【第27話】異世界には限界がない!?
――電車の到着時刻を伝えるアナウンスが鳴り響く。
(ああ、またあの夢か……)
こちらの世界に来てからというもの、この夢の世界に足を踏み入れる頻度が増えた気がする。
『あら? でもどれどけ私と離れたってあなたは私の事を忘れない。いえ、忘れられないわ』
彼女はそう言うと、黄色い線を越え、1歩前に踏み出した。
何度も見た光景だ。
そしていつものように電車の白い車体を鮮血で赤く染め、夢は終わる……はずだった。
しかし、今回は違った。
不意に視点がギルド内に切り替わり、目の前には彼女がいた。
『あなたは私を受け入れなかった。その結果が"あの一件"に繋がったのよ? それなのにまだこりていないのね』
彼女の周りに幾つかの人影が現れる。
――レナ、メル、エミリー、ルナさん、スラッグさん。
『同じ事を繰り返すのは馬鹿のやることよ、少なくとも、私が欲したあなたは馬鹿じゃなかったはずよ』
いつの間に出したのか、彼女の左手には長い槍が握られていた。
――直後、その槍でレナを貫く。
床は血で汚れ、返り血を浴びた彼女は恍惚としていた。
『やっ……やめろ!』
彼女がメルに槍を向けた所で、止めようと駆け出す。
しかし、彼女との距離は縮まらず、2人目も止められなかった。
――3人、4人、5人と貫き、こちらを向いた彼女は相変わらず不自然な笑顔を顔に貼り付けたまま、俺にゆっくりと近づく
『がっ……あああああああ!?』
苦痛に顔を歪め、早くこの夢が覚めることを祈る。
『あなたは幸せにはなれない。私を殺すか、私と生きない限りは』
彼女は俺に語りかけながら傷口をえぐり、弄ぶ。
『近いうちに選んでもらうわ。私としては後者をオススメするけどね』
腹から抜いた槍を俺の顔に狙いを定め、振りかぶる。
――――――――――――――――――――――
「っ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
エミリーに手痛くやられたはずだが……不思議と痛みは残っていない。
「なかなか起きないから心配したんですよ!」
「メ、メルか……」
メルの姿を見据えたところで、先程の悪夢が脳裏に蘇る。
今までも悪夢を見ることはよくあったが、いつもは"彼女"の最後を見届ける事で、夢の世界から抜け出せれたのだが……
(疲れが溜まってただけか……? それともまだ……)
「あ、あの……どうかしましたか……?」
「あ……ああ、何でもないよ」
いつの間にか、かなり険しい顔をしていたみたいだ。
やはり"彼女"の事を考えるだけで気分が悪くなる。
「体は痛みませんか?」
メルにそう言われ、自分の体を一通り見渡す。
あれだけ凄まじい攻撃を受けたにも関わらず、アザの1つも見つからなかった。
「いや、むしろ調子が良いくらいだけど……メルが看病してくれたのか?」
すぐそばのテーブルを見てみると、包帯や怪しい色の液体が所狭しと並べられていた。
「はい……回復魔法をかけても治りきらなかったので、レナさんに手伝ってもらったんですが……本当に大丈夫ですか? レナさんがありったけのポーションぶっかけてたので……副作用とか……」
レナ……まさか悪夢の原因って……
「ソウマさーん! 大丈夫ですか!?」
ドアが勢いよく開き、レナが飛び込んでくる。
「あっ! 良かった! 生きてたんですね! いやーポーションの量間違えちゃって……まあ、結果オーラいだだだだだだだ!?」
レナが言い終わらぬうちにアイアンクローをお見舞いする。
「こっ、殺す気かぁ!? あのポーションの量はおかしいだろ!」
「ちょっと間違えただけですよ! 死んでないんだしいいじゃないですか!」
レナが悪びれる様子もなく、俺の手から抜け出す。
「はあ……そういえば俺ってどれだけ寝てたんだ?」
窓の外を見ると、もうすっかり辺りは暗くなっている。
窓から外を覗くと、もう真っ暗になっていた。
「うーん……かれこれ2日くらいですかね?」
「2日!?」
(と言うことは2日の間、俺は飲まず食わずだったわけか……)
そんな事を考えると、先程までは感じていなかった空腹感に襲われる。
――――――――――――――――――――――
「はぁ……うまい……」
酒場で軽い食べ物を注文し、先に来た飲み物を飲み干す。
五臓六腑に染み渡るとはまさにこの事だと感じた。
「あら? 元気そうねぇ♪」
料理を運んできたのはエミリーだった。
その姿は俺をボコボコにした時の鬼神仕様ではなく、いつもの怪しいオカマスタイルだった。
「エミリー……俺は素人なんだからもう少し手加減をな……」
「あら? あれでも手加減した方だったんだけど……」
手加減してあの実力なら、本気になったらどうなるんだ……?
恐るべし鬼神。
「まああそこまでヤッたのはソウマの限界を確認するためよ。限界を超えるにはまず限界を知らなきゃねぇ♪ あ、ちなみに明日もまたボコボコにする訳じゃないから安心して♪」
「あ、明日も? まさかあの訓練って毎日やるのか!?」
「もちろんよ。あまり時間も無いし……」
運動が苦手な俺にとっては死刑宣告のようなものだった。
(まじか……ていうかそれより毎日エミリーと2人きりってのも嫌だな……貞操的に)
そんな事を思いながら運ばれてきた料理を食べ始める。
訓練にヨートーを持っていくことは完全に忘れていた。




