残らない痕跡
佳恵が起きて身支度を済ませると、夏鈴たちは朝食を済ませ、早速美藍たちを探しに行くことにした。
商店街の他にも、デパートや公園、探すところは沢山ある。まずは商店街をもう一度探し、徐々に周辺に捜索範囲を広げることにした。
「中上さんや莉緒のいそうな場所はある程度分かるけど、美藍が普段行く場所ってどこだろう?」
商店街の周辺の店を探しながら、夏鈴はつぶやく。
「うーん、美藍って、大体外に出ないし、外に出るときはスポーツ用品店に行くことが多いかなぁ」
「スポーツ用品店? やっぱり筋トレ用の道具買ったりするの?」
「ううん、ほとんどプロテイン」
「え、ぷ、プロ……?」
「うん、筋肉増やさないと、体力付かないからって」
その割にはあまり筋肉質になっていないような、と思いながら、夏鈴は周囲を見渡す。
「あ、あそこによく行ってるよ!」
真里菜が指差す先には、二階建ての建物が見える。一階はパン屋になっており、二階がスポーツ用品店だ。
「とりあえず、話を聞きに行ってみよう」
佳恵がそう言うと、三人はスポーツ用品店に向かった。
「いらっしゃいませ……あれ、いつもの子は今日は一緒じゃないの?」
店に入ると、店員が真里菜に声を掛けた。
「はい、実はその子のことで、今日聞きたいことがあって……最近、ここに来ていませんか?」
店員はうーん、と考えた後、
「一昨日見たのが最後かな」
と答えた。
「今日は見てないですか?」
「昨日と今日は見てないね。今日だって、さっき開店したばかりだし」
「そうですか……ありがとうございます」
念のため店内を見回ったが、美藍の姿どころか客の姿も見えない。仕方なく、夏鈴たちは店を後にした。
「うーん、となると、他の場所は……」
「公園とか他のお店とか、まだ探す場所は沢山あるし、とりあえずその辺歩いてみようか」
商店街周辺はあらかた探し終わったため、次はもう少し離れた場所を探すことにした。学校周辺や裏山の周辺、近所の公園を次々と回る。
念のため美藍のアパートにも向かったが、部屋には鍵が掛かっていて誰もいないようである。
「そんなに遠くに行ってるはずはないんだけど……あと探してないのって、どこだっけ?」
「駅周辺とか、住宅街とか? でも美藍って駅使わないし、行きそうな所って、思い当たらないんだけど……」
「とりあえず、近くの人に話でも聞いてみようよ。もしかしたら、美藍じゃなくても、中上さんや莉緒の手がかりが見つかるかも」
夏鈴そういうと、すぐにアパートの出口にむかった。
「ま、待ってよ!」
その後を、佳恵と真里菜が追う。空を見ると、いつの間にか薄暗い雲が広がっていた。
高校の最寄り駅は、一応はターミナル駅である。しかし、人口があまり多くないために電車の発着本数が少ない。そのため、特に平日は人通りが少なくなっている。
今は夏休みの昼間ということもあり、待合室に数人客がいる程度だった。
「夏休みって、電車通学する生徒が少ないから、もしかしたら駅員さんが覚えてるかも」
「あ、なるほど。確かに、制服の子って少ないもんね」
「でも、美藍ってあの時私服じゃなかった? 中上さんも莉緒も、電車通学じゃないから電車を使うとすれば私服だと思うけど……」
「あっ……」
真里菜は「てへっ」と舌をだしてごまかす。
「莉緒ちゃんの写真ならあるけど、この服とは限らないし……美藍ちゃんも、昨日の服の写真は持ってないから……」
「あ、美藍の写真ならあるよ。ほら」
そう言うと、真里菜は昨日の服装と同じ美藍の姿を撮った写真を見せた。
「……これ、いつ撮ったの?」
「ん、昨日、こっそりと。他にもあるけど、見る?」
「い、いや、別に……」
夏鈴は少し引き気味になりながら、駅の窓口に向かった。
みどりの窓口は改札のそばにある。中はクーラーが効いているせいか、とてもひんやりとしている。先ほどまで汗だくになるほど暑かったのに、寒気がするほどだ。
