第六話 魔王は勇者より仲間がいっぱい
「外国から引っ越してきました!! 黒城 魔王子です!! よろしく頼みます!!」
え、えええええええええええええええ……!!
「なぁなぁ!! ゆーま!! あの娘!! めっちゃかわええなぁ!! 帰国子女やって!!」
斜め前の席の平太が、興奮して俺に話しかけてきている様だが全く耳に入らない。
「よーし、みんな仲良くしてやってくれ。じゃあ席は……えーと、あそこ、悠馬の隣な」
なにぃ!?
「じゃあ悠馬。お隣さんの好だ。学校を案内してやれ」
なにぃぃいい!?
そして、魔王子は、俺を見て一瞬だけ口の端をあげた。瞬時に元の顔に戻ったが、その顔は確かに、いつも見せていた、あの邪悪な笑みだった。
間違いない!! あいつ!! 先生を服従させてやがる!!
「えぇなぁ〜〜!! わいも、あんな可愛い娘を案内してやりたいわ〜〜!!」
譲れるもんなら、この無知な陽気馬鹿に譲ってやりたい。だが、そうはいかんだろうな……。
「それじゃ、黒城、席についてくれ」
返事はせずに、俺の隣の席、教室の一番後ろの列で、廊下から二番目の席に座った。
席に移動する間、他の生徒は、魔王子の事をじーっと見つめていた。転校生の珍しさもあるが、その可愛さが理由だろう。
「じゃあ、これで朝のホームルームを終わるが……。何かある奴はいるか?」
「はい」
そう言って手を挙げたのは、このクラスの学級委員長、白義 櫻子だ。
彼女は風紀委員も兼任しており、そのリーダー気質と持ち前の明るさにより、周囲からの信頼も厚い。一部の生徒からは『サク姉』と呼ばれて尊敬されている。
何度か女の子から告白されたこともあるとか……。
「おー、どうした? 櫻子」
「はい、魔王子さんの学校案内、私が引き受けたいと思います!! 風紀委員として、学級委員長として、私の役目だと思いますから!!」
周囲から、『おぉ』という歓声と拍手の音が上がった。
一方の先生は、冷や汗を垂らして、チラチラと席に座る魔王子を見ている。
魔王子はしばし、考える仕草をしてから、答えた。
「じゃあ、よろしくお願いします。えーっと……櫻子さん?」
「よろしく!!」
櫻子さんの笑顔がまぶしい。ありがとう櫻子さん。
そうして、朝のホームルームが終わった。
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四時間目終了を告げるチャイムがなり、時間は昼休みに入った。
魔王子はというと、俺の隣の席でありながら、休み時間には他の生徒に囲まれ、授業中にも、魔王子の前の席の平太に捕まり、俺とは話せていない状況だ。
魔王子はイライラを募らせているようだった。もっとも、それを他の生徒には見せないようにしているが……。
昼休みが始まると、すぐさま横を向き、俺と話そうとしたようだったが……。
「な、なぁ、ゆーま……」
「魔王子ちゃん!! それじゃあ学校案内に行こうか!!」
櫻子に捕まり、またしても俺との会話ができない状況になった。
俺としては少し複雑だな……。
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いよいよ帰りのホームルームの時間になった。
特に連絡もなく、普通の生徒には退屈な時間だったろうが、隣の魔王子がもはや隠す様子もなく不機嫌だったので、俺は内心ヒヤヒヤしていた。
よく見ると、膝や首に絆創膏が貼ってある。何かあったのだろうか?
ホームルームが終わると、魔王子が俺に必死に話しかけようとしてきたが……。
「おい、ゆーま!! 一緒に帰ら……」
「なぁなぁ!! 魔王子ちゃん!! もし良かったら一緒に帰らへんかぁ!! ……あれ?」
『ブチッ』
あっ、魔王子がキレる音がした。
空気を読まない陽気馬鹿の両頰が掴まれる。
「ごめんね〜〜平太く〜〜ん? 私今ちょ〜〜っと悠馬くんとお話したいから〜〜黙っててくれる〜〜?」
他の人からは死角となっていて、何をしているかは分からないが、見えている平太にとっては、魔王子の突然の変化が恐怖にうつっただろう。
「ま、魔王子、それぐらいにして……」
俺が話しかけると、魔王子の顔がパアァァッと明るくなり、掴んでいた平太の両頬をかなぐり捨てた。
「そうだね!! 悠馬くん!! じゃあ一緒に帰ろっか!!」
そう言って魔王子は、俺の手を引いて、理科棟まで連れ出した。辺りは誰もいない。
「お、おい魔王子? なんでここに連れ出したんだ?」
「周りに聞かれてはいけない話をするためじゃ。少しは考えんかマヌケが!!」
やはり気が立っているようだ。このままではまた痛い目にあうかもしれん。
「おい、あいつは何者じゃ!! あの櫻子とかいうやつ!!」
「え? 櫻子? ……別に……ただの女子じゃないのか?」
櫻子がどうかしたのだろうか。確か魔王子の学校案内をしたはずだが……。
「ふん、本性は表していないといったところかのぉ……だがアヤツには、裏があるぞ」
「ま、まさか!? そんな訳が!?」
「まさかあんな奴がいるとはのぉ……。これは早急に僕を集めなければならん。我を案内しろ!!」
「あ、案内ってどこに?」
「強そうな奴のいるところじゃ!!」
いや、出来るわけないだろそんなこと。案内したらその人が僕にされかねない……。ってめっちゃ睨まれてる。コレは案内するしかないわ。
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ボクシング部前
「ここに強いやつらがいるんじゃな?」
「いや、いるけど……本当にやるのか?」
「ふん」
『ガチャ』
ドアを開けると、当然のことながら、ボクシング部が活動していた。不良の様な、ガラの悪い面々が揃っている。
「おい、何だ? マネージャー希望か? ……それとも入部希望者か? ガハハッ……へぶっ!?」
魔王子は話しかけてきたガラの悪い部員を、渾身の左ストレートで、ノックアウトさせた。
「貴様らと無駄口を叩きにきた訳じゃない事は確かじゃあ。全員、問答無用で叩き潰すからじっとしておれ」
俺を含め、その場にいた全員が、多少なりとも恐怖を感じた。しかし、部員達は恐怖を払拭するためか……叫び声をあげ、魔王子に飛びかかっていった。
「うおあああああああああ……グエッ!?」
「なめんなぁあああああああい……ガフォッ!?」
魔王子は、一人には喉に蹴りを食らわし、一人には胸板へ強烈な突きを繰り出し、そのどれもを宣言通り一撃で叩き潰していった。
「そっちから来てくれるとは……クフフッ!! 効率的じゃなぁ〜〜!! クフッ!!」
いつの間にか、魔王子の機嫌も治った様子である。いや、だがこれは……良かったとは言えないよな……うん……。
「クフッ!! 恐怖を植えつけてやったぞぉ。クフフッ!! 見てたかぁ? ゆーまぁ? 次に起きる頃には全員、我が僕になっておるぞぉ?」
ものの五分とかからず、ボクシング部の部員、総勢十二名の制圧、もとい僕化が完了した。
「あ、あぁ。す、凄い強かったな。じゃ、じゃあ帰るか」
「なぁにを言ってるんじゃぁ? クフフッ!! 僕の数がまだまだ足りないじゃろぉ? 次じゃぁ、案内せよ。クフッ!!」
あっ、この学校終わったな。