第9話 ~決起前日、嵐は近づく~
フェリス「そろそろ宿場につくよ!」
ルシウス「了解した」
遺跡を抜け、砂塵舞う砂原を越えた先2人は砂漠にぽつんと佇む宿場へと到着する、赤砂の砂漠の中にあるエメラルドグリーンのオアシスは宿場全体を映えさせる。
商人A「豆と肉だ、1000ゴールドでどうだ?」
男「いいや、高すぎるね!」
商人A「チェッ! 砂漠じゃ貴重なんだよ坊主!これ以上は下げられねー!」
男「なら買わん! じゃあーなおっさん!」
ルシウス「あまり品物の出入りが悪いようだね」
フェリス「この乾燥した気候じゃね……豆も肉も麦も育たないし、そのせいで他国からお金が入ってこない、とくにここみたいな宿場は貧困層が多い……」
≪3000年前、ここ赤砂の砂漠、セト大砂漠は温暖湿潤で地の果てまで続く大草原、セト大平原と言われていた、しかしこの地で魔皇国サクリファイス、神聖エルガルド帝国との戦争が勃発、両者は激しい戦いの結果、神聖エルガルド帝国が勝利を収めるも大量に命が失われたことにより大地に莫大な魔力が流れ出し年代識別不明の太古の遺物を起動させ平原の10割を砂漠へと変えてしまう結果となった。人々はそれ以降この戦いを不得の大戦と呼ぶようになる。≫
フェリス「不得の大戦……」
ルシウス「……」
フェリス「……あー!ごめーん! つい暗い話しちゃった! それよりもまずは状況整理だね!」
ルシウス「そうだね! じゃあ早速……」
ー数刻後ー
ルシウス「ふむ、要約すると教団は未知の魔物を使役している、そして子供を連れ去り何等かの儀式、細工をしている、そしてなぜかあのとき剣の力は発現しなかった」
フェリス「こんなこと砂漠にずっと住んでたのに初めてだよおお……ううん……」
ルシウス「まずは情報取集だな……」
フェリス「賛成……あ! そうだ! 情報を集めるのなら私の知人に訪ねてみる? とても物知りなの!」
ルシウス「信用していいか疑問だか……今はそうするしかないか……」
ルシウスはそう覚悟を決めると剣に手をかざす。
ルシウス「……よし、力の発現は今はできている。おそらくは太古の遺物をの効果で発現が抑えられたといっていいだろう…… この宿場にいる分には大丈夫そうだ」
フェリス「よーし! なら準備ができたらしゅっぱーつ!」
2人はボロローブで肌を隠し情報を収集した。
ルシウス「……そこの商人、最近様子のおかしい連中を見なかったか?」
商人B「あ? 様子のおかしい人だ?あんまり見てねーなー……すまんなあ、あんちゃん」
フェリス「そこの君たち! 人を探してるんだけど仮面をつけてローブを着た人たちを見なかった?」
少年A「見てないぜ」
フェリス「そうかー……そうだよねー……そう簡単にはいかないよねー……ありがとうね!」
少女A「んー、はい! パン! 落ち込んだ時は食べ物を食べると元気でるの!」
フェリス「あ、ありがとう!」
少女A「じゃーねー! 猫のおねーちゃん!」
フェリス「……よし! なんか元気貰っちゃったー! 次は酒場のマスターに話をつけてみよう!!」
ー数刻後ー
ルシウス「フェリス、そっちはどうだった?」
フェリス「全然だめだったああ! あ、でもこれから知り合いのおじさんに聞いてみるから多分大丈夫!」
ルシウス「よし、ならそこへ向かおう」
-数刻後ー
オアシスの宿場、その西にある酒場へと向かう、照り付ける陽の光は砂レンガを熱くさせる、やがて聞き込み調査は正午を回り照りつく光も最高潮になる。そのなか2人は建物の影を伝いながら酒場を目指して足を進め、数刻もすれば目的の場所へとたどりついた。
フェリス「ここだよん♪ マスター! お酒1杯頂戴!」
酒場のマスター「お、フェリスか! 久しぶりだな! 元気そうで何よりだ! ほれ! ラムエールだ」
フェリス「ありがとう! 好きなお酒覚えててくれたんだ! あ、そうだ! 話があるんだ、そこにいる少年が困っていてねー、私の連れなんだけど情報を提供してほしんだ」
ルシウス「初めまして。ルシウスだ、最近怪しい人を見なかったか? あるいは仮面とかローブをつけていたりしたとか」
酒場のマスター「そいつは……かなりの厄介事だな……フェリス、あんちゃん。店の奥に来な、そこで話をしよう」
ルシウス「了解した……」
2人は酒場のマスターに連れられ店の奥へと向かう。奥に行くとマスターは棚を横にずらし始めた。
酒場のマスター「秘密の隠し階段ってやつだ、よくできてるだろ?」
フェリス「すっごーい!」
ルシウス「……行こう」
3人は地下へと続く階段を一段、一段とランタンの明かりを頼りに降りた。
地下はかなり深く続いていて地上とは違い薄暗く空気が冷えていた。
しばらくすると通路の底へ着く。
ルシウス「これは……」
酒場のマスター「俺が隠し続けてきた教団に関する情報だ……扉を開けるぞ」
フェリス「ゴクリ……」
店主が扉を開けると部屋の中には風化した壁画の一部が立てかけられていて机の上にはおびただしい資料、太古の遺物…そして家族写真があった。まるで砂岩でできた研究室のようだ。
