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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード3 都市防衛編
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第四十一話 少女と哀しい人と最悪の敵

◯フソウ ドーム都市 中央病院


 シドウ八式の暗く狭いコックピットでうめき声が聞こえていた。片目だけ覗く切れ長の瞳が悔しさに歪む。泣きぼくろの上を、ひとしずくの涙が流れた。


「なんで! 誰も裏切らないの……!?」


 ヨウコがなにもないコックピットの壁を、何回も叩く。


「どうして、私だけが……! なんで、私だけが……!」


 ふんわりとした長い巻き毛を揺らしながら、ヨウコがゆっくりと前を見る。普段は妖しい静かさをたたえた瞳が、今は燃えるような激しさを宿していた。


「すりつぶす、すりつぶす、すりつぶす、すりつぶす」


 濡れるような艶の唇で、真っ黒な呪詛をつぶやく。


「くぁぁぁ……」


 苦悶とともに、ヨウコの焦点がぼやける。こめかみには血管が浮かび、痛みで目尻が痙攣している。ヨウコが苦痛で頭をふるたびに、後ろに束ねた緩やかな巻き毛が揺れる。


「頭が……灼ける……! 私を……()()()としてくる……!」


 ヨウコが力を振り絞るかのように顔を上げた。形が良く通った鼻からは、ポタポタと涙のような血が流れる。


 そんな中で、銃声と銃弾が甲殻に弾かれる音が、ガンガンとヨウコの耳に響く。


「うるさい……! うるさい! うるさい!」


 ヨウコがギリと歯を食いしばる。痛みで朦朧(もうろう)としていた瞳に、怨念の光が灯った。


「それでも……! 大志のために……!」


 すぅと、息を吸い込む。


「私を守りなさい!」


 芯の通った声に従うように、メインモニターに映る重甲蟻(じゅうこうあり)が移動する。自機を守るように、隙間なく、それでいて目一杯の角度で展開する。


 女王を守る衛兵のごとく、防御は鉄壁だった。


「随分と一生懸命だけど、あれくらいの火力では無理なのにねぇ。……いや」


 そこまで言って、黒曜樹海(こくようじゅかい)での戦闘が、ヨウコの頭をよぎる。やられたと見せかけて、まんまと釣り出された一戦だった。


 その作戦を立てたのは、今も相対している気弱な少女だった。


「アオイさんなら、重甲蟻(じゅうこうあり)を撃ち抜けないことくらい知っているはず……」


 自信がなさそうに見えて、立てる作戦は鋭い。嫌な予感が、ひたひたと背筋を這い上ってくる。


「まさか……。でもレモン君はあそこにいるし」


 サクラダ警備の二機は重甲蟻(じゅうこうあり)の壁を超えられてはない。突破できるにしてもソウ機だけだろう。重甲蟻(じゅうこうあり)と自機の挟み撃ちなら、撃破できる。そうなればアオイを含めて、残り武装警備員も倒せる。


 理詰めで考えればそうだった。


「でも、何かある」


 燃えるような頭痛の中で、冷たい予感が首筋をなでた。今も銃撃を続ける二人をじっと見ていた。


 円盤型投射機(レドーム)が撃ち抜かれた。


「な!?」


 二秒遅れて銃声が響いた。つまり、超音速弾による遠距離射撃だ。


「狙撃! どこから!?」


 横を見れば、瓦礫から半身を乗り出す二機の影が映った。凝視するにつれ、メインモニターが急速に拡大される。それは、ファルケ型とサーバル型だった。


「たしか、アオイさんの会社の? 穴に落ちたはずじゃ? いや、穴に落ちからこそ……!?」


 再び、前を向く。重甲蟻(じゅうこうあり)の隙間から、アオイの乗るシドウ一式の頭部が見えた。鉄兜のような装甲の隙間から覗く視覚センサーには、確信が灯っているようだった。


