エンディング 気弱少女と相棒と機械仕掛けの戦士
〇フソウ ドーム都市内 病院横仮設修理所
広場に囲まれた真ん中に、城塞のような病院がそびえ立つ。立てこもる市民を攻性獣から守るべく、人戦機たちがいまだに奮闘を続けていた。
その脇で、横たわったシドウ一式をリコが修理している。右腕の装甲は吹き飛び、筋肉状駆動機構がむき出しになっていた。
降りかかる再活性可能電解燃料液をものともせずに、リコが破損した筋肉状駆動機構を取り外す。すぐさま、機材とつながったタブレット端末を操作すると、指が動いた。リコがうんうんと頷く。
タブレット型情報端末を操作すると、シドウ一式が自動操縦で上体を起こした。そして、アオイに向かってかしずくように、立膝をつく。それは、主人の命令を待つモノノフのようだった。
シドウを見上げていたトモエが振り返り、座っていたアオイを見下ろした。バイザー型視覚デバイスの上にある眉が、心配そうに歪む。
「アオイ。万全でない中で申し訳ない。頼めるか?」
「大丈夫です。動けます」
自爆の衝撃は大きかった。全身を襲った衝撃は、痛みの傷跡を今も残している。脳震盪に、打撲、揺さぶられた関節も軋んでいる。都市の重傷者が多いので、湿布なども処方されていない。
なんとか、骨折や挫傷は免れた。
(シドウの装甲と、トモエさんがつけてくれた安全装置のおかげで、どうにか)
身じろぎすると小さい電流のような痛みが駆け上る。思わず、目に力が入った。その様子を見たトモエの声は心配そうだ。
「いつもなら、安静にしてもらう所だが……。今回だけは」
「分かってます。今は、頑張らないと」
シドウ一式の破損と修理で、アオイは休憩を余儀なくされていた。戦闘で上がっていた脈と熱も、今はすっかり落ち着いている。興奮で抑え込まれていた痛みがぶりかえしていたが、今は戦わないといけない。
よろけつつ立ち上がり、かしずくシドウを見上げる。これから、シドウに乗ってまた戦う。そう思い、歩を進めようと思ったところだった。
「あれ?」
足が動かない。張り付いたように、止まったままだった。
「あれ? あれ?」
足が動かない。確かに痛みはあるが、歩けないほどの重傷ではない。何が起きたのか分からなかった。トモエが怪訝そうに口を開く。
「どうした? アオイ?」
「いえ。ちょっと……」
もう一度、前に出ようとする。しかし、視界は止まったままだった。
「あれ? あれ?」
下を向けば、知らない間に膝が震えていた。
「どうして……? どうして、足が震えてるの?」
これから戦う。戦わなければならない。そう自分に言い聞かせた瞬間だった。
(え!?)
幻の爆発が、網膜を焼き、鼓膜を震わせた。すべてが幻のはずなのに、その爆発は身体中の力を奪い去った。ふつと身体が、崩れ落ちる。
「た、立てない……!?」
そのまま尻もちをついて、動けなかった。
「これから、みんなを守らないと行けないのに?」
しりもちをついてなお、両の膝はガタガタと震えている。みっともないくらいの失態に、思わず涙が出そうになった。
「と、トモエさん。違うんです。……違うんです! これは、たまたまで。きっと、偶然で」
「……アオイ。分かっているんだろう」
その指摘に、言葉が詰まる。なぜ、今こうなっているか、本当は分かっている。
(確かに、もしかしたらって、思っていたけど)
トモエが、答えを告げる。
「間違いなくパニック症候群だ。先ほどの無茶が原因だろう」
周りを見れば、サクラダ警備を始めとした武装警備会社の社員が戦っている。ソウも、シノブも、イワオも、ダイチも、ナナミも、リョウも、みんなが。
そして、自分だけはへたり込んでいた。
「みんな、戦っているのに……! どうして……!?」
気弱で憶病な自分だけが、いま戦っていなかった。前を見ればトモエが、横を見ればリコが、後ろを見れば救いを待つ市民たちが見える。
その姿を見た途端、目から涙が止まらなくなった。
「守りたいのに……! 役に立ちたいのに……!」
ひくひくと止まらない嗚咽を抑えながら、トモエを見る。
「トモエさん、ごめん、なさい。あの時、変わるって、約束したのに、変われなかった」
ソウに引きつられて、サクラダ警備に来た時のことを思い出す。トモエからの、変われるかという問いに、答えた時だ。
「変わるって、約束したのに」
