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亡き者と通じる加護の巫女  作者: あお
番外編 Sideエグモント

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44 嫉妬と執着、そして・・・

 リーズが言うには、このバシュラール領の戦地であったこの平原やラオネルの石碑がある森には戦没者である現の死者がそこそこの人数がいるらしい。そこそこいるというのに、やはり僕にはそれが全く分からない。現の死者同士ならば認識しあってもいいと思うのに、それが出来ないというのだから不思議なものだ。






 戦没者追悼式が始まった。式はここまでの隣国と我が国の軌跡をたどるような文言から始まり、ベアトリスの力による天気詠みの情報を隣国へも送る旨を伝えたところでざわつきが大きくなる。巫女の力を対外的に外に出すのは初めてのことなので、多くの国がそれに対して関心を持っているようだった。今回のこの外交は、未来に向けた第一歩とも言える革新的なことだと言えるだろう。

 そして、次はリーズの番だった。すでにリーズの力については隣国の方へも伝わっており、ここに残っていた現の死者をリストアップしてその未練や心残りについて解消すべき内容を渡してあった。当然当事者しか知り得ないような情報もそこには多くあり、リーズの持つ巫女の加護の力に対しての期待度がすでに高まっている状態だった。

 リーズが壇上に行くために前に出る。なぜかジェラルドがリーズの背中を支えながら手を引いて。


 ・・・何故ジェラルドがエスコートを?当初はそんな予定ではなかったはずだった。そんな事をしたら、リーズとジェラルドがそういう関係だと諸外国に知らしめるためにやっているようではないか。ジェラルドは今更何をするのだ。


 モヤモヤとした気持ちが心の中を支配しだす。一体何がどうしてそんなことになっている?

 壇下までリーズをジェラルドが連れて行くと、そこでリーズの手を離す。リーズはジェラルドに挨拶をすると、壇上に上がり、そこで当初の予定通りの儀式を行った。

 リーズが目に見えない現の死者へ、ベアトリスの力を通して隣国への友好を誓う旨を伝えると、白い光が上がっていく。現の死者が次の生に向かっていった瞬間だった。

 そこでわぁっと歓声が上がる。

 リーズの目線がジェラルドに向けられ、ジェラルドが笑顔をみせている。一体この僅かな間に二人の間に何があったというのだ。僕の知らない間に二人にしか分からないなにかが起こったとでもいうのだろうか。


 我慢ができなくなり、リーズの元へと行く。そして、ラオネルの石碑に来てほしいことを伝えると、僕は先に石碑へ向かった。






 石碑に着いてからは冷静になろうとしていた。ジェラルドとリーズが本当に結ばれたら僕はどうしたら良いのだろうか。そもそも僕はあの二人が一緒になることを当初は望んでいた。けれども、ジェラルドはいつまで経ってもリーズを蔑ろにするし、リーズはジェラルドのことをそういう目線では全く見ていない。

 それなのに、先程のあの二人のやり取りは何だったんだ。まるで好きあっている者同士ではないか。

 僕はもう既に邪魔者なのだろうか。

 リーズもジェラルドも成長した。歳を重ねるごとに、ずっとリーズが僕の年に近づいてきてくれることが嬉しかった。年々リーズは美しく眩しくなるし、僕と並んでいてもきっと恋人同士にもう見える。いや、もう誰から見られることもないのだけれども。

 けれども、逆を返せば僕はずっと19歳のままだ。すぐにリーズに年齢を追い越され、リーズはきっとジェラルドのものになる。そうしなければリーズの巫女の加護の力は維持できないのだから。

 あれだけ試しても僕とリーズは最後まで出来なかった。リーズの力を定着させてあげられなかった。僕ではもう無理なのだろうか。


 ふと顔をあげると、リーズが目の前にいた。もうすぐ雨が降りそうだというのに、リーズは僕のお願いを聞き入れてすぐに来てくれた。その事実にほっと安堵する。

 ブレスレットと石碑だったら、どちらの方が力は強いのだろう。どちらも同じかもしれないけれども、もしかすると石碑ならば僕のものは反応するようになるのだろうか。僕とリーズがそういう行為をすることが出来るのだろうか。


 リーズに石碑に触れるように促すと、やはり石碑に触れていたら僕のことがはっきりと認識できるということだった。おかげでまた僕とリーズは触れ合うことも出来る。

 この5色の石が巫女の加護の力を強めてくれることが確認できたし、石碑から石を取り出すのが一番早いのではないだろうか。リーズにそう提案するものの、すべて拒否されてしまう。リーズは僕とつながる未来よりも、石碑のほうが大事だというのだろうか。僕を選んで。お願いだから。


 どうしても無理だというのであれば・・・

 ここでしか出来ないのであれば、ここですればいい。そう思い、リーズの体に触れていく。

 さすがに屋外ですることに抵抗があったのか、リーズから拒否の言葉が聞こえてきたけれども、今はそんな事を言っていられない。僕はどんどんリーズの身体を暴いていく。

 雨が降り出したけれど、それどころじゃないんだ。ごめんね、リーズ。こんなところで。けれども、君の巫女の力を定着させるために必要なことでしょう?だから我慢して。


「リーズ!そこにいるのか?!」


 後ろから、聞き慣れた声がした。

 何故こんなところに。ジェラルド。

 なんだ、ローランまでいるじゃないか。君がいるからか。ジェラルドだけならきっとここへは来られなかった。なぜローランが僕ではなくジェラルドに協力するんだ。僕たちは親友だろう?