「これを狙って……!?」


 攻性獣(こうせいじゅう)たちが動きを止める。紛れもない危機だ。


「十字砲火はまずい! 後退!」


 そう言って、人戦機を操るヨウコの顔に、いつもの余裕はなかった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シドウ一式のコックピットで、アオイがゴーグルモニターを食い入るように見ていた。その瞳には、射抜かれて宙を舞うレドームが映っている。


「やった! イワオさんが!」

「レドームを撃ち抜いたか」

「イワオさん、やっぱり回り込んでいたんだ。シノブさんも一緒みたい」

「よく予測できたな。通信もできない状況下だったが」

「でもさっき、穴の底がチラっと見えたから」


 ヨウコがにじり寄ったとき、シノブとイワオが落下した穴が視界の端に映った。しかし、穴の底にはファルケとサーバルはいなかった。


「だからと言って回り込むとは」

「イワオさんなら不意打ちを狙う。それだけなら分かるんだ」


 ()()イワオのことだから、起死回生の一手を打つに違いない。そう思った。


「だからアオイは、こちらへ注意を引き付けた」

「そういうこと」

「二人は地下通路を通ったのか?」

「たぶんね」

「なるほど。ならばチャンスだな」


 そう言って、ソウ機が背負う偏向推進翼(アサルトウィング)が輝いた。まっすぐと重甲蟻(じゅうこうあり)が並ぶ、甲殻の壁へと突っ込んでいく。


「ソウ! なんで突っ込むの!?」

「これが最高効率だ!」


 ソウ機が屈し、跳ねる。甲殻の壁へ水平に着地した。


「ここから!」


 偏向推進翼(アサルトウィング)の輝きが更に増す。甲殻の壁へ機体が押し付けられた。その反動を利用して、シドウ一式が重甲蟻(じゅうこうあり)を駆け上がる。


 一段、二段、三段と跳び、重甲蟻(じゅうこうあり)の天辺から空中へと躍り出た。


「そこだ!」


 瞬時にアサルトライフルを構えて、空中にいるまま発砲。銃弾が人戦機(じんせんき)装甲を叩く音が聞こえる。


「くそ! 逃げるか!」


 ようやっと重甲蟻(じゅうこうあり)を迂回して追いつくと、ヨウコはビル群の谷間へ逃げ込んだ。


「ヨウコさん! また逃げられた!」


 そのまま機体をソウの横につける。隣から、平静な相棒の声が聞こえてきた。


「状況判断が早いな」

「ヨウコさん。やっぱり戦いづらい……」


 奥へ後退するヨウコ機を見ているうちに、ファルケとサーバルが横につけた。


新人(ルーキー)ども! きっちり引き付けたな!」

「うむ。おかげで不意をつけた」


 四機揃って正面を見据えた。既にだいぶ距離の空いたヨウコ機を、ファルケが注視している。


「二射目を撃つ前に後退か。判断が早い」

「で、でも! あの攻性獣(こうせいじゅう)を操るお皿みたいなものは壊せました!」

「欲を言えば仕留めたかった」

「けれど、ヨウコさんはもう打つ手もないはず」

「両側を挟まれた都市で、グレネードランチャーとガトリング砲。油断はするな」

「た、確かに」


 ヨウコが逃げ込んだのは、狭い通りだった。高層ビルが両側にそびえ立つ人工の峡谷では、逃げる場所も少ない。


(ボクたちがヨウコさんと戦った時と同じだ。多数を相手にする時は、狭い所って作戦)