気弱で、憶病で、自分で自分を諦める自分から、変わると誓ったはずだった。
「全部どころか、少しだって力を出せない……! こんなんじゃ、ソウの相棒なんて……!」
「アオイ。何か問題が発生したか?」
スピーカー越しに拡声されたソウの声が聞こえた。
「ソウ……?」
涙をぬぐって前を見ると、ハンドガンの弾倉を交換しようとしているシドウ一式がこちらを見ていた。ソウのアサルトライフルは、結局は修理できなかった。
それくらい大変な状況なのに、自分は人戦機に乗れない。
「……ごめん」
「謝罪は非効率的だ。何があったのか説明を」
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
謝罪の言葉と、涙しかでなかった。
「アオイ? 何があった?」
「……乗れないんだ。乗ろうとすると、身体が動かないんだ」
「不調ということか」
「……ごめん。……ごめん」
「肯定と解釈した」
突き放された気がした。弾倉の交換を終えて、ソウ機が前を向こうとする。引き留めようとしてなのか、心からの謝罪なのか、よく分からないまま、口が勝手に開いた。
「ごめん。ソウの相棒、できなくなっちゃった」
「理由が不明だ」
「全力を出せない。全部どころか、少しだってできない」
うつむいたまま、未練を断ち切るように強く言った。
もう返事は来ないかもしれない。そうあってほしい気もするし、そうあってほしくない気もする。なんて甘えた感情だろうと、一層自分で自分が嫌になった。
しかし、ソウからの返事があった。
「アオイ。誓いの言葉を忘れたか」
「覚えているよ。覚えているからだよ……」
「いや、アオイの記憶には欠落がある」
「え?」
思わず顔をあげる。
「順調な時も一緒だが、不調な時も一緒だ。そう誓った」
「つまり、今……も?」
「ああ、だから先に戦っているぞ。相棒」
何も言えなかった。
無愛想で、ぶっきらぼうで、効率重視のソウならば、戦えなくなった、頼りにできなくなった自分を見捨てると思っていた。
そのまま口を開けていると、今度はサーバルが来た。
「あー、アオイ?」
「シノブさん……?」
「まぁ、人生長いんだ。真っ暗闇のトンネルに迷い込んじまったと思うときもある。でもな、いつかは抜けられる」
坑道での、シノブの半生での苦闘を思い出す。何も見えなくて、敵におびえて、足取りだけが重かった、長い長い戦いだった。
そして、それでも最後にはトンネルを抜けられた戦いでもあった。
「シノブさん……」
「だから、先に戦っているぜ。ルーキー」
サーバルが弾倉を換えて去っていく。
今度はファルケがやってきた。
「アオイ。その、なんだ。今から言うのは、ただの独り言だ」
「イワオさん……?」
「いつだったか、ワシがパニック症候群になったか、と聞いたのを覚えているか?」
「はい。治療訓練の時ですよね」
「その時、はぐらかしてしまった」
「は、はい」
「これは独り言だ。返事はいらぬ」
そんなはずはないだろう、と思うがとにかく黙る。
「ジョウに撃ち抜かれて、右手を失った日から、人戦機に乗れなくなった日々がある。何があっても不屈。そんな連中に囲まれていたから、自分の平凡さに嫌気がさしたのを覚えている」
まさに、自分だった。
「他人と……相棒と比べて、どうして自分だけが、と思うこともあるだろう」
「……はい」
「独り言だといったろう」
イワオが少しだけムッとしたように話す。少しだけの照れが混じったようなものだった。
「だがしかし。お前には才能がある。サクラダ警備の、トモエの求める才能が」
「え?」
「人生は長い。お前も望みを叶える日が来るかも知れん。だから待っているぞ。弟子よ」
そう言って、ファルケが去った。
託されたメッセージが、ずんと胸に残っている。
「みんなが、ボクを、待っている」
平凡な自分を、あれだけ凄いみんなが待ってくれている。それが、ほんの少しだけ胸の奥底に火を生んだ。
「立たなきゃ」
グッと足に力を込めてみる。
「立たなきゃ……!」
しかし、それでも足は動かなかった。
自分で自分を殴りたくなって、やけくそに足を殴った。動かないくせに、足は痛みだけを主張する。
「立たなきゃいけないのに! 迷惑をかける訳にはいかないのに!」
トモエが歩み寄る。腰をかがめ、肩に手を置こうと腕を伸ばした。
「アオイ。今は休んだ方が――」
しかし、言葉は途中で止まった。