ルシウス「……太古の遺物」
フェリス「ねえ……マスターどうゆうこと教えて」
酒場のマスター「あれはもう10年前になる……俺には一人の娘がいた……名前はヒルダ、10歳だった……とてもやさしくて健気な娘でな……自慢の娘だった。俺らはもともとここから離れた別の村でひっそりと平凡に暮らしていたんだ。あの狂った教団が村を襲うまではな……」
フェリス「そんな……」
ルシウス「……」
酒場のマスター「奴らは村に火を放ち、子供だけを攫っていった。大人老人は皆殺しだった。妻もその時にやられちまった……。なのに俺は……生き残っちまった……生き残っちまったんだよ! クソ! それから俺は奴らのことを徹底的に調べた……目的、各拠点、幹部の情報、そしてあのレムナントとかいうクソ魔物! その全てを掴んだつもりだ……だが残念ながら俺には復讐できる力はねえ……だから頼むッ! ここの情報をすべてやる! だから! ……娘を……娘を! …取り返してほしいッ! 協力してくれ! ……頼む……」
フェリス「……」
ルシウス「……ああ、協力する。必ず娘さんは取り返す……」
酒場のマスター「……ありがとう……あり……がとう……」
フェリス「……ルシウス……」
ルシウス「……そうと決まればまずは情報交換だ」
酒場のマスター「あ……違いねえ!」
それぞれは互いに意見を交わす。
酒場のマスター「なるほど、お前たちは怪しい奴の跡をつけて集会に潜入したのか……んで、あんちゃんの剣がレムナントに有効だがそのとき剣の力が発現しなかったと……」
ルシウス「はい、そうなんです。いつもなら、このように……魔力を込めれば刀身部分に光が宿るはずなんですがあのときはなんだか変で、まるでなにかに光を押さえつけられるような感覚でした。」
フェリス「ねえ、なにかわかる? マスター?」
酒場のマスター「んー……もしや……」
酒場のマスターは棚を漁り始めると鉄の塊を出し、ルシウスの剣に近づける。
酒場のマスター「あんちゃん、もう一度魔力を剣に込めてみ」
ルシウス「わかりました」
言われるがままルシウスは魔力を込める。
………が、いくら魔力を込めても剣に力が入らない。
ルシウス「? ……これは……」
フェリス「おおお」
酒場のマスター「やっぱりな、あんちゃん! おそらく原因は教団が地底から引き揚げた遺物が原因じゃ、この鉄の塊は昔潜入調査したときのサンプルでな、今はかなり剣に近づけたが、本体は街3つ分くらいの距離で離れていても力を封じられちまうだろう、遺物については教団の資料に書いてあった」
フェリス「じゃあ、どうすればいいのさ」
酒場のマスター「安心しな! フェリス! 資料によれば遺物は魔力に由来した物以外は無効果できない! そこでだ、こんなときもあろうとこいつを用意した!」
酒場のマスターは部屋の片隅にあった布を払い二人にそれを見せた。
酒場のマスター「ハッハッハ! 見よ! 採掘用爆薬ニトロン! 破壊範囲50m四方分!」
木の桶一杯に爆薬が詰まっていた。
フェリス「ちょちょちょ!? 一体どこでこんなに入手したのよ!」
酒場のマスター「知り合いのドワーフに昔貰ったものだ! 昔は今と違って爆薬の譲渡に法なんてなかったからな! そうだ遺物は教団が移動すると必ず一緒に移動することになっているようだ、つまり警備が手薄になったとこでドカーンだ!」
フェリス「そうだルシウス、教団の人たち確か嵐の神殿に行くっていってなかった?」
ルシウス「そうだね、そこを目指そう、マスターは嵐の神殿について何か知ってないか?」
酒場のマスター「嵐の神殿か……こりゃ大変だな……」
ルシウス「?」
酒場のマスター「嵐の神殿はここだ」
酒場のマスターは地図を広げ指を指した。
フェリス「? えー! ……1000年吹く砂嵐のど真ん中じゃん! どう行けばいのー!?」
酒場のマスター「実は近くに嵐の目に出られる洞窟がある。そこを抜けるすると塔状に砂岩が伸びていて道が崖際にあるからそこを上ると神殿だ、だがおそらく肝心の遺物は前回潜入したときには塔の地下にあったからまずはそこを目指すべきだろう」
フェリス「ほうほう! 意外と早くにかいけーつ!」
ルシウス「つまり作戦は、遺物までの敵は極力無視し到達次第爆薬を設置、爆破したら自分が剣の力を開放するので、その光が合図、頂上の神殿まで自分が一気に突貫する。そして道中に囚われた子供達がいたらフェリスとマスターで順次救助」
酒場のマスター「そいつはいいな、その作戦で行こう、ただ2名の幹部、教祖のカース・ジェノサイダーと黒聖女のレギーナ・ブラッドローズが厄介だ、勝てないと思ったらすぐに引き返せ」
ルシウス「了解した。教団は後日に移動予定ですのでそれに合わせて潜入しましょう」
フェリス「りょーかい!」
酒場のマスター「血が滾ってきたわ!……待ってろ……ヒルダ……」
2人の旅人は酒場で教団の情報を知り、1人の父は10年の時を超え教団に反撃の牙を向ける。
今宵は決起前日。後日神殿にて救済と復讐の嵐が吹き荒れる。
宿場の町酒場にて。