「すみません、この写真の子、駅で見かけませんでしたか?」
夏鈴のスマホに入っていた莉緒の写真と、真里菜のスマホに入っていた美藍の写真を駅員に見せる。写真を見た駅員は、他の駅員にも尋ねてみるが、全員首を横に振っているようだ。
「すみません、誰も心当たりがないようでして……どうかしましたか?」
「ここ数日間、この子たちと連絡が取れなくなってしまって、家にも戻っていないみたいで、それで……」
「そうですか……もし見かけたら連絡しますので、連絡先、教えてもらえますか?」
「わかりました」
夏鈴は、駅員に渡された紙に自分の名前と電話番号を書いて渡した。
「とりあえず駅員さんにもお願いしたし、次に行こうか」
「うん、そうだね……あれ、佳恵は?」
「え?」
夏鈴と真里菜がふと振り返ると、先ほどまでいたはずの佳恵がどこかに消えてしまっている。
「え、うそ!? すみません、後ろに女の子、いませんでしたか?」
「……? いや、ずっと君達二人だけだったと思うけど?」
夏鈴が慌てて駅員に聞くが、駅員はきょとんとした表情で返した。
「ってことは、駅に来た時にはもういなかったってこと?」
「そういえば、全然話してないと思ったら……」
慌てて夏鈴は駅の出口まで走る。その間、周囲を見渡すが、ほとんどお年寄りしか見当たらない。
駅の出口から、ロータリー周辺を見回す。しかし、佳恵らしき人は見当たらない。
「ど……どうしよう……佳恵までどこかに消えちゃった……」
息を切らして夏鈴がへたり込むと、後ろから真里菜が追いつく。
「佳恵……いったいどうしたんだろう? 急にいなくなるなんて……」
「さっきまで一緒に探してたのに……どうして急に……」
「とにかく、このあたりを探してみよう! いなくなってそんなに時間が経ってないはずだから、まだ遠くには行ってないよ!」
真里菜は夏鈴の手を取って立ち上がらせると、駅の周りを探し始めた。夏鈴も、ロータリーの周辺や、近くの店、トイレの中を見回る。
しかし、人通りがないにもかかわらず、見つかる気配が無い。しばらくして駅前で二人は合流したが、ただ息を切らせただけだった。
「だ、ダメ、どこにもいない!」
「おっかしいなぁ、佳恵、あんだけ消えるの怖がってたのに、どこ行ったんだろ……」
「たしか、駅に着いた時にはいたはずなんだけど……」
「じゃあ、窓口に入る前に?」
「多分……」
「この周辺にいないってなると、もっと遠くにいるってこと? 一体どこから探せば……」
真里菜が言いかけた時、真里菜のポケットから通知音が聞こえた。
「えっ、ま、まさか……」
嫌な予感がする。伊勢原佳恵の後に続くのであれば、「え」で始まる江戸田真里菜に次のメールが来る可能性は極めて高い。
真里菜は恐る恐る、ポケットからスマホを取り出し、メールを開いた。
「……」
真里菜は何も言わない。
「え、ま、まさか……!」
思わず夏鈴は、真里菜のスマホを覗き見る。しかし、着ていたのはメールマガジンだった。
「あぁ、びっくりした。まさか私に来たのかと思った……」
夏鈴も真里菜もほっとしていると、今度は夏鈴のスマホから通知音が流れた。
「……!」
人通りが少なく、ひときわ大きく聞こえる通知音。
「あ、そうか、私も夏鈴も、両方『え』で始まるから、もしかして……!?」
「ま、まさか……きっとメルマガだよ」
しかし、夏鈴の不安はぬぐえない。ポケットに手を伸ばすと、ゆっくりスマホを取り出し、メールを確認する。
「え、う、うそ、い、いやぁぁぁぁ!」
夏鈴は思わずスマホを落とした。
「か、夏鈴、お、落ち着いて!」
頭を抱えて座り込む夏鈴に、真里菜は声を掛ける。しかし、何かに怯えたまま、夏鈴は動こうとしない。
真里菜が落ちたスマホを拾い上げ、画面を確認する。そこには、あのメールの文章が映っていた。
「江戸峰夏鈴様、48時間以内にお迎えに上がります」




