42 リーズとジェラルドの関係性
リーズが成長していく。あっという間に美しくなっていく。
現の死者となって2年が過ぎた。その間、僕はリーズを通して家族やジェラルド、ローラン、騎士団の面々など多数の人達と交流をすることが出来た。実際に相対するのはリーズがいなければ出来ないけれども、ジェラルドなどはメモを僕に読ませてリーズを通して返答するなどという面倒くさいことまでやるようになっていて、現の死者でありながらこの世の人達と多く交流を持てていた。
キルシュネライト家では、リーズのおかげで両親も精神的に安定し、弟も元気に成長している。次代を担う跡取りとしての責任を弟に任せることになってしまったが、まだ父も健在ではあるしなんとかなりそうな気がしている。
ジェラルドは、学校では生徒会長を勤めながら、学業も王太子としての学びもこなしている。ただ、リーズをはじめとする幼なじみたちへの態度は相変わらずのようだけれども。
その日も王城にあるジェラルドの私室で、ジェラルドはその日に目を通すように言われていた書類を眺めているようだった、僕は周囲をウロウロと彷徨ってみるが、きちんと業務をこなしている。ジェラルドは意外に真面目なので、やらなければならないことはちゃんとこなそうと努力する。ただ、態度が悪すぎるだけだ。そばにはローランが付いているが、ローランにも苦労をかけているなぁと申し訳なく思っていた。
「エグモント、今ここにいるだろう?」
ジェラルドがぼそっと呟く。ローランがピクリと反応する。僕がいることを二人は感じているようだ。
「今いなくなるなよ。ちょっと頼みがあるんだ。ローランからも説得してくれ。」
「エグモント、悪いけれど聞いてやってくれ。」
二人から話しかけられたので、答えてもどうせ伝わらないけれど僕はコクリと頷いた。
「もうすぐ俺も卒業で、学校で卒業パーティーがあるんだが、そのパートナーにリーズを誘おうと思っている。理由は簡単だ。リーズ以外いない。考えてもみろ。同世代の身分が合う相手は全員既に婚約者持ちだ。リーズ位だ、相手がいないのは。ただ、俺はリーズに嫌われているからエグモントから出来れば説得して欲しい。」
たしかにもうすぐ卒業パーティーだった。今年の卒業生で最も身分が上で、生徒会長までこなしているジェラルドがパートナーを伴わずに参加するなどありえないし、それ相応の身分の相手でなければ何を言われるかわからないことなど容易に想像できた。リーズくらいだというのも正解だろう。そんなジェラルドが、ここでリーズを伴って参加でもしたら、リーズはジェラルドの婚約者候補筆頭という噂をほぼ確定的にするのではないだろうか。
なんだか物凄くもやもやした気持ちでいっぱいになった。ジェラルドとリーズがそういう関係になることは僕としては願ったり叶ったりのことなのに、この苛立ちは何なんだろう。だいたいここにローランがいるのに、ローランに頼まないのは何故だ。僕にそんなこと言わせるなんておかしくないか?さすがに少しイラッとした。
「エグモント、こんなことを君に頼むのは悪いのだけれど、リーズに俺が言っても全く聞き入れてくれないんだ。頼まれてくれないかな?」
あぁ、ローランも一応は説得していたようだ。当然か。それでもジェラルドのことを嫌うリーズが、この申し出を断るのも当然だろう。
ジェラルドは、学校卒業の年になってもいまだ浮いた噂ひとつ聞かないし、婚約者も作らない。女性に対しての対応もそんなに悪くもないのに、相手からの誘いにも一切応じない。結局幼い頃からリーズしか見えていないことなど僕でも分かる。それでもリーズに実際に面すると、いつでも憎まれ口しか叩かずリーズを怒らせる。いつになったら成長してくれるのか。
