第100話 サプライズ
「ごめんなさいね、巻き込んじゃって」
「気にするな。まあメッセージをもらった時は驚いたが、これも良い機会だ」
苦笑いを浮かべるジャスパーだが、輝夜の無茶振りには慣れていた。
これに今更愚痴を言っても無駄。
それをよく理解していた。
「そう言ってもらえると助かる」
「それにあの子たちは、俺たちのバトルを見ておいた方がいい」
「そうね。いずれ戦う時が来るわけだし」
輝夜とジャスパーの会話は二人の要望でバトルが始まるまで観客席、控え室には届かない。
当然、実況席にいるステラも二人がなにを話しているのかわからない。
【新垣輝夜 VS ジャスパー・エバンズ バトルSTART】
「顕現せよ、ドレイク!」
「出でよ、アテナ!」
バトルが始り、ジャスパーは薫のドランバードによく似た竜人型モンスターを召喚する。
ドランバードと見た目の違いは、鱗の色と武器の有無。
ドレイクの鱗は赤く、両手で深紅の刀身の長剣を持っている。
対する輝夜は人類種のアテナを召喚する。
肩に掛からない金色の髪、蒼い目、純白の鎧に身を纏った剣士。
「ドレイク、『ドラゴンフォース』!」
「アテナ、『聖裁剣解放』!」
ドレイクの全ステータスは『ドラゴンフォース』で2倍になる。
そのステータス差を気にする素振りを見せず、アテナは『聖裁剣解放』を使う。
これによって、アテナは神々しい純白のオーラを身に纏う。
ドレイクはアテナを前に動かない。
その理由はシンプル。
アテナの『聖裁剣解放』と『聖裁剣覚醒』を警戒しているから。
『聖裁剣解放』は相手モンスターよりもステータスで劣っているほどアテナの攻撃力が上昇する。
それを知っているにも関わらず、『ドラゴンフォース』を使ったのには、当然理由がある。
アテナもそれを察している。
だから、自分から動かない。
1分ほど睨み合いが続き、ドレイクが先に動いた。
「ドレイク、『イグニスブレード』!」
「アテナ、『裁きの剣』!」
深紅の刀身に灼熱の炎を纏わせ、地上スレスレを飛びアテナへと剣を振り下ろす。
それをアテナは、眩いほどの光に包まれた剣で受け止める。
そこからは目にも止まらない攻防が繰り広げられる。
至近距離での斬り合い。
ドレイク、アテナ共にギリギリのところで剣が届かない。
2体の剣の腕が拮抗していた。
「今だドレイク、『イグニスブレス』!」
ドレイクは、アテナと斬り結びながら、口を大きく開き、特大のブレスを放つ。
至近距離で灼熱のブレスに身を晒したアテナだったが、ダメージは少ない。
ギリギリのところで『聖なる乙女の守護結界』を発動し、自身に無職透明の保護膜に近い強力な結界を張っていた。
観客席からはどよめきの声が上がる。
今の一撃で大ダメージを受けたと思った観客が多かったからだ。
だが、ジャスパーだけはこれを予想していた。
寧ろ、厄介な防御スキルをここで使わせるためにブレスを放ったと言っても過言じゃない。
ここでドレイクからアテナと距離を取った。
後ろに下がるのではなく、空へと退避。
アテナは追撃する素振りを見せることなく、ただ上空に退避したドレイクをジッと見つめる。
「ドレイク、『イグニスノヴァ』!」
「アテナ、『聖なる破滅の剣』!」
空中にいるドレイクを中心に灼熱の炎で形作られた球体が大きく膨れ上がる。
やがて、それがアテナを飲み込もうとした瞬間、一閃。
アテナの剣がそれを真っ二つに斬り裂いた。
「ドレイク、『イグニスセイバー』!」
ドレイクは、『イグニスノヴァ』を隠れ蓑にしてアテナへと接近していた。
そのまま流れるような動きでアテナを斬る。
アテナのHPは急激に減り、半分を下回る。
これを見た輝夜は不意に笑みを浮かべた。
「一気にいくよ。アテナ、『聖裁剣覚醒』『神技・戦乙女』!」
「ドレイク、『神技・ルミナスドラグブレイズ』!」
『聖裁剣覚醒』を発動すると、アテナが纏っていた神々しい純白のオーラは全て剣に移った。
その状態で放たれるアテナ最強の一撃、『神技・戦乙女』。
この神技は相手モンスターのバフを全て無視して、攻撃を叩き込むことができる。
そのため、今だけアテナとドレイクに大きなステータス差はない。
それに対して、ドレイクもまた神技を使って応える。
剣に光り輝く炎を纏わせ、柄には炎が竜の翼ような形を成していた。
その状態で振り下ろされた剣先から、光と炎が混じった竜が斬撃と共にアテナへと襲いかかる。
アテナとドレイクの神技が正面からぶつかった。
その結果、空中で爆煙を巻き起こし、2体を飲み込んだ。
それはフィールド全体に広がり、アテナとドレイクのHPバーすらも見えない。
そんな中、輝夜の声がスタジアムに響く。
「アテナ、『神裁……』!」
「待て。これで終わりだ」
【バトル END】
ジャスパーの宣言にシステムはバトルを強制終了させる。
だが、バトル終了直後とあってアテナとドレイクのHPは終了時のまま。
アテナは神技を放つ前と大差なく、ドレイクは残り3割近くまで削られていた。
「えー、いい感じに盛り上がってたのに」
「目的は果たした。決着をつけることが目的じゃないだろ」
輝夜は子供のように唇を尖らせ、駄々をこねる。
それをジャスパーは軽くあしらった。
これには観客も物足りない。
決着まで見たかったと声を上げる。
「最後まで見たかったと思うが、今日はこれで終わらせてくれ。このバトルを通して、バフとデバフで勝敗は決まらない。それを伝えたかった」
ジャスパーの言葉に異様な説得力があった。
実際に『ドラゴンフォース』で全ステータス2倍のドレイクと神技を正面からぶつけて、アテナは勝っている。
アテナだから勝てたという考え方もできるが、バトルとは創意工夫次第で勝敗が逆転する。
輝夜とジャスパーは次世代の実力者たちに自分たち頂点のバトルを見せつつ、それを伝えた。
最後はステラが足りない言葉などを実況として補足し、鬼姫とリベリオンのギルドバトルは幕を閉じた。
その後、鬼姫とリベリオンはギルドバトルの打ち上げを行った。
ロザリアがリベリオンのメンバーと打ち上げをする。
それを聞きつけた琴音が鬼姫も参加できるよう強引に捩じ込んだ。
ロザリアが打ち上げ会場として予約していた店も人が増えるのは大歓迎。
それもあって、実現したことだが。
ちなみに予約した店はロザリアが白黒学園の近くで大人気のお店として見つけたお食事処二階堂。
郁斗の実家だった。
ロザリアの目が輝いていて、誰もここが郁斗の家だと突っ込めないでいたとか。




