不透明な行方不明者
徐々に大きくなる蝉の声が、少しずつ暑さを思い出させる。しかし、美藍から送られてきたスクリーンショットを見て、夏鈴と佳恵の体感温度は一気に下がっていった。
「また……中上さんと莉緒に送られてきたのと一緒の……」
「ま、まさか、美藍ちゃんも?」
文面は名前を変えただけで、まったく一緒だ。アドレスも、「banishmail」となっている。
「このままだと、美藍ちゃんまでいなくなって……」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ佳恵、まだ中上さんも莉緒も、いなくなったって決まったわけじゃないでしょ?」
「それはそうだけど……でも、連絡もできないってどういうこと? 莉緒ちゃん、今までだったらすぐに連絡くれるのに!」
「だから、何か事情があるかもしれないじゃない。とりあえず、私たちができること、やろうよ」
夏鈴がなだめると、佳恵は「うん」と頷いて納得した。
「でも、美藍ちゃんにもそんなメールが来たっていうことは、美藍ちゃんに何か起こるかも……」
「うーん、今は部活中だから大丈夫だと思うけど……」
夏鈴が悩んでいると、佳恵は「そうだ!」と何かを思いついたように左手の手のひらに右手をぽんっと、叩いた。
「せっかくだから、今日はみんなでお泊り会しようよ! うち今日親がいないし、みんなで一緒にいれば大丈夫でしょ?」
「お、お泊り会?」
「それで、みんなで徹夜して、ずっと美藍ちゃんと一緒にいるの。そしたら、誰かに連れ去られたり、急にいなくなったりすることはないでしょ?」
「う、うん……でも、メールには四十八時間以内って書いてあったよね。だったら、二日間も全員でいないといけないんじゃないの?」
「大丈夫、そこは親を説得するから!」
やたら力強く言う佳恵に、夏鈴は本当に大丈夫だろうかと心配になった。
「じゃあ、そうしよっか。とりあえず、美藍には後で連絡しておくね。それよりも、まず莉緒を探しに行かないと」
「うん、ひとまず商店街の方に行ってみようか」
そう言うと、二人は商店街の方へと歩いていった。
昼間の商店街は、相変わらず買い物客でにぎわっている。しかし、学生の姿は多くは無い。今の時間は部活動をしている生徒が多いようだ。
夏鈴と佳恵は、ひとまず自分たちがよく行く場所や、高校生が行きそうな場所を探してみた。しかし、やはり成果は無い。
中上優愛のことも相野口莉緒のことも、知っている人は何人かいたが、昨日一昨日で見た人はいなかった。
途中、佳恵が友達に連絡して情報を集めたが、やはり有力な手がかりは得られていない。
「うぅん……二人とも、どこに行っちゃったんだろう?」
「やっぱり商店街じゃなくて、山とか地下とか、電波が届かないところにいるのかなぁ?」
「だとしても、一体何でそんなところに……」
心当たりのある場所はすべて探した。優愛や莉緒の両親に確認を取ろうにも、家には誰にもいなかった。
「友達にも聞いてみたけど、やっぱり見た人はいないって。莉緒ちゃんの友達も、見てないって言うし……」
「うぅん……また夜になったら、家に電話掛けてみようか」
商店街の真ん中でこれからのことを話していると、夏鈴のスマホに一本の電話が入った。美藍からだ。
『よう、カリン、今部活が終わったところだ。一旦シャワーを浴びるために家に帰るけど、それからどうすればいい?』
「あ、美藍、そうだね……とりあえず、近くの公園に来てくれる?」
『わかった。それと、マリナも行きたいって言ってるんだけど……』
「真里菜も? ちょっと待って」
夏鈴は一度スマホから耳を離すと、佳恵に尋ねる。
「佳恵、美藍が真里菜も連れてきたいって言ってるんだけど、大丈夫かな?」
