら戻してあげるの」
そう告げて微笑む天使、その笑顔を虚ろな瞳で見つめる幼女、
「マイケルも悪魔なのよだから消してしまうの?」
そう再び天使に問いかける。
「あの人はわたしに火を投げつけたりする悪い人なの、消えてもらうの、平和になるの」
その答えに幼女の虚ろな瞳に光が戻り始める。
「そんなことはさせない…あんた何様のつもり、いい加減にしなさい、ちょっと力を得ただけで調子に乗ってえらそうに、あんたこそ消してやる。そんなあんたの勝手にさせたりしない、マイケルは私が守る」
何百年もの時間の中で人形と化していた存在、それは朽ち果てることを許されず。動くことも、話す事も何も出来ない無力な存在、聞いて見るしか許されず。ある時は埃にまみれ、ある時は箱に押し込められ、子供のおもちゃにされ、庭に置き忘れられ雨に濡れ、それでも何もできなかった。絶望の代償に人形と化したのだ。その目の前で斬頭台にかけられる両親、王と王妃と呼ばれていたのに、いつも尊敬の眼差しで自分たちを見ていた群衆達、それが今は罵声を浴びせて自分を見ている。次はお前だマーガレット、魔女の娘と罵声を浴びる。どうしてなのか分からない、自分を見つめる群衆達は何故か自分を呪っている。その理由がわからない、わからないことに絶望してそれが理解出来るまで人形となる代償を差し出す。その呪われた理由が分かれば復讐できる。石がその力を与えてくれる。
そして呪われた理由が理解出来た。そんな大きな力は恐れられ呪われるという事を、
そして呪うということも理解出来た。そんな大きな力を目の前にしたから、
そして虚ろな瞳は完全に光を取り戻す。歪んだ瞳、その右目は赤く左は黒い歪んだ瞳、その瞳が目の前の天使を睨みつける。
その幼女の手にする魔法のステッキ、それに埋め込まれた歪んだ瞳と呼ばれる石、それは赤い色に暗黒が歪んで映る呪いの石、それが光を放ち始める。
「覚醒しょった!なんということじゃ、あの天使の存在が鍵となっておったとは…逃げんといかん、ここから早く、みんな死ぬぞ、あの破壊の魔女の降臨じゃ、生き残れるのは天使とわしだけじゃ、鬼神よ悪魔との勝負など忘れて退散じゃ、引かねば殺られるぞ」
しかしその言葉に顔をしかめて勝則は、
「逃げるだと?何を言い出すんだ臆病者め、伝説の魔人と言われて恐れられていたのは単なるデマか?あの炎の悪魔との対決はまだ続いているのだ。だだ駒が変わったにすぎん、だから最後まで見届けなくてはならんのだ。見ろ、あいつも逃げだそうとしていない、余裕で笑いながら2人の対決を楽しんでおるぞ、あの破壊の魔女とやらがいかなる存在なのかは知らんが我らには天使がいるのだ。それに臆することなどあるものか、だから糞餓鬼は黙って見ていろ」
その言葉に李源は何も答えられない、たださっき吐き出した石を保険と思い握りしめる。
いつしか皆は場所を移動しそれぞれの陣営を形作る。
「勝則お前ここで何をやっているんだ?」
松葉杖を抱えた男が大男に問いかける。
「ああ、社長か、まあ悪魔狩りに来たのだが、しかし誤算が生じてタイマン勝負で決着させることになったんだ。あの天使と魔女の一騎打ち、中々の見物だぞ、たぶん後世に残る対決だ。あんたも運がいい所に出くわしたな、まあ黙って見ていてくれ」
そんな気楽そうな会話に顔をしかめて李源は呟く、
「世紀の対決?それが行われているのは実際はここではないのじゃが…」
その鏡の石は映し出す。もう1つの対決を、この赤き夜の2つの対決、奇しくもそれは同時刻に開始された。
向かい合い見つめ合う2人の少女、そんな異様なスタイルの少女が2人、
赤と黒の光を纏いそして15歳ぐらい成長した魔法少女のコスプレの少女と、そして天使のいでたちの少女が2人、
「人形ではなくなったのなら成長しておかないといけないのよ、マイケルをロリコンにするわけにはいかないでしょ」
その物質変換の能力はまず自身に使われた。成長した姿に変貌するために、それに合わせて衣装のサイズも大きくしデザインも変えたのだ。
「かわいいの、似合っているの」
微笑む天使はそれに賞賛の言葉を贈る。
「当り前でしょ、私は王女なのよ、だからどんな衣装も着こなせて当然なのよ」
その自尊心を刺激されてマーガレットは得意になるが、しかし突然首を振ると、
「ああっ騙されないわよ、そんな事を言って私を籠絡する気なんでしょ、もう騙されないんだからね」
そう言って多舞を睨みつける。
「あなたも悪い人なの?」
しかし睨みつけられても微笑みを崩さない天使は魔女に問いかける。その問いに…
どう返答したらいいのかわからないマーガレット、昔は宮殿ではいたずらをしてよく叱られた。悪い子だと母親に、でも優しい子だと褒められたこともある。そして最後は斬頭台の前で悪い魔女だと罵られた。別に何も悪いことをしていないのに、でも生かしておいたら国が滅ぶと叫ばれた。しかし自分は生きている。ならば絶望する前に言われたようにすればいいのだ。それが回答だ。
「私は悪い魔女なのよ、これから国を滅ぼすのよ、あのギロチンにかけようとした奴らを皆殺しにするの、そうすることが使命なのよ」
しかし微笑む天使はさらに問いかける。
「どうしてそんな事をしようとするの?」
その問い掛けにも即答できない、もう人を呪い呪われる意味は理解出来た。だから自分は人を呪わなければならないのだ。自分に絶望をもたらしたあの群衆達を…しかしそれは400年も前の出来事、だから生きている者なんていないのだ。もう呪いの対象がいないのだ。これでは呪われる事が出来ない…
困惑した顔になり辺りを見回す魔女、その視界に心配そうに天使を見つめる者達の姿を認めそして理解する。
