第十二話 勇者は恋人を選ぶ時結構悩む
櫻子が帰った後、部屋にやっと帰れた俺は、その日はもう九時半を回っていて、疲れが溜まっていたので、そのまま布団をしいて、ぐっすりと眠ってしまった。
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翌朝
「う……ん……あ?いい匂い……。はっ!?」
朝、目を覚ました俺は何かを炒める音と匂いを感じた。
とてもいい匂いだったが、勇子が作っている光景が目に入り、昨日のようなカラスと雑草の朝ごはんではないかと、不安に思い、飛び起きた。
「お、おはよう、勇子。な、何を作ってるんだ?昨日のゴタゴタで疲れているだろう?俺が作ってやるから休んだらどうだ?ハハ…」
何かを炒めながら、勇子は上目遣いで俺をジッと見つめる。
「いや、私は言わば居候だ。何かをしなきゃ気がすまん。それに、分かってるぞ?カラスが本当は苦手なんだろ?気を遣わせてすまなかったな」
ゆ、勇子……!! お前はそこまで俺のことを……!!
「今度はカエルを使った料理だ!!きっとお前も美味しいって思うぞぉ!!」
満面の笑みで言われた……。やっぱ俺のこと分かってねーわ……。まぁ食べるけどね?……てか都会でよくカエル見つけてきたな……。
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人間の慣れは怖い、カエルも充分に拒絶する対象ではあるのだが、カラスよりはマシだと思ってしまった。
つまり、カラスほどの抵抗感がカエルには無かったのだ。驚くべきことだ。
「カエルも初めて食べた……。なかなか……。いや、考えるのはよそう……」
俺は、カエルの後味を感じながら、学校の準備をしていた。
「ん、そろそろヒメが来るな」
そろそろ幼馴染のヒメが来る頃なので、それまで部屋でのんびりしてよう。
『ピーン ポーン』
「お?来たか?」
俺は、ちょうどよくヒメが来たと思い、ドアを開けた。
「よぉヒ…め…?」
「ひめ?誰じゃ?それは。我は魔王じゃが」
「きっと魔王子ちゃんが可愛すぎて、お姫様に見えちゃったんだよ!!」
だが、そこにいたのは、魔王子と、昨日と違って快活な、いつもの櫻子だった。
「なん……で?」
「我が知りたいわ!!こやつが朝から我を訪ねて来て、我とゆーまで登校したいと聞かんのじゃ!!」
「えー?魔王子ちゃんだって悠馬くんと行きたいくせに!!」
「ふん、そんなこと一言も言うとらんわ」
「ま、まぁ二人とも……ってあれ?」
二人の後ろを見ると、ヒメがいるのが見えた。だが、距離をとってこっちに来ようとしない。
「……?おい、ヒメ何やって……?」
ヒメは俺の呼びかけに気付いているようだが、一向に近づこうとしない。
「そ、そうだよねー。ユウくんも、もう高校二年生だもんねー。か、彼女くらい……できるよね。彼女の一人や二人……カッコいいもんねー……」
そういってヒメは走って行ってしまった。
「お、おい、待て!!どうしたんだ!?」
後を追わなきゃいけない。そう思った。ここで追わなかったら、ヒメとの距離が遠くなってしまう気がした。
「ちょっと!!悠馬くん!?……行っちゃった」
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「おい!!待てって!!」
ヒメはしばらく逃げていたが、追いつかれると分かったのか徐々に速度を緩め、歩きながら俺を待つようだった。
「おい、ヒメ?どうしたんだよ?」
やっと追いついたが、ヒメは顔を伏せている。表情が読み取れない。
「何でもない……」
「何でもない訳ないだろう?何があったか言ってみろよ」
相変わらず表情は読み取れない、だが、ヒメの様子は明らかに違う。体全体を震わせて、何かを堪えてるようだった。
「……悲しいの」
「え?」
「……ユウくんは……ずっと……私がそばにいてぇ……そばにいなきゃ……そう……思ってたのにぃ……私がいなくても……ユウくんは……大丈夫になってぇ……グスッ……悲しいのよぉ」
ヒメは涙をこらえていたのだ。だが、話し始めると、堰を切ったように、とめどなく涙が溢れた。
俺が遠くに行ってしまう?なんでそんなことを思ったんだろうか?そんな心配は不要だろう。
「なぁ。ヒメ?俺がいつ、ヒメが側にいなくても大丈夫って言ったんだよ?」
「……ふぇ?だ、だってあの二人は……」
