目が覚めると、地獄だった。……なんで?
目が覚めると、そこは荒野だった。草も少ししか生えていない、本当に「荒れ地」という言葉が似合う場所だった。
確か俺は寝坊して、学校の登校中に……。
……もしかして俺、死んだ?
思い出せるのは自分に突っ込んできた車だった。普通にトラックでもなんでもなく自家用車。
「普通異世界転生とか転移と言ったらトラックで轢かれるとこだろ……!」
一人荒野で呟く。一人ツッコミだ。周りに誰もいないのだから仕方がない。
正直前世(?)にもう未練はなかった。勉強も中の下くらいで受験も考えてなかったし、人間関係も正直終わっていた。
ただ、一つあるとするならば両親のことだった。俺の両親はなんとか大学には行かせてくれようとしてたし、金のことも共働きをしてなんとかしようとしてくれていた。
「……」
立ち上がってみた。背中が痛い。そりゃ、岩肌にそのまま寝ていたのだからしょうがないとは思う。
「ッ……」
いかんいかん。思わずぼーっとしてしまっていた。
そう思いながら頭を振っていると、頭の中に声が聞こえた。
「転移者を確認しました」
……気のせいか?気のせいだよな。うん。
「固有スキルのインストールを認めます」
気のせいではないようだ。
「固有スキルってなんだよ……」
独り言を呟く。独り言のはずだった。
「固有スキルとは、あなた個人が持つ、あなただけのスキルです」
「会話できた!?」
声の主は依然として俺の頭の中でしゃべり続ける。
「私はあなたの所持しているスキルを管理し、あなたを導くための案内人です。気楽に『ナビゲーター』と呼んでいただいて構いません」
俺が名前を決める流れのような気もするがまぁいい。
「ナビゲーター、とか言ったっけ。俺の固有スキルってなんなんだ?」
「あなたの固有スキルは『縁結び』です。他人との交渉を円滑に進める効果があります。話が通じる相手には便利かと」
戦闘系のスキルじゃないことに拍子抜けしまった。よくある異世界転移モノではめちゃくちゃ強いスキルで無双する流れではないのか。
「あ、今『普通の異世界転移モノなら無双スキルやるだろ。』とか思いました? 現実はそううまくは行きませんよ。というかここは地獄なので、普通に悪魔などと渡り合わなければ生きていけないです。まぁ、良いスキルではありますよ?」
頭の中にいるので当然と言えば当然なのだが、うるさい。
ナビゲーターはそれでも構わず、俺に話しかけ続けた。
「あ。あの、ここ窮屈なので外出ていいですか?」
「え、う、うん」
返事をするや否や、体から何かが抜ける感覚があった。まるで自分の一部が引き抜かれるような、そんな感覚が。
「ッ……!?」
そして、視線の端には、俺と同じくらいの女の子が浮いていた。
「えっ……!?」
少女はニコニコしながら俺を見つめている。黒い跳ねた肩くらいの髪に黒い目、そして先ほどの声で喋っていたであろう人を食ったような顔。
「お前が……ナビゲーター?」
「はい。いかにも」
ナビゲーターはにっこり笑って答えた。そしてなにか空中にパネルのようなものを開き始めた。
「一通りスキルのインストールは済ませてありますね。これで『次』に行けそうです」
何か重要なことが聞こえた。
「お、おい。なぁ、お前、ほんとになんだよ」
微笑みを絶やさずに、ナビゲーターは答えた。
「名前と大体の説明しか申していませんでしたね」
胸に手を置いて言う。
「私の名前は何とでもお呼びください。まぁ、ナビゲーター、としておきましょうか。この世界の俯瞰者でありあなたの導き手でもあります。では、今後ともよろしくお願いいたします」
そのまま深々と頭を下げた。俺は何も言えなかった。急に死んで、急に変な女の子が現れて、スキルだなんだと言われて。
「……俺は、どうすればいい」
口が開いていた。ナビゲーターは一瞬動きを止めて俺の顔を見て、そのまままた微笑んだ、何を考えているかもわからないその顔で。
「では、今から空間移転のスキルを使用しますので、そこで一人の重要な人物と会うことになるでしょう。ご武運をお祈りしています」
スキルのパネルの一点が光った。
享年17歳。死んですぐに転移し、よくわからない場所に飛ばされそうになっている俺は、これからの地獄生活は「平穏」の二文字とは無縁さを感じざるを得なかった。