「悲しむ顔が見たいのよ、私が絶望した時のように涙ぐんで目の光を失くした顔が見たいの、その絶望を与えるのは私、みんなをそんな目にあわせてやりたい、その恐怖に人間達はわたしを呪うようになる。それを望んでいるのはこの石、そんな絶望を与えよと私に告げるのよ」
その言葉でようやく天使は微笑むのをやめる。そして真剣な表情で、
「今ならまだ間に合うの、あなたを孤独な世界には飛ばしたくないの、だから思いとどまるの、もう悪い事はしないと誓ってほしいの」
その言葉に思わず魔女は笑い出し、
「ふふふふっ孤独な世界?そんなものなんて怖くないわ、私は400年も人形にされてきたのよ、孤独?ええ孤独だったわ、見ることと聞く事以外考えも出来ない孤独な時間が400年、いまさら何を恐れるの、そんな場所に私を飛ばせるものなら飛ばしてみなさいよ、私はあらゆるものを自在に操れる破壊の魔女、もしそんな場所に飛ばされてもまた存在を作り出せる。あんたの能力は私には通用しないのよ、嘘だと思うなら試してみなさいよ、消されてもまたあなたの目の前に現れてあげるわ、そして今度はあなたを人形に変えてあげる。でも安心しなさいな考える力は残してあげる。大切に抱きかかえていつも一緒、そしてあなたが愛した者たちが絶望して死んでいく様を見せてあげるわ」
たとえ10年でも耐え切れないような孤独の中に400年も人形と化して孤独に置き去りにされた少女、そのことを呪い心が歪んでしまっている。人の心を感じることができる多舞、だからこの子をいくら説得しても無駄だとさとる。この暗黒が混ざりし石を握る者は心を暗黒に支配されるのだ。そして悪魔か魔女に変貌するのだ。
笑いし魔女はステッキを振り上げる。その物質変換能力で本気で多舞を人形に変える気だ。
ステッキを振りおろし能力を発動させる魔女、その現象さえも存在を消し去る天使でも存在自体があやふやな能力の発動は消しきれないと踏んでの行動、しかしその能力を振るうべき存在は消えていた。
どこに行ったのかと不思議そうに辺りを見廻すマーガレット、
そして求める存在がマイケルの背後に出現するのを目撃する。
そしてざわつく悪魔達はまるで爆弾を避けるような仕草でその傍から遠ざかる。
そのマイケルのスーツの端を握る少女は再び微笑んで魔女に問う、
「この悪魔を消しても存在を作り直せるの?ためしてみてほしいの、できたらすごい力なの、ぜひ見せてほしいの」
破壊の魔女は怒りに震える。迂闊だった自分の行動が許せなくて、あの天使は自在に存在を消し去る能力を得たのだ。それも自分自身もその対象に出来るのだ。そんな存在しない物質は変換できない、
そしてむざむざとマイケルを人質に捕られてしまった。だからもう迂闊に動けない、でないとマイケルの存在が消されてしまう、それに自分の能力でも消されたマイケルの存在は取り戻せない、どこにいるのかわからなくなってしまうのだから当然だ。
「もういいよマーガレット、僕らの負けだ。このままこの天使さんに存在を消されたらたまらない、だからもう悪いことはしないと誓うよ天使さん、だから放してくれないかい、銃を突きつけられるより恐ろしいよ君の存在は、だから絶対約束するよ悪いことはもうしない、これでいいだろ?そしてみんなをここから無事に帰すと約束する。もうそれで満足してくれないかな?」
「約束するの、嘘はダメなの、それなら放してあげるの」
そう告げてスーツの裾から手を離しそして多舞の存在が消える。
そして皆が気付いた時には多舞は勝則の傍に立っている。
「勝ったの、あの人達はもう悪いことをしないの」
多舞はそう言って自慢げに大男を見上げて微笑みを浮かべる。
しかし勝則は頭を抱えると溜息を洩らして多舞に言う、
「あのな~あの連中は悪魔だぞ…約束?そんな事を守るような連中かよ、奴らは平気で仲間を裏切るような連中だ。お前なりは1人前だが精神は子供だ。だから簡単に騙される。見ろよ連中を、まだ敵意むき出しでこっちを見ている。誰も1人も生かして帰す気なんて最初からないのだ。まだやる気満々だぜ、特にあの悪魔の頭領、奴は目的の達成には手段は選ばん、それに黄昏の魔女は今まで何も出来ないでいた苛立ちの表情が顔に出ている。この戦闘は不可避の状況だぜ、それにお前は姿を消しながら相手を消すなんて出来ないんだろ?あの炎の悪魔の一声でまた戦闘再開だ。それに李源が虹の所在を確認したと言っている。とにかくここを切り抜けそっちに向かう必要があるんだ」
勝則にそう言われて多舞は不思議そうに炎の悪魔を見つめる。
薄ら笑いを浮かべる悪魔、そんな約束なんてしていない、その笑みはそう告げている。
「騙されたの?」
そんな多舞の問いにその場の全員が頷いて答える。
「もう一度行ってあいつらを消し去るの」
そう告げて歩き出そうとする多舞をあわてて引き留めるのは1人の少女、
「待つの、消し去るそれはあいつらじゃないの、ここから逃げるにそれ必要、希一郎の居場所がわかった。行かなきゃならない、それ当然、そこには羅冶雄もいるの、行かないはダメ、そうでしょう、戦い不要、でも奴らも多分あそこに向かう、それ阻止するの時間稼ぎ、戦い始まったらあなた私たちを1人ずつ消していく、いいか?それ?そして皆で逃げる」
羅冶雄と聞いて多舞の目の色が変わる。
「賛成ならしてほしいの、いうとおり、お願いがい聞いて、家族を守る言いかそれ、作戦は出来ているの、奴らの裏をかく方法ある。信じてほしいのみんなを、出来るの必ずあなたなら、オッケーそれなら頷いて」
羅冶雄の匂いのする少女、さっきから気になっていたその存在が告げる言葉に多舞思わずは頷く、
「社長、首尾よく頼むぜ、俺は戦いながら材料は調達する。そして皆が揃ったら合図するから依頼の形に組み上げてくれ頼んだぜ」
松葉杖の中年男性、その言葉に頷くが、
