お泊り会
商店街の外れにある喫茶店でティータイムを終えると、夏鈴たちは佳恵の家に向かった。
途中、夕食の材料やジュース、おやつなどを買い込み、手分けして荷物を持つ。夏鈴だけ着替えを持っていなかったため、一度家に帰って着替えを準備した。
「とりあえず、着替えだけでいいかな?」
バッグに下着と私服を詰めると、すぐさま玄関に向かう。
「あら、またお出かけ?」
「うん、今日は佳恵の家に泊まることになったんだけど……」
「佳恵ちゃんの家? 迷惑かけないようにね」
夏鈴の母は、佳恵のことをよく知っていたため、あっさりと許可が下りた。おまけに、果物まで持たせてくれる。
夏鈴は「別にいらないのに」と言ったが、「そんなこと言わないの!」と無理やり押し付けてきた。仕方なく、果物を鞄に入れると、佳恵の家に向かった。
佳恵の家のドアをノックをすると、佳恵が夏鈴を出迎えてくれた。
「どうぞ、あまり片付いてないけど」
中に入ると、二階に案内された。二部屋あるうちの一つが佳恵の部屋だ。
白地を基調とした壁紙に、ピンクの布団が掛けられたベッド、アイドルのポスターなどが目に着く。今時の女子高生、といった感じの部屋だ。
「もー、美藍、強すぎ!」
「ははっ、マリナが弱いんだよ」
既にテレビの前では、美藍と真里菜がテレビゲームで遊んでいた。画面を見ると、格闘ゲームのようだ。真里菜が悔しがって、コントローラーを投げ出している。
「真里菜ちゃん、コントローラー壊さないでね」
「分かってるけどさぁ、美藍が手加減してくれないんだもーん」
「美藍ちゃん、格闘ゲーム強いもんね」
そう言うと、佳恵は真里菜のコントローラーを手に取った。
「じゃあ、今度は私と勝負ね!」
「ええっ、カエ強すぎるじゃん!」
「そりゃまあ、持ち主だから、練習はしてるよ。さあ、かかってきなさい!」
佳恵は素早くキャラクター選択を終え、美藍のキャラクター選択を待つ。
「お……お手柔らかにな」
美藍のキャラクター選択が終わると、最初の試合が始まった。
序盤から積極的に佳恵に攻撃を仕掛けるが、ことごとくかわされる。佳恵は一瞬のスキをついて攻撃を仕掛けると、そこから怒涛の攻撃が始まった。
なんとか防御しながら様子を見ていた美藍だったが、佳恵はなかなか攻撃の手を緩めない。攻撃が止んだ瞬間を狙うも、今度はカウンターを受けてしまった。
その後も攻撃を受け続け、美藍はあっさり佳恵に負けた。
「くっそー、やっぱりカエは強いわぁ」
「すごいね佳恵、ほとんどダメージ受けてないよ!」
佳恵のライフバーはほとんど減っていない。ほとんど防御で受け切ったようだ。
「運動はできないけど、ゲームなら負けないよ。ささ、次の相手は誰かなぁ?」
ニヤニヤしている佳恵の前に、美藍と真里菜は首を振る。
「えっと、じゃあ、私、やってもいいかな」
そう言うと、夏鈴は美藍の持っていたコントローラーを手にした。
「ほほう、夏鈴ちゃん、よほど自信があるのかな?」
「いや、自信は無いけど、ちょっとやってみたかったから」
「初心者だからって、手加減はしないよ! さあ掛かってきなさい!」
「佳恵、キャラ変わっちゃったね……」
画面を見る佳恵の表情は生き生きしている。お互いキャラクター選択が終わると、ゲームの試合が始まった。
夏鈴と真里菜が対戦をしている横で、佳恵はうずくまって落ち込んでいる。それを、美藍が頭をなでながらなだめた。
「おかしい、おかしいよ……なんであそこで初心者が超必殺技出せるのさ……」
「い、いやぁ、たまたまだよ、たまたま……あ、負けた」