けれども、このままリーズに嫌われたままでいて欲しいという黒い感情も僕の中に生まれつつあった。ジェラルドはいざとなればいくらでも他に縁があるだろうけれども、僕にはもうリーズだけなのだから、これだけリーズに対してひどい態度を取り続けているジェラルドにはリーズのことはもう遠慮して欲しかった。ジェラルドといてもリーズは傷つくだけだ。ジェラルドにはもうリーズじゃない相手を探して欲しい。
僕はふわっとその場を後にする。
そしてリーズの元へ行き、リーズに伝言を託す。
『ジェラルド殿下に会ったら、僕がお断りしますと言っていたと伝えてもらえないだろうか?』
リーズはキョトンとしながら、「なんのことか分かりませんが承知いたしました」と応じてくれた。この後も何度か殿下から言葉を変えて同様のことを伝えられたが、全て丁重にお断りした。リーズはなんのことか分かっていなかったが、伝言役をこなしてくれていた。
ジェラルドが強硬手段に出た。おかげで今回の卒業パーティーのパートナー選びで多くの者がリーズを説得する羽目になり、結果リーズが折れざるを得なくなった。
当日、リーズはジェラルドから贈られてきたドレスを身に纏っていた。いつも以上に美しくなったリーズに目を奪われた。まだ成長途上とはいえども、すっかり女性の空気を身に付けたリーズに見惚れてしまう。デコルテ部分から覗いている膨らみかけの胸から、キュッと引き締まった細身のウエストラインがたまらなく情欲を誘う。
誘うけれども、僕の下半身は全く反応しない。現の死者となってから、気持ちはそれなりに高ぶるけれども、生理的現象が全く起こらなくなっていた。食欲も睡眠欲も、そして性欲も。
それにしても、このドレスの色。思いっきりジェラルドの瞳の色ではないだろうか。分かってやっているのだろうか。こんなところで独占欲をアピールしなくてもいいのではないだろうか。
イライラする気持ちが止まらないが、さすがに表に出すわけにはいかないため普通にリーズを褒めるだけに留めた。
学校に向かう馬車に一緒に乗り込んでついていこうとしたら、ジェラルドに今日は控えろと言われた。正直こんなに美しくなったリーズとジェラルドと2人きりにするのは気が引けた。けれどもローランまでもがそれを後押しする。
ふと、社交倶楽部での出来事を思い出した。
「リーズの時間を少しだけくれ。」
「今までの謝罪と、本当の俺の気持ちを伝えて全部吹っ切る。」
・・・このことだろうか。ジェラルドとリーズが2人きりになる場は、僕が現の死者になってから今の今まで無かった。2人で話す場を作ってくれという意味だろうか。
それならば、仕方がない。ジェラルドとの約束は約束だ。僕は仕方なく素直に応じることとした。
その日はキルシュネライト家の領地の方へ出向き、弟の成長を見守りながら領地をフラフラして過ごした。
卒業パーティーでのことは、どうやら気持ちを伝えて吹っ切ったわけではなく、状況を伝えて結婚しろと脅したらしいことが分かった。ジェラルドは何をしているのだ。リーズはずっと怒っている。自身がリーズに嫌われているという自覚はどこへいった。これ以上嫌われてどうするんだ。リーズとの将来を考える気本当にあるのか?いや、考えてくれないほうが良いか。もうなんだか僕自身の考えも混乱しだした。全てジェラルドがかき乱してくれているからに違いない。
他のことは卒なくこなすのに、リーズのことだけはどうにもうまく立ち回れないジェラルドのことは少しだけ不憫に思うが、縁がなかったと思って欲しい。リーズはやっぱり僕のものだ。もうジェラルドに遠慮はしない。リーズとの年齢差もどんどん気にならなくなっていく。
いつか、リーズを抱けたら、リーズの巫女の加護の力を定着させることが出来るだろうか。僕にも出来ないだろうか。あのブレスレットさえあれば、リーズに触れることが出来る。それならば、いつか出来るのではないだろうか。
ふと、そんな思いが頭の中を占めた。