「しかしそんなもん作ってどうするんだ?その中に立てこもる気か?」
宇藤のその問いには李源が答える、
「奇策じゃよ、奴らあの出口からわしらが逃げると考えるじゃろ、その裏をかくのじゃ、たぶんあそこのガードを固めて来よる。その分手薄になるじゃろ、ならば逃げるにたやすくなるのじゃ」
壊れたシャッター、それを見つめる李源、
一方、悪魔側の陣営では、
「なあマイケル、さっきの取引の件だが、あれはまだ無効になっていないのだろ?あの天使の能力は厄介だが策はある。しかしそれには君たちの協力が必要なんだが…」
そう言って薄笑いを浮かべる紳士を一瞥するとマイケルは、
「聞いていただろ?僕たちはもう悪いことはしない、そしてあいつらを全員ここから無事に帰すと約束したのを」
そのジョークに感情があれば思わず噴き出していただろうが、しかしただ面白いと感じただけのジョージは、
「約束?誰と誰が交わしたのかね?猫と鼠が仲良くするのはアニメの世界の中だけだ。鼠を襲わないと約束する猫など現実にはいないだろ?それに約束というのは破るためにするものだ。それが我々悪魔の常識だとそう思うが違うかね?」
「なら君と交わした取引を破ってもいいというのかな?ジョージストーン、この僕が約束を破ると知ってなぜ取引を申し出たんだ?」
その言葉にニヤリと笑うジョージ、そして、
「事実を作れば改竄出来る。あの取引をしたという事実をね、だから取引の内容は改竄させてもらった。この私に優位な内容にね、その内容を思い出してみたまえ」
首をかしげて思案するマイケル、そして、
「君が開いた出口を再び閉じれば石は譲る…」
その言葉に笑みを浮かべる悪魔の頭領、そして黒いスーツの男に合図を送る。
轟音と共に出入り口の廊下が爆発して瓦礫に埋もれる。
「取引成立だな、では石を」
なぜか解せない表情のマイケル、石は渡したくないが、しかしこれ以上こいつとかかわり合いたくないとそう感じて、
「希恵、あの石をジョージに渡してやれ」
巫女装束の少女にそう告げるが、しかし少女は首を振り、
「なくなっちゃった。新たな持ち主を見つけたみたい、どこかに飛んで消えてしまったの、だから残念だけど渡せない」
そう言って希恵は肩をすくめる。
「ノ~ッ!?」
その言葉に思わず悪魔の頭領が叫びをあげる、
「けけけけっ、だから手に入らないと言ったじゃろ」
嘲笑の老婆、心の底からおかしくてたまらない、遊ぶ子供を見るのは楽しい、子供はいつも失敗ばっかりするからだ。
しかし感情のない男は一時的な失望からすぐ立ち直ると、
「では私をこんな目にあわせた奴らに復讐するとするか、その憂さ晴らしにはちょうどいい、どうせマイケル、あの天使と交わした約束など守る気はないのだろ?」
悪魔の頭領、そう呼ばれるのにふさわしい形相でいつも手にしていた失くしたステッキの代わりに忌々しげに鉄の地面を蹴る。
「その通りだよジョージ、天使?そんな者は存在しない、そんな存在しない者とは交渉も取引も約束も出来ないからね、悪魔は契約する存在なのさ、それも人間の魂を狩る死神と、その死神と契約を交わした人間は僕らの前に現れる。ではそんな死神の手助けをしよう、奴らに大きな苦しみを死に添えたなら死神もきっと喜んでくれるさ」
そこに黒人女性が口を挟む、
「あんた達はいつまで私を待たせる気なのよ殺したい奴がいるのよ、もう顔を見ているだけでむかむかする。やらないっていうなら止めないで、もう我慢できそうにないのよ」
そんな黄昏の瞳で2人の悪魔を睨む魔女を手で制してマイケルは、
「ロザ=ベラ、その気持はわかるがもう少しだけ待ってくれないか、あの天使はやっかいだ。さっき僕は危うく消されかけたからね、でも彼女は無知な子供でやすやす悪魔の言葉を信じるのだから助かったけどね、しかし彼女が自由に動けなくする対策が必要だ。無限の森、それを彼女の周りに創り出してくれないか?幻惑させるだけなら簡単だろ、それは消えても現れても抜け出せない無限の森、それを彼女の意識に植え付ける。あの彼女さえ封じてしまえば赤銅の男と鬼神以外は虫けらだ。だからた安く始末できるはずだよ、それは間違いないはずだ。なあ婆様よ、この作戦はどう見える?」
マイケルに尋ねられた老婆、渋々自分の石を見つめているが首を振り、
「見えないさね、お前のように黒き色が混ざらぬ者が大勢いる。でもわかるさね、その鍵を握るはお主の人形、その歪んだ瞳が伝えるのさ、ここが消し飛ぶその未来をさね」
『……』
その言葉に思わず無言の悪魔達、そして人形だった少女を見つめる。
「マイケルの仕掛けた爆弾を地下に落としたのよ、あの固定されていた仕掛けを空気に変えて、だから噴火するのよここは、もう生き残るのはわたしとマイケルだけで充分なのよ」
そんな歪んだ瞳が皆に告げる。
その時突然に脚元の鉄の床が不気味に振動し始める。
「私に変えられるかね…その未来が起こった時を?」
そのジョージの問いに老婆は無言で首を振る。
マイケルにしがみつく少女、それを見つめる悪魔達、やがて皆が笑いを作ると、
「この宴のラストにはふさわしい演出じゃないか、それまでは楽しめる。なぜなら僕らはラストまでつきあう気はないからね、だから適当に遊んでそれで退散、もう後始末の心配をする必要はないみたいだからね」
そう告げるマイケルは天使側の陣営に向い声を上げる。
「聞きたまえ天使に組みする者たちよ、その天使の言うように僕達は悪いことを多くしてきたらしい、だから天罰を受ける時がきたみたいだよ、この脚元の振動、それが何かわかるかい、灼熱のマグマ、それがもうすぐここに吹きだすその予兆だ。マーガレットがそれを呼んだんだ。みんな灼熱に呑み込まれて消えてしまうだろう、それまでの猶予はおよそ30分、そして逃げられる場所はあそこだけ」
