記憶 - 4
玉座の間。
レオナルトは、冷たい指先で机を叩いていた。
目の前に広げられているのは、カシウスに命じて集めさせた報告書。
王妃・エリオネの過去について記されたものだった。
彼女は、昔から自分の素性を語りたがらなかった。
スラム街育ちの人間も珍しくない国だ。
これまで敢えて詮索はしなかった。
……だが。
能力者であるなら、話は別だ。
能力の内容次第では、国のために協力してもらう必要がある。
希少価値の高い能力者は特に。
レオナルトは、報告書の一文に視線を留める。
そこに記されていたのは、特定の家系にのみ現れる力。
しかも、その生きている血筋の中で、ただ1人にしか宿らないという能力。
“世界と世界を結ぶ力”
「……馬鹿げている」
そう呟きながらも、レオナルトの指は止まらなかった。
伝承。
神話。
現実離れした言葉ばかり並んでいる。
これまでなら、読み流して終わっていたはずだったが、あの夜の光景が、脳裏に蘇る。
裂けた空。
現れた白い扉。
そして、鍵穴から双子へと伸びていた光。
「……なるほどな」
レオナルトの口元が、わずかに歪む。
エリオネ1人では、扉を“現す”のが限界。
だが、力は確かに双子へ流れていた。
机の上に広げられた文献の1つを、指でなぞる。
そこには、“能力者”と“双子”の相関関係が記されていた。
成長とともに、力は分かれ、そして補い合う。
2つで1つ……片方では不完全。
「……イリスとノクス。お前たちか」
2人が揃ってこそ、より強く安定した“扉”が開かれる。
レオナルトは考えた。
表向きは、国の安定のため、王族として教育し、守り育てる。
その裏で……力を引き出し、利用する。
エリオネ。
イリス。
ノクス。
3人は鍵だ。
この夜、異世界への扉を開くための冷徹な策略は、確かに動き始めていた。