「……トモエさん?」
なんだろうと思い顔をあげると、トモエが背筋を伸ばし、襟元の社章を握りしめていた。唇はぎゅっと閉じられている。硬くなった表情からは、内面をうかがい知れなかった。
「芯が必要……か」
そうつぶやいて、トモエが大きく息を吸った。
「アオイ、今からお前に魔法をかける」
「魔法?」
「ああ、おまじない……のようなものだ」
そう言って、トモエが襟の社章バッチを取った。差し出された手の上で、盾に桜の社章バッチが光る。
「これを握りしめれば、お前は理想の自分になれる」
「そ、そんなこと」
「なれる。なった奴がいる」
「え?」
「ある元武装警備員の話をしよう。そいつは目にひどい怪我をしてな。治療したはいいが、人戦機に乗れなくなってしまったんだ」
差し出された掌に自然と腕を伸ばした。トモエの熱が移った社章は、ほんのりと温かかった。
「多少の才能と、素晴らしい環境に恵まれて、一人前に育った自信は粉々になった。それでも、人戦機に乗れなくても何とかしようと勉強を始めて、指揮官になった。その後も、色々あって新しい会社を作った」
「それって……」
ひどい怪我をして人戦機に乗れなくなり、今は社長となったトモエを見る。
「だが、最初からうまくいくはずない。社長として、何もかも初めての新天地は厳しいものだった」
「新天地……」
その言葉を聞いて、初めて武装警備員になった時を思い出す。
ここウラシェという土地も、姉のいない一人の生活も、気質の合わない仕事も何もかもが新天地だった。慣れず、孤独を病み、いらない者として扱われた日々は、厳しい以外に言いようがなかった。
トモエも、そんな逃げ出したくなる、それでいて逃げることのできない日々を送っていたのかと思う。
「自分は社長らしく振舞えているのか。愛想を尽かされて、社員に辞められてしまうのではないか。不安で三日は寝れないこともあった。足が動かなくて、会社にいけないと思った日もあった」
トモエが、数秒前とは違うトモエに見えた。
聡明で、冷静沈着、それでいて度量のある社長ではなく、悩んで生きてきた一人の元少女に見えた。
社長としての仮面を脱いだトモエは、ひどく傷だらけだった
一人の人間として話すトモエへ、一人の人間として問いかける。
「……そんなとき、どうしていたんですか?」
「この社章を強く握った。これを付けている間だけは、理想の自分になれると言い聞かせていた」
入社したときから、不思議に思っていたトモエの癖だった。
ヒノミヤの警備でピンチになった時でも、初めての資源採取戦でも、その後も、そして今も。厳しい決断を迫られるときに、トモエは社章を握りしめていた。そして襟の社章を握り終えた後、いつもトモエは理想の上司だった。
「かつて私が憧れた、冷静沈着で勇猛果敢な司令官。部下の庇護者であり、同時に厳しくもある組織の長。そんな自分だ」
それは自分の目から見たトモエだった。
(トモエさん。いつも、本当は……)
トモエが襟の社章を外し、目の前に差し出した。
「だから、アオイもこの社章を握りしめろ」
トモエの社章は、すっかり擦り減っていた。花の輪郭はぼやけ、華やかな桜色は薄れている。
(今まで、どれだけいっぱい)
自然に手が伸び、社章を優しく包みたくなった。やわやわと社章を握っていると、トモエの掌が包み込んできた。
「さぁ、ぎゅっと握れ。強く、強く握りしめて、理想の自分を思い描け」
「……はい!」
ぎゅうと社章を握る。トモエも手の甲を包むように握ってきた。強く大きな熱が、トモエの手の平から自分の甲へと伝わってくる。
(普段は憶病で、気弱で、ダメなボクだけど)
トモエの社章にありったけの願いを込める。
(今だけは、この時だけは)
みんなの仲間として、ソウの相棒として、ふさわしい自分を思い浮かべる。目を強くつむり、まぶたの裏に戦士として立ち向かう姿を描く。
ほんのひと時でも、仮初だって構わない。それでもよいから、今だけは仮面を被って戦う覚悟を込める。
(震えが、止まった)
ぶつりと断ち切られていたように思えた足に、血の気が戻ったように思えた。動けと念じれば、スッと膝立ができる。
それを見たトモエが二コリを笑う。
「いけるな」
立てる、きっと歩ける。その確信があった。
「ありがとうございました」
膝立ちのまま頭を下げて、トモエの社章を返そうとする。しかし、トモエは受け取らなかった。
