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異世界には「アレ」がない!?  作者: 和口
第1章 ベスティア王国編
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【第32話】異世界には覚悟がない!?

「もう出てきていいわよ〜♪」


 エミリーに呼ばれ、恐る恐る馬車の外にでてみる。

 パッと見は特に異常は無いが、ゴツゴツとした地面に幾つか血痕がついていた。


「とりあえずこの一帯の強力な魔物は殺……追い払ったから♪ これで安心して訓練出来るでしょ?」


 (その"強力な魔物"を蹂躙するオッサンの方が怖いんだが……)


「それで? 今日の訓練はどんな事をやるんだ?」


「実戦よ。殺す気の無い私と1戦交えるより、殺す気でかかってくる敵を退けた方が圧倒的に上達するでしょ?」


 (なるほど……前にルナさんに魔法を教えてもらった時と似たような事か……)


 そんな事を考え、少し不安に感じているとヨートーが不意に笑い出した。


「くくく……ははははは! 遂に! 遂にワシが実践で輝く時が来たのじゃ! いつまでも訓練用の人形を斬っているようでは刃が鈍る! 肉じゃ! 肉を斬らせるのじゃ!」


 言ってることは危ない人その者だが、無理もない。

 忘れがちだがヨートーは武器なのだ、やはり敵を倒したいという願望があるのだろう。


「さて、ソウマにはこの辺りにうろついている低魔力の亜人族、アンデッドナイトを討伐してもらうわ」


「低魔力? 亜人族?」


 聞き慣れない単語が一気に二つ出てきて少し困惑する。


「んー……魔物にも魔力量の大小があって、それが大きいほど強いって感じかしら? 亜人族っていうのは人間っぽい魔物の総称みたいなものよ」


「なるほど……とりあえずは低魔力の弱い魔物を狩って経験を積むのか……」


「低魔力だって油断していると痛い目に遭うわよ〜♪ 体は脆いけど鎧を着ているし、王国騎士団の剣術を模倣して襲ってくるから……下手したら死ぬわよ〜♪」


 (だからポーションを持ってこいって言っていたのか……)


「それじゃ、死なない程度に頑張ってね♪」


 エミリーはそう言うと、颯爽と馬車に戻り、馬にムチを打ち、走り去っていった。


「……え?」


「ん? どうしたソウマよ」


 素っ頓狂な声を上げた俺にヨートーが尋ねる。


「いやいや! どうもこうも馬車! エミリー帰っていきやがったぞ!?」


「ふむ、確かに帰っていったが……それがどうしたのじゃ?」


 (この状況でよく落ち着いていられるな……)


 キョトンとするヨートーに言う。


「つ、ま、り!置いていかれたんだよ俺ら! 全くよくそんな落ち着いていられるな……」


「…………置いていかれた?」


「そうだよ! 俺らが乗ってきた馬車でそのまま帰っただろ!」


「………………えええええええ!? まさかの置き去りという事か!? こんな危ない所で!? どどどうするのじゃ!?」


 先程までの涼しい顔を一変させ、凄い勢いで取り乱す。

 冷静だと思っていたが、単に状況が理解出来ていなかったようだ。


「お、落ち着け! そんなデカイ声出したら……」


――ガシャ


 背後から金属が重なり合う音が聞こえる。

 振り返ってみると、案の定音の主が佇んでいた。


――全身を覆う堅固な鎧、鼻をつく死臭。


「こいつが例のアンデッドナイトか……!」


 相手もこちらの姿を捉えたのか、剣を構え、突進してくる。


「ヨートー!」


「わ、分かっておる!」


 ヨートーの手を取ると、緑の煙に包まれ、確かな手応えを感じるとすぐに戦闘態勢に入る。


 突進の勢いそのままに繰り出した初撃を回避し、空いている脇に攻撃を加える。


「ッ! やっぱり通らないか……」


 回避したままの態勢で攻撃したため、体重がかからず、鎧に刃を弾かれてしまった。


「グガ……」

 

 一旦距離を取り、態勢を立て直す。


 (敵の動きは遅い……落ち着いていけば何とかなるか?)


 先程の突進とは打って変わり、今度は様子を見ているのか、ジリジリと距離を詰めてくる。


 (ヨートー)を握り直し、今度は自ら攻めていく。

 地面を蹴り、一息で距離を詰める。


 敵は間合いを取ろうとして、剣を振るいながら後ずさるが、それをかわしながら更に距離を詰める。


「おらぁ!」


 隙を見て後ずさりする足に軽く自分の足を引っ掛け、肩で敵の胴を押す。

 すると、簡単にバランスを崩し、地面に倒れた。


「ガアアアア!」


 すかさず兜と鎧の間の隙間を突くと、1、2回痙攣した後に動かなくなった。


「ふぅ……やったか……」


 動かなくなったアンデッドナイトに目をやり、完全に絶命したのを確認した後にヨートーを鞘に納める。


「ヨートー。大丈夫か?」


 鞘に納まっているヨートーに声を掛ける。


「うえええ! だ、断面が! ちょっと見えたぞ! 凄いグロテスクじゃ!」


「その様子だと大丈夫そうだな……」


 元気そうなヨートーの声を聞きつつ、これからどうするかを考える。


 (訓練って言ってたしそのうち迎えに来るとは思うけど……魔法の訓練の時みたいに"死にかけ"までやらされるのかも……)


「ソ、ソウマ! 後ろ!」


「ッ! あ、危ねぇ……」


 ヨートーに言われなければ、恐らく直撃していたであろう剣撃が頬をかすめる。


「グ……グガ……」


 態勢を立て直し、辺りを見渡すと、いつの間にか10体前後のアンデッドナイトが集まっていた。


「マジか……1体倒すのも一苦労だったていうのに……」


 辺りに漂う死臭は先程と比べ、格段に強くなっていた。


「マズイの……多勢に無勢とはまさにこの事じゃの……」


「初めての実戦にしては過激だな……エミリーといいルナさんといい、過激な師匠ばっかりだな!」


 覚悟を決め、ヨートーを鞘から抜く。


「クソッ! かかってきやがれ! お前ら全員お子様に見せられない姿にしてやらぁ!」


「そんな事言って自分が過激な死体を晒したりしたら笑えないのう……」


「ひ、人が覚悟を決めてキリッとしてるのに怖いこと言うなよ……」




 相変わらずシリアスな展開は向いてないみたいだ。

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