祈りの場所で - 3
夜の礼拝堂は、昼とは別の場所のようだった。
祈りの声も灯りも消えた建物は、ただ静かだった。
フィオは、昼にイリス達と話した庭のベンチに腰を下ろしていた。
あれから2人とは顔を合わせずにいた。
冷たい夜風が頭に溜まった熱を少しだけ冷ます。
「ほんと……息が詰まる」
誰に聞かせるでもなくフィオは呟く。
空を見上げれば、雲に隠れた月がぼんやりと光っていた。
祈れば救われる?
耐えれば報われる?
そんな言葉を、何度自分に問いただろうか。
拳を握る爪が食い込み、わずかに痛みが走った。
その時……
「夜風は冷えるな」
「誰!?」
低く、落ち着いた声。
フィオは突然の気配に立ち上がった。
声の方を見ると、回廊の柱の向こうから一人の人影が姿を現した。
黒いフードの奥に顔は隠れ、輪郭ははっきりしない。
「安心しろ。ここは“祈りの場所”だ。何もしない」
「……礼拝堂に用があるなら、昼に来ればいいでしょ」
「そうだな。だが、昼は声が多すぎる」
影になって声の人物の顔は見えないはずなのに、フィオを見る視線は確かに感じる。
「君は、息が苦しそうだね」
その言葉に、フィオが動揺する。
「っ……そんなこと」
「ある」
即答だった。
影はフィオと距離を保ったまま続ける。
「炎は閉じ込めれば煙になって消える。だが、外に出せば、光にも熱にもなる」
「は?なにそれ……なにが言いたいの?」
「選べる場所は、ひとつじゃないって事だよ」
「……私は何も選べないよ」
「それは違う。君は選べる人間だ。祈るおもちゃじゃない」
意味も分からないような影の言葉に、フィオの心の火が揺れる。
「……あなた、何者?」
「ただの通りすがりだ」
一瞬、空気が変わる。
「だけど、炎を見過ごす趣味はないからな」
「……っ!」
フィオはその胸をキュッと押さえた。
小さな火に息を吹き込む影はそのまま闇夜に消えようとしていた。
「待ってーー!」
フィオの呼び止める声。
不敵な笑みを浮かべる影。
今、正に、なにかが動き出そうとしていた。




