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第十三話 恋敵は仲がいい

 《放課後》


「のぅ、ゆーま!!一緒に帰るぞ!!」


 学校が終わってそうそう、魔王子が言ってきた。今日は一日魔王子ともそこそこ会話ができたし、平太も怖がってはいたが、少しは話していたようだ。


 それにしても、魔王子の頭の良さには眼を見張るものがある。先生の質問には全て答えるし、俺や他のクラスメートが解き方を聞いても、丁寧に答えてくれる。


 また、櫻子と仲が良い事もあって、二人してすっかり高嶺の花だ。俺にどうやって仲良くなったのか他のクラスから聞きに来る奴がいるほどである。


 そんなものは俺が知りたい。どうして俺はこの魔王と仲良くなれたんだろうか……。まぁ、お隣さんだしな。


「ほら、早く帰るぞ!!ヤツが来る前にのぉ!!」


「ヤツ?それって……」


「私のことかなぁ!!ずるいぞ?抜け駆けするのは」


 櫻子が、俺と魔王子の間に飛び出してきた。


「ちっ。捕まったか」


「もー、なんでそういう言い方するの!!私だって悠馬くんと一緒に帰りたいのに」


 櫻子の声に、教室に残っている生徒の何人かがこちらを向く。かなり気まずい。


「ちょっ!!声が大きいって!!」


 あの騒動以来、俺と櫻子の距離も縮まってきた。正直、みんなから『何故っ?』て目で見られているので結構辛いものがある。櫻子はそう思ってないみたいだが。


「ま、でも私は、これから風紀委員の仕事があるし、一緒には帰れないけどねー。どうぞ、二人でごゆっくり帰ってね!!」


「ふん、そりゃせいせいするのぉ。ほら、行くぞ。ゆーま」


「それじゃあ、今日遊びに行くからねー!!」


 魔王子は返事をせずに、俺の手を引いた。


 ______________________________________


 《帰り道》


 学校をでてしばらくしたが、俺と魔王子はまだ手をつないでいる。


 魔王子が気付いていないのか……。意図的なのか……。


「お、おい魔王子。学校から出ても、ずっと手をつないでるんだが……」


「分かっておるわ。黙って握っておれ」


 意図的だったらしい……。しかし、何を話せばいいんだろうか?とりあえず軽い質問でもするか?


「な、なぁ、魔王子。魔王子は部屋で、いつもは何をしているんだ?」


「あー?そうじゃなあ?主にやっていることといえば……(しもべのしつけぐらいかのぉ?」


 軽い質問じゃなかった……。


「じゃ、じゃあ、魔王子はどんなものが好きなんだ?」


「うーん?やはり従順なしもべかのぉ?」


 やっぱり……。


「あ、あと、もちろん悠馬を好いておるなぁ」


 魔王子がこちらを見てニヤリと笑う。いたずらっぽい子供の笑みにも見えるし、大人の艶っぽい微笑みにも見える。


「そ、そうだ。怪我は大丈夫か?なんか、外見はいつもと変わってないが……」


「うーん、まぁ顔は傷つかなかったからのぉ。撃たれた傷は、自らに催眠をかけたのじゃ。全く痛くないってのお?」


「そ、そんなことができるのか?」


「我を誰だと思っているんじゃぁ?自分に催眠をかけることなんて余裕じゃ。余裕すぎる。クフフッ!!」


「そ、そうか。すごいんだな」


「あぁ。我は凄い。今更気付いたのかぁ?クフッ!!」


 ……もしかしたら、この自然な流れなら聞けるかもしれない。ずっと思っていたこのことを。


「俺の……どこを好きになったんだ?」


 この質問はきっと魔王子を困らせる。慌てさせる。そう思っていたが、意外とそうはならなかった。


 魔王子は俺の顔をまじまじと見つめていた。その顔は、微妙に微笑んでいて、余裕すら感じさせた。


「クフッ。愚問じゃなあ。ゆーま。ゆーまは昨日、我を引き止めてくれたであろう?確かセリフは『お前が心配なんだ。お前に傷ついて欲しくない。隣人として、友達として……お前が傷つくのは嫌だ』じゃったかのぅ? クフフッ!!」


 改めて言われると、死ぬほど恥ずかしいんだが……。てか、よくこんなセリフを言えたもんだ。あの時の俺、まじすげーわ。


「思えば、我は誰かに心配されることなんてなかったからのぉ……。ゆーまは確かに我より弱っちいが、頼りたいと思えた……。クフッ!! それだけのことじゃぁ。クフフッ!!案外恥ずかしいのぉ?」


 魔王子は手をギュッと強く握った。無意識なのか……。意図的なのか……。


 それから俺たちは、何も喋ることなくアパートまで歩いた。


 だが、気まずいということはなく、むしろ、何となく幸せな気持ちになれていた。


 魔王子もそう思っただろうか?


 俺としては、そう思っていて欲しいところだ。


 ______________________________________


 アパートの階段を上がると、そこに、ヒメが待っていた。


「あれ、ヒメじゃないか?どうしてここに?」


「あー、ちょっと早く来すぎちゃったかなー?悠馬くんファンクラブ早くやりたいと思ってさー?」


 本当にやるのか……。


「貴様は、朝の……あぁ、そう言えば、そんなもんをやるって言っておったのぉ。ちょうど櫻子もきたみたいじゃ」


 外を見ると、黒塗りの高級車がアパートの前に止まり、中から櫻子が出てくるのが見えた。


 幾ら何でも早すぎるんじゃないのか……?風紀委員の仕事はどうしたんだ……?


 櫻子が階段を上がってくると、快活にハッキリと言った。


「風紀委員の仕事、面倒臭いから早く抜けてきたよ!!」


 そんなにハッキリ堂々と言うことじゃないだろ。


「大丈夫だって、私、普段人の二倍ぐらい仕事してるから。今日ぐらい休んだって変わんないよ!!とりあえず中に入ろうか!!」


「それは我の言うべきセリフじゃぁ。まったく。それじゃあ、しもべをゆーまの部屋に入れるとするか」


「ちょっ!?なんで俺の部屋に!?」


「なんじゃぁ?これからこの部屋は女の子三人の空間じゃぁ。それとも、もう一つ隣の部屋の住人もしもべにして、そっちにいれるか?クフフッ!」


 それはやばい。このアパートの住民がすべて魔王の僕になってしまう。


「く、くっそー!この悪魔ぁ!!」


  「魔王じゃぁ。クフフッ!!それじゃ、お前ら二人は入るがいい。谷中ぁ!!他の僕を連れてゆーまの部屋に移動せよッ!!」


「はい!!分かりましたッッッ!!」


 部屋の奥から、元大家の谷中さんの声が響く。……かわいそうに。てか、勇子はどうしようか。うーん、まぁ大丈夫だろ。


 そう思って、勇子に話したところ……。


「魔王の手先を入れてやる義理はない。どっかほっつき歩いてろ」


 無慈悲な……。


「それじゃあ、行きますか悠馬様」


「いや、俺は……」


「行きますか」


「……」


「行きますか」


「……うん」


 俺はこのおっさん達とどこへ行けばいいのだろうか……。







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