そう言ってマイケルは天井の巨大な穴を指し示し、
「あそこから出られる者のみが生き残れるのだ。しかし君たちにそんな力を持った奴がいないのは確認済み、しかし我々はあそこから出ていける。そこで選択権を与えよう、その選択肢は3つ、1つ目は天使と太陽を差し出して許しを乞うなら他の者は助ける。2つ目は運命の時が訪れるまで我々と戦う、3つ目は絶望してなにもしない、どれを選ぶかは個人の自由さ、だから裏切ってもいいのだよ仲間を、さあ、時間はあとわずか、考えている余裕はどこまであるかな?」
その言葉に歯軋りする大男、さっき出入り口は完全にふさがれた。
あの悪魔の言うように逃げる場所はもう煙突からしかない、それに奴の言葉を証明するかのように足元の振動は徐々に大きくなってゆく、この悪魔の選択肢、あの考えた方法を実行するには2番目を選択しなければなければならない、そのためには時間が必要なのだ。
「回答するのに時間など必要ない!最初から決まっている。その答えはこれだ!」
そう叫ぶ大男、野球のノックの要領で手にした鉄屑を巨大な棍棒で叩き飛ばす。
長高速で飛来する鉄屑、しかしマイケルの目前で速度を失い床に転がる。
「エネルギーを無力に変換しょった。なんという力じゃ、破壊の魔女か…侮れん存在じゃ」
そう呟く李源、しかしその呟きに耳を貸す者はいない、その大男の攻撃を合図に皆が一斉に動き出す。その生き残るという希望を実行に移すために、
巨大な昆棒を振るい辺りの物を打ち壊しながら勝則はマイケルに迫りゆく、
「狂ったか?鬼神!」
そう叫んでマイケルは大男に炎を投げつける。
しかし床の鉄板をめくりあげそれを防ぐ大男、その背後から無数の鉄屑が飛来して悪魔側の陣営に散弾のように襲いかかる。
「お前たちの背後の壁を磁石に変えた。この鉄屑の中に埋もれて消えろ!」
そう叫ぶのは宇藤、磁力化する事が出来るのは自分自身だけではないのだ。
しかし悪魔達は襲い来る鉄の散弾を容易にかわす。
あるものは風を纏い弾き飛ばし、あるものは硬い甲羅を纏いし者に変貌して、そして創り出した幻獣の背に乗り空中に退避する者、咄嗟に結界を張る男、飛来する鉄屑を爆破していく男、創り出した式神でそれを防ぐ巫女、ただ悪魔の頭領と炎の悪魔だけは何もしないで立っているだけ、それも平然として何事もなかったように、この炎の悪魔は絶対の防壁に守られているのだ。
そして悪魔達もまた動き出す。
炎の悪魔に言われたことを実行するため黄昏の魔女が飛ぶ、しかしそれは出現しては消えてを繰り返す存在、だから中々狙いが定まだない、そこに飛来するのは2本の棒が鎖で繋がれた武器、眼前に迫るそれを紙一重でかわす黄昏の魔女、それを投げつけた相手を認めて黄昏の瞳が燃える。
自分を睨みつける強烈な視線、その太陽の光のような眩しい視線が自分を見つめて笑みを作る。
あの存在だけは何者より許せない、怒りし魔女は槍を構えて飛竜を速い速度で降下させる。
そこに紙吹雪が襲いかかる。遮られる視界、まとわり付く紙、その一瞬動きを封じられそのまま地面に激突する。
しかしそんなことに怯まずに次の攻撃に備え咄嗟に創り出す。スケープコート、それは分身、自分自身の姿、そこに槍を構えた黄昏の魔女が6人、その銀色の衣の少女を取り囲む、
それに怯まず自分に投げつけたはずのヌンチャクを構える少女、その眼の光がさらに強くなる。
そして惑わされることなく自分に対して攻撃を仕掛けてくる。
魔女はその素早い攻撃をかわしながら異変に気づく、あの創り出した分身の姿がどこにもない、そして少女の背後のサングラスの子供がニヤリと笑う、
「おのれ魔人め!」
そう呪詛の叫びをあげ李源を睨みつける。
「悪う思うな、魔女よ、他の者にお主が能力を使うても何も出来んがこの子は別じゃ、これを守護する使命があるのじゃ、そのわしの希望をついやすでない、じゃから戦いたいなら能力なしで行え、わしがいるかぎりそれをルールとわきまえろ」
黄昏の魔女はその目を細める。能力なしでの戦い、そうだ。前に1度それで屈辱を与えられたのだ。
そして魔人はそのことに対しては干渉出来ない、それにいくら武術の達人だと言ってもたかが小娘、その戦ってきた年期が違うのだ。だから差しで勝負しても勝算はある。
そう考えて槍を構え直すと、
「大口をたたくな魔人、こんな小娘風情が私に勝てると思うのか?この前は不覚を取ったがその娘の技量はとっくにわかっている。その手の内は読めているのだ。お前が言う希望を倒し絶望に変えてやる。そこで見ているのだ。この娘がいたぶられ殺される瞬間を」
そう告げる魔女は槍の間合いまで歩を進める。
「この娘の技量が理解出来ておるじゃと?何をぬかすか黄昏の魔女よ、この前の闘いの時はこの子はその力の10分の1も出してはおらぬ、それを身を持って知れ、この知れ者が」
少女が片手で構えたヌンチャク、そこに紙を纏わりつかれたもう1つのヌンチャクが届く、
2つのヌンチャクを構えた少女、両刀使いだと言いたげにその2本を振り廻して見せる。
「間合いの短い武器が増えただけで偉そうに、この槍に勝る武器など無い、これが突き刺すだけが能じゃないと証明してやる!」
そう叫び槍を振りまわす魔女、その握りに埋め込まれた黄昏の石が怪しく光る。
そして剣のように槍を構える黄昏の魔女、どんな武器には短所も長所もある。
しかし槍は他の武器より短所が少ない、その長さを利用して相手を寄せ付けぬ間合いを持ち突き刺す事も斬る事も殴ることも出来るのだ。もちろん投擲することもできる。相手の武器を受け止める防御もたやすく出来る。短所と言えるのはその長さゆえの攻撃速度の遅い事、突き刺す以外の攻撃では振り廻すのに時間が必要、しかし黄昏の魔女はその槍を素早く振り廻せると示して見せる。