「あ、あれはただの友達だ!!だけどヒメは昔からの幼馴染だし。俺にとって特別な存在っていうか……まぁ、あれだ。一緒にいて落ち着くんだ。これからも迷惑かけてやるから覚悟しろよ」
「ふぇ?そうなの?……良かったぁ。グスッ……ごめんね……ユウくん。私、安心したよ……」
そう言って、ヒメはいつものように笑ってくれた。結局、俺はこの笑顔が有る限り、ヒメから離れることはないかもしれない。安心感がすごいね。
「そ、それじゃあもう結構きちゃったけどー、歩こうかー?ユウくん」
「あ、あぁそうだな」
すっかりいつもの櫻子になったが、なんとなく照れくさそうだ。
そうして、二人で歩き始めようとした時、何者かが俺の肩を掴んだ。
「のぅ?お二人さん?我も一緒でいいか?」
「すごーい!!悠馬くんってすごいモテるんだね!!やっぱりカッコいいよ!!」
振り向くと、そこには魔王子と櫻子がいた。まさか全部聞いていたのか……?恥ずかしいぞこれは……。
「ねぇねぇ、あなたって悠馬くんの幼馴染の藤咲 愛姫ちゃんでしょ?」
「えー?なんで知ってるのー?私あなたと会ったことあったっけ?」
「フフッ、色々と知る手段はあるんだよ?」
おおかた、俺の周辺をあらかじめ調べられているのだろう。……不安が押し寄せてくるな。
「ねぇ、魔王子ちゃん?愛姫ちゃんも、仲間にいれてあげようよ!!」
「ん?仲間?我の僕に加えるということか?」
「もー、違うよ」
櫻子は指を立てて、チッチッチと振る仕草をした。
「悠馬くんを愛する人として、友達になろうってこと!!」
……おい。それは本人の前で言う事じゃないんじゃないか?というか、ヒメはそんなんじゃないぞ。
「あなた達も悠馬くんの事が好きなのー?」
ヒメが二人の顔を覗き込む。
「うん!!大好きだよ!!」
「わ、我は……まぁ、一応な」
……照れくさいわ!!というか、ヒメの好きはそういう好きじゃないだろ。幼馴染としての友達って感じの好きだろ。
「愛姫ちゃんも、悠馬くんを愛してるんでしょう?」
全く聞いてられんな。世の中そう極端じゃないんだ。ここはヒメに助け舟を出してやるか。
「おい、さっきから聞いてれば、ヒメは幼馴染でそんなんじゃ…….」
「愛してるよー?ユウくんのこと」
…………………はぇ?
「だってー、東京に来たのだってー、近くに引っ越したのだってー、ユウくんと離れたくないからだし。小学三年生くらいから好きだったんだけどなぁー。気付いてくれないんだもんなぁー。ふふっ」
「じょ、冗談だよなぁ?」
「ううん。じょーだんじゃないよ?いっつも通学の時はドキドキしてたんだよー?」
……え!?……ま、まじかぁぁああああああああ!?そんなことが!?
「クフフッ!!ここにも我の恋敵がいたようじゃなぁ!!」
「よーし、この勢いで、悠馬くんファンクラブでも作りますか!!メンバーはこの三人で!!今日の午後四時から!!魔王子ちゃんの部屋ね!!集まろう!!」
「な、なんじゃそれは!? 何でそんなモノに我が参加せねば……」
「おもしろそー。 ユウくんのちっちゃい頃の写真とか持ってこよーか?」
「むぅ、参加してやらんこともないのぉ」
……やばい。何故か俺のファンクラブが結成されようとしている。ちょっと嬉しいが…….。俺の個人情報がだだ漏れるだろこれは。
「それじゃ、私達は学校に行ってるから!!あとは愛姫ちゃんと、悠馬くんで頑張れ!!」
そう言って、二人は俺たちを残して足早に投稿していった。
「ちょっ!?ちょっと待っ……」
「ねぇ、ユウくん?」
「な、なな、何?」
落ち着け、動揺しているぞ。深呼吸、深呼吸。
「改めて言わせてね」
「え?」
ヒメは俺の目をジッと見つめている。
「ずっと前から好きでした」
空気を読んだかのように、風が二人の間を通り抜けた。俺は……なんて答えればいいんだろう。
「フフッ……こういうの照れくさいねー?」
「ひ、ヒメ、俺は」
「いいよ。言わないでも」
「え」
「私の気持ち、知ってもらいたかっただけだもん。すっきりしたよ。答えなんか聞かなくてもいいよー。だって私達って、側にいて安心しあえる。そういう関係でしょ?それなら友達だって、恋人だって変わらないよー?」
「で、でもさ」
「大事なのは、ずっと一緒に居られるってこと。簡単なようで意外と難しいもんだよー?」
「……そうか」
「じゃあ歩こっか?」
「あぁ。……俺からも一つ言わせてくれ」
「ん?」
「ずっと一緒にいような」
「……うん!!」
そうして、俺たちはいつものように歩き出し
た。いつものように。
学校には五分遅れたけど。




