祈りの場所で - 2
「……相変わらず、堅っ苦しい」
小さく吐き捨てるように言ったその声に、イリスの視線が一瞬だけ向く。
「フィオ……」
セラがその言葉の主の名前を呼んだ。
きちんと整えられているセラとは違い、肩まである赤い髪はまとめきれていない。
フィオはセラと同じく、この礼拝堂に身を寄せる若いシスターで、セラの幼なじみ。
「……祈りの場でその態度は感心しないな」
「祈ってばかりで何か変わるなら、この国はとっくに平和になってるでしょ」
フィオは肩をすくめ、イリスの言葉に返答した。
遠くに見える王城の尖塔が、彼女の視界に刺さる。
不安そうな顔で見つめるセラと目が合い、フィオは微笑んだ。
「わかってるよ、セラ」
しかし、その笑みはどこか歪んでいた。
実はセラには人の傷を癒す特殊能力を持っている。
特殊能力はこの国では貴重人物である。
イリスもそれを気にかけ、度々セラに会いに礼拝堂へ訪れる。
セラは、昔から周りから守られ、誰からも必要とされる。
それに比べてーー。
フィオはセラを本当に大切に思っている。
それは本心のはずーー。
「……隊長さまはいいよね」
ふいにフィオから投げられた言葉。
「剣も能力も権限もある。外に出て、世界を選べる」
沈黙がフィオの胸に火を落とす。
「私たちはさ、ここで“いい子”してるしかないんだよ」
「フィオどうしたの?今日なんだかおかしいよ?」
セラがフィオへ歩み寄る。
しかしセラが伸ばした手を、フィオは一歩引いて避けた。
「近づかないで」
フィオはそう言うと、深呼吸にも似たため息をついた。
「外、少し歩いてくる」
そう言い残し、礼拝堂を出ていく。
その背中を、セラもイリスも追えなかった。




