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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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桜子は出来が悪い

 恭平の予想に反して桜子が相談相手に選んだのは玲二だった。

「またカウンセリングをして頂けないでしょうか。秘密厳守でお願いします」

「メールありがとう。カウンセラーとして守秘義務があるので桜子ちゃんのプライバシーは最大限に守ります。さて、電話でのカウンセリングならば無料、カウンセリングルームならば有料になるけれど、どちらがお望みでしょうか」

「カウンセリングルームで相談したいです」

十月、桜子は制服のまま玲二の部屋を訪れた。二か月ぶりに見る桜子は暗い顔だ。

 

 桜子は出されたアイスティーに口を付けずに、

「三年の二学期になってこんなことを言い出すのはおかしいのですが、受験をして外部の大学に行きたいんです」

と切り出した。

「親御さんは?」

「両親とも大反対です」

「そうか。どうして外部の大学に行きたいと思ったの?」

「法学部か社会学部に行きたいからです。でも付属の女子大だとそれらの学部がないので」

「自分の前世が管野スガだったことも関係しているのかな」

「関係しています、多分」

桜子は頬を紅潮させながら、つっかえつっかえ自分の思いを説明する。

「冤罪が起こらない世の中にしたいんです。だから法律を学びたいと思って。それと同時に社会主義や無政府主義についても知りたいし。なんで私たちが高い税金を納めて天皇家を養わなきゃいけないのかも分からないし・・・・」

「そうだね。管野スガは二十九歳で亡くなったから、社会主義や天皇に対して突き詰めて考えていないところがある。考察を深めることは生きている君の義務でもあるよね」

そもそもスガが天皇暗殺に賛成したのは、社会主義や天皇制に深い考えがあったからではない。社会主義者を弾圧する政府に報復する為だった。

「私が親に突き付けた要求は常識外れだと分かっています。両親が首を縦に振らなかったのは仕方がないです。でも母親さえ私の気持ちを全然聞いてくれなくって・・・・」

「親御さんは何て言って反対したの?」

「あんたなんかどこも受からない。出来が悪いんだから内部進学で女子大に入るしかないって」

「まず否定から入る親御さんだね」

「ずるい考えなんですけれど、今から勉強したら夜間部なら入れそうなんです。そのことを親に言ったら、夜間部なんてみっともないから通わせないって」

玲二は苦笑した。

「そこも否定か。桜子ちゃんの望みは何だろう」

「やっぱり、外部受験、かな」

桜子は自信なさげに言った。

  

 玲二は一つの提案をする。

「外部受験は今じゃなきゃ駄目?」

「どういう意味ですか?」

「とにかく一度無試験で付属の女子大に入って、専門課程が本格的に始まる三年から法学部や社会学部に編入した方が現実的だと思うけれど。今から半年で受験に臨むよりも、一、二年年がかりで準備してどこかの大学に編入したほうが勝算がある。それに、もし編入試験に失敗しても女子大には籍がある。君は何のリスクも負わない」

玲二の言葉に頷きつつも桜子は浮かない顔だ。

「もしかして、他の動機があって他大に行きたいのかな?」

桜子は微かに頷いた。

「貧困問題とか社会主義のことを話しあえる友達が欲しい。でも女子大の家政科にそんな人がいるでしょうか」

玲二は桜子の懸念を一笑に付す。

「どこの大学でも社会問題を研究しているサークルがあるよ。そういうサークルは他大の学生も受け入れているからそこに入ればいい。僕の大学ので良ければ紹介してあげる」

桜子の顔が明るくなる。

「だから早く大学生になりなよ」

「はい、そうします」

彼女は時計を見て、

「一時間も話しを聞いて貰っちゃった。済みません」

と一万円を差し出した。「五千円でいいよ」と玲二は釣りを渡す。

「恭平には相談したの?」

「いいえ、相談しても親のいう事を聞けとしか言わないだろうし」

「あはは、じゃあ何にも言わなくていいよ」

「そうですね。玲二さんも恭平さんには・・・・・」

桜子は懇願口調だ。

「分かっている。秘密厳守だ」

「ありがとうございます」

桜子は頭を下げて、玲二の部屋を出た。


 空になったグラスを片付けた後、玲二はパソコンに向かう。文書ホルダーの名前は「緑川桜子 管野スガの転生者」だ。

「十月十八日 午後四時半。カウンセリング。本人は付属の女子大ではなく、他大の法学部か社会学部を受験希望。社会主義や貧困問題を語れる友人が欲しいことも理由。実母、継父との関係は良好ではない。交際相手とは信頼関係築けず」


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