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異世界転生しちゃったので忍者になってみた  作者: 羽越世雌
第1章:忍術を研究し尽くした元教師
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第19話:忍びと勲章と貴族の思惑

1. 「隠れ」られない功績


教団の「禁忌の召喚」を阻止したツヨシたちの活躍は、隠そうにも隠しきれないものとなっていた。

崩壊した修道院から生還した正規軍の兵士たちが、口々に語ったのだ。――「夜空を切り裂く咆哮と、理を断つ影の刃、そしてすべてを無に還した老忍の姿」を。


リリアーヌ王女は、王室の威信をかけて彼らを公式に称えることを決定した。

「ツヨシ殿。貴方たちの協力なくして王都の平穏はありませんでした。どうか、その功績に見合う名誉を受け取っていただきたいのです」


ツヨシは里の茶室で、届けられた豪華な招待状を眺めて溜息をついた。

「……リリアーヌ様、忍びというのは『影』であってこそ。表舞台で勲章をもらうのは、校門の前で全校生徒にラブレターを読み上げられるようなものですよ」


「例えが分かりにくいですが、拒否は許しませんわよ。ソフィアたちの将来のためにも、公式な後ろ盾が必要でしょう?」


王女の正論に、ツヨシはついに折れるしかなかった。


2. 慣れない礼装、消えない「癖」


叙勲式当日。王宮の控室には、見違えるような姿の弟子たちがいた。

白銀のドレスに身を包み、凛とした美しさを放つソフィア。

仕立ての良い燕尾服を着せられ、落ち着かない様子で尻尾を振るカイル。

フリルだらけの衣装に身を包み、袖の中に爆弾を隠そうとしてソフィアに叱られているミーナ。


そしてツヨシは、漆黒の和装に近い礼服を纏っていた。

「いいかい、三人とも。今日は戦いじゃない。だが、言葉や礼儀という『飛び道具』が飛び交う場所だ。隙を見せるなよ」


「わかっています、師匠。……ですが、この靴は少し足音が響きすぎますね」

ソフィアが絨毯を踏みしめる。彼女は無意識に、音を立てずに歩く「静歩術」を試行錯誤していた。


3. 貴族たちの洗礼


大広間に足を踏み入れると、きらびやかなシャンデリアの下、王国の有力貴族たちが詰めかけていた。

彼らの視線は鋭い。突如として現れた「正体不明の英雄」たちが、自分たちの権益を脅かさないか見定めているのだ。


「ほう、彼らが例の……。見たところ、ただの老人と子供ではありませんか」

「王女殿下も、少々大げさに吹聴しすぎたのでは?」


わざとらしく聞こえるように囁かれる陰口。

しかし、ツヨシは表情を変えない。教員生活で、反抗期の生徒や理不尽な保護者との面談を幾度となくこなしてきた彼にとって、この程度の「嫌がらせ」は日常茶飯事だった。


式典が進み、国王の前に進み出ようとしたその時、一人の高慢そうな侯爵が立ちふさがった。

「失礼。国王陛下の御前に進むには、相応の『格』というものが必要でしてね。……例えば、この広間に張られた結界を、魔導の素養なしで通り抜けるような無作法者がいては困るのです」


侯爵が合図を送ると、床の魔法陣が発動し、ツヨシたちの周囲に強力な「威圧の結界」が展開された。


4. 教育者、礼儀を説く


広間に緊張が走る。リリアーヌ王女が止めようとしたが、ツヨシは手でそれを制した。

「カイル、ミーナ。……この程度の『校則』、どう突破する?」


「……波長を合わせるまでもないね。ミーナ、重力操作の微調整、いける?」

「まかせて。師匠に教わった『気配の透過』、これに応用できるよ!」


カイルが微弱なマナの振動で結界の周波数を特定し、ミーナがその一点の重力を歪ませて「穴」を作る。

二人は一歩も歩みを止めず、まるで空気の中を歩くように結界をすり抜けた。


残されたのは、結界の中央に取り残された格好になった侯爵と、静かに歩み寄るツヨシ。

「侯爵様。教育の場において、抜き打ちテストというのは事前の信頼関係があって成り立つものです。……このような不意打ちは、あまり感心しませんね」


ツヨシが侯爵の肩にそっと手を置いた瞬間、侯爵が必死に維持していた結界の魔力供給が、ツヨシの指先からの「点穴」によって完全に遮断された。

「――おっと。足元がふらついているようです。少しお疲れのようですね?」


侯爵は、自分が何を見たのかさえ理解できぬまま、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


5. 影は光の中に


国王から授与されたのは、王国の守護者に贈られる最高位の勲章「星月十字章」。

ツヨシは壇上で、恭しく一礼した。


「私たちは、ただの里の住人に過ぎません。この勲章は、共に戦った兵士たち、そして何より、未来を切り拓こうとする若き知恵への賛辞としてお受けいたします」


式典が終わる頃には、先ほどまで彼らを蔑んでいた貴族たちの顔色は一変していた。

ツヨシたちの「底の知れない力」を目の当たりにし、彼らを取り込もうとする者、恐れる者、興味を持つ者……。


王宮のバルコニーに出たツヨシは、星空の下で弟子たちに告げた。

「これで、里への注目はさらに高まるだろう。明日からは、他国からの『視察』という名の刺客や、弟子入り志願者が押し寄せるはずだ」


「望むところです、師匠。……里のセキュリティ、見直しておきますね」

ソフィアが不敵に微笑む。


「僕は、もっと美味しいご飯が食べられるなら、どこの誰が来てもいいかな!」

「カイル、あんたは少し緊張感持ちなさいよ! ……でも、あの侯爵の顔、最高だったわね」


王都の喧騒を背に、ツヨシは確信していた。

教育者としての本当の戦いは、この華やかな式の後にこそ待っているのだと。


「さて、里に帰るぞ。……明日の朝礼は、いつもより厳しくなるから覚悟しておくように」

元教師の忍びは、夜風に翻る勲章を無造作に懐へしまい込み、影へと溶け込んでいった。

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