しかし2対のヌンチャクを構える少女はその目を光らせ不敵に笑う、
「そんな棒きれ振り回す。無い意味それ、武器で戦う望まない、お互い殴り合う、決着つける。それいいか?嫌でもさせる。覚悟する」
そう言って左手で構えるヌンチャクを投げつける。
槍でそれを振り払いながら魔女は異変に気づく、その飛来してきたのはヌンチャクの片割れのみ、そして長く伸びる2つの棒を繋ぐ鎖、その片方は少女の手に握られている。
そしてそれはフエント、少女の右手の棒の片割れがいつの間にかに飛来して槍に絡みつき魔女の手からそれをもぎ取る。
そしてヌンチャクと共に奪い取った槍を彼方に投げ捨てる。
自分の武器を失い一瞬怯む黄昏の魔女、
その隙にすかさず飛び込んでくる少女、銀色の衣をまとい素早い動きで、そして拳打を魔女の顔面に繰り出してくる。
それを見極め避ける魔女、そこに少女の蹴りが襲いかかる。
のけぞる姿勢でそれをかわすが1回転する少女の蹴りが足元をさらう、その転倒しそうになるのを横に回転することで堪えて、そしてそれを繰り返して少女から間合いを取る。
その肉弾戦など経験した事がない魔女は戸惑いながらも怒りをこみ上げる。
あの戦士の誇りの槍を2度も手から奪われたのだ。この小娘に、そして己自身を武器とする武闘とかいう小癪な技で翻弄されているのだ。
「我が祖国には四千年もの間闘い続けてきた歴史があるのじゃ、その集大成が拳法と呼ばれる格闘技、そ奴の父はその達人と呼ばれた男、その血を受け継ぐその娘がその技を極めるのにはたいして時間はかからんかったのじゃ、天賦の才能、そう呼ばれる奇跡の1つじゃ、この娘はやり合うのならあの鬼神とも互角に戦いおるじゃろう、あなどるでないぞ魔女よ、弱き姿に惑わされるな、弱者こそ真に強いと思い悟れ」
その魔人と呼ばれる子供の言葉に心震わす魔女、それは久しぶりに沸き起こる感情、そう、恐怖と呼ばれる感情だ。
思わず飛ばされた槍を蛇に変えて呼び戻そうとするがそれが出来ない、怪訝に思い槍を見る。
槍に纏いつくヌンチャク、それには文字が刻まれている。あの願字と呼ばれる奇願者しか読めない文字が、
「魔力を封じる四行詩が刻まれておるのじゃ、じゃからもう蛇に変えることはできん、じかに拾いに行かぬ限り手には出来ぬ、じゃからあきらめろ黄昏の魔女、もう今宵を最期と受け入れろ」
迫りくる太陽の娘、その猛攻は避けきれない、だから蹴られ殴られ意識が遠のく、しかし彼女は倒れない、あの戦士の誇りが立たせている。そこに必殺の一撃を繰り出そうとする少女、しかしそれは攻撃ではない、なぜか自分に口付けしようとする少女、その朦朧とする意識で黄昏の魔女はさとる。
死の接吻、思わずそう感じる不吉な予感、だから逃げなくてはと思わずそう意識するが打ちのめされた肉体が言う事を聞かない、そして絶望しようにも手元には石がない、真に絶体絶命、流れる冷汗、その時、
「何をしている黄昏の魔女よ僕が頼んだ事を忘れたか?そんな小娘相手に遊んでいないで使命を果たせ!」
そう叫ぶマイケルの言葉と共に火球が目の前の少女に投げつけられる。
咄嗟に銀色の衣に身を包む少女、そこに火球が飛来して爆発する。
少女が纏っていた銀の衣は消防用の耐火服、それが火炎から少女を救う、しかし爆風に飛ばされ床を転がる。
そして起き上がった時には魔女はもう槍を拾い上げ忌々しそうに絡みつくヌンチャクを外している。
そして李璃を呪いの瞳で睨みつけると飛竜を創り出してその背に飛び乗る。
「殺してやる。次は必ずに、この受けた屈辱は千倍にして返してやる。覚えておけ!」
そう呪祖の叫びを口にすると上空に飛来していき煙突から外に飛び出してゆく、
「やりそこねたか…残念じゃが仕方ない、しかしリリーよ血迷ったか?あんな魔女を家族にして何になる?家族同士でも平気で殺し合うのが人間、あの魔女にお前の力は通用せぬぞ、それは単なる呪いになるだけじゃ、家族同士で殺し合うという呪いに、一体何がしたかったんじゃ?」
拾ってきた二対のヌンチャクを差し出しながら李源が問う、
「苦しめる。悪魔達、私を殺すを躊躇する。そんな姿を見たかった。あの魔獣のように苦しめる。それオッケー、太陽に手出しすると火傷すると教えたかった。それだけ、太陽は輝くだけで殺さない、自滅するのは耐えられない、光りに、そんな連中、それでいい思った」
その言葉に溜息を洩らす李源、そして、
「火傷しておるのはお主の方じゃぞ、その耐火服でもあの炎は完全に防ぎきれんじゃろ、あの真珠の石に癒してもらわなくてはいかん、それにそろそろ時間じゃ、早急に天使に消してもらわなければならん、もう火遊びは終わりじゃ、それ急ごう」
リリーの手を引き李源は向かう、その先には瓦礫で出来た山がある。
同じ刻限に随所で戦いは繰り広げられている。
紙を操りリリーを掩護していた少年は突然の突風に飛ばされる。
思わず紙を集めてパラシュートを作り出してその突風に耐える。
そこにブーツの踵を響かせながら切り裂きジャックが歩いてくる。
「俺は風を自在に操れる。かまいたち現象を起こして切り裂くだけが能じゃないんだ。だからこんな事も出来るんだぜ」
ジャックの横の空気が突然渦巻きはじめそして小型の竜巻が発生する。
「トルネード、そう呼ばれる俺の必殺技だ。渦巻く風は全てを上空に舞い上げる。紙切れなんてなおさらだ。吹き飛ばしてやる覚悟しろ」
少年はそれでも笑ってみせる。そして舞い踊る紙切れを自分の周囲に集めて見せる。
紙の障壁、その背後に隠れる少年、そこに竜巻が襲いかかる。
渦巻く風のエネルギーは紙の障壁など粉々に切り裂き上空に舞い上げる。
しかしその後ろに隠れた少年を紙のように舞い上げることはできなかった。
どこに隠れた?
