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逞しく生きてます

最終話になります

少し嫌な予感はしていたの。


元剣士の勘?ていうのかな…茶会デビューが決まって、いろんな方からお茶会のご招待を受けているのだと、エリちゃんにホクホクしながら報告したら、部屋の温度が沖縄から北海道くらいまで下がった気がしたんだよね。


暫く黙って虚空を見詰めていたエリちゃんが突然立ち上がって言った。


「家族会議だね」


わおっ懐かしいその表現…ってあれ?この世界で、ラバツコンテ家で家族会議と言えば…


次の日の夜


「この家の令嬢はミディアとは気が合わないよ、俺の事をねっとりした目でいつも見てくるしさ」


「じゃあ却下だな。あ…この家は兄が放蕩みたいだよ?軍にいる奴らが言ってた。女癖が悪いって~ミディアの精神状態に悪影響を及ぼすな」


「油断のならん子息がいる家は全て却下だ。次を持ってこい、ヤユーデ!」


「はっはい旦那様!」


何が起こっているのでしょう…多分私宛のお茶会の招待状なんだろうけど、エリちゃんがチラッと開いて見てから、ミル君に渡して…そして最終的に義父に渡して…その招待状は大きめの籐籠に入れられている。


さっきから流れ作業のようなその一連の動きを見ていると、生産工場のライン工程を見ているようだな…と思った。やがて選別作業は終わったようで、私の前には三通の招待状が並べられた。


「今月はまずこのお茶会に出てみような」


そう言ってニッコリと笑った義父のおっさん圧?に圧されて頷いたのは別にいいんだ…お茶はいいんだよ。


茶会の当日…


何故エリちゃんが一緒に来るのかな?軍の仕事あるんじゃない?有給?この世界にも有給ってあるのかな?


だからさ、エリちゃんお茶会だよ?何故そんな鋭い目で同年代の子息子女を睨みつけるんだよ…お陰で皆ビビっちゃって挨拶以外は近付いて来てくれないじゃない。


「エリお兄様…」


「もうお兄様ではないよ?名前で呼んで…」


お茶会で私に流し目なんて送る必要性を全く感じないけど?何故そんな目で見るのさっ!


結局、最初のお茶会は失敗に終わった…友達100人出来るも~ん、どころではない。


「ちょっとぉエリお兄様が来るとウザいんだけどぉ~」


と私的にイライラするであろう言い方をしてエリちゃんに釘を刺しておいたけど、全然堪えてなさそうだった。困ったなぁ…


だが、次の茶会ではエリちゃんがどーーーしても抜けれないお仕事があったらしく、ミル君が代理でついて来てくれた!よくやった!エリちゃんの仕事のローテーション組んだ人!


次の茶会では前回、顔見知りになった伯爵家の子女と男爵家子女の2人と仲良く喋ることが出来た。良かった~


「今日は…あの、怖い目つきのお兄様はいらっしゃらないのね?」


と伯爵家の子女のミルダリカ様に聞かれた。やっぱりー?気になるよねー?


どうやら前回出席した時には、あのラバツコンテ家の次男が来る!と女子達の間では大騒ぎになったらしい。そりゃあ天の御使いだもんね…見た目だけは…


ところがやって来たのは確かに見た目は天の御使いなんだけど…無愛想で何故か威嚇ばかりする堕天使だということが発覚したわけだ。


そう言えば…本日は貴族の令嬢に囲まれている、ミルデランティお義兄様を見た。


「今日いらした、長兄のミルデランティ様はお優しいし朗らかなのに…下のお兄様は怖いですわね」


男爵家子女のメニュアーデ様がズバッと言い切った。その潔い言い方嫌いじゃない!


「エリデランティ兄様はちょーーーーっと底意地が悪いのよね。見るモノ触るモノに警戒心が激しくって困っちゃうわ」


ここにはいないエリちゃんをさりげなく下げながら、話題の為に犠牲になってもらった。そして暫く世間話をした後に、ミルダリカ様は目を光らせて顔を寄せてきた。


「ねぇ?あの話本当ですの?ミディア様は既にエリデランティ様の婚約者だって…」


そう、ミルダリカ様が聞いてきた瞬間、遠くの方にいた令嬢達までもが素早く私達の側までやって来た。皆、食いつき気味だね。婚約ね~そんなに食いつくほど面白くないけどね~


「う~ん小さな頃から一緒でしょう?エリお義兄様としては気心も知れているし、家族として過ごすにはちょうどいいと思ったんじゃないかしら?」


「ミディア!?それ絶対エリィの前で言うなよ!いいかっ絶対だぞっ!」


な…何?急に走り込んできたミル君が、私の至近距離に顔を近付けて私の体をガクガク揺さぶりながら叫んでいるんだけど、ミル唾が当たってる…汚ねぇし!