夏鈴が目を離した瞬間、K.O.の文字が映った。それを見て、夏鈴は「あーあ」と残念がる。
「あれ、私だって出したことないのに……何で……」
「いや、なんか適当にやってたらさぁ」
夏鈴と佳恵の対戦は、途中まで佳恵が圧勝していたのだが、ライフバーが残りわずかになった時に夏鈴がキャラクターの超必殺技で逆転したのだった。
「まあ、ビギナーズラックってことかな?」
「いやぁ、でもさっきのカリンの必殺技、すごかったよな。一気にライフ削っていったもん」
「私も、あそこであんなの出るとは思わなかったもん。適当に操作してただけだし……」
夏鈴がそう言うと、佳恵は「だぁぁぁ!」と叫んだ。
「もう、こうなったらヤケ食いする! 真里菜ちゃん、ご飯作りに行くよ!」
「え、もう……って、こんな時間!? ゲームって、時間経つの早いね!」
時計を見ると、午後六時を回るところだった。
「夏はこの時間でも明るいから、気が付きにくいよな」
「うん、部活の時は大体夜八時とかまでやってるからね。美藍がいつまでもシュート練習するから」
「いいじゃん、大会近いんだし」
「美藍、気合入ってるからねー」
「これから二年生が中心となるからな。頑張らないと」
真里菜が立ち上がると、代わりに美藍がコントローラーを持つ。
「よし、じゃあカリン、夕食まで俺と勝負しようぜ」
「え、手伝わなくてもいいのかなぁ?」
夏鈴も立ち上がろうとするが、真里菜は「大丈夫だよ」と制止した。
「私料理得意だから! 多分一人でも大丈夫だよ!」
「いやいや、ここ私の家だから。じゃあ、二人は夕食出来るまでゆっくりしておいて」
そう言うと、佳恵は真里菜を連れて部屋から出ていった。
「マリナは料理がうまいからな。俺もよく弁当を作ってもらってる」
「へぇ、真里菜って、そんな特技があるんだ」
「部の人にもよく差し入れ持ってきてくれるし」
「私、料理できないから、今度習おうかなぁ……」
「いや……教えるのは下手だぞ?」
「そうなの?」
「この前教えてもらおうと思ったけど、良く分からなかった」
「そ、そうなんだ」
へぇ、と言いながら夏鈴はキャラクターを選択する。美藍もキャラクターを選択すると、しばらくして対戦画面が表示された。
「しかし、いいよな。マリナもカエも女子力高くて。俺なんて、料理全然できないから」
「でも、美藍は運動出来るじゃん。バスケなんて、私できないし……あっ、危ない!」
「逆に言えば、俺はバスケだけだけどな……っと、甘いわ!」
「私も、一つぐらい特技欲しいなぁ……うわ、え、ちょっと!」
「いいじゃん、勉強出来るんだから……よし、そこだっ!」
ジャンプした夏鈴のキャラクターに美藍のキャラクターのキックが入ると、夏鈴のキャラクターが吹っ飛び、K.O.の文字が表示された。
「あちゃー、負けちゃった。美藍、格闘ゲームも強いねぇ」
「カエには負けるけどな。あいつは生粋のゲーマーだ」
「私も、ゲームうまくなりたいなぁ。今日特訓しようかな」
「まあ、今夜は一日中遊ぶだろうし、いいんじゃないかな。カエ次第だけど……」
美藍が言いかけると、徐々にいいにおいがしてきた。
「ん、これは……今夜はカレーだな。マリナの得意な」
「いいね、カレー。みんなで食べられるし、おかわりたくさん出来るし」
「……カリン、君はそんなに食い意地が張ってる人だったっけ?」
「私、カレー大好きなんだ。よし、今日は沢山食べるよ~!」
「いやいや、まだできてないでしょ……」
美藍はステージとキャラクター選択を終えると、夏鈴にもキャラクター選択を早くするよう促した。




