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亡き者と通じる加護の巫女  作者: あお
番外編 Sideジェラルド
46/53

44 かわいい幼馴染

ジェラルド編突入です。1日1話22時追加予定。

「リーズ・バシュラールです。王太子殿下、よろしくおねがいします。」


 ホワイトブロンドの髪を靡かせながら、ピンクのシンプルなワンピースに身を包んだぼくよりも背の高い女の子があいさつをしてきた。ニコリと微笑むその深藍色の瞳に、吸い込まれるような気分になった。ぼくにとって、初めて会う同世代の子供が、リーズだった。

 ぼくはこの国の王太子、ジェラルド・シャルル・マイヤール。将来この国の国王となる身だ。国王である父と王妃である母が家族で、今までこの王城で子供はぼくだけだった。幼い頃から身体が弱く、ちょっとしたことですぐに体調を崩したので殆ど王城から出たことがない。おかげで回りは大人ばかりで生活してきたぼくにとって、初めて面と向かって他の子供に挨拶をされた。しかも女の子。同世代の女の子というものは、こんなにもかわいいのかとおどろいた。


「ジェラルド?どうしたの?ご挨拶を返しなさい?」


 母がぼくにあいさつをするように言う。ハッとして、思わずボーッとしてしまった顔をひきしめる。


「ジェラルド・シャルル・マイヤール。この国の王太子だ。」


 少しは威厳を見せなければと思い、胸を張ってあいさつし返せば、ものすごくかわいらしい笑顔を見せてくれた。なんだこのかわいい姫は!物語に出てくるお姫様そのものじゃないか!


「王太子殿下、これから我が娘がお世話になります。どうぞ仲良くしてください。」


 リーズの父であるバシュラール辺境伯からも挨拶を受けた。辺境を守るものすごく強い騎士だとかで、がっしりとしていて一見怖そうなのに、喋り方はとても穏やかな人だ。けれどそれよりも、その横でニコニコと笑顔でいるリーズから目が離せない。なんだろう。なんだろう、この気持ちは。これから楽しくなりそうな予感しかない。

 なんでも、リーズは将来のラオネルの巫女ということで、これから王城で生活をするらしい。同世代だから今後一緒に勉強をしたり、食事や遊びもなるべく一緒にするようにとのことだった。


 一通りあいさつがすむと、リーズがこれから過ごすという自室へ向かって去っていった。


「ジェラルド。リーズのようなご令嬢に会うのは初めてだと思うけれど、もう少し愛想よくしたほうがいいわよ?」

「だ、だって、母上!なんですか。あのかわいい姫は!」

「え?」

「まるで物語に出てくるお姫様じゃないですか!」


 ぼくはぷるぷると拳を握りながら、リーズのかわいさを噛みしめた。母がぽかんとしている。なにか変なことを言ったのだろうかと思って母を見ていると、しばらく目を丸くしていたかと思ったら、突然クスクスと笑い出す。なぜ笑われているんだ?


「ジェラルドったら。そうね、女の子は皆かわいいわよ。リーズも特別かわいいわよね。分かるわよ。ジェラルドもこれからたくさんの同世代の子たちと会う機会があるから、会ってからもリーズのことをそう思うか、他の女の子たちに対してもそう思うか、自分でちゃんと感じるといいわ。」

「他の女の子も皆あんなにかわいいのですか?」

「それはジェラルドが自分で判断しなさいな。けれど、母はリーズなら大歓迎よ。」


 母はずっとクスクスと笑っている。その母の言葉の意味がその時は分かっていなかったけれど、その1週間後に開かれた茶会でその意味を知ることになった。






 王城の庭園で、高位貴族の子息子女が集められ、ぼくの紹介も兼ねた茶会が行われた。どこの子息子女も、学校に行き出す前はそんなに他家の者と接することもないらしいので、こういった機会に友人知人を作っていくのだそうだ。

 その日のリーズは、ホワイトブロンドの髪をハーフアップにして、お花の髪飾りを付けていた。クリーム色のひらひらしたワンピースがとても良く似合っている。辺境の地ではいつも外を駆け回っていたとのことで、少し日に焼けた肌が健康的で羨ましい。