自分の手を、戦闘服のポケットへと導いた。そのまま、社章をポケットへするりと滑り込ませた。
「え? トモエさん」
「これで、アオイもサクラダ警備の社員だ」
「でも、自分なんかが」
「アオイには、才能がある。私が望む才能が」
先ほどのセゴエの言葉を思い出す。
(トモエさんが、ボクの中に何かを見ている……。まさか)
とても、信じられなかった。
「そんなの……。本当に? どんな?」
「善であろうとすることだ」
トモエのバイザー型視覚デバイスがこちらを向いた。
「人は社会を成す生き物だ。会社は最たる形態で、得意不得意の違う者たちが協力をしなければならない。そのためには、仲間に信頼されることが必要だ」
サクラダ警備は、そんな人ばかりだった。信頼に足る、そんな仲間だった。
「だから、一員として、善であろうとしなければならない」
トモエが言葉を続ける。
「鬱憤晴らしの偽善ではない。安全地帯からの空虚な善でもない。痛い目を見ればすぐに引っ込めるような善でもない。困っている人のため、自ら動き、無理を押しても、それでも誰かを助けようとする、そんな善だ」
トモエのバイザーは、ずっとこちらを見ている。
「人の助けになることを喜び、人のために頑張ろうとする。アオイは、私が思い描く善人だ」
トモエのバイザー型視覚デバイスに、自分の顔が映り込んだ。気弱そうな垂れ気味の丸目。低い鼻に丸顔な、どこにでもいそうな平凡な顔立ちだった。
「でも、そんな人、いっぱい……」
「ああ、確かに万に一人とか、そういう才能ではない。たくさんいる中の一人かも知れない。凡人と呼ばれるかも知れない。でも」
トモエが肩に手を置いた。
「そういう人たちこそが尊いと思っている。賢い者、強い者、富める者よりも。今みたいな大事でもそうだし、小さな親切でもいい。そんな善であろうとする人たちを、私は好きなんだ」
肩から、トモエの思いがずしりと伝わってくる。
「だからアオイには、私の会社の一員であって欲しい。さぁ、いこう」
トモエの手が肩から離れ、自分の手をつかんだ。
トモエが立ち上がり、その勢いですっと腕を引かれた。心づかいの籠ったリードと共に膝に力を入れる。
すると、拍子抜けするほど軽く立てた。
「立てた……」
「震えは治ったようだな」
「……はい!」
「そして、私からのお願いだ。もう戦えなくなった私から、戦士たるアオイへ」
トモエが再び手を握ってきた。祈りを、願いを込めるように、強く、強く握ってきた。
「私を、私たちを、どうか守ってくれないか」
自分が戦うのは、大事な誰かを守るため。その気づきをきっかけに、今までにないほど体が熱くなる。
「分かりました」
手を放し、居住まいをただし、深々と礼をする。そして、誓うように叫んだ。
「トモエさん! 行ってきます!」
「ああ、頼りにしているぞ」
すぐさま振り返り、立膝をつくシドウへ向かって歩く。シドウの脇でリコとカジが手を振って待っていた。
「アオイさん! 予備部品で動くだけはできるようにしたっス!」
「腕部装甲は間に合わなかった。注意しな!」
「カジさん、リコちゃん。ありがとうございます」
乗り込むのを待ち構えているようなシドウ一式を見上げる。昔のフソウを駆けていたという、戦士の大鎧に似たフォルム。鉄兜のような頭部装甲に、静かな輝きをたたえる視覚センサーが収まっていた。
「機械仕掛けの戦士か」
ウラシェに来た当初は、こんな仕事をするとは思っていなかった。しかし、これから続く道を、シドウと共に歩むのかも知れない。
「これが、戦士の道、ボクの生きる道なのかも知れない」
今は自分の歩む道がはっきりと見えた。
「一緒に歩こう。歩いていこう。士道」
そう言って、膝立のシドウの背に回る。搭乗用の取っ手を掴み、うなじまで登り、レバーを引くと、コックピットへの扉が開いた。
そこから、コックピットに掛けられた半透明ヘッドギアをかぶり、コックピット天井の電源レバーを入れる。入社以来、何回も繰り返し、半ば機械化した動作だった。
「立って、シドウ。ボクを機械仕掛けの戦士にして」
操縦士の願いを読み取って、シドウが立った。気弱な少女が、機械仕掛けの戦士をまとう。
そのまま、後方で銃を放つファルケの横に付ける。至近距離限定通信ウィンドウに、イワオの顔が映った。
「ほう。戻ってきたか」