そう思い辺りを見回すが少年の姿はどこにもない、突然消えてしまったのだ。
そんな事が出来る存在がいることを思い出しジャックは戸惑う、天使は自分達ではなく仲間を消しているのだ。
なんのために?
それはたぶんここから逃げるための計略だ。
しかし奴らにここから逃げ出せる力を持った能力者はいないはず。
そしてジャックは気づく、小高く積み上げられた鉄の瓦礫の山を、
奴らは身を隠してあれをシェルターにするつもりだと、そう考えるジャックの脚元の振動はますます大きくなる。
それはもう震度5の地震と言ってもいい規模だ。
あんな鉄屑の寄せ集めでこの噴火を防げるものかと嘲笑いの笑みを作るとジャックは暑さのせいでぐったりする男の許に駆け寄る。
「おいサンタクロース、結界を創れ、俺のトルネードでその結界ごとここから飛ばす。早く逃げなきゃ噴火に巻き込まれる。奴らは闘いを放棄してあそこの中に避難するみたいだがあんな物で防げるものか、自滅する道を選んでやがる。そんな連中にこれ以上つきあう必要などない、わかったら早くしろ」
小男は人2人分の結界を張る。その外で風が渦巻き始めて、そして2人を包む結界は渦巻く風に押し上げられて煙突の中へと消える。
「これ以上ここにいる意味はもうない」
悪魔の頭領は崩れ落ちた出入り口の前で連れの2人にそう告げる。
「遊びは終わりかね、けけけけっ、まあいいさね、私も充分楽しめた。退散するには早い方がいいと石も告げているからの」
そう言う老婆を一瞥するジョージ、そして過去を操りダークイエローストーンが出入り口を爆破する前に過去を改ざんする。
そして脱出口が出現する。
そこを小走りで駆け抜ける3人、その背後でまた爆発が起きて脱出口を再び塞ぐ、
「開いたままではマイケルが怒るだろう、それに奴にはまだ貸しを作っておかないとな、一応の保険だ」
そう告げて歩き出す悪魔の頭領、そこに携帯電話が着信を伝える。
それを取り出して報告された内容を聞くと悪魔の頭領の顔が気悦に歪む、
「朗報だ。我がアジトに急ぎ戻らなければならん、切り札を手に入れた。あの男の怒りの表情が目に浮かぶぞ、ふははははっ」
その苦しめた相手は最大の男なのだ。思わずその喜びに体が震える。
「まだ遊び足りんというのかね、けけけけっ」
そんな嘲りの老婆の言葉ももう耳に入らず。駆けだした先には白いアメ車、それに乗り込みハンドルを握る黒いスーツの男にこう命令する。
「アジトに戻る前にステッキを買わないとな…あれがないとなぜか落ち着かん、それも大急ぎでだ。だからエンジンの爆発力を高めろ、とにかく急げ」
エンジンの爆発力を助長する。ダークイエローストーンの能力で最大出力を高められたその車は猛スピードで火葬場を後にする。
火葬されるのはさっきの連中だけで充分なのだ。それも飛びきりの業火の中で、
その逃亡の為に疾走する車は性能の限界を超えているせいで何度も事故を起こす。その過去を変えながら悪魔の頭領は葉巻に火をつける。
その遠ざかる火葬場からは轟音が響く、奴らの最後の時が訪れようとしているのだ。
「これだからあの魔女は信用できないな、せっかく手助けしてやったのに」
そうぼやいて黄昏の魔女が消えた煙突を見つめるマイケル、
「あんたに何か特別な恨みでもあるんじゃない?」
そう告げる巫女装束の魔女は片時ももうマイケルから離れない、その理由は目の前の少女、この魔法少女のいでたちの破壊の魔女、それは危険すぎる存在だと本能が告げている。
しかしこの魔女は物質やエネルギーは還元出来ても自分自身以外の生命には干渉出来ない、その形を変えられても殺すことはその能力では出来ないのだ。
だからと言って姿を蛙なんかに変えられたらたまらない、希恵は思わずさっき筆で書いた魔力を封じる護符を握りしめる。その書かれた文字の墨は自分の血だ。その願字で書かれた最強の護符、それを信じる以外にこの魔女に対抗する手段はない、
「邪魔者が消えていくわマイケル、あの天使に消されてあの中に逃げ込んでいるみたい」
そう言って破壊の魔女が指差す先には瓦礫の山、ただ1人鬼神だけがその前に立ち塞がり自分達を睨みつける。
それに対峙しているのは魔獣、その姿を鬼神をも凌ぐ巨人に変えてその1つ目で勝則を睨む、
それは正に願ってもない好敵手、無敗の男の血が騒ぐ、
「あの中に逃げ込んで噴火をやり過ごそうと考えているのならそれは馬鹿な考えだぞ鬼神よ今から起こるのは大噴火、そんな寄せ集められた鉄屑などで防ぎきれるもんか、しかしそれを希望と考えているなら打ち砕いてやる。やれ、マーガレット」
歪んだ瞳が歪に光る。そして鉄屑の山は粉々になり床に散らばる。
「砂鉄に変えてやったわ、あの連中はあの中に埋もれているのでしょうね、さまあみろよ」
そういって舌を出して笑う破壊の魔女、その挑発に怒り棍棒で殴りつけようと動き出そうとする勝則、しかし目の前の巨人がそれを遮る。
「お前の相手は俺だ」