 その日は、だいたいぼくと同世代の未就学の子供たちが全部で20人ほど集められていた。その中には、すでに家と家の約束で婚約しあっているという子たちもいるらしい。婚約かぁ。将来結婚するという意味だよな。父や母のように、仲良くずっと一緒にいられる関係か。なんだかちょっとうらやましかった。ぼくにも早くそういった相手が出来るといいなと思って今日来ている面々を見渡してみた。

 良家の子息子女たちらしく、きらびやかに着飾っていてみんなとてもキレイだなとなんとなく思った。男女はだいたい同じくらいの人数集められている気がする。一人一人ゆっくりと見渡してみるが、どの子もこの子もそれなりにかわいかったりきれいだったりというふうには感じるのだけれども、リーズには誰もが勝てないなと思ってしまった。リーズのあの健康的なかわいらしさは誰も敵わない。リーズが一番お姫様だと思った。

 では男性陣はどうだろうか。うん?あそこにいる少し背高いダークブラウンのくせ毛の男の子はなかなかかっこいい。エメラルドのような瞳も目を引くしな・・・などと見渡していると、その男の子がこちらにやってきた。


「ジェラルド王太子殿下。はじめまして。ヴィオネ公爵家のジョシュ・ジルベール・ヴィオネです。殿下の又従兄弟になります。年は殿下のひとつ下になります。よろしくお願いします。」


 向こうからあいさつをしてくれた。


「又従兄弟?親戚なんだ。びっくりだよ。こちらこそよろしく。」


 ぼくが手を差し出すと、ジョシュも手を出してくれたので握手をした。するとすぐ側にリーズがやってきた。


「殿下、ごきげんよう。今日はいい日ですね。ジルもごきげんよう。」

「あぁ、リーズ。この前ぶりだね。今日のワンピースもよく似合っているね。」

「ありがとう。ジルも今日もすてきよ。」


 リーズとジョシュがにこにこと笑いながら挨拶を交わしている。なんだ、既に知り合いなのか?どういうことだ?!


「二人はもう知り合いなのか?」


 すこしイラッとしながら尋ねてみた。


「はい。先日父に連れ立って王城へ来た時に紹介していただきました。未来のラオネルの巫女ということで、こうして知り合えて光栄です。どうやら同じ年のようなので、これからも何かと接点があるかと思うので仲良く出来たらと思っております。」

「殿下、私も王城のことがやっと分かってきたところです。来週から本格的にお勉強などが始まるそうなので、一緒に頑張りましょう。ジルも来られる時には来て、一緒に授業を受けてくれるそうですよ。」


 リーズとジョシュがニコニコしながらぼくに語りかけてくる。二人はぼくよりもひとつ年下らしい。

 ・・・年下らしいのに、ぼくのほうが背が低い。体の線も細いし、すごく自分が小さく感じた。おかげで二人に囲まれて、陰に包まれているような気になった。それに加えて、何だこの二人の仲の良さは!ジルってなんだよ。どうして既に愛称で呼んでいるんだ!そもそも二人が知り合いだなんて知らなかった。

 仲間はずれにされているような苛立ちでいっぱいになった。ぼくはこの国の王太子で、ここでは一番上の立場のはずなのに、どうしてこんな気分にさせられなければならないんだ。

 なんだか苛立ちでいっぱいになり。ぼくはテーブルの上に置いてあったお茶を一気に飲み干すと、他の子供達へあいさつもろくにせずその場をあとにした。


「ジェラルド?どうしたの?」


 母が僕の部屋に来た。茶会を途中で放り投げ、勝手に自室に戻ってきたんだ。心配して呼び戻しに来たのだろう。けれどもぼくはもうあの場に戻りたくなかった。リーズと、あのジョシュとかいうやつ。このぼくを差し置いて勝手に仲良くなって。リーズはここに住んでいるんだぞ。ぼくが一番仲良くなきゃおかしいじゃないか。

