第十八話
まず最初に武器と防具を買うことに決めた俺達は城下町にある武器屋を訪れた。その武器屋は昨日ギリアードから聞いた彼のオススメの店で、扱っている武器と防具の種類も豊富だし、店主も色々と「理解」がある人物だそうだ。……何の「理解」かは分からないが。
「ギリアードから聞いてた通り凄い品揃えだな」
広い店内には様々な種類の武器や防具がところ狭しと並べられていて、素人目で見ても上質だと思われる武具がいくつか混じっていた。
「ナターシャとルピーは何もいらないんだよな?」
「………ウン」
「ルピーモイラナイヨ」
俺が聞くとナターシャとルピーが首を縦にふって答える。となると買うのは俺とローラだけか。
「バトルナイフ以外にも武器を買おうと思うんだけど……どれを買おうかな?」
今の俺の武装は腰にある短剣バトルナイフだけ。特に思い入れがあるわけではないので新しい武器を手にするのに抵抗はないが、一体何を買ったら良いのか分からない。
「ローラ。何かいい武器はないか? ……ってアレ?」
この中で一番武器に詳しそうなローラに意見を聞こうと思ったが彼女は近くにはおらず、辺りを見回すと店の奥で何かを見ているローラの姿があった。
「……」
ローラが見ていたのは、鞍と軍馬が身に付ける馬用の甲冑で飾られた馬の木像だった。ローラは頬を赤く染めて憧れるような目で馬の木像を見ており、その表情は年頃の女性が貴族や裕福な家の娘が結婚式できるドレスを見る表情に似ていた。……もしかして着てみたいのか?
「ローラ。それが気になるのか?」
「ゴゴゴ、ゴ主人!? イ、イイ、イエ! ソンナコトハ……」
声をかけたことで俺に気づいたローラは、驚いた後に盛大にどもりながら俺と馬の木像を交互に見る。この反応を見るだけで興味があるのは明らかで、俺としては買ってやりたいんだけど……高いんだよな、この馬用の甲冑。他の武具の値段と比べても桁が一つ違うぞ?
「金に余裕ができたら必ず買ってやる。……だからそれまで待っていてくれないか?」
「……ホ、本当? 本当デスカ?」
「ああ、いきなり甲冑は無理だけど、鞍くらいならいくつか仕事をこなせば買えるだろう……約束する。それでローラ。新しい武器が欲しいんだか、お前のもあわせて良さそうなのを二つ選んでくれないか?」
「ハイ! ハイ! オ任セクダサイ!」
俺が鞍を買うと約束するとローラは尻尾を振りながら俺と自分の武器を選びに武器の棚の方へと行った。そんなに嬉しかったのか?
「………」
いや、ナターシャ、不機嫌そうな顔をして腕をつまむな。痛いって。
「ウウ~」
ルピーも首を噛むな。だから痛いって。
それからしばらくしてローラは一本の槍を持って戻ってきた。槍は穂先から石突きまでの長さが俺の背丈より少し低いくらいで、ぱっと見たらどこにでもある安物の槍に見えるが、注意深く観察すると穂先の刃が太陽の光を反射して妖しく輝いている。試しに受け取ってみたら槍の丁度いい重さがすぐ手に馴染み、そこでこの槍が「アタリ」の武器であることが分かった。
「ゴ主人様。ドウデスカ?」
「中々いい槍だな。……気に入った」
これだけの大量の武器の中から良質の武器を見抜くとはローラの鑑定眼はかなりのものだな。
「ヨカッタ。ゴ主人様ナラキット気ニ入ッテクレルト思イマシタ」
ローラは俺が自分の選んだ槍を気に入るのを見て嬉しそうに笑う。今まで槍を使ったことはないのだが、確かローラが槍の戦い方を知っていたはずだから今度教えてもらうとしよう。
「俺はこの槍を買うとしてローラは何を買うつもりなんだ?」
「ア、ハイ。私ハコレヲ選ビマシタ」
ローラが自分用に選んだのは片刃のサーベル。鞘に収まっているその剣は一見安物に見えるが、ローラが選んだのだったらこれもまたちょっとした業物なのだろう。
「分かった。武器はこの槍とその剣でいいな。それであとはローラの防具だな」
「アノ、ゴ主人様。防具ナノデスガ、私ハアレガ欲シイデス」
ローラが指差したのは鉄板で作られたブラジャーと肩当てを鎖で結びつけた女性専用の鎧…………鎧?
もしかしなくても「アレ」をローラが素肌の上から着るの? あんなの体を守る面積ほとんどないよ? 動きやすいかもしれないけど防御力皆無だよ? あんな鎧……というより鉄製の下着に比べたら今ローラが着ている革鎧の方が防御力あるんじゃないか?
「……ローラ。本当にアレでいいのか?」
「ハイ。少シ頼リナイカモシレマセンガ、アノ鎧ガ欲シイデス。ダッテ……」
ローラはそこで言葉を区切ると顔を赤くして視線をさ迷わせ、やがてナターシャとルピーの方を見た。
「……負ケタクナイデスカラ」
「……何に?」
「……」
思わず聞いてみたがローラは赤い顔を更に赤くするだけで答えてくれなかった。
その後、俺は槍と剣とローラの鎧(?)を買うと、別の店でナターシャとローラが人間の姿になった時にはくパンツとサンダルをいくつか買って宿屋に戻った。




