第三十話
「ちょっと。一体いつまで話しているのよ」
俺達が話していると横からイメルダが口をはさんできた。そういえばまだこの女を護衛する仕事の最中だったな。
「すまなかったな。それで? こんな何もない遺跡に来て何かすることでもあるのか?」
「ええ、あるわよ。とっても大切な用事がね」
不気味な笑みを浮かべたイメルダが手を上げて合図を出すと、周囲の物陰から二十人くらいの男達が現れた。男達は全員武器を持っており、俺達と同じ冒険者だと思うが山賊や盗賊といわれても納得できそうなガラの悪い風貌ばかりだった。
「イメルダ。コイツらは何だ? お前の知り合いか?」
「そうよ。彼らはあなた達と同じ、私が雇った冒険者達よ」
「そうか。だけど受けた仕事は俺達と違うみたいだな。どう見てもお前の護衛とは思えない」
二十人の冒険者達は武器を構えたまま俺達を囲み、徐々に間合いをつめてきている。答えは分かりきっているのだが、それでも一応イメルダに聞いてみる。
「私はね、今まで欲しいと思ったものは何でも手に入れてきたの」
にんまりと笑みを浮かべたイメルダは、俺ではなくナターシャ達を見ながらゆっくりと話す。
「ゴーマン、あなたが悪いのよ? あの時、あなたが素直に私の言うことを聞いていたら、私もこんな乱暴な手段を取らずにすんだのだから」
やっぱりこの冒険者達は俺からナターシャ達を奪うための罠か。この様な展開になることは仕事を受ける前から予想していたが、まさか本当に実行するとは……。
「……まるっきり子供向けの物語に出てくる小悪党だな。というかバカじゃないのか?」
「なんとでも言いなさい。そこの美しい魔物達は私のような美しい飼い主に飼われるのがあるべき姿なのよ」
すでに勝った気でいるイメルダは俺の心からの正直な感想に余裕の表情で返す。それにしてもイメルダが美しい飼い主ねぇ……。
「確かに顔立ちは整っていて美人だと思うけど女としての魅力を全く感じないんだよな……。何でだろ?」
「頭の中身と性根が腐りきっているからじゃないかな? ……全く、これだから非エルフ女は」
「これだから非ドワーフ女は」
「これだから十二歳以上は」
「………ゴーマン。分カッテイルト思ウケド私ハラミア、女ダケドヒューマンジャナイ」
「ルピーハ、ハーピーダカラネ。ヒューマンジャナイカラネ」
「ゴ主人様。私モ普段ハヒューマンノ姿デイルケド種族ハサントールダカラ、アノ女トハ違イマス」
ギリアード、ルーク、アランが寝言をほざいた後、魔女三人が種族の違いをアピールしてくる。多分この場合、「自分達も女だけどあのイメルダと一緒にしないでほしい」と言いたいのだろう。
うん、分かってる。分かっているからあのイメルダをヒューマンの女性代表にするのは止めてくれ。ヒューマンの女性全員があんなのばかりだったら、俺は今ごろお前達を嫁にして山奥で暮らしているぞ?
「無駄話はそれぐらいにしたらどう? あなた達、もういいからやっておしまい」
イメルダが命令を出すと俺達を取り囲んでいる冒険者達(もうコイツら、ならず者でいいよね? 顔つきも行動も完全に悪役だし)が近づいてきた。その数は十五人、残りの五人はイメルダの近くで待機している。
……ふむ。身につけている装備や身のこなしから見て、ならず者一人一人の実力は俺達よりいくらか下だけど、こちらの三倍以上の人数が厄介だな。仕掛けるなら油断している今しかないか。
目線で合図を送ると皆、俺と考えだったようで回りに気づかれないように小さく頷いてくれた。後はきっかけだけだな。
「へへっ。コイツが魔女ってやつか、初めて見たぜ。もっと恐ろしい化け物だと思っていたが、こうして見るとけっこう美人じゃねぇか」
俺達を取り囲むならず者の中で一番小柄な男がナターシャを見てだらしない笑みを浮かべる。丁度いい、コイツから仕掛けるか。
「俺のナターシャをほめてくれてありがとな。……ナターシャ、せっかくだから顔をもっと見せてやれ」
「………エエ」
俺に言われてナターシャは小柄なならず者に顔を向けて小さく微笑みそして……
カッ!
「ぎいっ!?」
ナターシャの両目が妖しい光を放つのと同時に小柄なならず者が悲鳴を上げて地面に倒れる。彼女が持つ技能の一つ、目をあわせた相手の体を麻痺させる技能「麻痺の魔眼」の効果だ。これでこの小柄なならず者はしばらく動くことができないだろう。
「なっ!?」
「今、あの魔女の目光らなかったか?」
「テメェ! 何をしやがった!」
よしよし。小柄なならず者がいい感じに注目を集めてくれたおかげで他のならず者達の間に動揺が走り、隙が生まれた。俺は動き出す機会をうかがっていた仲間達に声を飛ばした。
「ルピー! ギリアード!」
「ウン!」
「分かった」
ルピーが翼を広げて左手に杖を持ったギリアードの上を飛ぶ。
「アラン、ルーク! ナターシャを!」
「任せとき!」
「うむ!」
アランとルークがナターシャを守るべく、彼女の元に駆けつけて武器を構える。
「ローラ、来い!」
「ハイ!」
ローラが腰の剣を抜いて俺の横に立ち、俺も槍を片手に素早く彼女の背中に乗る。
まずはこの包囲を破るのが先決だな。さて、始めるか。




