相野口莉緒の捜索
今日も夏鈴は、学校の図書室で宿題を進めている。家にいても仕方がなく、遊びに行く予定もないため、少しでも宿題をやっておこうと思ったのだ。
夏休みのはじめとあって、午前中はあまり人がいない。ぽつぽつと宿題のために椅子に座っている生徒が何人かいる程度だ。
(それにしても、中上さん、どうなったのかな。番号かアドレス知っていれば連絡できるのに……)
ワークブックを広げて手を動かすものの、時々気になって手が止まる。もしかしたら佳恵や莉緒から連絡があるかもしれないと、ちらちらと自分のスマホを見るが、着信は無い。
クーラーの機械音と、時計の針の音くらいしか聞こえない室内、しかし夏鈴は落ち着かなかった。
(こんなんじゃ集中できない……)
そう思った時、図書室の扉がガラガラと開いた。見ると、さっぱりとしたショートカットの背の高い女生徒が、体操着姿で入って来た。
「あれ、カリンじゃん。もう宿題やってるの?」
「あ、美藍。うん、ちょっとでも進めておこうと思って。美藍は、部活?」
「そうそう、ちょうど昼食時間だし、ここで涼んで行こうと思ってな」
そう言うと、ショートカットの女生徒、折原美藍は夏鈴の正面に座った。
「秋の大会に向けて、ずっとバスケの練習だから、なっかなか宿題まで手が回らなくって」
「どうせ最後までやる気無いんでしょ? 部活が大変なのはわかるけど、早めにやっておかないと大変なことになるよ?」
「あれ、ばれた?」
美藍はハハッと笑いながら、夏鈴の宿題を覗きこむ。
「……ってか、今年の宿題って、こんなにあったっけ?」
テーブルの上に置いてある夏鈴のワークブックを手に取ると、美藍はパラパラとめくる。
「これはまだ半分くらいだよ。あとワークブック二冊に、読書感想文でしょ? それにフリーテーマの研究帳に……」
「あぁ、改めて言われると目が回るわ……」
次々と告げられる宿題の内容に、美藍は椅子にもたれかかって頭を抱える。
「だから早くやらないと終わらないよ? 私だって、昨日ちょっとあって、あんまり進んでないんだから?」
「昨日? 何かあったのか?」
「うん、実は……」
夏鈴は美藍に、中上優愛の姿が昨日から見当たらないことを話した。家にも帰っておらず、どこを探してもいないこと、佳恵や莉緒と一緒に探したこと、そして例のメールについても話した。
「48時間以内に迎えに来る? 変なの。ユウアを追いかけてるストーカーからじゃない?」
「ストーカー?」
「うん。ユウア、すっごいかわいいじゃん。よく変な男から声を掛けられるし、どこからかユウアのメールアドレスが漏れてて、変なメールいっぱい来るんだって」
「へぇ、そうだったんだ」
「中にはうちの先輩もいたから、そういう話は聞くよ。まあ、ユウアは誰一人相手にしてなかった見たいだけど」
「でも、莉緒にも同じメールが来てたんだよ? おかしくない?」
「え、リオにも?」
美藍は思わず大声をあげた。途端に、視線がこちらに集中する。美藍はそれに気が付き、周りに頭を下げた。
「うーん、ってことは、ただのいたずらメール?」
「佳恵が言うには、バニッシュ・メールっていう学校の七不思議の一つじゃないかって」
「七不思議ねぇ……聞いたことないな」
イマイチピンと来ていないのか、美藍は腕を組んでふーん、と鼻を鳴らす。
その時、図書館の入り口のドアが開く音がした。今度は制服姿の、小柄なロングヘアの女生徒だ。
「あ、美藍、ここにいたんだ! 早くしないと休憩終わるよ?」
「え、もうそんな時間? 俺飯食ってないし」
時刻は十二時四十分。美藍は時計を見て、慌てて席を立った。
「まあ、あんまり気にすることは無いと思うな。ユウアってよくいなくなることあるし、心配なら手伝いに行くよ……お、おい、マリナ、待ってくれよ!」
