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第二十九話

「それにしても気になるなぁ……」


 ギルドでイメルダの依頼を受けた次の日。依頼主であるイメルダが指定した集合場所に向かっているとアランが独り言を漏らした。


「気になるって何がだ?」


「決まっとるやろ? あのランディとかいう護衛からの手紙のことや。ワイら、あの手紙を見てこの仕事を受けることを決めたけど、あれがどこまで本当か分からへんやろ?」


「そうだな……」


 アランの言うとおりあの手紙がどこまで本当かは分からない。最悪、あの手紙さえもイメルダの罠の可能性もある。……まあ、本当だろうと嘘だろうとこの仕事が危険なのは変わりないんだけどな。


「遅いわよ!」


 声がしてきた方を見ると、すでに集合場所に来ていたイメルダが腕を組んでこちらを見ていた。その左右には護衛のランディとスコットの姿もある。


「ようやく来たわね。待ちくたびれたわよ」


「ああ、悪かったな」


「ふん! 別にいいわ。特別に許してあげるわ。……それより分かっているわよね? 今は私があなた達の雇い主なんだから、私の命令に従ってもらうわよ」


 こちらを指差して言うイメルダは嬉しそうな勝ち誇った笑顔をしていて、何かを企んでるのが丸分かりだった。


 ……やっぱりこの仕事、断った方がよかったかな?


 ☆


 ……本当にこの仕事、断った方がよかった。


 王都を出発してから数時間後。日がくれたので野営することになった俺は、この仕事を受けたことを後悔していた。


 あのクソ御嬢様、口を開けば「王都の有名店の高級菓子を買ってこい」とか「暇だから芸をしろ」とか無理難題を言いやがって……俺達のことを使用人か何かだと勘違いしていないか?


 ナターシャ達にだって「魔女の姿のままで行動しろ」と命令するだけでなく、「ナターシャの鱗とルピーの羽をよこせ」とか「ローラの背中に乗せろ」とか無理を言って、いいかげん我慢の限界だ。少なくとも今日はもうイメルダの顔は見たくない。だというのに……


 ジョロロロロ……。


(何でコイツがここにいるんだよ……)


 俺の隣にはあの背が高い方のイメルダの護衛がいた。俺達はさっきからする水音から分かるように用を足していて、何でこんなところでもイメルダ側の人間とつきまとわれるんだとうんざりとした気持ちになってくる。


「どうした? 随分と機嫌が悪そうだな?」


「……言わなくても分かるだろ」


 お前らのとこの御嬢様のせいで精神がささくれだっているんだよ、と暗に込めて答えると長身の護衛は「違いない」と苦笑を浮かべ、すぐに真面目な表情となって俺を見た。


「……いい機会だから言っておく。俺はお前達を完全に信用した訳じゃない。だが……」


 ガサッ。


 長身の護衛がそこまで言ったところで、草むらが揺れてナターシャとルピー、ローラの魔女三人が現れた。ちなみに俺と長身の護衛はまだ用を足している状態である。


『…………………………』


 時が、止まった。


『………』


 ナターシャ達が俺を見た後に長身の護衛を見る。


『………』


 ナターシャ達が再び俺を見た後にまた長身の護衛を見て……


「………ふぅ」(一瞬だけ蔑む目をして目をそらすナターシャ)


「クスッ」(何やら可愛らしいものを見つけたように小さく笑うルピー)


「……っ」(気の毒そうな表情で顔をそらすローラ)


「…………お前らは俺の敵だ。絶対に許さねぇ……!!」


「…………ゴメンナサイ」


 顔を真っ赤にして憤怒の表情て呟く長身の護衛に俺は謝ることしかできなかった。


 ナターシャ! ルピー! ローラ! お前達、何男に対して最大級の精神攻撃をナチュラルにやっているんだよ!? 最低すぎる!


 本当に色んな意味でゴメンナサイ!


 ☆


 次の日の昼頃、俺達はようやく目的の遺跡に到着した。


 遺跡は円形の建物で、入ってしばらく歩くと大きく開けた広場に出る作りになっていて、俺達は今その広場にいた。なんでもこの遺跡は大昔の闘技場だったらしく、この広場で人間の剣闘士が猛獣や魔物、あるいは同じ人間の剣闘士と戦う様子を観客に見せていたらしい。


「ここに来るのも久しぶりだな。前に来たのって何時だっけ?」


「うむ。一月くらい前に『教導集会』の児童達をここまで護衛した時以来であるな」


 俺の呟きにルークが答えてくれた。


 教導集会というのはルークが所属している教会が五日に一度開く集会のことで、この集会では大地母神イアスの教えを説くのと同時に文字や数字の計算を無料で教えている。そのため教育熱心な親を持つ子供や将来、商人などの職業に就くことを志す若者は教導集会の日になると教会に集まり文字や計算を学んでいた。


 そして今から一ヶ月前、教導集会を担当している教会の人達は希望者だけを連れてこの遺跡の見学をする野外授業を計画し、その護衛として同じ教会に所属しているルークとパーティーを組んでいる俺達が雇われたというわけだ。


「せやな。あの仕事は楽しかったな」


 野外授業のことを思い出してアランが頷く。ちなみに野外授業を希望した教導集会の参加者のほとんどは十歳くらいの子供達で、自他共に認めるロリコンのアランが張り切って護衛をしたのは言うまでもない。


「野外授業の護衛の仕事、もう一度こないやろか?」


『………………』


 うっとりとした表情で独り言を呟くアランに対し、俺達はそっと顔を背けた。何故ならアランを除く俺達はもう二度と野外授業の護衛の仕事が回ってこないことを知っているからだ。


 原因はもちろんアランにある。


 このロリコン斥候、野外授業の時に終始満面の笑みだったのはいいんだけど目から危険な光を放っていて、それを見た教会の人達が「この男を子供達に近づけてはならない」と判断したらしい。


 俺達から見ても妥当な判断だと思う。今思い出してもあの時のアランの表情は犯罪をおかす一歩手前だったからな。……何事も起こらず本当に良かった。

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