39 リーズとの婚約について
エグモント編です。全6話。毎日22時1話更新。結構シリアスめ。
「僕がリーズ嬢をですか?!それは恐れ多いです。彼女はラオネルの巫女ですし、年齢差もあります。それに・・・ジェラルド殿下の婚約者候補筆頭だという認識でおりました。」
僕はエグモント・キルシュネライト。貴族学校卒業後、念願の近衛に配属になり、近衛騎士としてジェラルド王太子殿下の護衛につくようになり1年ほど経っていた。本当に仕事面ではとても充実した日々だ。学生時代からの親友のローラン・バシュラールと共にやりたい仕事につき、思う存分訓練や仕事に明け暮れる。時々社交倶楽部に行ってカードゲームをするのが娯楽らしい娯楽か。
本当に毎日が充実していて楽しかった。ただ、恋愛ごとだけはあまり興味がわかずここまできてしまった。侯爵家嫡男として、将来的には必ず結婚して、次代のことを考えなければいけないのは分かっているが、まだ良いかと思いながら気がつけば19歳だ。周囲は殆ど婚約または結婚してしまっている。ローランだって、学生時代から伯爵家のご令嬢と婚約しているしね。
一応のところ、僕も侯爵家嫡男という肩書があるが故に女性からはあの手この手でアプローチを受けることがあった。女性に対してのマナーなどはそれなりに理解し、常日頃から表面上は対応しているつもりだったが、僕からしてみたらただそれだけ。けれどそういった行いが女性たちを勘違いさせ、おかげで婚約を打診されることが多々あるようだった。それも仕事の忙しさを理由に全て後回しにしていたら父母に嫌味を言われているが、今はそれでも構わない。どうせなら勝手に結婚も決めてくれて良いのだが、両親は大恋愛の末に結婚したので僕にもそうなってほしいと望んでいるようだった。この国は、国王陛下を中心に大恋愛の末結婚する上位貴族が多いので皆が影響を受けている気がする。
そんな折、ヴィオネ宰相から呼び出しを受け、宰相執務室に行くと、親友の妹であるリーズ・バシュラール嬢との婚約を打診された。宰相閣下からの正式な打診ということは、これは王命である。何故また急にそんな話が出たのか。彼女は国にとって特別な存在だし、そもそもまだ子供だ。僕との年齢差もかなりある。なぜこんな話が出たのか。
「そう言わないでこの話を受けて欲しい。分かっていると思うが、これは王命だ。リーズ嬢は近いうちにラオネルの巫女として巫女の加護の力が発現すると考えられる。もうそろそろ婚約者を決めて、しっかりと彼女の立場を守らないと悪用されかねんのだ。」
ラオネルの巫女。それは、この国の平穏案念のための力を宿すバシュラール家の女子のこと。リーズはそういった存在であった。ラオネルの巫女は、この国では最も大切にすべき存在で、王家が威信にかけて守っている。そんなリーズの力の覚醒も近いということなのだろうが、それで何故僕が。
そもそもだが、僕の護衛対象のジェラルド王太子殿下は、リーズとの婚約を信じている。いや、口にはしないし、顔を合わせば憎まれ口ばかり叩いている様子を毎日のように見ているが、それも好きという気持ちの裏返しでしか無いことなどよく分かる。僕からみたら、ジェラルドの態度などかわいいものだった。
「それで何故僕が・・・」
「リーズ嬢が望んでいるからだ。彼女が王城に入った時からジェラルド殿下と将来の我が国を担ってもらえるように今まで手筈を整えてきたのだがな。どうにもあの二人の相性が悪すぎてどうにもならないから諦めた。」
「相性が悪いって・・・」
「悪いだろう。顔を合わせればずっと喧嘩しているし、思春期に入ってきたからか最近は殆ど口すら聞いてないぞ。」
「まぁ、そうなのですが・・・けれど、僕には荷が重いですし、どうしても殿下ではダメだというのであれば他を当たっていただけませんか。」
「なんだ、リーズ嬢はだめか?」
「いえ、彼女に非があるとかではなく、僕があまりそういうことに興味がないもので。」
「そんな事を言っていたらキルシュネライト家はどうするんだ。跡取りだろう?」
「ギリギリになったら丁度いいお相手を両親が見つけてきてくれると思いますので、それまではここで騎士としての仕事を全力投球したいのです。」
閣下は少し怪訝な顔をしていたが、僕の気持ちもわかって欲しい。
「とりあえず、一度持ち帰ってくれ。キルシュネライト侯にも文書で伝えてあるから、家族で相談すると良い。」
ヴィオネ宰相閣下にあそこまで言われたら、それ以上言い返すことが出来なかった。僕は近衛騎士団詰所に戻った。
「おい、エグモント。宰相閣下からの呼び出しって、なにかあったのか?」
詰所に着くなり、ローランが声を掛けてきた。ローランは、バシュラール家の嫡男でリーズの兄だ。学生時代から僕の一番のライバルであり親友だった。卒後は共に近衛に配属され個々までも切磋琢磨しながら共に歩んできた。僕の一番の理解者と言っても過言ではない。
「いや・・・ローランに言いにくいのだけれど。婚約の打診を受けた。」
「あー、それは仕方ないだろう。この年になって将来の相手が決まってないのって、近衛の中でもお前くらいだぞ。実家だって由緒ある侯爵家なんだからいい加減に決めてくれって上からも言われても仕方ないだろ。」
ローランが気安く言ってくる。僕がそういうことに興味がないのを知りながら。
「相手が誰か分かってないだろう?ビックリするぞ。」
