試験と出会い
私の人生の中で、学院での記憶は、その後の人格を形成する極めて重要な時期だったといえよう。この時の経験によって私は半ば強制的に自身を、そして心の底からの欲求を理解することになるのだから。そして、自身にまつわる事柄だけでなく、大切な人と出会うことにもなる。今思い返してみると、少し変わった出会いであったと我ながら思う。
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学院は、一般区を抜けた先の貴族地区にある。通常、貴族は皆貴族地区に居を構えているが、貴族地区は獣人の立ち入り禁止地区であることから、うちは居を構えていなかった。朝食を済ませ準備を終えた僕は貴族地区の門を抜け試験会場である学院に向かった。
学院の試験は筆記と武技の二種類がある。双方の得点と本人の希望を元に文官組か武官組に割り振られる。僕自身は武官組希望であったことから特に武技が重要であった。早めに午前の筆記試験を終え試験会場の中庭に向かった僕は、暖かい太陽の元、武技試験に向けた準備運動を始めた。
「とても変わった型ですね。槍術というには荒々しすぎる気がしますが、どこか美しさを感じますね。是非手合わせしていただきたいものです。」
一通り普段の準備運動を行い一息入れると、途中から僕の準備運動を見ていた女の子から拍手を受けた。お供の力量を見る限り、高位の家柄のお嬢様と思われる女の子から物騒なことを言っていたが、曖昧な笑顔でお断りをした。女の子は残念そうな顔をしていたが、午後に武技の試験を控えていることを理由にしたため、最後には納得してくれた。
「意外と早く手合わせの時が来ましたわね」
武技の試験は現役騎士との一騎打ちにて採点が行われる。その中で成績上位者については、最終順位を決める名目でトーナメントが組まれる。順調に勝ち上がった僕と決勝で対峙したのは、午前に中にはで会った女の子だった。準決勝の様子を見る限り細剣使いであり、俊敏さを生かしつつ多角的に相手を突く戦法のようだった。すでにマナの使い方もある程度身に付けているようで、その俊敏さはベテランの冒険者おも凌ぐ勢いであった。これまでの戦いと違い多少骨が折れるなと思いながら僕は試合開始の合図を待った。
「これもおよけになるのですね。なんと今日は素晴らしき日でしょう。やっと私の全力を受け止めてくれる同年代の武人に出会えましたわ。お互い死力を尽くしこの試合を楽しみましょう。」
彼女との手合わせしている中で僕が感じたのは純粋な賞賛であった。辺境にあり、魔物や敵兵の脅威の中鍛錬している僕ならいざ知らず、おそらく都会の高位の貴族の子女である彼女がここまでの技量をいかようにして得たのか全く想像がつかない。数十合の打ち合いの後、一武人として純粋な尊敬の念を抱いた僕は、自身の枷を外し彼女との戦いに決着をつけることにした。
「友よ、共に行こう」
僕には、全力で試合に臨む特に口ずさむ言葉がある。なぜこの言葉なのかわわからないが、物心ついた時から試合前に口ずさむようになっていた。友よ、共に行こう。この言葉を口ずさむと共にすべての神経が研ぎ澄まされ、全身にマナが満ちるのを感じる。僕の気配が変わったのに対し一瞬呆然とした彼女の隙をついた僕は、一歩で彼女の背後に回り足払いをしたのち彼女を地面に押し倒した。
無事試合に勝ち主席合格は確定したものの、彼女の顔を赤らめる様子とその護衛の僕を射殺そうとする目に怯え、僕はそそくさと試験会場をあとにした。