二章
前回に比べると、文章がもっと酷くなっているような気が、ってかなってますね。
内容は、物語の核心に触れる第一歩、というところですね。
よろしくお願いします。
2章
激しい雨の音で、僕は目を覚ました。
時計は[5時52分]を指していた。
「やっぱ、はや」
布団から出て、窓の外の景色を見る。まだあまり日は登っておらず、雨雲のせいでもあるのか辺りは真っ暗だった。
階段を下りて、玄関で長靴を履く。扉を開け、一番最初に目に入った光景……
ずぶ濡れの黒ネコ
「おいおいおい……」
外の傘置きから傘を二本抜き、一本は僕に、もう一本は黒ネコにさした。
ポストに入っている新聞紙は、濡れないようビニールに丁寧に包まれていた。
黒ネコは、依然としてそこから動こうとはしない。
「びしょびしょだよ?」
「……」
「風邪ひくよ?」
「……」
「……もう」
僕は黒ネコに近づくと、服の袖で黒ネコの体を拭いてやる。
逃げるかと思ったが、そんなことはなく、むしろ黒ネコは僕に甘えるようにして体を擦り付けてきた。
「意外と人懐っこいのか……」
屈んだ状態で僕が傘を地面に立て置き、もう片方の手で黒ネコの頭を撫でようとした時だった。
「智希」
「えっ……」
思わず伸ばしかけていた手を止め、僕は黒ネコの顔を覗き込む。
黒ネコは「?」という顔で首を傾けると、「にゃー」と鳴き、土砂降りの雨の中に飛び出していった。
「あっ……」
『智希』
黒ネコは確かに僕の名前を呼んだ。でもありえない、動物が人の言葉を話すだなんて……。
しかもあの少しクセのある言い方、冬子に似てる……?
『智希!』
何度も僕の頭の中で木霊する。僕はあの黒ネコに名前を教えた覚えはない。一体どうやって……
「智希!!」
僕にしか聞こえていないと思っていた声の主は、母だと気付いた。
僕は寝ていたソファーから飛び跳ねるようにして起きた。
「どうしたの?こんなところで寝て」
『夢?』
黒ネコが僕の名前を呼んだのは、夢だったのか……?
「いいから、はやく朝ごはん食べちゃいなさい」
「…はい」
美味しそうな朝食が並べられた食卓につき、椅子に座った僕は父を見る。その父の手には、今日の新聞がしっかりと握られていた。
黒ネコは僕を「智希」と確実に呼んだ。
朝食を食べ終わった僕は、急いで服を着替えた。
今日、行こう。冬子の家に。
土砂降りだった雨は、昼を過ぎると同時に小雨になり、僕はその時を待っていましたと言わんばかりの勢いで、家を飛び出した。
二十分ほどバスに揺られ、いつもの堤防に着いた。
午前中の雨のせいか、今日は満ち潮だった。
小雨の中を、僕は持ってきた折りたたみ傘をさしながら冬子の家を目指す。途中、冬子のお墓参りに行こうかとも考えたが、家で会えることだしやめることにした。
一軒家である冬子の家は、築80年の木造建築で台風が来たら跡形もなく吹き飛びそうなほど朽ちていた。
チャイムを鳴らすと、「ぶー」と家の中が振動するほどの音が鳴った。
「はーい」と冬子の父親の声が聞こえた。
「ガラガラガラッ」と軋んだ音をたて開いた扉の向こうには、僕の姿を見て頬を緩ませた冬子の父親がいた。
「どうしたの、智希君?」
「いきなりすいません……今日は、ちょっとお父さんに聞きたい事があって来ました」
「聞きたい事?」
「はい……」
冬子の父親はなにか決心したような顔になると、瞬時にいつもの笑顔になった。
「まぁ、中入ってよ。濡れたら風邪ひいちゃうし」
「あ、はい」
折りたたみ傘を閉じ玄関の外に置くと、冬子の家に入った。冬子に似た、いい匂いがする。
「こっち、こっち」
冬子の父親に呼ばれ、居間に入った。10畳ほどの居間には、古びた円卓と木造タンス、その場に似合わない大型テレビなどが置かれていた。
「座ってていいから」
「はい」
僕は示された座布団に腰を下ろす。
辺りを見渡すと、一枚の写真が目に入った。
