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「二つ名は『ゼロの--」

「ルイズじゃん」


左斜め後方からツッコミが入った。ナイス詩織。


「あっ、しおりん」

「……新見さん」


詩織は陰キャだが、俺と違って燃えカス程度の社交性は残っている。ので、新見とも何度か話したことがあるようで、名字ではなくあだ名呼びだ。

てか、しおりんて。イメージとのギャップがすごい。本人、ちょっと嫌そうな顔してるし。うける(新見風)。


「なんか知ってるっぽいけど、鹿野のカノジョと知り合いなん?」

「あの、新見さん。そいつの言ってること、全部嘘だから」

「えっ、マジ?」

「そもそも、三次元の話ですらないから」

「ちょ、鹿野。マジあり得ないんだけど!」


詩織の言葉を聞いた新見が、眉根を上げて抗議してくる。


「おい詩織。お前、勘違いしてないか」

「勘違いも何もないでしょ」

「いや、そうじゃないんだよな。確かにルイズは創作上の人物かもしれない。でもな――」

「かもしれない、じゃなくて明らかに創作上の人物でしょ」

「話の腰を折るな。あのな、現実の人間と創作上のキャラクター、この違いってなんだ?」

「現実かフィクションかどうか」

「それは同義語反復(トートロジー)だろ。適当に返すなって」

「はぁ……強いて言うなら、肉体があるかどうかじゃないの?」

「確かにそうだ。でもな、それってそんなに大きな違いなのか?」


大きな違いでしょ、とでも言いたげに、詩織の瞳が細められる。

たしかにそれが普通の反応だ。けれど、俺はそうは思わない。


「たとえば、俺と詩織が遠距離恋愛していたとして」

「そ、その前提やめて」

「いややめない。遠距離なので、二人は直接会うことはできない。となると必然的に、コミュニケーションは電話やLINE----通信媒体で行われるよな?」

「まぁ、そうね」

「仮に、俺と詩織が通話していたとしよう」

「はあ……」

「ここで質問なんだが、通話中の相手に肉体があるって証明できるか?」

「できるでしょ。だって、声が聞こえてるんだから。体が無ければ声は出せないし」


なんでか少し動揺していた様子の詩織だったが、すぐに冷静さを取り戻し鋭く反論してくる。


「いいや? もしかしたら、俺の声を模したAIかもしれない」

「そんなのありえないでしょ」

「仮定、IFの話だ。仮にそうだったとして。電話口の詩織はAIと会話しているが、当人は「彼氏である鹿野と会話している」と認識しているわけだ」

「か、彼氏じゃないし」

「話の腰を折るなって」

「……結局、何が言いたいの?」

「人間は、脳で処理された情報でしか世界を見れない。だから、実在しているかなんてことは些細な問題で、当人がどう感じるかがイチバン重要なんだ。つまり……」


眼鏡にクイっと指をあてがい、まるで真犯人を追い詰める探偵のように、高らかに宣言する。


「俺とルイズの間では、次元なんて些末な問題なのさ」


決まった……!

隙を見せぬ完璧な論理展開。あの詩織も口を半開きにして圧倒されている。

いや、もしかしたら呆れているだけじゃないか? と心の奥から声が漏れるが、そんなわけないだろ。そうだったらあまりにもピエロすぎるぞ、俺。


「あのさ、鹿野」


俺と詩織の論戦を黙って聞いていた新見が口を挟む。


「どうした、新見。俺の華麗な論理に――」

「キモ過ぎね?」

「ぐぅ」

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