祈りの場所で - 1
翌朝、鐘の音が王都に静かに響いていた。
国の中心区から少し離れた森の中にある礼拝堂は、いつもと変わらない。
白い石の床、柔らかな光、祈りの声。
この場所だけは、王城の冷たさとも、街のざわめきとも無縁だった。
「イリスさま!おはようございます!」
そこは礼拝堂の中にある花が植えられている中庭。
弾むような声に、礼拝堂を訪れていたイリスは足を止める。
駆け寄ってきたのは、14歳の幼いシスター・セラだった。
金色の髪は結われることなく、背にまっすぐ流れている。
白シスター服がよく似合う。
「おはよう、セラ。走るな、転ぶぞ」
「だ、、、おっと、、、えへへ、大丈夫です!」
そう言いながらも、セラは少しふらつき、慌てて姿勢を正す。
セラといる時のイリスは少し柔らかく優しい姉のように見える。
もちろん2人は姉妹ではない。
戦いも、命令も、政治もない場所。
ここに来るとイリスはただの16歳の少女だ。
セラもイリスの事は冷酷娘とは思っておらず、姉のように慕っている。
「今日はお祈り、長いのか?」
「えっと、、、少しだけ、、、?」
セラはそう言って微笑んだ。
その笑顔の奥に、わずかな不安が滲んでいることを、イリスは見逃さない。
「……何かあったな」
「え?」
「隠すのが下手だ」
セラは一瞬黙り込み、それから小さく首を振った。
「実は最近、知らない人が礼拝堂の外にいる気がして」
イリスの雰囲気が冷たくなった。
目が、僅かに細くなる。
「誰だ」
「わかりません。でも、見られている感じがして」
「そうか……おい、リオ」
いつの間にか後ろに立っていた副隊長が、軽く会釈する。
「警備、強化しますか?」
「ああ。礼拝堂周辺は特にだ」
リオは小さく返事をした後、一礼しその場を立ち去った。
イリスは今にも泣きそうなセラの頭に、そっと手を置く。
「心配するな。セラは私が守る」
「ありがとうございます」
セラは小さく頷いた。
その様子を、礼拝堂の奥から静かに見つめる人物がいた。
白衣に身を包んだ、礼拝堂のトップであるエリシア。
イリスにとっては、いない母の代わりでもあった。
彼女は何も言わず、ただ目を伏せるのだった。