ところが絶対言うなよ!とミル君が叫んでいたにも関わらず…余計なことを言う輩はどこの世界にもいるもので、エリちゃんに伝えてしまったようだ。


しかも歪曲して…


エリちゃん欠席のお茶会から数日後、メイドのムナッセが顔色を変えて、私の部屋に飛び込んで来た。


「エッ……エリ坊ちゃまが帰ってらしてっそ…」


「戻ったよ…ミディア……」


何だか…足元からひんやりと冷気が?


廊下から現れたのは、ひんやりと冷気を纏った…氷の堕天使がいたぁぁぁ!


急に帰って来たエリちゃんは、大層ご立腹だった。どうやら聞くところによると、ねっとりとした視線のご令嬢方が親の権限を使ってわざわざ軍の詰所までやって来て、エリちゃんはミディアから愛されていない、私ならあなたを愛してあげる、早く婚約を解消しろ…等々私の事を下げて下げて、簡単に言うと『ミディアと婚約解消しろ!』と令嬢方でエリちゃんに詰め寄ったらしい。


それは…お疲れだね。私でも機嫌が悪くなるわ、集団で動いて1人を攻撃というのとは違うかもだけど…兎に角、大勢で押しかけるのは良くないわ。


「何だあの女共は…ミディアあんなのと付き合ってはいけないよ?それに俺はミディアと婚姻を解消するつもりは永遠にないから、それは分かってるよね?ミディアが成人したらすぐに婚姻しないとマズいよね?うん、マズい」


エリちゃんが私に引っ付いてブツブツ何か呟いているけど、もしかして女子に囲まれて怖かったのかな…あっ!そうだよっ!?トラウマスイッチが入ったんだよ!アリフェンナのババアめっ!


「エリお兄様、大丈夫ですからね?私と共に(トラウマ克服の為に)頑張りましょう」


「……」


エリちゃんは堕天使の本領?を発揮してきて、顔を上げると見る者を魅了する…もしくは震撼させる微笑みを浮かべると


「ミディアが協力してくれるんだよね?」


と、イケボでねっちょりと囁いてくれた。ひえぇぇぇ…別の意味で耳が爛れる!?


それから…


私の傍から離れないエリちゃんは、予定より早く軍を退役してきて伯爵領の領地運営に力を注いでくれているのはいいんだけど…兎に角、私の傍から離れないエリちゃんがウザい。


そんなエリちゃんと釣り対決の再戦を何度かしたのだけど…


ミル君2勝、私1勝、パシオリティ1勝……エリちゃんは0勝だった。多分竿にさ、堕天使の黒い欲望?が駄々洩れして伝わっているんだよ。魚もビビっちゃって近付いてくれないんだよ。


「ふぃ…」


そんなエリちゃんべったりの生活を抜けだして、たまに独りでキャンプに来ている私。別に家出じゃないよ?現に距離を開けて私兵団の団員さんが警護をしてくれているしね。


私の強さも皆の知る所になっているので、余程のことがない限りは『ソロキャンプ』を邪魔されたりはしない。


ミディアです…たまには独りで焚き火を見詰めていたいのです……ミディアです。


「おっと魔獣鳥がいる…よっと!」


私は空を飛ぶ魔獣鳥に向かって手製のブーメランを投げつけた。ブーメランは綺麗な弧を描いて…魔獣鳥に当たった。


「よしっ!」


最近は狩りの腕も上がってきた。うっかりとスキップしながら落ちた魔獣鳥の所へ行こうとして…山道でズザザァァ…と転んだ。そうだった未だにスキップ出来ないんだった…


「ミディア!?」


んん?この声は…転んだ私の所に私兵と一緒に駆けて来た、イケボ堕天使の姿をゆっくりと見た。


「どうしてエリお兄様がいらっしゃいますの?」


「どうしてって…ミディアの行くところは俺の行くところだろ?」


意味不明だ…この堕天使顔でカッコイイ事言っている風を装っているけど、本当に意味不明だ。


「分かりました、ではお兄様…折角お越しなので、魔獣鳥のつみれ鍋を食べますか?」


「ツミレナビィ?ミディアの創作料理かな?勿論頂くよ」


とか…言いながらこっそり後ろを向いて小瓶に入った何かを飲んでいる堕天使。知っているよソレ!ミル君お手製の魔力回復入りの胃腸薬でしょ!料理の腕前はそこそこあるんだよ!?失礼しちゃうなぁ!