「はい。遅くなって、すみませんでした」
イワオが、白い口髭を動かして笑う。
「いや、随分と早い。青は藍より出でて藍より青し、とはアオイにぴったりだな」
「アオ? なんのことです?」
「なんでもない。ただの言葉遊びだ。それよりも、後方支援はワシに。アオイは相棒と居てやれ」
「いいんですか? 火力支援の手伝いをしなくて?」
寂しさと励ましが混じった澄んだ笑顔が、通信ウィンドウに映し出された。
「お前には、相棒と共に在ってほしい」
鷹の目が柔らかさを含んでいた。
「分かりました」
いつも敵に一番近くて、いつも無茶をする相棒の傍へ。ソウを支援している、いつもの距離、いつもの位置に機体をつけた。
「ソウ。お待たせ」
ハンドガンで攻性獣を撃退し、一息ついたソウが通信に応じた。
「復帰か。想定より短かったな」
「そっか。でも、もう大丈夫」
ポケットの中の社章を握りしめる。
「これで、ボクは戦える」
「今、何をした?」
「おまじない。ボクが、理想のボクであるための」
ポケットから社章バッチを取り出し、コックピット内のカメラにかざす。
「サクラダ警備の社章か。なぜアオイが?」
「トモエさんからもらったんだ。これで仲間だって」
その途端、ソウが切れ長の三白眼をゆがめた。
「どうしたの? 怖い顔して?」
「オレはもらっていないぞ」
「……もしかして、すねてるの?」
通信ウィンドウにトモエが映った。堪え損ねた笑いが、くすくすと漏れている。
「もちろん、ソウにも後で渡すさ。ソウもアオイも、試用契約は終わりだ。さぁ、正式採用最初の任務。頑張ってくれ」
「分かりました!」
「了解」
また一匹、攻性獣が大通りの向こうからこちらへ来た。迎え撃とうと、二機そろってハンドガンを構えていると、後ろから声が聞こえた。
耳をそばだてると、イヤホンが声の音量を上げた。
「アオイさん! ソウさん! ギュンギュンに頑張ってほしいッス!」
「このすっとこどっこいが! そんな言い方じゃ伝わらねぇだろ! お前たち! ここからが鉄火場だ! 気張っていけよ!」
「お前たち! 梨が欲しければ俺たちをきっちりと守れよ!」
「バカ! なんでミズシロは、そんな言い方しかできないんだ! サクラダ警備の皆さん! 頑張って!」
「嬢ちゃんたち! 頑張れよ! ほら! お前たちも!」
「もちろんですよ、監督! みんな頑張れ!」
知った声だった。その声が呼び水となり、病院に立てこもった避難民みんなからエールが聞こえてくる。
なぜか、目頭が熱くなり、熱が頬を伝っていった。
「どうした、泣いているのか?」
通信ウィンドウのソウが、不思議そうに聞いてきた。
「うん。みんなに頼られるのが、うれしくて」
「いつも泣いているな」
「そうだね。ごめん」
「謝罪は非効率だ。これからのことを考えろ」
「そうだったね。ボクがそう言ったんだもんね」
そう言って、二人そろって攻性獣を撃つ。黄色い血肉が飛び散り、無機質な獣は動かなくなった。
「ソウ。ボク、この仕事を続けたい」
「そうか」
「でも、ボクは弱虫だから、またくじけるかも知れない」
「想定されるな。だが問題は無い」
ソウが、ほんのわずかに笑った。
「オレたちは相棒だからな」
「そうだね。相棒だよね」
変化を乗り越えた者が新天地を手に入れられる。
それは、この世界でも同じだった。
気弱で、臆病で、自分で自分を諦めていた少女は、新天地を目指した。でも、現実は甘くない。懸命に生き、それでも弱さを突きつけられる。思い描いたような天才でなく、凡人としての足掻く日々だった。でも、少女は変わろうとした。不器用でも、不格好でも、やりきった仕事は芯となった。
少女はこれからも変わろうとする。今日も、きっと明日も。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
私自身も職場をもう一度変えて再出発するなど変化もある中での苦闘でした。約3年にわたる連載期間で、私も凡人らしく色々と未熟を思い知りました。続きを書くには幅を広げなければと考え、いったんこの作品は完結扱いにします。別世界観の短編・中編など習作を経て実力をつけた後に、本作の連載を再開しようと思います。
もしここまでの感想やレビュー、評価をいただければ、今後の励みになります。
では、また別の作品か本作の続きでお会いできれば。




