19.古神
本章の最終回です。
加速ッ!
「知恵捨ェーッ!」
全力で槍を投擲する。
「おっと。遅いな」
人の姿を真似たモノが片手で槍の穂先を掴んだ。
「ちぇぇぇーすッとぉぉぉ!」
加速は終わっていらぬ! 槍が到達するより早く、槍の柄を掴んで、体重を乗せて押し込んでる最中の件について!
ズボッ!
「え? ちょ!」
モノの反応が遅れた。穂先がモノの胸に突き刺さる。この程度で死ぬようなタマではなかろう!
「猿叫ぇぇぇー!」
槍の柄を持ったまま抑え込み、押し倒し、地面に縫いつけた!
加速は続いている。横っ飛びに避ける!
逃げながらネコ耳を塞いで両手で押さえつけ、口を軽く開く。
『荷電粒子砲!』
オオオン!
横倒しになった光の柱がモノを地面ごと貫き駆け抜けていく!
「『どうだ!』」
光の柱が松尾山に横っ腹に突き刺さって弾けておる。土煙と火が着いた大木が宙を舞っているが、もう目はそこに向いてない。
「なんと!」
二人の周囲をぐるっと白い壁が取り囲んでおったのだ。
『正確には取り囲みつつあった。ですね』
漆喰だけで作ったかのような薄い壁でござる。ただの壁ではござらぬ!
途中まで組み上がりかけていた白い壁が、バラバラと崩れていく。
『天井まで囲まれていたらオダブツでした。たぶん』
「危機一髪でござるな」
ゾロリと腰の刀を抜く。
この度で死ぬとは思えぬ。
某とミウラは背中を合わせた。
『おもし、ろい』
声だけが聞こえてきた。
『受肉体を無くしたのでしょう? 負け惜しみですか?』
瞬時に繰り出されるミウラの挑発。
『サガミとスルガの主は、私の話を、聞いてく、れた、ぞ』
また声だけだ。
「だから死んだ。なるほどのう」
『そうやって殺したんですね? 自白ですね?』
『きみたちほん、とうに、おもし、ろい、ね、――』
またまた声だけで……日本語でござるか? 確かに近くにいる筈だが、存在感が掴めぬ? 顔を動かすことなくキョロキョロと視線だけ上下四方へと這わせる。
ミウラの放つ気が四方八方へ飛んでいる。……気配を探っているようで、何か別のことに全力で取りかかっておるときの癖だ。
ならば――
「貴殿が名乗りを上げてくれれば、某らも面白くなるのでござるが?」
某が喋っておる間、ミウラは神獣の力で何かを探っておる。それはモノの気配などではない別の何かっぽい。ミウラだから。
ようやく、白い壁が綺麗さっぱりと消えてしまった。蒸発したような消え方でござった。
『名乗りたいが、正式な名はないんだ。夜であり昼であり、明け明星であり宵の明星である。エンを集める者と名乗っておこう。ちなみに創世神ではない』
しゃべり声が鮮明になった。先ほどの声とは別人のよう。
「神でござるか?」
『しまった。自白してしまった。ケラケラケラ!』
ぜんぜん反省しておらぬではないか。
それを最後に声は途絶えた。
有るような無いような不思議な気配? 存在感? それも綺麗に消えている。
「何者でござるか?」
十四の時に開発した格好いい納刀法アの型を使って刀を納めた。落としていた腰を伸ばす。
『エンを集めている者? ですか? 縁ですか? おそらく太古の地上に存在した神の一柱。あの壁? 空間? に興味があります。戦う振りをして残滓のデーターを外部記憶装置に全力記録しておきましたので、時間をかけてゆっくり丁寧に解析します』
「ぬかりないな。言ってる意味は全くでござるが」
『へい』
ミウラは、ああいった頭ごなしの輩を嫌う性癖を持っておる。臍を曲げたミウラは何をしでかすかわからぬ。それを読める者などどこにもおらぬ。……あと、ガイブキオクソウチとは何でござるかな?
『あの場所であの時、わたしらに勝ち目はありませんでした』
「いかにも」
ゲソにもスルメにも。某もミウラも、勝たぬ勝負はしない主義にござる。
『戦えば負けるのですから、生き残ったことを考えて情報収集に全力を用いるべきです』
「道理であるな……もうちょっとで死ぬところでござったか」
……
…………
…………怖ーっ!
空を見上げる。青い空に鰯雲の切れ端が風に流れておった。
まもなく冬本番にござる。
――二年目の神無月編・完――
「二年目の神無月」編、最終回でした。
次章「(仮)神獣」編、誠意執筆中!
なお、次章で、スルガの国のミウラの主、最終章となる予定です。




