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Angelworks  作者: miЯai
第二部
32/44

EP30 ある一人の一般人

年明け初更新です。あけましておめでとうございます。

「……あの馬鹿!」


自分の部屋に帰るなり、蔭山は叫ぶ。何事かもわからず真宙は部屋の中を見渡す。


「あの……ここを見せるために連れて来たんですか?」


「いや、違う。会わせたい奴がいたんだ」


「はぁ……今はいないってことで、いいんでしょうか」


いまいち状況を汲み取れず確かめるように尋ねる。


「あぁ、そうだ。勝手に出掛けやがったんだよ。すまん、もういい、家に帰れ」


「蔭山さんは……その人を探すんですか?」


「あぁ、そうだ。今すぐ出かける」


「なら、私もご一緒します。どうせ見つかったら会わせてくれるのでしょうから」


「まぁ、そうだが……わかった、ついてこい」


「はい――」


二人は探しに出かけた。


連れ去られたことも知らずに。








「んっ……あれ?」


目が覚めた真人。そこは小さな部屋だった。小汚い内装で、ベッドしかない。


そして、そのベッドには一人何者かが座っている。真人が起きたと気付くとゆっくり立ち上がり近づいてくる。


女性だった。


真人の前であぐらをかく。


「やあ、気分はどうかな」


女は言う。


「あなたは誰なんですか」


「質問に質問で返さないでよ。ほら、気分は大丈夫?」


特に悪怯れた様子もなく続けようとする。仕方なく聞かれたことは応える。


「別に、なんともないです」


「そ、痛いとことかない? 結構乱暴に連れて来ちゃったからさ」

そう言われて思い出す。連れ去られてしまったことを。女への警戒の色を強める。


「目的はなんですか」


「そんな怖い顔しないでよ。それより、答えて欲しいんだけど、あなたがあの天使でいいのかな」


顔を一気に近づけ覗いてくる。思わず後ろに下がる。


「そ、それがなんですか。研究所にでも売り飛ばす腹ですか?」


「それでもいいんだけどね。別に私はあなたに危害を加えたいわけじゃないから……ほら、身体だって自由でしょ?」


手足に指を指して言う。確認すると真人はどこも縛られていないようだ。


「知らないかな、あなた捜索依頼が出てるんだよ。もちろんお金が出るんだけどね。だから私はあなたを届けに行きたいだけ。あの……製薬会社の作った訳のわからない団体にさ」


「そう……なんですか。だったらなんでこんなところに? そもそもここは一体……」


もう一度辺りを見渡す。窓が無いため外が確認出来ない。


「ここは私の家。言わばホームレスなんだ。仕事無くてね、前の家追い出されちゃったんだ。ここはちょっと街から離れたとこの廃屋。ボロボロだったから運良くあった地下室を使わせて貰ってるの。灯りはさすがに買った。今生活で苦しめられているのは案外電池代かもね」