言っておくけどね~大雑把なぶっかけ飯だけどぉ魔獣鳥が良い仕事をして、出汁だけは美味しいんだからね!


魔獣鳥をキュッと絞めて…鳥団子を作っていく。鍋に鳥ガラと香草、野菜をぶっこんで出来上がった鳥団子を放り込む。味付けは塩胡椒だ!


出来上がった鳥団子をお椀に入れてエリちゃんに渡した。そう言えば…初めてアウトドアで食べるんだっけ…釣りをしても川魚は屋敷に持って帰ってたもんね。


団子汁を恐る恐る一口飲んだエリちゃんは、目を丸くした。


「美味しい!びっくりだ…ミディア凄いね」


「そうでしょう?そうでしょう?オーーーホホホ!」


立ち上がってふんぞり返って高笑いをしてみた。折角なので、護衛の皆も呼んで食べてもらった。アウトドア鍋は大好評だった。


その後、調子に乗ってエリちゃんにブーメランの投げ方を教えて投げさせたら、物凄く大きな牛?のような魔獣に偶然当たってしまい、牛もどきに追いかけられた。エリちゃんと護衛の皆で何とか倒して、これは狩猟協会に買い取ってもらうことにした。図鑑で見たんだけど牛もどきはレア魔獣みたいだし?エヘヘ…


狩猟協会までは護衛のお兄さん4人が魔獣を運んでくれるので楽ちんである。


「でも意外だね」


「何が?」


エリちゃんと手を繋いで下山しながら、ご機嫌なエリちゃんの顔を見上げる。


「エリお兄様がハンターの登録をするなんて~」


エリちゃんはチラリと私を見てから前を見た。


「あいつには負けないから…」


あいつって誰だ?


この一年でヒョロヒョロと身長の伸びたエリちゃんは下から見上げても、顔の表情は良く分からない。


「これからも…時々山でお泊りしたいな~」


「いいよ、でも俺が一緒じゃないと駄目だけど」


繋いでいるエリちゃんの手にギュッと力が籠る。いつからこんな大きな手になったのかな…もう男の人の手だ。そうか…こうやってエリちゃんがどんどん大人になっていくのか。


「私も…」


「ん?」


エリちゃんの手を握り返して微笑んだ。


「私もエリィと一緒じゃないと駄目みたい!」


私が叫ぶようにそう言うと、エリちゃんは真っ赤になって私を見下ろしていた。


「わわっ!」


「こんな所で止めて下さいよ!」


「甘酸っぱいーー!」


「屋敷に帰ってからにして下さい」


そうだった…護衛のお兄さん達がいたんだった。でもまあいいか…エリちゃんが嬉しそうに微笑んでくれるから。


それからも私は度々、山に入ってキャンプをする生活を続けている。勿論、婚姻後もエリちゃんと一緒に魔獣狩りをしたりしながら楽しんだ。そして子供が出来ても、子供達と釣りをしたり野草を摘んだり…アウトドア生活を満喫している。


そして今日も家族で山に来ている。


満点の星空の下、エリちゃんと3人の子供達と私で川の字になって寝転んでいると多幸感に包まれる。


「アウトドア最高ーーー!」


「お母様っ魔獣が来ちゃうよ!」


「しぃーー!」


「やだー!」


子供達の悲鳴のような歓喜の声が山に木霊している。エリちゃんと目が合うと声に出して笑い合った。


エリちゃんは、もうエリちゃんと呼べないほどカッコイイお兄様になっていた。まだおじさんの年じゃないよ!と本人は頑なに否定するけど、カッコイイおじさんでもいいじゃない?


だってお父さんになってもおじいちゃんになっても、いつまでも私のエリちゃんだものね。



ご読了ありがとうございました^^

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― 新着の感想 ―
[一言] ソロキャンにヒロシみがチョイ足しされててウケましたwww
[良い点] スッキリ温かい物語でほっこりしました。(嬉)
[一言] 幸せな気分になりました。 最後の描写で涙が出ました。 どうもありがとうございました。
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