一章
初投稿です。
作品自体は中学一年生の時に書きました。
初めての恋愛小説、になっているはずです。
文章は稚拙かつシンプルで、内容も可笑しなところがありますが、よろしくお願いします。
一章
夏特有の蒸し暑さで、僕は目を覚ました。
重たい瞼を開け、壁がけ時計を見る。
[5時50分]
「はやっ」
僕は布団から抜け出し、洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗うと、ぼんやりとした意識がハッキリとしてきた。
二階から降り、玄関でサンダルを履く。
ドアを開けると、さらに蒸し暑い空気が押し寄せ、思わず目を閉じる。
真夏の空気に体を馴染ませ、ゆっくりと目を開ける。
黒ネコが、そこにはいた。
また、今朝も来ている。先週あたりから、毎朝玄関の先に立って僕を迎えてくれる。
大きく見開かれた目が、僕をじーっと見つめる。
毛並みは見るだけで分かるほどサラサラしていて、とても触り心地は良さそうだった。首輪がはめられていないので、飼い猫ではないのだろう。
僕が近づいても、その場から逃げない。まるで置物みたいに。
僕が触れないのは、触れたら壊れそうだと思っているから。まるで陶器みたいに。
ポストに新聞を取りに行く。高校の夏休みが始まって、僕の毎日の日課になっている。
僕は黒ネコを見る。じーっとまだ僕の方を見つめている。
そうしていると、僕は少しドキドキする。
体の中で、小さな何かが舞い踊るように、心臓が動く。
僕はこの黒ネコに、いつしか『好き』という感情を抱いていた。
普通の人間からしたら、僕は立派な変人だ。
だけど、僕はこの黒ネコが『好き』なのだ。
「ゴーン」と静寂な空気を揺らす、六時を知らせる神社の鐘の音。
僕は黒ネコに「じゃね」と言い残すと、家の中へと入った。
今日は僕が通っている高校の夏期特別授業の日なのだ。
取ってきた新聞を玄関の靴箱の上に置くと、二階の自分の部屋に入り、すぐに制服に着替える。
朝食を済ませてリビングでテレビを見ていると、7時を告げるアナウンサーの声と共に、入口から母親が入ってきた。
「あら、早いわね」
母はそう言うと、僕から少し離れた椅子に腰を下ろした。
僕はそっとエアコンの電源を入れながら答えた。
「うん。今日、学校だからさ」
「あ、そうだったわね。頑張ってきなさい」
「はい……」
小さく返事をした僕は、リビングを出て二階の自分の部屋へと向かった。
「あ、お兄ちゃん」
今年で中学2年生になる妹が、眠たそうに目をこすりながら廊下に立っていた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
それだけで会話は終わると、妹は「ふぁあ……」と欠伸をしながら洗面所へ、僕は部屋へと入った。
筆記用具や教科書が入った通学鞄を手に取ると、部屋を出て玄関に向かった。
「お、今日は学校か?」
靴紐を結んでいると、後ろにいた父に声をかけられた。
「うん、行ってきます」
僕はそう言って家を飛び出す。黒ネコはいなかった。
近くのバス停でスクールバスに乗り、窓側の席へ座る。
中には、同じ制服を着た生徒が、数人いた。基本、僕の高校は特別講習への参加は個人の自由なので、受講する生徒は少ない。
ましてや一年生の夏休みである。周りにいるのは、上級生ばかりであった。
僕は鞄の中からiPodを取り出すと、イヤホンを耳につけて音楽を再生する。
生徒の中には、少ないが一年生もいた。その女生徒二人が僕を見ながら、ヒソヒソ声で話している。
多分、冬子のことを話しているんだろう。
冬子は僕の彼女、だった。二週間前、トラックにはねられ死んでしまった。
僕は泣いた。涙が出なくなるまで泣いた。
冬子は僕の初恋の人だった。中学3年生のときに初めて告白して、初めて付き合って、初めてデートをして、初めてキスをした、大切な恋人だった。
だけど、もうこの世に冬子はいない…。
あれからみんなは、僕を名前で呼ばなくなった。と言うよりあまり話しかけないようになった。
僕にも智希という名前がある。無理に同情しようとするのは、そろそろ止めてほしい。
僕は、冬子の死からなんとか立ち直った。それはあの黒ネコのおかげである。
『恋』が僕を支えてくれているのだ。