その繰り出された棍棒を意図も簡単に受け止める巨人、その怪力でそのまま勝則を投げようとする。
しかし石江勝則はその怪力に踏ん張ってみせる。
日本の古来から伝説、その中にいた鬼と呼ばれし存在、しかしそれは実在していた。石の力で力を得た者が鬼と化して暴れていたのだ。戦乱の世も、太平の時も、いつしかその能力者達は集団を形成し始める。自分たちと敵対する能力者達と戦うために、そして鬼の一族が誕生する。
しかし時代が変わる毎に一族は数を減らし、そして次第に隠れるように山里に暮らすようになる。
その末裔の死に行く老人たちは勝則を一族の長とした。
その類まれなるその素質を見極めたから、だから鬼がもう一度暴れられる世界を望んで紅玉の秘宝を託したのだ。
その鬼の長は何者にも怯まない、自分より巨大な相手を前にしても怯まない、自分は絶対に負けないと確信しているからだ。
巨人が握る棍棒、そこから無数の針がつき出る。
この弱者の牙は強者に抗う、その思念が込められているのだ。
思わず棍棒を放して血まみれの手を1つ目で見つめる巨人、その傷つけられた怒りが込み上がる。
「手ぬるいぞ魔獣、俺よりでかくなっただけで勝てると思うな、俺が負ける時は死ぬ時だ。しかしお前に俺を殺す事などできん」
「おおおおおおっ」
その勝則の言葉に耳を貸す気もなく、その怒れる巨人は怪力を振るい目の前の男を殺そうとするが、しかし勝則はその攻撃を難なく避ける。ほとんどすべての格闘技を極めた男、やみくもな攻撃などかすりもしない、そして刺の突き出た棍棒で巨人の腹を殴打する。
その強烈な一撃は巨人の腹を裂き血を飛ばし衝撃を内臓に与える。
その苦痛に動きを止める巨人、ただ1つ目で目の前の鬼神を睨みつける。
「魔獣を手助けしないの?」
そう尋ねる破壊の魔女を微笑んで見つめマイケルは、
「僕らの勝ちは決定事項だからね、でも鬼神の相手には魔獣といえど力不足みたいだね、あの鬼神が遊び足りないようだったから相手をさせてみただけさ、これが今宵の宴のラストイベント、どうだね楽しめたかい希恵にマーガレット、でももう退場の時間だよ、後は空の上から盛大な花火でも見物しよう」
余裕の笑みでそう言って、そして鬼神に挑もうとする魔獣に命令する。
「魔獣よ竜に変貌せよ、その力を与える。そして我らを背に乗せここから飛び立て」
そして炎を巨人に投げつける。
勝則の目の前で炎に包まれる巨人、その姿が変貌する。
それは何者をも噛みちぎる牙、鋭い爪、巨大な翼、伝説上でのみ語られる最強の魔獣、あのドラゴンと呼ばれるその存在が、それが目の前に現れる。
「そんな奥の手を隠していたとは…」
伝説の巨大な怪物、しかしそれを目の前にしても鬼神は怯まない、いやむしろ喜びを感じる。
自分も怪物と言われた存在、だからどちらが上か比べてみたい、しかしそんな戦士の願いも虚しく魔獣は勝則を一瞥すると翼を羽ばたかせて舞いあがり始める。
その背中に2人の少女を伴い飛び移るのは炎の悪魔、そして下を見下し自分を睨みつける男に
「勝負は僕の勝ちだ。あの無敗の男は業火の中で負けるのだ。もう足掻ける時間はあと僅か、その間に後悔したまえ、この僕に挑んだ愚かな自分を、それでは今宵の宴の幕を下ろそう、それを楽しんでいただけたのならさいわいだ。それではごきげんよう」
竜は高度を上げ煙突の穴を目指す。それに鬼神が大声で答える。
「勝ったと思うな炎の悪魔、どんな地獄に落ちてもお貴様だけはこの手で殺す。それを覚えておけ!」
しかし嘲笑と共に竜の姿が穴から消える。
やがて振り返る勝則、そこには今日を生き抜いた仲間達が揃っている。
「天使の奴めわしだけは消せんとぬかすから砂鉄に埋もれてしもうたではないか」
その砂鉄まみれの李源が恨めしそうに天使を見つめる。
「さて、それでは始めるか」
そう呟く松葉杖の男、砂鉄に鉄片等の金属片それを磁力で引き寄せ集める。
「僕の言うとおりに配列してください、ただの鉄の寄せ集めじゃなく機械に変えないといけない」
そう言う眼鏡の青年の指し示すノートパソコンには設計図、それを見つめて、
「難しいがやってみる。この磁場を強化して砂鉄を鉄板に変えて、そこにあのクリスマスツリーの電飾の配線を施して、うむ、こんなもんか?」
そこに現れたのは巨大な円錐状の物体、それはまるで弾丸のような形状、その1部に出入り口らしきものが開いている。
「上出来です。あとは推進機能を付加するだけですが…」
眼鏡の青年はそう言って李源を見つめる。
「わかっておるわ、だから全員早う乗り込め、もう時間はないぞ!」
その巨大な弾丸の中に乗り込む皆を見ながら李源はさっき吐き出した石を見つめる。
それはパワーストーンと呼ばれる石、赤に黒が渦巻くそれは力の象徴、危険な代物だと思い今まで封印していた魔石の1つ、あの破壊の魔女に対抗するのはこれしかないと吐き出したのだが…