「誰だったんだ?」
「君の妹だ。」
ローランは、しばしその表情で固まると、僕の両肩を持って身体を揺さぶってきた。
「リーズか?リーズなのか??」
「あぁ、そうだよ。リーズ嬢。どうして僕が打診を受けたのか全く分からない。そもそもリーズ嬢の相手は殿下じゃないのか?」
「まぁ、普通に考えたらそうなのかもしれないけれど、あの二人の様子を見ていてうまくいくと思うか?」
「今のままだったらうまくはいかないだろうね。殿下がもう少し普通に接してくれたら違うと思うけれど。」
ジェラルドは素直じゃない。自分の気持ちの裏返しのような行動ばかりしている。
リーズは・・・そんなジェラルドのことが多分大嫌いだ。いや、絶対大嫌いだ。残念ながらものすごく嫌いだろう。そして、僕のことには好意を向けてくれているというのはさすがにこの僕でも分かるレベルだった。僕からしてみたら、小さな女の子が小動物のようにじゃれ付いてきてくれているだけという印象なのだが、きっと好いてくれているのだろう。かといって、相手は12歳のまだ子供だ。さすがに無理がある。
「俺は兄だから、リーズの気持ちを大切にしたいし、エグモントと親戚関係になれるのも歓迎だからリーズとの婚約を受けてくれたら嬉しいけれども、色々あるよな。家でちゃんと話をつけたほうが良いんじゃないか?」
「多分父上の方にも話が行っていると思うから、今夜ちょっと会ってくるよ。」
僕は、タウンハウスに滞在しているであろう父のところにその夜会いに行くことにした。
「あぁ、閣下から連絡をもらったよ。良いじゃないか、ラオネルの巫女と縁付けるなんてなかなかないぞ。」
・・・話をするといいながら、父はこの話に大賛成だった。確かにラオネルの巫女を迎え入れることが出来る機会などそうそうない。我が家の格が一気に上がることは想像に容易い。キルシュネライト家としては、断るなどという考えなど湧くわけもなかった。
「でも、相手はまだ12歳ですよ。僕と7歳も離れています。」
「7歳差なんてあっという間だ。今エグモントが19歳だろう?リーズ嬢が19歳の時にお前は26歳。別におかしなことなど無い年齢差だ。」
「たしかにそうですが。」
「彼女はラオネルの巫女だから、20歳までには絶対に結婚しなければならないのだろう?今は貴族学校に行っているだろうし、15歳で卒業して、まぁそこから準備して2年位で結婚と考えたらあと5年か。そこまで行けば年齢差など気にならなくなるさ。それともリーズ嬢が嫌いなのか?」
嫌いか?と問われたら、それはない。好きか嫌いかでいったら好きなのだとは思うけれども、それはあくまで親友の妹としてとか、幼い子供に対する感情で、恋人や妻になる相手としてではない。けれども、今はまだ幼いからそんな感情しか湧かないが、数年経ったら変わってくるのだろうか。
「好きか嫌いかで判断しかねますが、今のこの年齢差では到底恋愛対象には見られません。」
「だからそれもあと数年だ。リーズ城に会ったことがあるがとても可愛らしくていい子だったぞ。きっともう少ししたら引く手数多だ。王命でこういったことの打診が来たということがそもそも幸運なのだから素直に受けるべきだぞ。」
父は受ける気満々だった。恋愛結婚を望むと言っていた頃は何だったんだ。僕とリーズ嬢は恋愛関係じゃないんだぞ。けれども、多分何を言ったところでリーズを迎え入れる気だ。王命だから仕方がないところもあるのだが。
父との話し合いの後、タウンハウスの自室に戻り色々と思案した。リーズがラオネルの巫女の加護の力を手に入れる時期が近い。だからこそ、早めに婚約者を決め、将来の道筋を確定させないと彼女があちこちから狙われて、下手をすると王家の介入が難しいところと縁付いてしまうかもしれない。そうなるのを避けるための僕なのだろう。
僕自身は、リーズにはジェラルドと将来国を担ってほしかった。ジェラルドは数年前に比べたらかなり成長し、自分がこの国を護っていかなければならないという意識を強く持ちながら勉学に励んでいるのを側で見ている。確かにリーズに対して冷たく憎まれ口ばかり叩いているのは知っているが、それもご愛嬌と思える程度のレベルにしか僕には見えない。
けれども、リーズにとってみたらジェラルドは本当に無理なのだろう。確かに当事者だったらかなり腹が立つことばかりジェラルドにされている気がする。
どうしたものか。
翌日、騎士団詰所でまたローランに話しかけられた。
「なぁ、エグモント。昨日うちも父上から連絡が来て、お前に婚約を説得させろと言われてしまったぞ。」
「バシュラール伯も僕でいいと?」
「うちの父上はお前の能力を高く買っているからな。リーズの気持ちも考えたら、今はエグモントしかいないくらいに言っていたぞ。」
能力を買ってくれているのは嬉しいのだが、もう完全に外堀が埋められている気がしてきた。キルシュネライト家、バシュラール家、そして何より王家。
多分、この婚約について、唯一拒否するとしたらそれはジェラルドだろう。けれど、ここまでのリーズへの態度を思い起こせば、周囲はジェラルドの自業自得だというのかもしれない。
僕は覚悟を決めた。ひとまずリーズと婚約をする。けれど、その間にジェラルドを更生させる。そして、僕と婚約を解消し、ジェラルドと結婚できるように。
我が国の今後のために、僕が出来る役割はそんなところではないだろうか。