 リーズがジェラルドに引き寄せられる。僕の身体をすり抜けて、ジェラルドの懐にリーズが抱き寄せられる。リーズはびしょ濡れになりながら、二人に怒鳴られている。その中でもこちらを気にして声を掛けてきた。


「エグモント、いたのか。リーズをこんな雨の中ここに留まらせていたのはエグモントなのか?」


 久しぶりに、ジェラルドの僕に対する怒りの声を聞いた。昔はただの癇癪であることが多かったのに、今日はさすがに理由がちゃんとしている。客観的に見て、リーズをこの雨の中に引き止めていた僕を怒るのは仕方がないことだろう。けれども、僕にも譲れない想いがある。ジェラルドにリーズは渡せない。リーズだけが僕の唯一なのだから。


「エグモント。俺はどうしたらお前に償える?俺への怒りをお願いだからリーズに向けないでくれ。あの時、俺が無理やり外出しなければあいつらに目をつけられることもなかった。あの事件の発端は俺の身勝手な行動のせいだったのは分かっている。本当にすまなかった。エグモントにもリーズにも、キルシュネライト家にもどう償っていいのか未だによく分からない。だけれど、リーズをお前のいいように使うのだけは止めてくれ。リーズは関係ないだろう?」


 ジェラルドが、謝ってきた。

 あのジェラルドが、僕に向かって謝罪を?あのジェラルドが?

 頭の中が混乱した。ジェラルドが僕に謝罪などしたところを見たことがあっただろうか。僕の記憶の中では全く無いことだった。

 今となっては、僕と1歳しか違わないジェラルド。あの頃の幼いジェラルドは、もういない。


 ジェラルドが、リーズを解放してやってくれと願ってきた。

 僕が、リーズを縛り付けている?そんな存在になっている?母にも言われたその言葉。まさか、そんなことがあるか?同じことをジェラルドまでもがいうのか?


 僕は、リーズへの想いやこの世への未練を気付いたら叫んでいた。この声はリーズにしか聞こえていないのに、叫ぶ意味など全く無いのに。


 ジェラルドからローランに引き渡されたリーズが、ローランと話をしている。ジェラルドの本当の思い。それが何なのか。一国の王太子としてではなく、僕やリーズのためを思っての行動の数々。


 僕がいなくなってから、ジェラルドを支えたのはローランだ。二人の間柄が強まったことは誰の目から見ても明らかだった。ジェラルドにとってローランはなんでも相談できる良い兄貴分だったのだろう。かつて僕がそうであったように。


 本当は、その立場も僕は担いたかったんだ。ジェラルドをそばで支えたかった。なぁ、ローラン。ローランがその後を引き継いでくれたんだな。きっと、これからも、、、ジェラルドを支えてやって欲しい。


 あぁ、そうだったな。気付いてしまった。僕はやっぱりリーズとジェラルドが一緒になるところが見たかったんだ。ワガママだけれども、カリスマ性があるジェラルドはきっと立派な国王陛下に将来なる。その横に、美しくまばゆいラオネルの巫女であるリーズが微笑んでくれている国の未来を夢見ていたんだ。

 僕が今、その足枷になっている。だから、僕はいい加減、この世への未練を断ち切らなければならないんだ。


 ローランに、感謝を伝える。

 リーズに、僕の本当の願いを伝える。


 リーズとしか触れ合うことが出来ない特殊な状況だったから、リーズが唯一と勘違いしてしまった。リーズの好意に甘えた結果がこれだ。結局色々な人に迷惑をかけ、リーズを最後の最後で傷付けた。


「いつかまた、エグモント様に会えることを祈っています。私はあなたを尊敬しています。」


 こんな僕を尊敬してくれるなんて。リーズ、ありがとう。


 この世への未練は断ち切ろう。そして次の生に向かっていく。ジェラルドとリーズが作る次代の我が国の繁栄を祈りながら。

 そう思うやいなや、意識とは関係なく身体がふわっと浮いていく。手先足先から蕩けるように軽くなり、雨の中に消えていく。


『殿下と仲良くするんだよ。』


 最後にリーズに言葉を残す。

 きっと二人はうまくいく。僕の想いと共に幸せになって。


これにてエグモント編終了です。

次話からジェラルド編突入です。

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