「……生活の足しにするわけですね」


「ま、直接的な表現ならそうなるね。しっかし……」


女は真人の羽を触る。興味があるようだ。


「これ本物? 天使とか言われるだけあるね」


「……まだ、聞いてない。どうしてこんなところに連れて来たんですか」


「ん?」


「もし、賞金が欲しいなら奴らに俺を連れて行けばいいじゃないですか」


「俺って……まぁ他人の一人称なんてどうでもいいけど。そうだね……私さ、ちょっと悪いこと考えてるの……そう、身代金要求みたいな。賞金より巻き上げられるでしょ」


「あの宗教団体にですか」


「自分が教祖みたいなもののくせに。いや、あなたは偶像か。行き先を失った、まさに迷える小羊たちの。神にも等しい存在」


「違う。俺は天使だ……」

力なくつぶやく。思い出すのは、大勢の男たち。少し低い位置から真人を囲み集まる、日本中の男性。自分こそはと子孫を残そうと思うもの達。


真人は決めなかった。誰を選ぶかまずあり得ない。真人の心は男だ。いくら神の与えた力としても、それを有効に使いたいわけではない。


それに、神原自体はさほど強要はしなかったのだ。彼が望んだのは真人一人の生殖能力ではない。真人の血液、その他いろいろな検査による、異常の解決解明だ。


もしくは……偶像崇拝としての利用。


それが、なによりも真人のストレスだった。


自分は神じゃない。


「あれ、黙っちゃったね。ちょっと言い過ぎた?」


焦る表情を見せる女。別に責めるつもりはなかったようだ。


「いえ、別に。それなら、早く電話なりなんなりすればいいじゃないですか」


「そうだね。それが普通。でもさ、私が欲しいのはごく一般的な、そう、一握りの幸せなの。素敵な恋人が欲しいなんて言わない。この国で不自由なく生きることの出来るぐらいのお金があればいいの。仕事をすればいいなんてナンセンスな答えは期待してないよ」


「だから、何なんですか」


「だから、あなたの幸せを食い荒らそうなんて思ってないってこと」


人差し指を立て、おどけて見せる。安心させるためだろう。


「あなたにはね、餌になって貰うだけ。私の元にあなたがいた事実を何かしらの形で証明出来れば、それだけで十分。後は用無し」

「彼を欺けるとでも?」


そう言うのは、真人は神原の恐ろしさを知っているからだ。言うなればカリスマ。具体的に何が凄いかは、わかってはいないものの、自分がいつの間にか彼の思い通りにされていたことがなによりの証明だ。


「策はあるんだ。簡単だよ。なに、君には不便はさせないから」


「信じられません。一体どこからその自信が出るのか」


「心配するのは私じゃないよ。自分の行く当て、あるの?」


「……」


真人は思考を凝らしてみる。まず考えたのは蔭山だった。彼の元ならば、命の保証は間違いない。次に考えたのは神原。普通に彼らの元に戻る、そういう選択肢もあるだろう。ただ、彼女の好意を無駄にすることにはなるが。この世の中に、一人で生きていけるはずはない。


そしてもう一つ、佐花の家。真人にとって一番頼りに出来た人物であったからだ。しかし、あまりに現実的ではない。あの家に戻っても、神原に再び捕まるのが落ちだろう。


「一般論で言わせてもらうとさ……警察に頼れば安全じゃない? というか、あの会社に酷いことされたって言えば会社潰せるんじゃないかな? あ、もちろん私がお金を巻き上げたあとの話ね」


「……会社を潰すのはたぶん無理です」


「なんで? あなた人体実験的なことされてんじゃないの?」


「なんで、それを!」


「いや、たまたま注射の跡とか見ちゃったから……ほら、製薬会社だし? なんか怪しい実験してるのかなって」


服の真人は袖を捲る。いつもどおりそこには跡が残っていた。それを見るたび、気を落としていたが、今になってあることに気が付いた。


注射痕が圧倒的に少なくなっているのだ。以前までは――神原の元で血液採取などを受けていた時分――全身を巡らせるほどの跡が残っていたのだが、足を見ると二、三ヵ所。腕は五ヵ所ほどしか残っていない。


――身体の治癒力が高い?


真人は思った。


驚き固まってしまった真人を見ても、女は何事かわからない。興味はすぐに薄れ、本題に戻る。


「ま、まぁとりあえずどうでもいいや。正直、解放したあとのあなたの事情は私には関係ないしね。自由にしてってことで」


女は立ち上がる。


「どこに行くんですか?」


「ん、買い物。欲しいものある? 食べたいもの。今日限りの関係だから奮発してあげてもいいよ」


そういって財布の中身を見せてきたが、千円札が五枚に小銭がいくらか。


「わかるでしょ、私だって必死。まだ、人道的だと思って欲しいくらい。だって、相手はあのよくわからない製薬会社だし。罰はあたらないはず」


「……」


「コンビニ弁当でいい? いや、適当に良さそうなもの買ってくる。せっかく協力してくれるんだしね。あ、ご飯食べたあとはすぐに寝てね。暗くなってから電気使うの勿体ないし。あと、勝手に逃げないように扉は閉めて出ていくから。それくらいは勘弁してね。あと――」


まくし立てるように言うと、最後に一言付け加えた。


「とりあえず、アキラって呼んでね」

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