 中量級のシドウと軽量級のファルケとサーバル。サクラダ警備側の装甲は厚くはない。ヨウコ機の火力を押し切れる保証はなかった。


 どうやってヨウコ機を追撃しようかと思いあぐねていると、ヨウコが退いた通りの奥に巨人の影が見えた。


 新手の人戦機(じんせんき)だ。


「まさか!? ヨウコさんの援軍!?」

「いや、あの機影には見覚えがある」


 細身のシルエットは昔のフソウにいたニンジャに似ていた。両手には二丁のサブマシンガンを持っている。ソウの言うとおり、その機体の持ち主には見覚えがあった。


「セゴエさん!?」

「フウマ型にツイン・サブマシンガン。おそらくは」


 最初は廃棄都市で助けられ、そしてシミュレーターでは散々に叩きのめされた機体だった。


 その強さを思い知っているからこそ、緊張でこわばっていた空気が緩む。ソウの声も、先程よりは緊張がほどけているようだった。


「挟み撃ちできそうだね! ソウ!」

「それどころか、単独でも撃破可能と推測する」

「確かに……。セゴエさんなら、それくらいはできちゃうね」


 そこへ、トモエからの通信が入る。


「救援隊が来ると連絡があった。もう少しの辛抱だ」

「もう来ましたよ! しかもセゴエさんです!」


 救援というには贅沢すぎるほどの戦力だ。その実力は、シミュレーションで嫌と言うほど味わった。


「一人だけですけど、それでも十分な」

「いや。隊と言っていたのだが……」

「え?」


 サワサワとうなじが戦慄(わなな)いた。


「アオイ。様子がおかしい」

「ソウ? 何がおかしいの?」

「有効射程圏内に入ったのに発砲しない。互いにだ」


 確かに、セゴエ機とヨウコ機が近づいてきた。だが二機は銃を向けない。


 更に二機が近づいた。それでも二機は銃を向けない。まるで、互いが見えていないように。当然、そんなはずはない。あまりにも不自然な光景だった。


 とうとう、セゴエ機がヨウコ機の隣を通過した。


「な……んで……」


 言葉三文字を絞り出すだけで精一杯だった。こちらへ迫るセゴエ機へ、ヨウコが背後から声を掛ける。


「ありがとうございます」

「あ、そっか。なんでスピーカーかと思ったら、無線封鎖中か」

「そういうことですね」

「了解、了解。で、そっちはどうだった?」

「奥の手を使うところでした」

「あれな。かっこいいから俺は好きだけど」

「それでも隠すのに越したことはないので。それにしてもあなたが来るなんて」

「他のところは撃破しちまったからな。意外と手持ち無沙汰なんだ」

「それもありますが、表の顔を持っているあなたがこのタイミングで、と思いまして」

「そろそろアレが流れている頃だからな。構いやしないさ」


 その会話は、軽く、気安く、まるで。


「……どうして……仲間みたいなんですか?」


 ポツリとしたつぶやきだったのだが、セゴエはそれを逃さなかった。


「お、その声にその社章は、気弱ちゃんか?」

「なんで? どうしてそんなに、ヨウコさんと、テロリストと仲がよさそうなんですか……!?」

「その訳はそろそろ――」


 その声をトモエが遮る。


「各機! あれは敵だ! (ほう)けるな!」


 通信ウィンドウに映るトモエの唇からは、血が滴り落ちていた。形が整い、艶のある唇には噛み締めたような跡が滲む。


「そんな、信じられません……!」

「これを見ろ!」


 トモエがタブレットをかざす。見えたのは、ニュース画像だった。その文字に目を通していく。


「犯行声明……。動画配信……」


 そして、犯行声明として動画の切り抜きが映し出された。居並ぶのはテロ組織の面々だ。


「弾劾の旅団。それが今回の犯人」


 剣呑な雰囲気の集団の中で、一人の人物に目が留まる。短く整えられた髪に、精悍な面持ち。そのくせ、瞳が妙に無邪気な雰囲気で、キラキラとした輝きをたたえている。それが、テロ集団の中で浮いている。


「映っているのは……!?」


 セゴエが、テロ組織幹部として立っていた。


「そんな……」


 何もかもが崩れていきそうな視界の中で、ヨウコ機がセゴエ機の背後から礼をした。


「撤収終了までお願いします」

「おう。任せておけ。ちょうど遊んでやりたい相手だったんだ」

「それは良かったです。我らが()()のために」

「それ、やめてほしいんだよな。俺の名前を言われているみたいだからさぁ」


 セゴエ=()()()


 武装警備員で知らないものはいない当代無双の操縦士が、いま敵として眼の前に立ちはだかった。


次回も1~2週間後の更新です。

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