 ソファに座ってじっと黙っていると、母がすぐ隣りに座ってきた。


「なにか嫌なことでもあったの?ジェラルドは招く側なのだからちゃんとしなくちゃ駄目よ。最初から最後までおもてなしをしなくちゃ。」


 母は優しくたしなめてくる。けれどもどうにもあの場は気分が悪い。

 しばらく黙ってソファに座っているぼくに何を言うでもなく、母はそのまましばらく座っていた。


「リーズが・・・リーズがやっぱりいちばんかわいかった。リーズが一番お姫様だった。」

「え?そうなの?」

「なのに、あのジョシュとかいうやつがリーズと仲が良くて。ぼくよりも二人とも大きいんだ。ひとつ下だっていうのに。なんでぼくはこんなに小さいんだ。」

「まぁ・・・ジョシュというと、ヴィオネ宰相閣下のご子息ね。確かに彼は身体が大きい方よね。閣下が大きいもの。リーズも、年齢の割には大きい方じゃないかしら。」

「ぼくは小さい。」

「ジェラルドは成長が遅い方なのかもね。けれど、ほら、陛下もそんな小さい人ではないし、母もそうよ。だからあなたもきっと大きくなるわ。よく食べてよく寝てよく運動すること。そうしたらきっと大きくなるから安心して。」


 母が微笑んでいる。寝ることはともかく、食べることも運動することもあまり得意ではない。けれど、それをしないと体が大きくならないのか。あぁ、面倒くさい。


「戻りたくないの?」


 ぼくは大きく頷いた。母はふぅとため息をひとつつくと、ソファから立ち上がる。


「もう今日はいいわ。でも、あなたが好きなリーズにはちゃんとあとから謝りに行ったら?心配していたわよ。」


 ぼくの好きなって!・・・好きなのかな。よく分からないけれど、リーズを見ると素直にかわいいなとは思う。お姫様みたいに輝いて見える。今日の中でも一際目についた。ジョシュと仲良くしている姿を見たらなんだか腹が立った。

 これが好きってことなのかな。それなら婚約とかを結ぶべきなのかな。今日来ていた子たちの中でも既に婚約している子たちがいたというし、それが普通のことなのだろう。


「リーズのことが好きなら婚約したほうがいいのでしょうか。」

「えぇ?もう?気が早いわねぇ。リーズやバシュラール家にも確認しないといけないけれど、今日も他の子供たちと殆どお話すらしなかったでしょう?もう少し様子を見てからでもいいわよ。」

「けれど、今日来ていた子たちを見回してみても、リーズが一番輝いていました。」

「・・・まぁ。そうなの。よっぽど気に入ったのね。それならなおさら早く謝ったほうがいいわ。あとからリーズのところへ行ってらっしゃい。」


 母はぼくの頭をポンポンっと叩くと、部屋から出ていった。






 夕方。侍従を伴って、リーズの部屋に行くことにした。


「殿下!今日はお茶会の最中に体調を崩されたと聞いたので心配していました。もう大丈夫なのですか?」


 リーズが駆け寄ってきてくれる。胸に抱くのは白い猫。


「猫?」


 リーズが猫の頭を撫でながら、にこにこしながら僕に近付けた。


「わたしのねこです。イマキュリといいます。仲良くしてあげてください。」


 猫もかわいいけれど、それ以上にリーズはかわいい。よく分からないけれど、リーズが笑っていると胸の中がポワポワしてくるようなそんな感覚があった。リーズに促されるがまま、猫に手を伸ばす。猫はにゃあと一声あげて、僕の手にスリスリしてきた。フワフワの毛並みが心地いい。


 と、同時に、急にくしゃみがでだした。


「くしゅんっ。くしゅっ。な、なんだこれ?」

「殿下?え?大丈夫ですか?」

「はっくしゅんっ。目もかゆい・・・今イマキュリに触られたところもなんだかかゆいぞ。」


 見ると、触った手のところが真っ赤になってきていた。


「殿下には多分猫が合いません。ひとまず今日は戻りましょう。」

「くしゅんっ、、、はっくしゅんっっ!!」


 くしゃみが止まらない。リーズがイマキュリを抱きながらオロオロしているけれど、ぼくはそれどころではない。侍従がぼくをその場から立ち去らせるように促す。

 振り返ると、イマキュリを抱いたままリーズがそこに立ち竦んでいた。結局何も言えなかった。






 その後も体中蕁麻疹が出てとにかく大変だった。どうやら、ぼくは猫アレルギーらしい。

 最悪だ・・・



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