17
「二つ名は『ゼロの--」
「ルイズじゃん」
左斜め後方からツッコミが入った。ナイス詩織。
「あっ、しおりん」
「……新見さん」
詩織は陰キャだが、俺と違って燃えカス程度の社交性は残っている。ので、新見とも何度か話したことがあるようで、名字ではなくあだ名呼びだ。
てか、しおりんて。イメージとのギャップがすごい。本人、ちょっと嫌そうな顔してるし。うける(新見風)。
「なんか知ってるっぽいけど、鹿野のカノジョと知り合いなん?」
「あの、新見さん。そいつの言ってること、全部嘘だから」
「えっ、マジ?」
「そもそも、三次元の話ですらないから」
「ちょ、鹿野。マジあり得ないんだけど!」
詩織の言葉を聞いた新見が、眉根を上げて抗議してくる。
「おい詩織。お前、勘違いしてないか」
「勘違いも何もないでしょ」
「いや、そうじゃないんだよな。確かにルイズは創作上の人物かもしれない。でもな――」
「かもしれない、じゃなくて明らかに創作上の人物でしょ」
「話の腰を折るな。あのな、現実の人間と創作上のキャラクター、この違いってなんだ?」
「現実かフィクションかどうか」
「それは同義語反復だろ。適当に返すなって」
「はぁ……強いて言うなら、肉体があるかどうかじゃないの?」
「確かにそうだ。でもな、それってそんなに大きな違いなのか?」
大きな違いでしょ、とでも言いたげに、詩織の瞳が細められる。
たしかにそれが普通の反応だ。けれど、俺はそうは思わない。
「たとえば、俺と詩織が遠距離恋愛していたとして」
「そ、その前提やめて」
「いややめない。遠距離なので、二人は直接会うことはできない。となると必然的に、コミュニケーションは電話やLINE----通信媒体で行われるよな?」
「まぁ、そうね」
「仮に、俺と詩織が通話していたとしよう」
「はあ……」
「ここで質問なんだが、通話中の相手に肉体があるって証明できるか?」
「できるでしょ。だって、声が聞こえてるんだから。体が無ければ声は出せないし」
なんでか少し動揺していた様子の詩織だったが、すぐに冷静さを取り戻し鋭く反論してくる。
「いいや? もしかしたら、俺の声を模したAIかもしれない」
「そんなのありえないでしょ」
「仮定、IFの話だ。仮にそうだったとして。電話口の詩織はAIと会話しているが、当人は「彼氏である鹿野と会話している」と認識しているわけだ」
「か、彼氏じゃないし」
「話の腰を折るなって」
「……結局、何が言いたいの?」
「人間は、脳で処理された情報でしか世界を見れない。だから、実在しているかなんてことは些細な問題で、当人がどう感じるかがイチバン重要なんだ。つまり……」
眼鏡にクイっと指をあてがい、まるで真犯人を追い詰める探偵のように、高らかに宣言する。
「俺とルイズの間では、次元なんて些末な問題なのさ」
決まった……!
隙を見せぬ完璧な論理展開。あの詩織も口を半開きにして圧倒されている。
いや、もしかしたら呆れているだけじゃないか? と心の奥から声が漏れるが、そんなわけないだろ。そうだったらあまりにもピエロすぎるぞ、俺。
「あのさ、鹿野」
俺と詩織の論戦を黙って聞いていた新見が口を挟む。
「どうした、新見。俺の華麗な論理に――」
「キモ過ぎね?」
「ぐぅ」
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