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嗤う11

「……まあいい。話しだが、私は第一級冒険者だ。殆どがダンジョン最前線を攻略するために、迷宮へ行くことになる。でだ、お前たちには雑事やその他諸々をやってもらうために買った。ダンジョンへ行かず、情報収集をやってもらう場合もあるが、殆どはダンジョン内での雑用だ」


「……第一級冒険者」


 クロスティがなぞるように呟く。目敏く聴いたゴールドは、普通の反応はこうだと頷きつつ。


「クロスティは分かってるようだな。ダンジョンの最も危険な場所を探索する、それが私たち第一級冒険者だ。故に、休憩するために火を起こすお前たちにも危険が付きまとう」


「馬鹿じゃないんだから、魔物が来たら匂いで分かるわ」


「……普通は分からんが。お前には期待しておこう。さて、お前たちは消耗品だが、私はどこぞの糞野郎になるつもりはない。まともな装備もやるし、飯や休憩もある」


「昼寝も良いのかしら?」


「……暇な時間で、ダンジョンで寝れる度胸があるのならな。クロスティもこれでいいか。やることは追々教えてやるつもりだ」


「奴隷にしては手厚い労働なんじゃない?」


 簡単に言ってくれる勇者を横目で見るとクロスティは首を縦に振った。


「……はい。ゴールドさん、よろしくお願いします」



 説明を終えたゴールドは二人を連れて商店を出ることにした。


 応接間に使われる小部屋を抜け、赤い絨毯が敷かれているところを歩く。途中で綺麗な壺や変な置物などに興味を引かれながら勇者も続く。


 あちこちで立ち止まる勇者に、ゴールドはため息を吐く。


「またか、早く来い」


 先を促すゴールドに振り返ると、ゴールドが呆れている隣には無表情のクロスティもいる。


 道草を食う勇者を待っているのだ。


 クロスティは装飾品に興味がないのか、それともこんな場所から早く出たいのか足を止めることはなく、ゴールドの後ろに寄り添うように追従する。


 何度目かのため息とゴールドの急き立てるお陰で、一行が商店から退出すると先頭のゴールドが口を開く。


「さて、まずは二人の装備だな。服や下着もそれだけじゃ駄目だろう」


「高いやつでもいいの?」


「……ああ。私は中層上位の前線に出るからな。せめて、一撃でやられないぐらいは整えんとな」


「ふーん、お金があるようには見えないんだけどね」


「失礼だな、お前は。主人にそんな口を聞く奴隷、見たことないぞ」


「わたしは奴隷以前に勇者だもの。主人なんかより偉いのも当然よね」


「お前が分からん。私は第一級冒険者だぞ? 名前も知られてるぐらい有名なはずだ。……本名のほうじゃないけどな」


「へえ、二つ名でもあるの?」


 勇者の問いに渋るゴールド。その様子で更に勇者は気になり、食らいつくような視線を込めてゴールドに迫る。もちろん、威圧は込めていない。


「……ソロの亡者、ゴールドだ」


 勇者のしつこい目にゴールドが嫌々と口に出すと勇者は吹き出した。


「ふふふ、何よそれ……! ダサいにもほどがあるでしょ!」


「知らんっ。私が名乗ったんじゃない」


「ぷ、あはは。金の亡者様っ!」


「……ソロの亡者だ。本当に失礼な小娘だ。お前のせいでこれから先、気苦労が増えそうだな」


「うふふ、笑える。お金要素ないのにゴールドって。ふふ、一応聞いてあげるわ。なんでそんな名前になったのよ?」


「……さあな。一人で最前線で活躍してるから、ただのやっかみだろう」


 勇者はどこをツボに入ったのか、腹を抱えている。ゴールドはこれ以上はたまらんと捨て台詞を吐いて、足早で前方へ行ってしまう。


「まずは服屋だ。私は実用性重視で服のセンスはない。お前たちが勝手に選べ」


 高級そうな店だ。店員は女性だけで、どれも身形が良く、白いカッターシャツに黒い上着を羽織っている。


 勇者もこのような場所に訪れたことはなく、初めての高級服屋に物珍しげに見渡す。


 が、あることに気付いた。


「ねえ、ここ。女性用しか売ってないわよ」


「ああ、そうだが」


「服屋はもう一軒行く予定なの?」


「なんだ、ここの服屋じゃ満足できないってのか?」


「そうじゃないわよ。男がいるじゃない。クロスティはどうするのって聞いてるの」


「本気で言ってるのか?」


 ゴールドはクロスティに視線を移す。青色の瞳は澄んでおり、髪の毛は肩より上でばっさりと切られている。目元もほとんど隠れるほどで、もう少し短ければ美少年に映えるだろう。


 勇者は奴隷となって髪が伸びた。そう、判断した。


 だが、奴隷となる前に性奴隷にならないため、髪を切ったとしたら。


「なによ……?」


「クロスティは女だぞ」


 ゴールドは歩き方から少女と見抜いたのだ。勇者はあちこちを見るのに忙しく、クロスティを観察する時間はなかった。


 だから、男と思い込んでいる勇者はゴールドへ言う。


「は? 目、腐ってんの?」


「女だ。クロスティ、間違いないよな?」


「はい、ボクは女で間違いないです」


「嘘、よね?」


「嘘じゃない。ボクは女だ」


 勇者は愕然とクロスティへ近寄る。


 どう見ても男だと思っていた。だが、よくよく近付いて見てみると女に見えなくもない。


 勇者はクロスティの胸に手を伸ばした。


「……うそ、柔らかいわ」


 勇者の手にはぷにぷにとした感触があった。


「な、なにをするんだ……!」


 クロスティが胸を庇うように手を交差するが、勇者は構わずに自分自身の胸にも手を当ててみる。


 平べったい胸。クロスティは柔らかかった。じゃあ、わたしのは?


 固いまではいかない。そもそも胸の膨らみが無い。


「……うそ、でしょ、わたしより柔らかいなんて」


 今度の勇者は柔らかいものに興奮などせず、愕然と成長しない体を見下ろし、不平を良しとする神を呪った。


 勇者は愕然としながらも服を買った。


 普段ならば可愛い服ね、などとご満悦になりながら買い物するのだが、嬉々として尻尾を振るわけでもなく、勇者は屍のようにゴールドの後を追う。


「なんで、うそよ……。わたしのほうが女の子なのに、むねが、胸がないなんてッ」


 最後のほうは吐き捨てるように地面に顔を落としているのだが、それを見かねたゴールドは勇者の肩に手を置いた。


「……個人差というものがある。お前は若いんだから成長するだろ」


 慰めだ。本来の勇者であれば、胸がでかいゴールドへ言われても無下に切り捨てる。


 しかし、ナイーブとなっている勇者は、ゆっくりと顔を上げた。すがるように声を引き絞る。


「そ、そうよね。大丈夫よね……?」


 無限の可能性がある。理を外れた勇者でも、信じたいものがあるのだった。


 地面に視線を落とし、神に不平等を呪詛のように呟いていた勇者。


 その勇者の五感が、異臭と平均より上回る魔力に気付かなかった。


 いや、それどころではなかった。そう言い替えてもいい。


 勇者が殺さなければならない者達が――活気がある人通りに、何人もの魔族がいたことに。

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