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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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革命は近づけり

 十一月三日、この日は恭平の大学の文化祭があった。明治生まれの管野スガにとっては文化の日ではない。明治天皇の誕生日、天長節だ。

 

 明治四十年十一月三日、大逆事件の三年前、すでに革命は近づいていた。

天長節の喜ばしい朝、サンフランシスコの日本領事館に、明治天皇睦人に宛てたおどろおどろしい文書が張り出されていた。


「ザ・テロリスト 日本皇帝睦人君に与ふ

睦仁君足下、足下の命や旦夕に迫れり。爆裂弾は足下の周囲にありて将に破裂せんとしつつあり、さらば足下よ」


事実上の暗殺予告だ。それはサンフランシスコだけでなく、近隣の日本人街に同じ内容の文書が数百枚張り出されていた。更にその文書は海を渡って幸徳秋水を始め日本国内の多くの社会主義者に郵送された。


 

桜子と恭平は彼の大学の最寄り駅前で待ち合わせた。恭平は桜子の姿を認めると駆け寄った。今日の桜子はコットンの白いセーターにデニムのミニスカートというカジュアルな装いだ。恭平は会った早々桜子と手を繋ぎたくなるが友人たちの眼を気にして出来なかった。駅から大学が見えた。路上でビラが配られていたので、桜子は文化祭のイベント告知かと思い受け取る。そこには太い字でこう書かれていた。


「軍学共同絶対反対! 

日本各地の大学で防衛省の援助の元公然と軍事研究がおこなわれています。これは研究費を受給することで研究者が否が応でも戦争に協力することになり、経済的徴兵制に他なりません。

日本政府は海外への武器売り込みに躍起になっており、日本の科学技術が、パレスチナのガザやアフガニスタンの人々を殺す兵器開発に使われようとしようとしています」


「何これ?」

桜子はビラに目を落とす。恭平は横からビラを取り上げ、

「こんなの読むな。何だよあいつら、今日も来ているのかよ」

とビラを配った団体を苦々しく振り向いた。確かにビラを撒いているのはとても大学生とは思えぬ中高年の集まりだ。恭平は大学構内のごみ箱にそのビラを捨てた。

 

 夕方には大方の模擬店を見終わり、二人は大学から少し離れたカフェで休憩した。

「いいなぁ普通の総合大学は。私の行く大学は二学部しかないよ。女子しかいないし。サークルもあんまりないみたいなんだ」

「まあそういうな。俺だって研究が忙しくってサークル活動はほとんどしていない」

桜子が他大のサークルに入ったら嫌だなと恭平は思う。他の男と関わらせたくないのだ。

「そう言えば夏に子ども弁当のボランティアやっていたよな。最近はやっているの?」

「ううん。ボランティアとはいえ夜の外出は出来ないよ。大学生になったらまた始める」

「どういう人たちがやっているの?」

「どういうって、おじさんとかおばさんとか」

桜子は恭平が何を聞きたいのか察して言葉を濁す。三十代後半の中年男性と男子学生しかいなかったと言ったら恭平はうるさく干渉するだろう。


 桜子はさっき配られたビラが気になって仕方がない。私が読んでいたのに横からとりあげるなんてひどい、桜子は恭平を腹立たしく思った。

「さっきのビラは何だったの?戦争がどうの軍事がどうのって書いてあったけれど」

「ああ、あれな。変な連中だよ」

恭平は面倒くさそうにアイスコーヒーを飲む。

「恭平君の大学で武器を作っているの?」

「作ってはいないよ。ただ研究結果が軍事目的に使われることはあるだろうな」

「それって、遠回りに武器を作っているってことなんじゃないの」

「そうとも言えるな。でも、武器を作っちゃいけないって法律があるわけじゃなし、軍用品が日用品に転用された例はいくらでもあるんだぜ、カーナビとかサランラップとか」

「じゃああの人たち、何に文句があるのかしら」

「日本が軍事力を持つのが気に食わないんだろう。でもなぁ、周辺国が軍備費を増大させているのに、日本だけが何にもしないわけにはいかないよ」

そうだろうか、隣国と競い合うように軍備拡大をして、その末に戦争になったら多大な死者が出るのではないだろうか。それでなくとも日本は天皇の名の下で戦争をし、多くのアジアの人々を苦しめて来た過去がある。日本がこれ以上の軍事力を持ったらアジアの国々は脅威を感じるはずだ。世界の為にも日本は武器を持つべきではない、桜子の戦争に関する考えは社会主義者で反戦論者であった管野スガの影響を受けている。源治郎ならば「武器を作る金があったら貧しい子ども達に腹いっぱい食わせてやれ」と言うだろうか。

 

 十一月三日、天長節。革命は近づけり。


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