後
シャーロッテは貴族の落とし子だった。
侯爵家の洗濯女をしていた女が幼馴染の大工と結婚し
産まれた子供が白に近いクリーム色の髪ととても珍しい紫の瞳だった。
以前女が働いて居た貴族の家の主人と
産まれた子供が全く同じ色味だと気付いた夫から責め立てられた女はシャーロッテを疎み、虐げた。
過酷な環境から自分は人形であると思い込み
現実逃避をして生きていたのだろう。
祖父母が亡くなって放逐された後
偶然にも俺の父が町で珍しい色味と面立ちが旧友に似ているシャーロッテを見つけた。
娘の様子の異常さに心配し保護した父は侯爵に連絡を取り出自が明らかになった。
表立ってはないが
侯爵からの支援を受け
遠い親戚の養子とし
家で教育を施す事になった。
さて伯爵家に連れてこられたシャーロッテは
手足は枝の様に細く
小さな顔の目だけはギョロリと大きい
お世辞にも可愛いとは言えない容姿だった。
自分を人形と思い込み振る舞う珍妙な行動に苛つき
子供だった俺は幾度となく
シャーロッテを小突いたりたたいたり
酷いことをしてしまった。
姉カトリーヌは食物をとらないシャーロッテの為に
お茶会ごっこと言い
毎日菓子を無理矢理口に押し込んでいた。
「人形ですので味も匂いも判りません」
むぐむぐと栄養価の高いフルーツケーキを咀嚼しながらシャーロッテは喋る
「人形さんも作法を学ばなくてはいけなくてよ?
貴族令嬢のお茶会は戦いの場でもあるの。
あらシャーロッテ様
口に食物が入っているときは喋ってははしたなくてよ。おほほほ」
「ヲホホホ」
「何だか令嬢っぽく無いわね。もっと可愛い笑い方の練習よ!」
「はい。お嬢様」
仲良く喋る2人を観るのは面白くなかった。
「あんな馬鹿な子供なんかとよく遊べるな」
「シャーロッテは侯爵家の娘さんなのよ?
取り入って損はないわ。プクプクに太らせて可愛くするのよ!」
カトリーヌは伯爵家で1番腹黒い。
姉の企みは成功しシャーロッテはだんだんと
娘らしい身体に育つ。だがまだまだ小さく細い。
シャーロッテはいつもカトリーヌとお揃いの水色のリボンを付け自慢気にしている。
本当は水色じゃなくて瞳と同じ紫が似合うのに…
苛ついて頭のリボンを取り上げて捨てようとしたら
顎を狙って頭突きを繰り出すという思わぬ反撃にあった。
なんとか避けられたが本当に当たっていたら
顎の骨が折れたかもしれない。
「気持ちが悪い人形だな。」
シャーロッテは見かけによらず物理的な攻撃力が高い。瞬発力がある。
更に精神的な攻撃力も高い。
「私は人形だから構いませんが、人間に対してはそのような言葉は使わない方が良いですよ。人格を疑われます。」
年下の女の子のくせに
心底こちらを馬鹿にした顔で喋る
「人間は愚かですね。」
かーっと頭に血が昇り思わず手を出してしまった。
俺の所業は父に暴露され頬を打たれた。
婚約者ブリジットは茶色い髪で地味な顔立ちの娘だった。
ブリジットの実家である男爵家が
伯爵家の貿易拠点の近くの道を所有していて
通行料を取らない条件としての政略結婚だった。
初めから好意があった訳では無いが
貴族の結婚なぞそんなものだろう。
伯爵家に遊びに来ると姉やシャーロッテと仲良く遊ぶ
大人しい娘といった印象で
俺に対しては常に笑顔を絶やさず
父や母にも気に入られるよう努力をしている様子だった。
祭りの日シャーロッテが庭に泥だらけで転がって居たのは心臓が止まる位の衝撃だった。
黒い土で汚れた顔だからこそ
整った顔の美しさが際立ったのだ。
「足が壊れたし汚れてしまいました。私を廃棄しますか?」
「するわけないだろう」
膝を打ち紫に腫れた足を庇い
部屋に抱き抱えて運んだ
風呂に入れ
ベッドで眠るシャーロッテを朝まで眺めた。
シャーロッテに対しての暴行事件をきっかけに
ブリジットによる使用人に対しての態度や不遜な物言いの証言が上がった。
あまりの悪質さに俄には信じられないと姉に確認をとった
「ブリジットは美しい女の子が嫌いで嫌がらせをする
とても傲慢な人間だと思っていたけど、貴族女性としてなら合格なんじゃない?
ほらポールも傲慢で性格が悪いからお似合いと思っていたわ。」
身も蓋も無い事を言う。
男爵家にはかなりゴネられたが婚約は破棄した。
あんな悪女との結婚は通行料ごときでは割に合わない
姉が姪っ子を連れて里帰りし
赤子に触れたシャーロッテが
自分の家族を作るために人間になりたいと泣いた時
俺は恋に堕ちてしまった。
いやもう以前から惹かれていた
涙がトドメになっただけだ。
人形から人間に変わる薬だと
それらしい薬瓶に
蒸溜酒を詰めたものを渡した
飲んだシャーロッテは酔っぱらってすぐに眠った。
起きてすぐに結婚を申し込んだ。
人間になった(と思い込んだ)シャーロッテは
よく笑い
よく食べ
平均的な女性の体型にまで近づき
健康的に過ごしている。
それからの俺の仕事は
シャーロッテの妹
シャーロッテの叔父
シャーロッテの両親を
順番に消す事だった。
家族を欲しがるシャーロッテに本当の家族が居ることを気付かせてはならない。
侯爵家の手助けもあり
比較的簡単に事は終わった。
次の仕事はシャーロッテの新しい家族をたくさん作ることだ。
結婚して2年目に子供が1人産まれ
毎年の様に兄妹が増える
5人目を産んだ際に
シャーロッテの出血が止まらず死線をさまった。
俺はシャーロッテを失う恐怖に泣き叫んでしまった。
なんとか持ち直し回復はしたが
それ以降子供は出来ないように気をつけた。
もっと子供が欲しかったシャーロッテは不満気だったが
シャーロッテの命を無くしてまで
俺は子供を求めていない
月日は経ち
俺達は共に歳をとる
可愛かったシャーロッテは
今もシワシワで可愛いシャーロッテだ。
殆ど動けないことをいい事に
昔渡せなかった紫のリボンと
大事にしまっていたカトリーヌの水色のリボンを髪に結んでやった。
嫌な顔をしているシャーロッテも好きだ。
「家族になってくれてありがとう」
シャーロッテの脈が段々と時間をあけ
鼓動はゆっくりと止まった。
「愛しているよ。俺だけの人形」