バスがゆっくりと、学校の前に停車する。
バスを降りると、校門の近くにいた同級生たちが、僕を一斉に見る。とすぐに目をそらし、下駄箱へと向かってゆく。
僕もその中に紛れ、下駄箱で上靴に履き替えようと靴箱を開けた。
その中から、我先にと言うように四枚の手紙が出てきた。
外装から見てラブレター、だろう。
僕は四枚を鞄の中に詰め込むと、上靴に履き替え教室へと歩き出した。
教室に僕が入ると、さっきまで楽しそうにお喋りしていた生徒たちが静かになる。
僕はその中を歩き、自分の席へ着くと教科書を机に入れた。
教室の生徒全員が遠目に僕を見つめている。僕は窓の外へ目を向ける。
眩しく光る太陽が、教室の気温を数度上げる。クーラーはなく、黒板の上に設置された扇風機がゆっくりと首を振っているだけだった。
窓の外の雲が、ゆっくりと青い空を流れていくのが分かる。
教室がまた生徒たちの話し声で包まれてゆく。
「ガラッ」と教室のドアが音を立てながら開く。
「おい、みんな席につけ~」
入ってきた教師が、額に薄らと汗を浮かべながら、生徒に指示する。
「おい高尾、早く座らんか」
「はぁ~い」
おどけた声で返事をする生徒。クラスが笑顔に包まれる。
僕を除いて……
学校が終わり、帰りの支度をしていた僕に友人が「どこで遊ばないか?」と誘ってきたが、僕は断った。
今日は冬子に会いに行くのだ。
お墓参り、だが。
学校を出た僕は、すぐにバスに乗り込み、冬子の元へと急ぐ。
バスに揺られること二十分、僕は人気のない堤防に着いた。今の時間帯は引き潮で、カニや貝が沢山見えた。
そこから十分ほど歩き、僕は冬子のいる場所に着いた。入口で線香を買い、マッチで火を点ける。線香独特の匂いが、僕の鼻をつく。
水の入ったバケツとおたまを持ち、冬子の元へと向かう。
沢山の人ごみの中で、冬子はすぐに見つかった。
僕は冬子の前に立つと、バケツの中の水をおたまでゆっくりとかける。
「気持ちいいかい?」
僕がそう呟くと、冬子が頷くように見えた。
僕は線香を立てると、冬子の前にしゃがみ手を合わせる。
『冬子、元気ですか?僕は元気です。実は・・・これは冬子に言ってもいいのかな?
実は僕、今『恋』をしています。しかも、黒ネコにです。可笑しいでしょ?』
「智希君……」
突然声をかけられた僕は、しゃがんだまま振り返る。
「……お父さん」
僕の後ろに立っていたのは、花束を片手で持った冬子の父親だった。
「また来てくれたんだね」
ただでさえ細い目を優しい笑顔でさらに細め、僕にそう言った。
冬子の父親は、花束を冬子の墓に供えると手を合わせ目を閉じた。
「もう冬子が死んで、二週間も経つんだね」
「はい」
しばらくの沈黙が続く。
「あの……お母さんの体調の方はどうですか?」
「あぁ、少しずつ回復しているよ」
冬子の母親は、冬子が事故で死んでしまったショックで寝込んでいたのだ。
「そうですか……。……あの」
冬子が死んだ時のことを聞こうとしたが、止めた。
冬子の父親は、彼女が死んだ時のことを僕に話そうとはしなかった。多分、僕のことを気にしてくれているのだろう。
「うん?」
「いえ、なんでもないです……」
僕は冬子の父親に挨拶をすると、足早にその場から去った。
バス停に着くと、ちょうどバスが来ており、僕はすぐに乗り込んだ。
バスに揺られながら、外の景色をぼーっと眺める。青空の中を、また雲がゆっくりと流れていた。
家に着くと、ちょうど父が仕事から帰ってきたところだった。
「ただいま」と言いながら、その横を通り過ぎようとする。
「また、墓参りか?」
「うん」
「そうか……」
父は嘆息するように呟くと、黙ってリビングに入っていった。
僕もそれに続いてはいると、母がすぐに言った。
「はやく帰って来なさい」
父も母も、僕が冬子と付き合うことを良く思ってはいなかった。理由はただ一つ。
僕の勉強の邪魔、になるからだ。
ただでさえ冬子のことが嫌いな二人、今は『息子の邪魔がいなくなった』としか思っていないだろうが、僕にそれを悟られないよう、同情という仮面を被って接している。
そんなことに、僕が気付かないわけがないのに。
その日は、あまりいい夢を見なかった。
読んでくださり、ありがとうございました。
感想、ご指導等、よろしくお願いします。