周りに構わず、美藍は大声で叫びながら外に出ていった。
「なんだか、相変わらず元気がいいなぁ……」
ぽつりとつぶやくと、夏鈴は勉強道具をしまった。そろそろ、昼食にしようと思っていたところだ。
(せっかくだから、佳恵や莉緒も誘ってみよう)
そう思い、まずは莉緒にLINEでメッセージを送ってみる。しかし、いつもならすぐに既読が付くはずが、なかなか既読が付かない。
「あれ、莉緒、どこか行ってるのかな?」
もしかしたら気が付いていないのかもしれない。そう思い、先に佳恵に連絡してみる。
『佳恵、もうご飯たべた? 食べてないなら、今からご飯行かない?』
しかし、返信は予想外のものだった。
『それどころじゃないよ。莉緒ちゃんと連絡がつかないの!』
「え、莉緒と連絡がつかない?」
確かにLINEに既読すらつかないのはおかしいと思っていたが、莉緒の身に何が起こっているのか見当がつかない。
『一体どういうこと?』
『とりあえず、今いろんな人に聞いて回ってるところ。もし手が空いてるなら、公園まで来て』
佳恵のメッセージを読んで、夏鈴は嫌な予感がした。
『わかった、すぐに行く』
返信を終えると、夏鈴はすぐさま勉強道具を片付け、図書室から飛び出した。
しばらく続いていた青空はなりを潜め、今日はあいにくの曇り空だ。強い日差しが無い分、いつもより多少は暑さが和らいでいる気がする。
それでも、暑いことには変わらない。公園にたどり着くころには、制服が濡れるほど汗があふれ、顔から汗が滴っていた。
公園に着くと、かわいらしい水玉模様のシャツとジーンズを穿いた、佳恵の姿があった。
「佳恵、どういうこと? まさか莉緒まで?」
「わからないの。何人かに連絡したんだけど、誰も莉緒ちゃんと連絡取れないって。それに、家に連絡したけど、誰もいなくて」
LINEもメールも、そして電話も一切つながらないらしい。念のため夏鈴も莉緒に電話をしてみるが、留守番電話になるだけだ。
「どうしたんだろう、いつもはこんなことないのに……」
「まさか、どこかでさらわれてたりして……?」
「うぅん、莉緒の家、お金持ちだし……」
夏鈴の言葉を見て、佳恵の顔が青ざめる。
「あ、で、でも、もしかしたら電池が切れてるだけかもしれないでしょ? まだ誘拐されたって決まったわけじゃ……」
「と、とにかく、もう一度探してみようよ! お願い、手伝って!」
そう言うと、佳恵は夏鈴の手を引っ張って走り出した。佳恵の顔はどことなく焦っているように見える。
「わ、わかったから、そんなに引っ張らないで!」
「ご、ごめん!」
佳恵が手を放すと、夏鈴は「大丈夫、行こう」と言って歩き出した。
その時、夏鈴のスマホから着信音が流れてきた。相手は美藍だ。
「もしもし、どうしたの?」
『おう、カリン、まだ勉強してるのか?』
「いや、今用事で外出てるんだけど……」
『そうか。実は、さっき話していたことなんだけど、俺のところにも、変なメールが来たんだ』
「えっ!?」
夏鈴は思わず声をあげた。佳恵はそれが気になり、「どうしたの?」と尋ねる。
『今LINEでスクショ送るから、ちょっと待ってて』
そう言うと、美藍からの電話は切れた。
「……今美藍から電話があって、変なメールが来たって」
「変なメールって……」
佳恵が言いかけた時、LINEの着信音が鳴った。美藍からだ。
「えっと……」
送られてきたスクリーンショットの画像を拡大すると、夏鈴は「えっ」と声をあげて佳恵に見せる。
「か、佳恵、これって……」
そこには、どこかで見たような文章が書かれていた。
「折原美藍様、48時間以内にお迎えに上がります」