「よもやこれまで世に送ることになるとは何の因果か、これを握る者は何に絶望し何を願う者なのかのう…しかし黒き色が混ざる石、それは真っ当な者の手には握られんか…」
そんな悪魔がまた1人増えることを危惧しながら、その巨大な弾丸に乗り込む李源、そして出入り口がふさがれる。
その外は灼熱の地獄と化しつつある。鉄の床を割り噴き出す炎、そこは火葬場と呼ぶにふさわしき場所と変化している。
砲弾の中では紙でできた座席に座る一同が李源を見つめている。
それに頷いて答えると李源は叫ぶ、
「封印されし力の石よ、その封印を解く代償に我に力を与えよ、我が乗るこの箱に宙を飛ぶ力を与えろ、その使命を果たしたなら解放する。もう主を求める自由を与える。されば我との盟約を果たせ!」
そして光輝く力の石、そして巨大な弾丸、それはゆっくりと宙に浮き始める。
「制御できる。やった!ここから逃げられる」
そう叫んでノートパソコンを叩く青年、
その巨大な弾丸は宙を浮きながら煙突の穴を目指す。
竜の背中に乗る炎の悪魔、あの自分の本拠地の最後を、そして敵対する者達の最後を見届けるために上空を舞う、そして地割れが起こりそして炎が噴き出す地上を見下ろす。
「噴火まであと数10秒てとこかな?早く打ちあがる花火が見たいね」
そして笑みを作るとそう呟く、
「今頃中は炎の地獄、朱に染まる世界になっているわ」
それに答える朱色の魔女はその火葬の光景を思い描き喜悦の表情になる。しかし残念なのはあの中に血色の魔女がいないこと、あの女をあんな目にあわせてやれたなら…
そう考えて炎の悪魔の横顔を見つめる。
その時、疲れたような顔をした破壊の魔女は退屈そうにマイケルに尋ねる。
「呪うのって疲れるのね、きっともっと呪われなければ力が出せないのよ」
この破壊の魔女の力は呪いから生まれる。だから呪われれば呪われるほどその力は大きくなる。
「安心しろマーガレット、こんな場所じゃなく今度は人の住む町を根こそぎ破壊しよう、そこに住む者達は僕らを恐怖の目で見てそして呪うだろ、そんな楽しい遊びは今夜から始まるのさ」
その炎の悪魔の言葉に破壊の魔女の瞳が光る。その黒く赤い歪んだ瞳が、
「そろそろ限界だ…」
地上に吹き出そうとする地下のマグマに抵抗していた地表が負ける。
その瞬間に巨大な煙突から何かが飛び出す。
そして噴火、その轟音と共に噴き出す炎、あの巨大な煙突を飲み込む火柱、そして辺りに火山弾の雨が降る。
そして噴煙が立ち上り辺りを見えなくする。
竜はさらに高く飛翔して火山弾が届かぬ上空に退避する。
赤く流れ出るマグマは周囲の森を焼き払い炎の地獄を創り出す。
「綺麗…」
それを見つめて希恵が呟く、
しかし炎の悪魔はあの世界の中に奴らがいないと確信する。
あの噴火の刹那に煙突から飛び出していった物体、それは火山弾なんかではなかった。なぜか巨大な弾丸の形をしていた。
慌てて顔色を変えて朱色の魔女に詰め寄る。
「希恵、世界の石を出してみろ、飛んで行ったなんて嘘をついて…まだ持っているんだろ?」
そう言われ巫女は懐から白い石を取り出す。
「この石は強力な残留思念で呪われているわ、その呪いを解かぬ限り持ち主を選べないの、でもよくあたしが嘘をついたとわかったわね」
「そんなことはどうでもいい、映し出すんだ奴らを、まんまとしてやられた。逃げだしたんだあそこから、それが今どこにいるかを映し出せ」
怪訝そうな顔で石に祈りの念を唱え見つめる希恵、そしてそれは巨大な弾丸の形をした物体を映し出す。
「この中にいる!そんな馬鹿な?空を飛ぶ能力者なんていないはずなのに…」
その映像に驚く希恵、しかしマイケルはその映像を黙って見つめる。怒り、それは強すぎると逆に冷静になる。
「奴らはどこに向かっている…」
冷徹な声でマイケルが問いかける。
「西に…それも凄い速度で、まるでジェット戦闘機並、だから追い駆けてももう間に合わない…」
そう告げる巫女の言葉にしかしマイケルは、
「魔獣、奴らを追え」
そう命令すると黙り込む、
竜はその巨大な翼を翻し高い空を飛翔する。西に向かって、
その竜の後をつける者がいる。
黄昏の魔女も見ていたのだ。煙突から飛び出す物体を、そして炎の悪魔はその後を追おうとしている。その中にはあの太陽の娘もいるのだ。
そう考えて飛竜の背中で槍を磨く、3度目の屈辱はないと誓いながら、
その人為的に起こされた噴火、それは辺りの自然を焦土に変えて収まる気配はない、しかし幸いなことに人里離れた山奥で起きた災害、だから人的被害は出ていない、燃える木々、逃げ惑う動物たちだけがその犠牲となっている。それを幸いと呼べるかどうか?
そんな地獄の世界の創造者達、その悪魔と呼ばれる者達は次はどこを地獄と化すのか、
赤い夜の帳の中で噴煙に見え隠れする。
その真円の赤い月だけが全ての光景を見つめている。
この地上の地獄を嘆いているかのように仄かな光を放ち、そして天から地上をただ見下ろしている。