冬子の父親と母親が、冬子の隣に立ち笑顔で写っている写真だった。その後ろには大きな池。
「ああ、これね」
冬子の父親が、お茶を乗せたお盆を持ってきながら言った。
僕はお茶を受け取り「ありがとうございます」とお礼を言うと、一口飲んだ。
「この写真はね、冬子と一緒に撮った、最後の写真なんだ」
冬子の父親は、一言一言を噛み締めるように言った。
「えっと……一ヶ月前ぐらいだったかな?『鴨野ボート』ってあるでしょ。あそこの家族三人でいったんだ。母さんの誕生日でね」
『鴨野ボート』は近くに流れる鴨野川に隣接する小さなボート貸出店で、地元では有名なデートスポットの一つである。僕と冬子も付き合いたての時、ここで一度デートをしたことがあった。
「まさか、これが最後になるなんてねぇ……」
「……」
僕は残ったお茶を一気に飲み干すと、目の前に座っている冬子の父親に向き直り、目を見つめた。
「お父さん……」
「……どうしたんだい?」
「あの……」
僕は少しためらい、決心し言葉を紡いだ。
「冬子の事故について、話を聞きたいんです」
「……」
冬子の父親は黙り込んでしまった。
やはり、聞いたのはまずかっただろうか。自分の大切な娘が、亡くなった時のことを話すのだから。
「あの日、冬子は部活の帰りだったんだ」
長い沈黙を破ったのは、冬子の父親の深みのある真剣な声だった。
僕は一言も発さず、冬子の父親が続きを話すのを待つ。
「その日、私たちは外食をするつもりだったんだ。私と母さんの結婚記念日でね。私たちだけで祝っても良かったんだが、私もお祝いしたいと冬子が聞かなくてね。私たちは、家で冬子の帰りを待っていたんだ。智希君には、ただ単にトラックに轢かれたとしか、言ってないよね?」
「はい」
「実はね……冬子は、猫をかばって、死んだんだ」
「えっ……」
冬子の父親は、目に薄らと涙を浮かべながら続けた。
「赤信号で待っていた時、歩道から飛び出た黒ネコを追いかけて車道に飛び出し、トラックに轢かれたんだ……トラックの運転手が、そう証言しててね。」
『黒ネコ……』
様々な思いが、僕の頭の中で浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。
もしかして、あの黒ネコは冬子の生き代わりなのか?そんなのはありえない。
何故死んだ人間が、動物の姿になって生き返っているんだ。ありえない。
「ごめんね、今まで話さなくて……」
「いえ、僕から聞いたんで。嫌な話をさせてしまって、すいません」
「いや、私もこれですっきりしたよ。智希君に全てを知ってもらえたんだ」
衝撃の事実を知った僕は、冬子の家をあとにした。
昼は小雨だった雨は、また土砂降りに戻っていた。
傘をさし、冬子の家を出たすぐのところで、僕は驚いた。
ずぶ濡れの黒ネコが、僕の目の前にいた
間違いなく、毎朝僕の家に来る黒ネコだった。大きく見開かれた真っ黒な目で、僕をじーっと見つめる。何故、こんなところに……。
「どうして……?」
僕がそう呟くのと同時に、黒ネコが小さな口を開いたのは同じだった。
「智希」
「……!!」
やはり、黒ネコは僕の名前を呼んだ。
「……冬子」
僕は思わずそうもらしていた。言わずにはいられなかった。
これはどう聞いても、冬子が僕を呼ぶ声と同じだったからだ。
「冬子」
僕がそう呟き黒ネコに近づいた。すると黒ネコは、突然走り出した。
「あっ!待って!!」
僕はさしていた傘を投げ捨て、黒ネコの後を追いかけた。
黒ネコは一切振り向こうとせず、土砂降りの雨の中を迷いもなく駆けていく。
「待って!」
僕が手を伸ばそうとすると、黒ネコは高い塀の上にひょいと飛び乗り、僕をちらっと見て塀の向こう側へと逃げていった。
「待って……」
僕は雨の中、心の底までずぶ濡れになるまで、その場に立ち尽くしていた。
読んでくださり、ありがとうございました。
感想、ご指導等、よろしくお願いします。