「もちろんだよ。人数は多い方が楽しいし」
佳恵がそう言うと、夏鈴はすぐにそのことを美藍に伝えた。
『おお、そうか。助かったよ。じゃあ、三十分くらいしたら向かうと思うから』
そう言うと、夏鈴は「じゃあ、また後で」と電話を切った。
「美藍ちゃん、何て?」
「三十分後くらいに、公園に来るって」
「じゃあ、それまでもう少し探してみようか」
佳恵がそう言うと、一度商店街から出ることにした。
商店街の他にも、優愛や莉緒が行きそうな場所を探してみたが、やはりどこにも見当たらない。時々見かける友人にも声を掛けたが、よい知らせは聞くことができなかった。
「中上さんも莉緒も、一体どこに行ったんだろう?」
「やっぱり、誘拐されたのかな……」
「でも、誘拐なら、そろそろ誘拐犯から何か連絡が来てるんじゃない?」
「うーん……」
誘拐されたにしては、犯人から何も連絡が来ないのは不自然だ。もう連絡が取れなくなって何時間も経つ。
「やっぱり、あの話みたいに、優愛ちゃんも莉緒ちゃんもミイラになって……」
「佳恵、落ち着いて。まだ連絡取れなくなっただけなんだから、焦ってもしょうがないでしょ?」
「でも……」
「とりあえず、美味しいものでも食べて落ち着こうよ。そしたら、何か思いつくかもしれないし……」
ふと時計を見る。そろそろ美藍との待ち合わせの時間だ。
「……っと、その前に美藍と合流しよっか。一緒に考えれば、いい案が思いつくかもしれないし」
「……そうだね」
そう言うと、二人は公園に向かった。
公園の入り口には、既に美藍が時計を見ながら待っていた。夏鈴と佳恵は「ごめーん」と言いながら、慌てて駆け寄る。
「なかなか来ないから、忘れているのかと思ったぞ。まったく、カリンもカエも、時間にルーズだな」
「いや、待っている間にもう少し探してみようかと思ったらつい……」
「……それで、見つかったのか?」
美藍が尋ねるが、夏鈴も佳恵も首を振る。
「ううん、全然」
すると、美藍の隣にいる、ウェーブのかかった茶髪の少女が腕を組んで「なるほど」とつぶやいた。
「二人の美少女が行方不明……これはミステリーですなぁ」
「こらマリナ、茶化すな」
美藍が腕を組んだ少女、江戸田真里菜の頭を軽く小突く。
「いたっ! もー、ぼーりょくはんたーい!」
「……やっぱり連れてくるんじゃなかったか……」
「ひ、酷い! 美藍、そんな酷い人だったの!?」
「あーもういいからいいから」
美藍はため息をつくと、夏鈴たちの方へ向き直った。
「それで……これからどうするのだ? 協力できることは協力するが、カリンやカエがこれだけ探して見つからないとなると、私たちが入ったところで大差はないと思うぞ?」
「そんなことないと思うけれど……とりあえず、今からお茶にしようと思って」
夏鈴がそう言うと、真里菜が目を輝かせた。
「おお、今からお茶ですかぁー! さぁ早く行くのです!」
「く・い・い・じ・は・る・なっ!」
「ひぃっ! 美藍、酷いですよぉー!」
「はぁ、やっぱり連れてくるんじゃなかったか……」
「そ、そんなこと言っちゃだめだよぉー」
美藍と真里菜のやりとりに、夏鈴と佳恵は思わずかたまってしまった。
「えっと……とりあえず行こうか。ここじゃ暑いし、のど渇いちゃったし」
「あ、じゃあ真里菜のとっておきの喫茶店、教えるよ! さあさあこっちこっち!」
「ちょ、ちょっと真里菜、引っ張らないで!」
「早く行かないとケーキが逃げちゃいますよぉー!」
「逃げないから! ケーキは逃げないから!」
真里菜に引っ張られる夏鈴を、美藍と佳恵は呆れながら見ていた。
「……真里菜ちゃんって、いつもあんなんだっけ?」
「ああ、部活の時はおとなしいのだが、プライベートでは結構ああいうノリだぞ?」




